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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国キクリ編
20/151

19話

 集合場所の近くに行くと、すぐに分かった。

 大規模な商隊なだけあって、物資の量も尋常じゃない。今は積み込み途中のようだが、地面に置かれている量だけでも、俺なら2年は暮らせる量がありそうだな。

 近づくと、パルシアが指揮しているのが見えた。


「パルシアさん」

「おお、トーカさん。今日からよろしくお願いします」

「ああ、こっちこそよろしくな。俺以外の護衛ってもう来てる?」

「半分は来ていますよ。今は商隊最後尾の方に集まってもらっています。そこで冒険者どうしの挨拶と配置の確認をお願いします」

「了解。じゃ、また後でな」

「ええ」


 言われた通り、商隊の最後尾へ移動する。

 それにしても馬車が1列に並んでるのは、結構壮観だな。車じゃこんな雰囲気はでねぇぞ。獣の臭いとか、馬車のきしむ音とか、人の声とかそういうものの臨場感が半端ない。

 以前乗ったフィーナの馬車もその中にあったが、フィーナの姿はいなかった。出発前で忙しく動き回っているんだろうな。保存の魔法もかけないといけないだろうし。

 それらを横目に最後尾まで行くと、リリウムと他に3人冒険者が来ていた。

 リリウムはいつも通りの軽装備。そしてその前にいて、リリウムと何やら話し込んでいる年配の男は分厚いプレート装備だ。だがフルプレートほどガチガチには固めていない。このあたり商隊の移動について行くからとか、冒険者の移動範囲のことを考えると、胸と両手両足腰回りをつけるのが限界なんだろうね。

 そしてその右隣りにいるのがローブを着た細長い男。杖みたいなの持ってるし魔法使いだろうね。てか杖って何のために持ってんだろう? 魔法は別に杖が無くても使えるし……歩くための杖?

 そして逆サイドにいるのが、小柄な女性だ。小学生とか言われても違和感ねえな。武器は細剣か。まあ、小学生サイズが大剣振り回してても怖ぇしな。


「おはよう」

「ん? ああ、トーカか」

「依頼を受けた冒険者か?」


 年配の男がこちらを見る。

 ふむ、熟練って感じの雰囲気漂うおっさんだな。


「そうだぜ。漆桃花だ、トーカでいい。今日からよろしくな」

「ああ、よろしく。俺はチームスグリのリーダー、ドムだ。で、こっちの細い男がマルコで、逆にいるのがカナユリだ」

「マルコです。よろしく」

「カナユリだよ! よろしくね!」

「おう、よろしくな」


 ついカナユリに手が伸びてしまう。そして頭をくしゃくしゃと撫でた。

 突然頭をなでられたカナユリは、最初なにが起こったのか分からない様子だったが、次第に表情が崩れて幸せそうな顔になる。

 そしてハッとすると俺から飛び退いた。


「と、突然何するのさ!」

「あ、悪い。つい」

「ついでいきなり他人の頭なでるの!?」

「だって、なあ」

「私に振るのか!?」


 俺とカナユリの光景を見ていたリリウムに振る。だって、微妙にうらやましそうな視線してたじゃん。俺は見逃さないぜ?


「うむ、確かに少し分かる気はするが……しかし唐突にするのは失礼なことだと思うぞ?」


 お、うまく回避してきたな。認めつつも、俺の行動を戒めることでカナユリの標的を俺に絞り込ませる気か。


「そうだったな。じゃあ次からは許可を貰ってから撫でるかね」

「なんで私が許可出すと思ったの!? 許可なんか出さないよ!?」


 そんな俺たちのやり取りをドムとマルコが見ながらくすくすと笑う。どうやら掴みはバッチリだったみたいだね!


「とりあえずここにいる5人で半分か。あと5人も、もうそろそろ来るころだろうな。と、噂をすればだ」


 リリウムの視線の先には4人組の冒険者。バランスのいいチームスグリと大違いの全員剣士、どいつもこいつもガラ悪そうだな。装備が世紀末みたいだ。大丈夫か?


