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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国王都編
35/151

34話

 目が覚める。グッと伸びをして固まった体をほぐしてから起き上がる。


「良く寝たな。案外疲れが酷かったんかね?」


 夕食を取る前に眠って、今は朝食を取れる時間。しかもかなり遅い方だ。

 今日は鍛冶屋と魔法道具屋に行かないとな。早く新しい鎌と試作品に会いたいぜ。

 朝食を取ってまずは鍛冶屋に向かう。そうしないとカラリスに鎌の予備パーツを渡せないからだ。


「バスカールいるか?」

「ああ、来たねトーカ」

「できてる?」


 来る前にギルドで金は降ろしてきてある。今手元には50万チップがあった。


「もちろんできてるよ。なかなかの出来になったと思う」


 そう言って店の奥から鎌を持ってくるバスカール。

 刃の部分だけの鎌は、巨大なブーメランを彷彿とさせながらも、その鋭利な輝きは鎌独特の威圧感を放っていた。

 やばい、想像以上にいい感じだ。これなら威圧感はかなり増す。まあ、チェーンソーが完成すればこれも外しちゃうんだけどね。


「良いね! さっそく付けてくれ!」

「ああ、サイディッシュを貸して。今セットするから」


 サイディッシュを背中から抜き、受付の上に置く。受付は色々な武器を置けるようにかなり大きくなっているため、その場で簡単な調整ならできるのだ。

 バスカールはサイディッシュをテキパキといじり、数分もしないうちに鎌の部分を取り外した。

 そして新しい刃をセットする。

 カチンと音がして何かがハマる音がした。


「完成だよ。持ってみてくれ」

「おう!」


 サイディッシュを持ち上げ店の中央に移動する。

 そして鎌を展開させた。

 ジャッといびつな音と共に鎌が広がる。両刃の鎌は、想像以上の威圧感を放っている。


「いい感じだな。少し振るぜ」

「ああ」


 右から左へ、回転してもう一度右から左へ。そして左後ろから頭上に掲げるように持ち上げ、振り下ろす。

 刃を付け替える前と感覚が全く変わらない。

 これは重さが変わってないってことか? 刃の量が変われば重さも変わると思ったんだけど……


「重さは変わらないように調整しといたよ。じゃないとせっかく左右を同じ重さにした意味がなくなっちゃうからね」

「さすがバスカールだな!」

「ハハハ、趣味全開の鍛冶屋をなめてもらっちゃ困るよ」


 次は斧状態だな。

 今度は鎌を閉じ、バトルアックスの形を取る。両サイドが切れるようになったおかげで、この状態でもなかなかの威圧感を放つようになった。

 バトルアックスは一撃にすべての力を込めるタイプの武器だ。だから何度も振り回す必要は無い。

 元からある斧側の威力はカルートで調査済みだ。だから今回は新しくついた側で思いっきり振り下ろす。

 さて、なんか的になりそうなもんないかね?


「なあ、藁人形とか無いのか? 試し切りしたいんだけど」

「なら裏にあるよ。外だから思いっきり振り回せるしね」

「じゃあ行こうぜ」

「もちろん。強度も図りたいから、鉄の鎧をつけても良いかな?」

「もちろんだ。それぐらいぶった切れなきゃ魔物は相手にできねぇからな」


 カルートの骨なんて鉄以上の固さはあった。鎧をたたっ切れないようじゃカルート級の魔物には傷1つ付けれないことになっちまう。

 バスカールに付いて裏庭に出る。

 広さは店の中と同じぐらいだが、天井が無い分自由に振れる。壁も無いため少しぐらいなら飛び出しても大丈夫なようになってるみたいだな。

 バスカールが鉄の鎧を人形に着せている間に、俺は軽く素振りをしてみる。どの持ち方で一番威力が出るか分からないから。

 てこの原理を利用するなら1番端っこを持つのが良いんだろうけど、それだと振りが大きくなりすぎる。かといって上の方を持っても威力が下がるしな。

 と、言うことで俺が決めたのは左手で端を持ち、右手は柄の半ばを持つことにした。

 そして最終的には左手一本で振り抜く形にする。右手でスピードを付ければそれで十分な威力が出そうだからだ。


「準備できたよ」


 バスカールの合図で藁人形に向き直る。


「おっしゃ行くぜ!」


 軽く助走をつけてサイディッシュを振りかぶった。


「うりゃ!」


 ガッ! ザシュッ!!

