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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国キクリ編
16/151

15話

「へっへっへ」

「なんでこうなるかね……」


 もう30分程度で町だと言うのに、間の悪いことに盗賊ですか。しかしなんでこの盗賊たちはやけに丁寧に使い込まれた装備を使ってるんでしょうね?

 誰かに渡された?

 

「へっへっへ」


 とりあえずおなじみになり始めた真似笑で返しといた。


「坊主、自分がどういう状況になってるか分かってねえ見てえだな」

「状況? 目の前にいる盗賊らしき連中10人と、後ろから気配けしてこっそり近づいて来てる5人に囲まれそうになりながらも、すでに対策は終了した俺の今の状況のこと?」

「なっ!?」


 俺の完璧すぎる説明に、目の前にいた盗賊たちが見るからに動揺した。

 後ろから来ている連中が分かったのは、ドラゴンの時に学んだ魔力サーチの練習で、帰り道にずっと使っていたから分かった。

 ちなみに対処方法はまだ考えてない! 別に対処方法とか考えなくても、倒せそうな連中だし。


「とりあえずバレてる状態でも襲う?」

「決まってんだろ。この人数だ、多勢に無勢だぜ」

「それは魔法を使える相手には当てはまらないと思うんだけどな」

「案外そうでも無いぜ。魔法なんて1つ発動させてる間に他の奴が近づけば関係ねぇしな。やられた奴は運がねえ奴だ」

「そうか、なら俺はお前しか狙わない!」

「なに!?」


 リーダーっぽい男はどう見ても強欲だ。そんな人間が他人しか得をしない方法を推奨するとは思えない。なら俺はこの男だけを狙って他の奴にチャンスを渡すぜ! さあ、どう行動する?


「ま、待て! お前ら、慎重にやるぞ。こいつ今までの連中とは訳が違うぞ」

「親方、それは自分が魔法食らいたくないから言ってるんすか?」

「そうっすよ。いつも自分だけ後ろにいてずるいじゃないっすか、たまには親方も戦闘に出てくださいよ」

「そうっすよ」「そうっすよ」


 手下が口々に日頃の不満をここぞとばかりに言い始めた。てか本当にリーダーだったんだな。そして存外慕われてない。


「落ち着けお前ら。その判断をすぐにする冒険者だぞ? かなり腕利きだ。誰かやられてる間に捕まえることすらできんかもしれん。俺たちはいままで確実に捕まえて得るものがあった。だがあいつにはこの作戦を使っても得るものが無いかもしれない。その状態で戦うのか? それはおかしいだろ?」

「いいぜ、じゃあそのリーダー倒したら素直に捕まってやるよ。今持ってる身ぐるみも全部渡すぜ?」


 火に油を注いでみる。

 なんか面白そうだしな。まあ、子分たちが素直にリーダーを差し出しても身ぐるみはがされるつもりはないけどさ。


「な!?」

「皆! リーダー捕まえろ!」

「うわ! お前らま、待ってく――」


 お、リーダーが沈黙した。簀巻きにされてる。お、転がされた。


「これで親方は無抵抗になったぜ! さあ、身ぐるみ置いてきな!」

「わかったよ。まず鞄の中身から出すぞ」


 盗賊に近づかれる前に、リュックを地面に置き、その中に手を突っ込む。そう、ぎっしりとマンドラゴラの詰まったリュックにだ。

 俺はリュックの中身を覗き込むふりをして口元を隠し魔法を唱える。


「星誘いて音を塞げ、ストップ」


 自らに入る音に遮断を掛け、逆にマンドラゴラの1匹に掛けられている魔法を解いた。しかしまだ轡をされているマンドラゴラは思うように声が出せないようだ。声帯が無いのに口がふさがれた程度で声が出なくなるってどういうことなんだろうね。

