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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国王都編
24/151

23話

 4日目の野営地に着いて、俺はリリウムのもとへ向かう。昼にフィーナと話していた通り、俺のことをちゃんと大丈夫だって伝えとかねぇとな。

 商隊の後方へ向かいながら気配を伺う。

 どうやらオルトロは、また薪拾いに行かされているらしい。何か俺も仕事しないと悪い気がするな。

 もともと薪拾いは俺の仕事だったし、それ無しに飯を作ってもらうのは気が引けるんだよな。

 これが親とかだったらなんとも思わねぇんだけど、他人だと途端に気になる不思議。いや、これは普通のことか?


「リリウム」

「トーカ、来たか」

「おう、なんか手伝うことある? さすがに何もしないで作ってもらうのは気が引けるわ」

「そうか、なら近くの川でこの野菜を洗ってきてくれないか? この後使いたいんだが、私は他の食材の下準備をしなければならない」

「了解」


 言われるままに野菜を受け取り川へ降りていく。

 近くの川は人里から離れているため非常に澄んでいる。目を凝らさなくても、中で泳いでいる魚が一目瞭然だった。


「そういやあ、こういう川で魚取って食ったりしないのかね? 全部持ち込みじゃ鮮度のいいもんはあんま食えねぇだろうし」


 だが、すぐに思い直す。


「いるかどうか分からない川魚をあてにするのはまずいか? 戻ったら聞いてみっかね」


 野菜を洗い、泥を落とす。1人になったついでに魔法の練習もしますか。

 せっかく川があるのだから水魔法か氷魔法を使ってみたい。さてどうしたもんか。


「魚だけ獲ってみるか」


 水を操って魚だけを川の岸に押し上げる。氷魔法を使って魚のいる部分だけを凍らせて回収する。

 やりたいことを思い浮かべて、詠唱を考える。

 まずは水魔法。


「操るんだから操りては普通に入れるだろ? あとは自分の意思で動かすか、それとも動きを完全に指定するか? とりあえず試してみるか」


 あまり時間は無いし、さっさと初めて実戦で改良していく感じで。


「星誘いて水を操る。ウォーターマネジメント!」


 魚の周囲にある水を操り、魚を徐々に岸に近づけていく。しかし途中で、魚は操っている水の範囲から飛び出し逃げてしまった。


「ふむ、操るのは結構難しいな。そもそも水流に逆らって水を操るのがやり難い」


 水が自然に流れる中で一部分だけを遡らせたり横に動かしたりするのは抵抗が大きいのだ。ならば流れ自体を変えたらどうだろうか?


「星誘いて水の流れを変えん、メイクストリーム!」


 今度は成功した。魚は水の流れに逆らうように泳ぐが、その習性を利用して岸側から川の中心へ流を作る。流れ自体を作っているから水の抵抗は少ない。

 そして魚が岸に向いた後、その流れを一気に反転させた。すると魚は体を反転させる暇なく、自ら岸に上がってしまった。


「活きが良いのがいるな。まあ大半は返すけど」


 想像以上に大量に取れてしまった。3人分だから3匹いれば十分だろ? それ以外は水を生み出してその流れで川に押し戻す。

 3匹はとりあえず凍らせて野菜の籠に一緒に入れておく。


「次は氷か。これは意外とイメージはっきりできてんだよな」


 イメージは風呂桶に水を張って魚を泳がせ、そのまま冷凍庫で保存した感じ。昔見たテレビでそんな状態の魚を見たことがあるから、そのまま再現すればいい。


「星誘いて氷の囲いと成す、フリージングキューブ」


 瞬間冷凍のように、川の一部分が凍りついた。その中にしっかりと魚も入っている。しかし困った。川の中で凍らせたせいで、取りに行くには川の中に入らないといけない。


「ミスったな。瞬間冷凍だし、溶かせば元通りになるかね?」


 中の魚は一瞬で凍りついてるし、細胞の破壊なども起こっていないはずだよな。

 氷を溶かせば元通り戻ると期待して、俺は氷を解除した。

 溶かしてみたら魚は無事生きていた。一瞬なにが起こったのか分からないようでばしゃばしゃと水の中で暴れていたが、次第に落ち着きを取り戻すと、石の陰に隠れた。

 とりあえず両方とも成功することができた。そろそろ時間もまずいし戻るか。


 リリウムのもとに戻ると、すでにオルトロが薪を拾い終え戻ってきていた。

 2人で話している光景を見て、その中に戻っていくことを躊躇する。

 だってねぇ。俺があそこに声掛けると、オルトロが明らかに俺を見てビビった後、その光景を見たリリウムがオルトロに対して怒るんだぜ。そんな明らかに雰囲気悪くなった状況で飯なんか食いたくないじゃん? これは本格的に何か解決策を考えねば……


「トーカ、戻ってきたのか」


 しまった! 俺が立ち止まって考えていたらリリウムに見つかってしまった!