「お前らが同じ依頼受けた冒険者か? ハハ、どいつもこいつも弱そうな連中だぜ」


 あ、だめだこいつら噛ませだわ。


「まあ、せいぜい俺らの足、引っ張んなよ」


 それだけ言い残して4人組はさっさとどこかへ行ってしまった。


「何あれ、感じわるー」

「あれはチームフリューゲルだな。C+のメンバーで集まったチームだが、評判は(すこぶ)る悪いと聞く。かなり暴力的な連中らしいぞ」


 ドムが迷惑そうな視線を4人組に向け解説してくれた。まあ、イメージ通りだけどな。


「それにしても、リリウムさんを足手まといと言い切るあの自信はすごいですね」

「知らないだけだろ? ああいうのって情報とか気にしなさそうだしな」

「ああ、そういうことですか。それにしても足を引っ張るのが彼らじゃないと良いんですが……」

「どうだろうな。最後の1人次第じゃね? 数で攻めればあいつらには分が悪いしな」

「そうですね。最後の1人に期待しましょうか」

「はぁ……どうやら私にとっては最後の1人はハズレのようだ」


 突然ため息を付いたかと思うと、リリウムが口を開いた。その言葉にマルコとカナユリが声を上げる。


「え?」

「どゆこと?」


 再びリリウムの視線の先を追うと、1人の女性がこちらに近づいてきている。

 装備はリリウムと同じような軽装備に騎士剣だ。見た目は大丈夫そうってことはリリウムの知り合いか?


「私が最後になってしまいましたね。遅れて申し訳ありません」


 45度の綺麗なお辞儀だ。こんなもんができるのがハズレだとは思えねえんだけど?


「構わないさ。まだ出発までには時間があるからな。それで君が最後の冒険者か?」

「はい、オルトロ・ホースロア。剣士をやらせていただいています」


 オルトロ・ホースロア、ああなるほどそういうことね。

 その名前は依然止まり木のおっちゃんから聞いた名前だ。俺に盗賊まがいの連中を嗾けた冒険者の名前。

 リリウムの熱狂的なファンで、厳重注意を受けた女か。


「チームスグリのリーダー――」

「ドムさんですよね。それでそちらの魔法使いの方がマルコさんで、剣士の方がカナユリさんですね」

「知ってたのか? 紹介の手間が省けたな」

「ともに依頼を受ける人ですから、少しだけ調べさせていただきました」

「そうだったのか」

「それであなたが漆トーカさんですね」


 オルトロの向けた視線には明らかな憎しみが込められていた。俺そんな恨まれるようなことしたっけ? あれか、俺がリリウムの部屋から朝出てきたとか言うのとかかね?


「そうだぜ、よろしくな」

「ええ、よろしくお願いします」


 オルトロが手を差し出してきたので俺も差出握手をする。

 その瞬間ぐっと手に力が込められた。お前は男子か……しかし結構力が強い。普通の冒険者なら骨が折れてもおかしくねえぞこれ?

 俺が平然としているのに驚いたのか、オルトロが素早く手を離す。


「どったの?」

「いえ、なんでもありません」

「ふーん」


 意味深にうなずいておく。こいつ直接俺をつぶしに来たな。この護衛依頼、案外楽しくなるかも。

 俺との会話が終わると、リリウムが口を開いた。明らかに迷惑そうな表情を浮かべている。リリウムがここまでストレートに感情を表すのは珍しいな。


「ホースロア殿、なぜあなたがこの依頼を?」

「もちろんリリウム様が依頼を受けると聞いたからですわ! リリウム様ったら、基本的に1人で受ける依頼しか受けないんですもの、私だってご一緒に依頼を受けたいのに」

「私はホースロア殿と一緒に依頼を受けるつもりはないし、チームを組むつもりも無い。何度も言っているだろう」

「リリウム様にも何度も申し上げてるじゃございませんか。私のことはオルトロと呼び捨てで構いませんわ」

「はぁ……」


 リリウムには天敵っぽいな。


「とりあえずこの6人で配置の確認をしよう。フリューゲルは一纏めにしておけば害は少ないだろうしな」


 ドムの仕切りで配置の確認を始める。その瞬間、オルトロを含めた全員が真剣な表情になった。このあたり冒険者としての心持はしっかりしてるんだろうな。でもなきゃC-なんてランク以上のランクにはなれないか。