 まあ、それを言っちゃ声帯が無いのに声が出せること自体不思議なんだけど。


「ほれ、荷物を渡すぜ」


 そう言って中からマンドラゴラを取り出す。そしてロープを解いて盗賊に投げ渡した。

 空中にいるときから出始める悲鳴……と予想する。俺は今音が聞こえてないしね。

 そして悶絶してバタバタを地面に倒れ伏す盗賊たち。

 ハハ、マンドラゴラってやっぱ強力だな。

 倒れた盗賊たちを無視してマンドラゴラを回収し再び魔法をかける。地面に落ちた時に少し傷付いたけど、葉っぱの色に変色はない。問題ないみたいだ。


「解除」


 そう唱えると俺に音が戻ってきた。


「さて、誰の依頼かね」


 このタイミングでこの時間にこの場所で待ち伏せする盗賊など、俺を狙っているとしか思えない。

 むしろこれで無差別犯でしたなどと言っているのなら、その盗賊は確実に町の騎士団に討伐されているはずだ。

 その程度のことができないほど、キクリの町の騎士団は無能ではない。

 むしろあの総隊長なら率先して騎士団を動かすはずだ。

 

「おら起きろ」


 子分たちに気絶させられ簀巻きにされていたリーダーをたたき起こす。気絶させられていた分、マンドラゴラの影響が薄い。だから蹴ったら簡単に目を覚ました。


「う……俺は」

「おはよう自称盗賊君。君の部隊は全滅したよ?」

「なに!? バカな!?」


 リーダーは足だけで器用に起き上ると周りの惨状を見回した。

 そして俺を向き直る。


「どうやってこんな一瞬で」

「これ」


 リーダーの問いに分かりやすく唱えるため、再び魔法をかけたマンドラゴラを目の前に差し出す。


「ひっ!?」


 マンドラゴラを見た瞬間、リーダーは怯えたように後ずさりする。しかしすぐにバランスを崩して倒れてしまった。


「さて、じゃあこっちから質問だ。誰に雇われた?」

「な……なに言ってやがる。俺たちは盗賊――」

「こんな町の近くに盗賊が出るわけないだろ。お前らは誰かに雇われて俺を殺すために来た。それぐらい分かるって」

「そんな訳」

「何? そんなにマンドラゴラの声聞きたいの? 今なら特別サービスで5匹の大合唱にしても良いけど?」


 脅しの真実性を高めるためにリュックからマンドラゴラをすべて取り出す。

 それを見たリーダーは今にも気絶しそうだ。でもダメ。そんなことは許さない。


「さて、教えて?」

「わ、分かった。だからそいつらをしまってくれ」

「はいはーい」


 しょうがないからマンドラゴラをしまってやる。しまわれるマンドラゴラが、どこかホッとした表情をしているのは気のせいだろうか?


「さあ、しゃべってもらおうか?」

「俺たちを雇ったのは冒険者だ。名前やランクは分からねぇ。そもそも教えてくれなかったからな。まあ、こういうことを考慮してたんだろうな」

「なるほど冒険者ね。いくらで雇われたのかな?」

「着手金10万チップに、成功報酬20万チップだ。それにこの装備も貰った」

「ずいぶん金払いが良いな。ってことはある程度上のランク。それで俺を殺したいと思う連中は……」


 心当たりがない訳ではないが、少し情報が早すぎやしないか?昨日の今日。下手すれば今日の今日だ。

 そんな早く動くには情報屋が必要になる。ってことはおっちゃんが情報売ったか?

 ああいう裏稼業は金さえ払えば何でも売っちゃうしな。俺も口止め料払わないとどんどん情報流されちゃいそうだな。

 帰ったら払っとくか。ついでに犯人も聞いとこ。

 簀巻きをほったらかしにして、俺はキクリの町に急いだ。簀巻きと盗賊まがいの連中は、まあ運が良ければ魔物に食われる前に助かるんじゃないかな?




