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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
エピローグ
151/151

EX 二年後

 EX二年後・漆桃花&漆フィーナ



「トーカ、ご飯にしましょう」


 フィーナが庭に出て、薪割りをしていた俺に声を掛けてきた。


「お、もうそんな時間か」


 空を見上げれば、すでに太陽は真上に来ている。薪割を始めてざっと二時間たったという所だ。

 庭の隅には、俺によって割られた薪がうずたかく積みあがり、山になっていた。


「フランちゃんは、もうテーブルで待ってますよ」

「了解、すぐ行く」


 斧を軽く切り株に突き刺し、俺は首に掛けていた布で自分の汗をぬぐう。

 フィーナと結婚してから二年の月日が流れた。俺は爺さんに話していた通り、結婚を機に冒険者を引退、王都で主に力仕事専門の何でも屋のようなことをして生計を立てている。入ってくる給料は微々たるものだが、冒険者時代に稼いだ金と、たまに来る騎士達の訓練依頼で、一生暮らせるほどの十分な蓄えがあった。

 こうして働いているのは、まあフランの教育のためかな? 毎日家にいる父親もおかしいでしょ。

 そしてここ二年で大きな変化は二つ。一つは家を新しく買ったことだ。

 前の家からはさほど離れておらず、前の家も思い出が詰まっているということで、保管はしてあるが、爺さんも新しい家で一緒に暮らしている。

 しかし、四人暮らしでは無い。

 去年、俺とフィーナの間に子供が生まれたのだ。これが大きな変化の二つ目。 だから今は五人暮らしである。

 その赤子は今も、フィーナの背中でおんぶ紐に守られながらすやすやと眠っていた。

 俺はあまり足音を立てないように注意しながら、フィーナの背中へと近づき、その赤子の頬をチョンとつつく。

 眠ったままの赤子は、俺の指をギュッと掴んだ。


「トーカ、何してるんですか?」

「いや、なぜこんなに可愛いのだろうかと」

「それはもちろん、私たちの子供だからですよ」


 女の子で名前はダリア。瞳は俺と同じで茶色。髪の毛はフィーナの遺伝子を継いで水色のようだった。名前の意味は花言葉であふれ出る喜び。向こうの世界にいた頃に、桃花の花言葉と一緒に祖父が教えてくれた花言葉だ。

 俺はフィーナには、あふれ出る喜びや華麗、優雅といった意味だと教えてあるが、実はフィーナに教えていない花言葉がダリアの花言葉にはある。

 それは威厳。

 俺の子供なんだから、きっとスゲー子になると思う。きっとそこにいるだけで、みんなが従いたくなるようなオーラを放つような子に育ってくれると信じてる! と願ってその名前を付けた。そしてその事を証明するような子供が我が漆家にはいた。

 名前は漆フラン。出会ったころはおとなしく、どこかいつも怯えているような少女だったフランは、去年ユズリハに出来たばかりの学校に通うようになり、友人ができ、そして学校の同学年を支配(・・)した。

 俺はその話を噂に聞いたとき、さすが俺の子だと思いながらも、何をしたのかは怖くて聞くことは出来なかった。

 俺とフィーナとダリア。三人が揃ってダイニングへ行けば、そこには噂のフランが座っている。まだ足の届かない椅子から足をぶらぶらとさせて、待ちきれないと訴えるように、祖父に向かって「まだ~まだ~」と言っては頬を膨らませていた。

 そしてその祖父は「もうすぐだ。ほら来た」と、俺達の方を指差す。


「悪い、待たせたな」

「すぐにご飯にしましょうね」


 フィーナはそのまま台所へと向かい、そこから鍋を持ってきた。その中に入っているのは冒険者時代によくフィーナが作っていたポトフ。


「今日は懐かしい味に挑戦してみました。さあ、熱いうちに食べましょうね」


 そう言いながら全員の席の前にポトフをよそって置いていく。


「お代わりも沢山ありますからね」

「んじゃいただきます」

「いただきます!」

「いただくとしようか」


 三者三様に、スプーンを持って、ポトフを口に運んだ。

 冒険者時代より腕が上がったのか、あの頃より美味しく感じる。

 そして俺達の満足そうな顔に、フィーナは一つ頷いてから、自分もポトフを食べ始める。

 そこには、俺の憧れていた、幸せな家族の形があった。

 俺とフィーナ――いや、俺達家族は今日も幸せに暮らしている。



EX二年後・漆フラン



 お昼ご飯を済ませ、フランは学校へと来ていた。そこは一年前にユズリハ国が作った国営の学校で、システムはカランとギンバイの学校、すなわち勇者の考えた学校のシステムが使われている。