「そうですね。ですがフリューゲルは手癖が悪いという情報も入っています。商隊でも女性のいないところに配置しておくのが一番でしょう」


 オルトロはやっぱりフリューゲルの情報も仕入れていたか。まあ、役に立つしあるに越したことは無いな。俺の情報は嘘情報をつかまされてたみたいだけど。


「そうか。ならば前方の警備を任せよう。理由は――来た魔物を蹴散らせるチームとでも言っておけば乗せられるだろう。後は順番にスグリが中盤、リリウム殿とトーカ殿、オルトロ殿は後方の警備を頼みたい」

「私は構わない。チームの連携を崩すのも問題だからな」

「私はリリウム様の近くにいられればどこでも構いませんわ」

「俺も良いぜ。面白そうだしな」

「ではこの配置で行こう。5日間よろしく頼む」


 その後は、それぞれに分かれて出発の準備をする。

 基本的に冒険者も馬車の空いている部分に乗せてもらえることになっているので、リリウムとオルトロは1つの馬車に荷物を置いて、装備をチェックしている。

 俺はと言えば、荷物を置いた後さっさと馬車の天井に上った。

 そこから見える風景は、前方に大量の馬車と人。後方には今までいた町があって、色々と感慨深いものがある。

 すると、先頭の馬車から笛が鳴らされた。これが出発の合図だ。

 声が届かない大規模な商隊の移動には、笛と煙が利用される。笛は単純な〝進む〟と〝停止〟に、煙は緊急時の物に。煙は遠くまで見え、助けを呼ぶのには最適なのだとか。

 合図とともに馬車がゆっくりと進みだし、俺たちの移動は開始された。




 1日目。

 この日は何もなく野営地まで到着した。町からまださほど離れていないこともあり、しっかりと整備された道が続く。

 魔物の陰も盗賊の陰も見えなかった。


「じゃあ飯作っかね」

「トーカは、料理はできるのか?」

「ん? できねぇよ。基本的に買ったもんばっか食ってたし」


 元の世界にいたころは、両親に怯えられながらも普通に飯は作ってくれたからな。料理なんてしようとも思わなかった。

 すぐそばにコンビニなんて便利なもんもあったからな。


「そうなのか、なら材料をくれれば私が調理をするぞ?」

「マジ!? いいの!?」


 リリウム。作ってくれるなんて、なんて良い奴なんだ!


「1人分作るよりむしろ作りやすいんだ。少量だと材料を切った後残ったものは傷みが早くなってしまうからな。長旅には適さない。」

「なるほどね。なら俺の持ってきた材料は全部リリウムに渡すわ。内容は一緒に買ったし知ってるよな?」

「ああ、もちろんだ。買い物の様子を見た時、何となく料理ができないのは予想していたからな」

「助かるぜ。そういえばオルトロは誘わないのか?」

「もちろん彼女も誘うさ。その方が材料が増えて料理にレパートリーが出る」


 そこに噂のオルトロがやってきた。


「ホースロア殿、料理を3人分一緒に作ってしまおうと思っているんだがどうか?」

「それは嬉しいこと以外の何物でもないです! リリウム様の手料理が食べられるなんて、それだけでこの依頼の報酬になりますわ!」


 ハハ、リリウム信者なら当然だろうね。


「そ……そうか。なら材料を私が一括管理すると言うことでいいか?」

「もちろん構いませんわ! 私が持ってきた材料はご自由にお使いください!」


 テンション高いな。リリウムの笑顔が完全に引きつっているよ。

 とりあえず俺は薪とか集めてくるかね。


「俺は薪取ってくるぜ?」

「ああ、頼む。それまでに私は下準備をしてしまおう」

「私も準備お手伝いしますわ! 3人分だとさすがに量も多いでしょうから!」

「そうか、頼む」


 2人が近くの川へ材料を洗いに行くのを背に、俺は薪となる枝を探しに歩き回った。

 そして10分程度である程度集まった枝を持って帰ると、2人が仲睦まじくナイフで材料を切っていた。


「ほい、持ってきたぜ」


 ガラガラと枝を地面に落とす。


「ずいぶんあったな。先日雨が降ったからこのあたりの枝はあまり使えないと思っていたんだが」


 リリウムが驚いたように視線を俺と枝に往復させる。

 オルトロも驚いたようで、材料を切る手が止まっていた。

 まあ、ちょっとした秘密があんだけどね。

 俺は適当に拾った湿った枝も乾いた枝もまとめて持ってきた。それが全部乾いているのは、俺が魔法で乾燥させたからだ。2人は情報で俺が風属性の魔法を使えると思っているから、まさか火属性の魔法で乾燥させたとは思わないわな。こういう時に全属性使えるって便利だね!