 仕方なくリリウムのもとに近寄る。例によってオルトロは俺を見て恐怖していた。しかし幸い、リリウムは俺の方を見ていて、オルトロのその表情の変化には気づいていない。


「おう、野菜洗ってきたぜ」

「ありがとう、そこに置いてくれ。それよりその魚はどうしたのだ?」


 野菜の籠に入っているのは、氷を溶かしてある生魚が3匹。まだぴくぴくと息をしている。


「そこの川にいたから捕まえた。そうそう、聞きたかったんだけどさ、こう長旅の時って川とかで定期的に魚を取ったりしないのか?」

「そういう場合もあるぞ。ただ、そうそう簡単に魚は捕まえられないからな。あまり当てに出来るものではない。少し余裕があるときに捕まえる程度だ」

「捕まえる?」


 普通は釣るもんじゃないのか? もしかしてこの世界釣り道具が無い!?


「そうだ。トーカも良くこの短時間で3匹も捕まえられたな。何か魔法でも使ったのか?」

「うんや、これは秘密」

「むっ……秘密か。これほど早く魚を捕まえる方法があるならぜひ知りたかったんだがな」

「ハハ、時間ができたら教えてやるよ。それより今は飯にしようぜ」

「そうか。そうだな。せっかく新鮮な魚があるのだ、塩焼きにしようか」

「お、良いなそれ!」

「ホースロア殿もそれでいいか?」

「あ、はい、それでいいです」

「どうかしたのか? 元気がないようだが?」


 それ明らかに俺のせいなんだけどね! 完璧に俺見て怖がってんじゃん。今はリリウムの前だから体裁整えてるけどさ、2人きりになったらきっと逃げだすぜ?


「いえ、大丈夫ですわ。旅の疲れが少し出ただけですので」

「そうか、ならば今日は先に休むと良い」

「ありがとうございます」


 食事中の会話はもっぱら俺とリリウムだ。そして時々リリウムがオルトロに質問を投げかけ、それにオルトロがどもりながら答えると言った感じだ。

 昨日に比べればだいぶマシになったが、それでも1日目2日目と比べると空気が悪い。


「そうだ、1つ聞きたいんだけどさ」

「ん、なんだ?」


 リリウムがいい感じに焼けた魚に齧りついたところで、俺は問いかける。


「釣り道具って無いの?」

「釣りとはなんだ?」

「あ、了解。無いことが分かったわ。釣りってのは魚を捕獲する方法のことだぜ」

「そんなものがあるのか?」

「ああ、それを使えば水に入らなくても魚を手に入れることができる」

「それがさっき言っていた秘密?」

「そう言うこと」

「どういった道具なんだ?」

「丈夫な木の枝に糸をつけて、その先に針と魚の餌をつけるんだよ。そんで魚がその餌を食ったら針が魚の口に刺さるようにする。後は枝を引っ張り上げて釣り上げる」

「ふむ」


 何やら試案しているようだけど、説明だけじゃ分かりにくいよな。まだ日が沈みきるまでには時間があるし、作ってみるか。


「この後やってみるか? 結構簡単にできると思うぞ?」

「本当か!? ぜひとも試してみたい」

「了解。っと、ごちそう様だ」

「お粗末さまでした」


 料理を食べ終わったところで、俺は商隊の1人に近づく。糸を売ってもらうためだ。こういう時に商隊の護衛やってると便利だな。


「紐ってこの荷物の中にある?」

「どういう紐でしょう?」

「麻紐で、細い奴」

「ありますよ。お売りしましょうか?」

「頼むわ。5メートル位かな」


 切れた時の予備と結び目の長さを合わせても、こんなもんありゃ足りるだろ。


「わかりました。400チップですね」

「ほい」


 5メートル400チップってたけぇな。この世界だと紐って高級品なのか?

 とりあえずこれで紐は手に入れた。後は良く撓る枝と餌だな。餌は虫を使うとして、枝はなんかいいのあるかね?

 川は横幅あるし、とりあえず2メートルは欲しいんだけど。

 森の中を適当に歩き回る。もちろん魔力探知で魔物の存在を確認するのを忘れない。こんなところで魔物引き付けたりしたらバカだからな。

 探してみると、落ちているのは短かったり乾燥していたりして、竿として使うには物足りなかった。


「落ちてるのは使えねえか。しょうがねえ、切り落とすかね」

 

 ウィンドカッターで、1本の枝に狙いを定めて切り落とす。

 木に着いたままの枝は、水分がまだしっかり入っていて良く撓る。

 それを確認して、無駄な枝を取り払ってから川のそばに戻る。

 その場で釣竿を作る。そこですっかり忘れていた針のことを思い出した。

 この世界で小さな針があるとは思えない。しかも魚を釣るための針は「し」の形をしていなければ食いついたときに刺さりにくい。


「さて、どうしたもんか」


 ザリガニとかなら糸だけでも使えるんだけどな……魔法でなんかできないかね?