「ただいまキクリの町!」


 バッと両手を広げてキクリの外壁を抱くように視界に収める。

 なんか前戻ってきたときも同じことやってた気がするな。

 そしてあの時も同じように門番に変な目で見られてた気がするぜ。


「と、言うわけで手荷物検査頼むぜ」

「何がどういうわけかしらんがとりあえず検査するぞ」


 そういいながら検査員が鞄の口を広げる。そして素早い反応で鞄を振りかぶった。


「ちょっ!? 何すんの!?」


 俺は鞄が投げられる寸前で腕を止め、鞄を奪取する。危ないところだった。もう少しで今日1日の成果が無と化すところだった。


「何をするのではない! マンドラゴラを素のまま持ち帰るとはどういうことだ! ことと次第によってはそのまま牢屋にぶち込むぞ!」

「どういうことも何も依頼だ! ほらこれが依頼書」


 ポケットから依頼用紙を取り出し検査員に見せる。


「そういう問題ではない! 素のままで持ち込むのが問題だと言っているのだ!」

「何でだよ? なんか問題あるのか?」

「声で住民が死ぬ……あれ、なぜ俺たちは倒れない?」

「そりゃ声が出てないからな」

「死んでいるのか?」

「まさか。それじゃ依頼達成にはならないだろ。魔法で声を出ないようにしてるんだよ」

「そんなことができるのか?」


 検査員はいぶかしむが実際できている現状を目の当たりにしては強く言えまい。


「これが証拠だ!」


 そういいながら縛り上げたマンドラゴラを検査員の前に突き出す。

 ロープが揺れ、マンドラゴラがプラプラと揺れている非常にシュールな光景だが、見る人によっては恐怖の光景だろう。

 一撃で人を殺せる声を持った兵器のような魔物だ。それを目の前に出されて恐怖しない人間はいない。

 検査員のように、何がどのように危険なのかきっちりと教え込まれた存在ならなおさらだ。


「ひっ!?」

「だから大丈夫だって。あんたも俺も倒れてないだろ? それにマンドラゴラが本気で声を出したら、このあたり一帯の連中が倒れるって」

「そ、それじゃ本当に大丈夫なんだな?」

「問題ないぜ。ここに来るちょっと前に魔法もかけなおしたから街中で解ける心配も無い。そんなに心配ならプランターと土を用意してくれりゃそっちに植え替えるぜ?」

「いや、大丈夫だろう。分かった通っていいぞ」

「サンキュー」


 マンドラゴラを再び鞄にしまい、俺は門をくぐった。

 街中は晩飯時なのか露店がやけににぎわっている。

 そんな中腹が減ったなーと思いながらギルドに向かって歩いていると、懐かしい臭いが鼻に届いた。それは間違えなくあの時の串焼きの臭い! あのタレが焦げる独特の香りだ!

 一瞬全力で走り出そうとするも、気合いでねじ伏せいつものペースに戻して屋台へ急ぐ。

 そしてお目当ての屋台にも光がともっていた。

 すでに何人かの列ができている。俺は迷わずその最後尾に着いた。


「いらっしゃい。はい、ありがとうございました」


 その声は聴きなれた声だ。


「次の方どうぞ」


 その横には似た声だが少し高い音が混じった声が聞こえる。今日は2人で出ているようだ。

 そして俺の順番が回ってくる。


「いらっしゃ――あ!」

「よう、久しぶり」


 俺に気付いたカナが声を上げる。


「お姉ちゃんどうしたの?」


 その声に気付いて串焼きを焼いていたもう1人の女性がこちらを向いた。

 顔は双子なだけあって非常によく似ている。しかしショートボブの髪と病気だった代償の青白い肌が、その子をカナの妹であるマナだと断定させる。


「マナ! このトーカさんが命の恩人だよ!」

「え!? トーカさん!?」


 マナは驚いたように俺を見る。俺は普段通り手を振りかえしておいた。


「え!? でもトーカさんは冒険者だってお姉ちゃん」

「だから、この人がその冒険者のトーカさん。フェリールの目を譲ってくれた人!」

「本当に!?」

「今嘘言ってどうするのよ!」


 ビシッとマナにチョップを入れるカナ。


「今はそんぐらいにしときな。後ろにお客も待ってるぜ」

「おおっとそうだった。何本だい?」

「10本!」

「まいど」


 手際よく10本の串焼きを葉っぱに包んでいく。


「はいお待ち。10本で300チップだ。約束通り原価分の値段だよ」

「これからきっちり取り返してやるから覚悟しとけよ?」

「望むところさ。そうだ、この住所に暇な時に来てくれよ。しっかりお礼がしたいんだ」

「わかった。明日か明後日で大丈夫か?」

「屋台は昼と夕方のこの時間にやってるから、それ以外なら大丈夫だよ。2時から3時ごろなら確実にいるから」

「了解」


 皮用紙を受け取って屋台を後にする。

 1本を取り出して齧りつきながらギルドへ向かう。マンドラゴラはギルドの裏にある畑に届けないといけないからだ。

 正面から行くのも良いけど、この臭いをギルド内に持ち込むのはさすがに気が引けるな。ここは直接裏に回るか。

 大通りでギルドの正面を抜け裏道へ。そのままギルドの裏手に回るとそこには畑が広がっていた。

 裏手には回ったことが無かったけど、こんな風になってんのか。埋まってんのは普通の野菜のほかに2本マンドラゴラが埋まっていた。ここで生命を維持して依頼者に渡したりすんのかねっと、そうだここにいる庭師に渡さねえと。