 鉄が一瞬だけサイディッシュを受け止めるも、圧倒的な威力に負け鎧はその形を崩していく。そしてその中にある藁人形ごと袈裟切りに真っ二つにした。


「良いね! スゲー威力だ!」

「耐久性も問題ないみたいだね。刃も特に欠けてないみたいだし」

「完璧だな。じゃあ報酬払うぜ」


 部屋に戻って報酬10万チップを払う。


「確かに受け取ったよ。外した刃はどうする? こっちであずかろうか?」

「いや、渡したい奴がいるんだ。魔法道具屋のカラリスって知ってる?」

「知ってるよ。僕と同じで趣味に走った職人だからね。変な道具作ってるって噂されてるし」

「そいつにこいつの改造の依頼をしてんだよ。俺の少し考えた方法をできないか、魔法道具の技術を使って試してもらってんだ」

「どんなの?」

「チェーンソーつってな。摩擦で異常な切断力を生み出す仕組み。まあ、できたら見せるぜ、これの取り外しができるのバスカールだけだしな」

「そうだね。魔法道具の機構は専門外だから協力はできないだろうけど、おなじ趣味人として応援してるって言っといてくれ」

「了解」

「刃は布に包んで渡すよ」

「頼むわ」


 背中に新しくなったサイディッシュと、手に取り外した刃を持って俺は鍛冶屋を後にした。

 まっすぐ魔法道具屋に向かうと、中からけたたましい音が聞こえてきていた。


「なんだ?」


 音はどこか金属の摩擦音を放っている。と、言うことは――


「カラリス! いるか!?」


 大声で中に問いかけるが、けたたましい音で全く聞こえない。

 この音はやべぇな。カラリス失敗したのか?

 摩擦音にしては音がガリガリ言いすぎている。何かに引っかかっているような音だ。

 店の中に入っても、誰もいない。音はさらにその奥から聞こえてきている。


「おーい!」


 中に問いかけるとやっと気づいたのか返事が来た。


「はいはい! ちょっと待ってくださいねっと、うわぁ!!」


 カラリスの驚く声と共に、ドンッ!と爆発音がする。そして店の奥からモクモクと黒煙が漂ってきた。


「大丈夫か!?」


 その光景に驚いて店の奥を覗き込む。そこにはカラリスが、煤だらけになりながら尻もちをついていた。


「いってって……あ、トーカさんいらっしゃい」

「おいおい、大丈夫か? なんか爆発してたっぽいけど」


 爆発音の後にあの金属音がなくなってるから、それが爆発したんだろうね。何か引っかかってるだけなら普通は弾けて終わりだと思うんだけど、何か爆発する仕組みでもあったのか?


「あはは、トーカさんの摩擦の原理を利用して試作の魔法道具を作っていたんですけど、魔力回路の組み替えに失敗しちゃいまして」

「魔力回路?」


 聞いたことの無い言葉が出てきたな。魔法道具の理論なんだろけど、なんだ?


「あ、トーカさんは魔法道具には詳しく無いんでしたね」


 俺の疑問げな顔に気付いたカラリスが簡単に説明してくれた。


「魔力回路と言うのはですね、魔法道具にその指定の動きをさせるための式みたいな物のことです。この回路に魔力を流すと、その回路が意味する効果を発揮するんです。ランプだったらどこどこがどれだけ光るとか、時計なら針が動くとかですね。色々な意味の形があって、それをうまく合わせると魔法道具が完成するんですよ」

「へー、じゃあさっきのは刃を動かす魔法回路を組んでたってことか?」

「そういうことです。回転力と持久力の実験をしてて弄りながら魔力回路を作ってたんですけど、やっぱり危険行為でしたね。魔力回路が暴走して爆発しちゃいました」


 普通は、一端魔力を流すのを止めてから弄るもんなんだろうね。電化製品の回路の改造を、電気を流しながらやってるようなもんだし、そりゃ危険行為だろうな。


「爆発したってことは、試作品は完成しなかったのか?」

「いえ、ちゃんと試作品は完成していますよ。ただ問題点がいくつかあったので、それを個別に解決するために別の道具で実験していたんです」

「なるほど、そういうことね。じゃあその試作品見せてもらっていい?」

「はい、ちょっと待っててくださいね」


 そう言ってカラリスは爆発した実験品を片付ける。

 そして戸棚のなかから1枚の板を持ってきた。木製なのは試作品で改良しやすいようにしてあるからだろう。


「これが試作品の回転機構です」


 大きさはサイディッシュの鎌と同じ大きさだ。ただ厚みが2倍近くある。と言っても鎌の2倍だからそれほどの厚みではない。せいぜい5センチ程度だ。

 どうやら2枚の板で両側から挟み込む形で刃を付けてあるらしい。真ん中の板に魔力回路が描かれているのかね?


「どう使えばいいんだ?」

「この部分を持って魔力を少しずつ流してください。魔力量によって回転のスピードが変わりますから」

「了解」


 板から飛び出している棒状の部分を握りそこに少しずつ魔力を流す。すると真ん中の板が輝き始めた。

 木製でできた鋸状の刃が動きだし、魔力を上げるとどんどんとスピードを上げていく。

 そしてある程度の所へ行くと、いくら魔力を込めてもそれ以上はスピードが上がらなくなった。

 感覚的にはまだかなり遅い気がする。それに魔力の消費がハンパない。


「木製ですのでリミッターが付いてます。これ以上速度を上げると摩擦で燃えだしちゃいますので」

「なるほどね。ってかその口ぶりからすると1回燃やした?」

「あはは、見事に燃えつきました」


 やっちゃったか……まあ店が火事にならなかっただけよかったぜ。

 とりあえず魔力回路としての仕組みはこれで完成ってことでいいのかな? 後はこの仕組みをサイディッシュの刃で再現するだけか?