 校舎も木造三階建ての機能を追求した、現代と物と似た形の校舎だ。

 そしてフランは、昇降口で偶然シスと出会う。


「おはようですよ、フラン!」

「おはよう、シスちゃん」

「ねぇフラン」

「なにシスちゃん?」

「試合しよう」

「ダメ」


 開口一番、シスがフランに試合を申し込むが、フランはそれを平然と拒否する。これはもはや挨拶のような物だった。

 フランは二属性を持っており、属性は風と雷。その上最近はリリウムから個人的に風属性の魔法を教えてもらっているため、シスからすれば最高の試合相手なのだ。


「けちー」

「ケチじゃないもん! シスちゃん試合始めると止まらなくなるでしょ!」

「うぅ……」



 反論できずに、シスは黙ってフランの服の裾を掴み後ろを付いて歩く。ささやかながらの抵抗だ。

 しかしフランは、気にした様子も無く自分のクラスへと向かった。

 そして教室の扉を開けると、中にいた子たちの視線が集中する。直後、子供たちが一斉に、まるで朝礼で先生に挨拶するように頭を下げた。


「おはようございます!」

「皆おはよう」


 フランは特に気にした様子も無く、自分の席へ向かう。そこまで来るとさすがにあきらめたシスが、自分の席へと戻って行った。


 フランには学校で生徒たちに付けられた二つ名がある。

 それは親の力でも、周りの噂でも無く、自らの力で手に入れた二つ名だ。

『学年の支配者』

 そんな仰々しい二つ名が付けられたのは、今から二か月前、たまたまシスと共に校舎の裏でトレーニングをしていた時のことだった。

 まだ体の完成していない二人は、ハードなトレーニングがリリウムから禁止されている。そのため、流す程度にランニングや素振りなどの筋トレをやっているのだ。

 それはひとえに、父であるトーカの姿に憧れてのことだった。

 いつも笑いながら、怖い時には颯爽と現れ、いとも簡単に悪者を倒していく。そんな姿をトーカの背中から見ていたフランは、いつの間にかトーカの生き方に凄い憧れを抱くようになっていた。

 そしてその日もトレーニングを終え、帰ろうと二人で歩いていたときの事。大勢の子供の声と、鳴き声が聞こえてきたのだ。

 フランたちが気になって声のする方に行ってみると、そこには同じクラスの子や学年の子が集まって木の上にある鳥の巣を落とそうとしていた。

 集まっていた子供たちは、鳥の巣がどうなっているのかという興味本位から、鳥の巣を落とそうとしていたのである。

 そして、その鳥の巣の端からは、卵が今にも落ちそうになっていた。

 それを見た瞬間、フランは動いていた。

 子供らしい、柔らかい足のバネを利用したスタートダッシュは、一瞬でフランをトップスピードにまで持っていき、長い木の棒で今まさに鳥の巣を落とそうとしている男の子の腕を掴んで止め、足払いでその場に倒したのだ。

 まだ子供のため体格差が殆ど無いとはいえ、フランは日頃からシスとトレーニングをしている。それだけに、同い年の男子程度ならば、タイマンを張れるだけの力は持っていた。

 突然の衝撃に何が起こったのか分からない子供が呆然とフランを見上げる中、フランは仁王立ちでこう言ったのだ。


「可哀想でしょ! やめなよ!」


 フランは純粋な正義感からの言葉だった。しかし、その言葉が子供たちの怒りに火を付けてしまった。

 うるせーっと言ってフランを突き飛ばそうと子供の一人が手を付き出す。フランはその手を掴むと、流れるような動作で足を引っ掛け最初の子供と同じように地面に倒した。

 フランの体術は、シスと共に考えた、力を使わないオリジナルの体術だ。そのため、男の子を簡単に倒せてしまう。

 それを期に、一斉に子供たちがフランに襲いかかる。

 しかしフランは、怪我一つ追うことなく、自分でも拍子抜けするほどあっさりと全員を地面に倒した。倒せてしまった。


「もうこんな事しちゃだめだよ」


 呆然とフランを見上げる子供たちにそれだけ言い残し、その戦いとも呼べない戦いを見ていたシスと共に、帰宅路へと戻る。

 何もできずに、ただ地面に座らされた子供たちの心に刻まれたのは、技を掛ける時の驚くほど鋭い視線と、フランを怒らせてはいけないという理解だけだった。

 その話に背びれ尾びれが付き、いつの間にかフランは『学年の支配者』と呼ばれるようになったのだった。

 そしてその学年の支配者は、今日もニコニコと笑う。

 今日の授業である魔法の実習を楽しみにして。


長い間お付き合い頂きありがとうございました。


今後のことについては、近いうちに活動報告で書かせていただく予定です。

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