 入って人のいそうな場所を探す。小屋が近くにあった。


「ここか?」


 ノックをして反応を見る。すぐに反応は会った。


「誰だ?」


 出てきたのは中年ぐらいの男性。庭仕事で汚れた服をそのまま来た無精ひげの男だ。


「依頼のマンドラゴラを持ってきたから調べて欲しい」

「おお、お前が今回のランクアップ試験の受験者か」


 どうやら庭師にも情報が伝わっているらしい。なら話は早いな。


「ああ、いい感じに捕まえてきたぜ」

「ならさっそく見せてもらおうか。プランターはどこにある?」

「そんなもんねぇぜ。魔法で音を封じて持ってきた。マンドラゴラはこの中だ」


 背負っていたリュックに指をさすと、庭師は目を見開いて驚いた。

 さすがに少し反応に飽きてきたな。盗賊と門番、庭師で3人目だと、さすがにネタ被り感が否めない。


「てなわけで確認してくれ。ちなみに怖いとか恐怖とか危険じゃないのか!? みたいな反応は経験済みだからスルーで頼むわ」

「あ、ああ」


 庭師は俺の言った意味がよく分かっていないようだが、1つ頷いてリュックの中を開け中身を外に出す。

 縛り上げられたマンドラゴラが計5体。そのうち1体は綺麗な亀甲縛りをしている。昔動画サイトでみた亀甲縛り講座がここで役に立つとは思わなかった。

 庭師はその芸術的な縛り方に言葉を失っている。まあ初めて亀甲縛りを見た時はこんな反応するよな。俺も初めて見た時は感動したもんだ。

 うんうんうなずいていると、庭師が俺に紐を解いても大丈夫か聞いてきたから問題ないと答えておく。

 すると、男はするすると紐を解いて行った。

 初見で亀甲縛りを簡単に解くとはこの男侮れないな。

 そして他のマンドラゴラもそれぞれ紐を解いて1体ずつ畑に埋めた。


「なかなか良い状態だった。1匹以外は傷も少ないし、生命力の減衰も見られない。よくこんな状態で持って来れたな」

「まあな。案外縛られるのが好きなのかもよ?」

「そうであってもお前以外はこんな芸当できないだろうよ。ほら、これが5匹の証明書だ。それより聞いておきたいんだが、お前は今日依頼を受けたんだよな?」

「ああ、そうだぜ」

「ならどうやってマンドラゴラを5匹も見つけられたんだ? こいつらは擬態がかなり上手い。1日に2体も見つけられたらいい方なはずだが?」

「ちょっと秘訣を見つけてな。こればっかりは企業秘密だ」

「そうか。それが分かればマンドラゴラの価値を下げられると思ったんだが……」


 庭師は残念そうに顔を歪ませるが、さすがに魔力をサーチするなんて方法を簡単に教えるわけにはいかない。

 あれは俺がドラゴンから学んだ貴重な魔法だ。よっぽど信頼した奴以外には教える気は無いからな。今の所リリウムぐらいか?

 リュックの開いたスペースに串焼きの残りを入れ、証明書を手に俺はギルドの中へ入っていった。


 中は冒険者の数が少なくガラッとしていた。昼はにぎわいを見せている喫茶店もすでに店じまいしている。この時間の冒険者は大半が依頼を終え、酒屋かどこかに遊びに行っているのだろう。

 俺はそんな空いたギルドの中を進み受付の前に来る。もちろんハルちゃんのところだ。最近ここが定番になってきているな。


「ハルちゃん」

「あ、トーカさん。今戻ってきたんですか?」

「そう、依頼の完了報告」

「もうですか!?」


 ハルちゃんの声が静かなギルド内に響き渡った。それだけで他の受付や残っていた少しの冒険者がこちらを見る。そして受付はまたかと言う目線、冒険者はなんだこいつと言う目線で俺を見てきた。