「まあ、運がよかったんだろうな。今後も枝拾いはばっちり任せな」


 乾燥の度合いが分からなくて、何本か燃やしちまったし、もう少し火属性の魔法の制御を覚えておきたい。

 見つからないように練習するのは、移動中は難しいからこういう短い時間が重要になる。


「これは任せても良いかもしれませんよ、リリウム様」

「そうだな。では今後は枝拾いをお願いしよう。そのかわり腕を振るって料理をさせてもらうよ」

「そりゃ楽しみだ。期待しているぜ」

「少しは料理を学ぶべきだとも思うがな」

「ハハハ、まあ王都に着いたらぼちぼち練習してくさ」


 晩飯を食べた後は、暗くなったらすぐに就寝だ。光が無いのだから仕方がない。

 魔法を使えるのならライトを使って光源を作っても良いのだが、それは遠くからここに獲物がいると言っているようなものだ。逆にこちらは光のせいで夜目が利かなくなり襲撃されたときに不利になる。悪いこと尽くしなのだから、誰もやろうとしないはずである。

 護衛の任務は、最初はリリウムが番をして、次にオルトロに交代、最後に俺が起きて番をする輪番制でやっていくことになった。オルトロが俺を起こすのは少し心配だけど、まあ俺が殺されるはずは無いし、オルトロも冒険者だ。そんな馬鹿なことは無いだろうな。


「では後は私に任せてくれ」

「お先に失礼します」

「じゃ、お休み」


 俺とオルトロがそれぞれテントに入っていく。リリウムはオルトロと同じテントで少し大きめのを使うらしい。

 まあ、女性どうし集まった方が安全だわな。

 俺はギルドから借りた極星の勇者の話を読みながら、日が完全に落ちると眠りに着いた。




「こんな過激な起こされ方は望んでないんだけどな」


 俺の目の前には飯の時に使っていたサバイバルナイフ。

 そして俺はそれが振り下ろされたところで腕を押さえて、それが俺に到達するのを止めていた。

 刃は俺の眉間数センチの所で止まっている。


「リリウム様の純潔を奪ったあなたを殺すのは当然のことです」


 オルトロの目は完全に死んでる。マジか、ここまでヤバイ奴だとはさすがに想像できんかったわ。てか勘違いで殺されちゃたまったもんじゃねぇ。


「リリウムはまだ処女だぜ」

「ならなぜあなたがリリウム様の部屋から朝出てきたんですか、男性が女性の部屋に夜入って、朝出てくるのはそういう行為を行うこと以外ありえません」

「なんかスゲー単純な思考してんのな。ただ魔法を教え合ってただけだぜ?」

「手取り足取り尻取りですか」

「案外下ネタ好き? てか思考がおっさんだな……」

「誰がおっさんですか!?」


 俺の発言に、カッと目を見開き声を荒げるオルトロ。


「おいおい、あんまり大声あげるとリリウムが起きるぜ。とにかくそのナイフは引っ込めな。あんたの考えてるようなことは無かったし、リリウムはまだ処女だよ。何だったら確かめてみな」

「どうやれって言うんですか」

「寝てる間にこっそりのぞいてみたら?」

「その手がありました!」


 この子バカだなー。冒険者としてはいい感じなんだろうけど、リリウムが絡むと途端に思考が単純になる。

 こりゃリリウムと一緒に依頼受けない方が良いだろうな。速攻で死にそうだ。


「じゃ、俺は警備に行くからよ。せいぜい気づかれないように頑張んな」


 リリウムはずっと1人でやってきたA-の冒険者だ。そんなリリウムがオルトロの接近に気付かないはずないけどな。

 俺が警備のために馬車に近づくころ、2人のテントからオルトロのくぐもった悲鳴のようなものが聞こえた。

 しっかり悲鳴を外に漏らさないために口を押さえるあたり、リリウムもしっかり配慮してんね。


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