 針は鉄だ。針を作るなら土属性の魔法で何かできないか? 地中の砂鉄を集めて形を作るぐらいはできるかもしれない。土で「し」の字を作っても水の中じゃ溶けそうだしな。


「星誘いて世界の素材よ集え、マテリアライズ!」


 近くの地面から砂鉄が手のひらに集まり形を作っていく。それは俺がよく知っている釣り針の形をしていた。しかし返しが付いていない。イメージの構築が甘かったかね? まあリールで引いて疲れさせたりするわけじゃないし、カツオとかの一本釣りの要領でやれば問題ねえかな?


「よし、これ使えるといいな」


 糸に釣り針をつけ、石の裏から適当に見つけた虫を拾い上げ突き刺す。

 これで準備は完了だ。後は川に投げ込むだけ。


「よっと」


 浮が無いから川底に針が付かないように注意しながら糸を垂らす。するとすぐに手ごたえがあった。

 こりゃ入れ食いだな。

 竿を引き上げ、釣り針に食いついた魚を見ながら思う。

 この世界の魚は釣られると言うことを知らない。要はこの世界すべてが釣りの穴場だ。

 釣竿が完成したところでリリウムを呼びに行く。


「リリウム、釣りの準備ができたぜ」

「そうか、すぐ行く。ホースロア殿はどうする?」

「私はもう休ませていただきますわ。お先に失礼します」

「そうか、ゆっくり休んでくれ。ではお休み」

「はい、おやすみなさい」


 河原にはリリウムだけが来た。まあ予想通りだけどな。


「これが釣竿だ」


 完成したばかりの釣竿をリリウムに見せる。リリウムはそれを興味深そうに観察している。

 俺はその視線を受けながらやり方を説明していく。リリウムも虫を見ること、触ること自体は問題ないらしく、俺の行動をしっかりと観察していた。


「じゃあ、これで準備完了。後は、この釣り針を川に投げ込む。釣り針が川底に着くと引っかかっちまう可能性があるから、それだけは注意な。やってみるぜ」


 釣り針をつかみ、手元に引き寄せる。大きく振って遠くに飛ばすことはしない。慣性でせいぜい川の半ばに飛ばす程度だ。

 それだけで魚はすぐに集まってきた。

 哀れな虫が川に落ちたとでも思ったのかね。

 我先にと食いついた魚が針を飲み込んだところで釣竿を引く。それだけで釣り針が魚の口に刺さり引き上げられた。


「どうだ、こんなもんだけど」

「これはすごいな。少しコツがいりそうだが、できればかなり便利なものだろう」

「やって見な」


 釣り針から魚を外しリリースする。鮮度を保てないこの世界じゃ、飯が終わった今、生きた魚は邪魔なだけだ。


「うむ。まずは虫を刺して――」


 見よう見まねで俺の行動を模倣していく。そして針を川に投げ入れた。

 先ほどと同じように魚が群がってくる。

 慌てたリリウムは、魚が針を飲み込む前に釣り針を上げてしまった。


「むぅ……これは意外とタイミングが難しい」

「そこまで焦る必要はねえよ。餌に食いつけばグッと引きが強くなるからそん時を狙えばいい」

「そうか、もう1回やってみよう」


 まだ虫の残っている針を川に投げ込む。そして今度は群がってきた魚に落ち着いて対処した。


「これか! それ!」


 大きく竿が撓ると同時に、リリウムが竿を引き上げた。

 その針にはしっかりと魚が食いついている。


「これはすごいな! 魚を捕るのが楽しくなってしまう」

「あんまやりすぎてもだめだけどな。食いたい分ぐらいは獲っても問題ないと思うぜ。その竿はやるよ。飯作ってもらったしな」

「そんなことでいいのなら、いくらでも作るさ」


 その後、何度か釣ってリリースを繰り返していく。リリウムもコツをつかむと、釣竿を振りながらしゃべる余裕ができた。


「そういえばホースロア殿の罰が決まったぞ」

「罰? ああ、護衛サボらされたことか」

「自業自得だ。今日の定期報告で話し合ってな。護衛をしていなかった2日目の分の給料を差し引くことになった。まあ、妥当なところだろう」

「なるほど、下手にギルドに報告とかされなくてよかったな。今厳重注意されているから、下手したら追放だぜ?」

「まあ、追放されてもおかしくないことはやってると思うんだがな」


 リリウムが苦笑しながら竿を引く。魚がまた釣れた。

 そうして釣りを楽しんだ後、日が完全に落ちる前に俺たちは野営地に戻る。


「じゃあ、俺は中盤の警備に戻るぜ」

「ああ、また明日だな」

「おう、また明日」

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