「そういえばさっき言ってた問題点って?」


 魔力回路を改造していたのは問題点を克服するためだといっていた。ならその問題点がこいつには残っているはずだ。


「第1に魔力の問題ですね。魔力を流し続けないと回らないようじゃ、すぐに魔力切れで使えなくなってしまいます。魔力を1回流せば周り続ける仕組みにしないといけません。第2に熱ですね。木の板で燃えるように、回転力を上げればその分摩擦熱も大きくなります。普通の金属じゃ溶けちゃう可能性があるんですよ、全力で回すのさっきの5倍以上の速度で回りますから。まあこれは魔物の素材を使えばカバーできますから、もしかしたらトーカさんに討伐の依頼をするかもしれません」

「討伐ならいくらでもしてくるぜ。俺の武器作ってもらってるんだしな」


 鉄が溶ける温度でも溶けない素材か。2等星級以上なんだろうね。戦うのが楽しみだ。


「第3に重さですね。今は木の板だから私でも持てますけど、実物だと金属や魔物の素材になるんですから重さが変わります。トーカさんの鎌の重さを知らないので何とも言えませんが、おなじ重さにするのはちょっと難しいかもしれないです」


 今は鉄1枚だけど、この機構を鉄で再現するならば鉄2枚に魔物の素材だからな。単純に計算しても2倍以上にはなるってことか。確かにそれは何とかしないとな……


「これが今の所の問題点です」

「確かにこりゃ改良が必要だな。とりあえず鉄で試作してみる?」

「はい、鎌はあります? 原寸大の大きさが欲しいんですけど」

「ちゃんとあるぜ。こいつだ」


 布に包まれた鎌を台の上に置く。


「失礼しますね」


 カラリスが布を取っていくと、威圧感を放つ鎌が現れた。


「なるほど、この量の鉄にしてはなかなか軽いですね。特別な鉄を使っているみたいです」

「左右のバランスを同じにするために厳選したって言ってたな」

「なるほど、ならこの重さにすればいい訳ですか。大きさは今の木の奴とだいたい同じですね。魔力回路自体の描き込みは問題なさそうです」

「じゃあやっぱ問題は重さか」

「そうですね。外側の鉄はそこまで強度が必要ないのでなるべく薄くしても大丈夫でしょうが、内側の物はしっかりしたものを使わないといけませんから」

「魔物でなんか良いのが無いか、冒険者ギルドで調べてみるか?」


 魔物の事なら冒険者ギルドに聞くのが1番のはずだ。なんせ大量に魔物の素材が集まって来るんだしな。


「そうですね。でもそういうことなら工業ギルドの出番ですよ」

「工業ギルド?」


 冒険者と商業以外にもギルドってあるんだ。てか、カラリスって工業ギルドに入ってんの? 商店やってるし、どっちかって言うと商業ギルドに入ってそうなんだけど。


「工業ギルドは仲間同士の情報交換と言う面が強いですけどね。素材の事や、魔力回路の仕組みのことなんかで相談したりしやすいんです。まあ情報にお金はかかりますけど」

「なるほどね」


 1人で限界があることでも、他の職人の知識を借りれば大丈夫って事か。それに工業ギルドなら、魔物の素材も、その価値だけじゃなくて効果をしっかり把握してるってことか。


「では早速工業ギルドへ行きましょうか」


 カラリスが台から離れ、出かける準備をし始めた。

 っていいのか? まだ店やってる時間だろ?


「今から行くのか? 店は?」

「大丈夫です。トーカさんの武器を作り始めてから爆発が多くなって余計にお客さんが近寄らなくなりましたから。2日前からは誰も来なくなりました!」


 さわやかな笑顔で言われても困る! それ完璧俺のせいじゃん! 責任とれってか? バスカールでも紹介しようか?


「なんかごめん……」

「良いんです。これも職人の宿命ですから」

「なんかほんとにバスカールと似てるな」

「バスカールと言うと、トーカさんの武器を作ってくれた人ですよね?」

「ああ、そうだぜ。いい職人だ」

「噂ではよく聞きますよ。鍛冶屋なのにおかしなものばかり作っているって。確かにトーカさんの武器は普通の人が見たら異常でしょうね」

「バスカールもカラリスの噂は知ってたぜ。自分に近い趣味に生きる人だって。サイディッシュの改造のことも話したら応援してるって言ってた」

「それは嬉しいですね。製作者の応援があれば心置きなく改造できると言うものです!」


 やっぱこの2人相性抜群だよな。一緒になったら何作るか分かったもんじゃないけど。引き合わせて良いもんか悩むな……


「では行きましょう!」

「お、おう!」


カラリスに連れられて俺は店を出た。


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