 それにしても受付のまたかって視線。俺はそんなに異常なことをしてるかね?……いやしてるね。


「そう、これ証明書ね」


 庭師にもらった証明書を渡す。それを確認したハルちゃんはハアと小さくため息を付いた。


「どうしたの?」

「どうやったんですか? これ品質の保証まで兼ねた最上級の証明書ですよ?」

「活きがよかったんだな。やっぱマンドラゴラって縛られるの好きなんだろうな」

「どういうことですかそれ……」


 ハルちゃんは理解をあきらめた。

 そこに横からサリナさんが声をかけてくる。


「あら、もう終わったの?最低でも3日はかかる依頼なのに」

「ああ、終わったぜ。ついでにドラゴンも見てきた」

「ドラゴン?……! まさか深森(しんりん)に入ったの!?」

「森林?」

「字が違いますよ。深い森と書いて深森と読みます。魔物が住む森の中でも、最も危険でなかなか到達することのできない場所です。まさかそこまで行っていたとは……」


 ハルちゃんは完全に呆れていた。


「ドラゴンは深森や深海、山の山頂みたいなところにしか生息しない魔物よ。それを見たってことは深森に入ってたんでしょうね。マンドラゴラを捕まえるだけなら深森まで行かなくてもいいのに相変わらず無茶するわね」

「別に行きたくて行った訳じゃねえよ。歩いてたらそこまで行っちまったんだ。まあ、そのおかげで収穫もあったし、マンドラゴラも5体見つけられたからな。いいこと尽くしだ」

「まさかドラゴンと戦ってないわよね?」


 俺の意味深な発言にサリナが焦ったように聞く。やっぱりドラゴンと戦うのはまずいみたいだな。


「さすがにやってねえよ。戦闘になりかけたけど素直に引いた」

「そう、ならよかったわ。ドラゴンは1等星級の魔物の中でも別格よ。ある意味邪神級に1番近い魔物。絶対に戦おうなんて思わないようにね」

「わかったよ。忠告はありがたく受け取っとく」


 まあ、自分からドラゴンと戦おうとか思わないけどな。あんな格好いい存在を殺すなんて俺は嫌だね!


「とりあえずハルちゃん、完了報告頼むわ」

「あ、はい。ではギルドカードをお願いします」


 ギルドカードを渡すと、それをハルちゃんは機械に差し込んだ。

 そしてそこに魔力を流すと機械が動きだしカタカタとカードに何か細工をしていく。

 そしてピーッと音がしてカードが排出される。その色は先ほどまでの白色から銀色に代わっていた。


「色が変わった?」

「はい、ランクが上がるとギルドカードの色が変わります。Fは白、Eは青、Dは赤、Cが銅色で、Bが銀、Aが金色になります。一目で分かるようにするための処置ですね。特典のことも説明しますね」

「あ、その必要はないぜ。昨日リリウムに聞いたからな」

「そうでしたか。またリリウム様ですか……」


 あれ? なんかハルちゃん目が死んでるよ?


「そういえばトーカ君、リリウムさんと一夜を共にしたんだって?」


 サリナさんが突然そんなことを言ってきた。て、それって今朝のことか!?


「ああ……昨日の夜のこと?」


 俺は平然を装って聞き返す。


「そうよ。今朝止まり木の客が4階から降りてくるトーカ君を見てたのよ。それで噂が走ってるわ。ちょうど4階に泊まってたのはリリウムさんだけだったしね」

「マジか、また面倒な噂が増えたな」

「で、実際はどうだったの?」

「昨日の夜に魔法の教え合いをしてたんだよ。そんで俺がそのまま部屋で寝落ちして、朝になったってだけだ。何も無かったぜ」

「あら、そうなの残念」

「何でだよ」


 ハルちゃんがよかったですとつぶやいてるのは気にしないことにする。


「まあ、これで晴れてトーカ君もB-ランクの冒険者よ。少し頑張ればリリウムさんと同じレベルの部屋に泊まれるわね」

「そうだな。まあ、俺は小さい部屋の方が慣れているけどな」

「そういう人は多いわね。そこは冒険者らしいと言うか、平民らしいと言うか」

「ハハハ、俺らしいって言うんだぜ」


 銀色になったギルドカードを受け取り、俺はギルドを出た。


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