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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国キクリ編
15/151

14話

 リリウムと共に朝食をとり、森に出かける準備をする。今回の試験は採取系だし、長期間町から出かけるわけではない。だから食料関連の荷物は昼飯だけでいい。

 他にはサバイバルナイフとマンドラゴラを縛るためのロープを露店で買う。

 リリウムの話では1日で2匹見つかれば良い方だそうだ。それだけ個体数が少ないと言うのと、隠れるのが上手いらしい。


「さて、じゃ行くか」

「頑張ってこい」

「おう、期待して待ってな」


 なぜか門のところまで来たリリウムの見送りを受けて、俺は森に向けて出発した。

 ランニング程度のスピードで2時間走り続けた結果、森に着いた。ここでいったん飯にすることにする。

 さすがに森に入ってからは、魔物がどこから襲ってくるか分からない。そんな状況で呑気に昼飯など食べていられないからだ。


「おっちゃんに別料金で用意してもらったけど、どんなもんかね」


 朝食の時におっちゃんに頼み昼飯の弁当を用意してもらっていた。

 1,000チップと少し高めだったが、この時代に長時間保存できる弁当は非常に珍しい。

 なんでも弁当箱自体に保存の魔法がかかっているのだとか。魔法道具って奴だな。魔法の内容はフィーナの使っている魔法に近いものだ。

 木の蓋を開けると、中にはサンドイッチが入っていた。4種類あるサンドイッチは中身はどうやらそれぞれ違うらしい。

 断面から見えるのはサラダとハムのようなものを挟んだもの、そして焼肉を挟んだもの、卵を挟んだもの、最後に魚を挟んだものだ。魚は焼いた切り身が挟まっている。


「魚も魔物とか使ってんのかもしんねぇな」


 肉厚な魚の身を見ながらそんなことを呟く。

 とりあえず安定のハムサラダっぽいモノから齧りつく。まだあまり時間も立っていないおかげで新鮮なままだ。魔法の効果がどれだけ出ているか分からんけど、なかなか美味い。

 そのまま卵と焼肉も食べ、残るは魚のみとなった。ちなみに焼肉は安定のビーリスだった。

 すこし緊張を残しながら魚のサンドイッチに齧りつく。そもそも魚をサンドイッチに挟む場合、大抵フライにしたものだったから焼き魚に違和感がある。

 大きな身が口の中でホロッと崩れる。これは美味い! 脂の乗ってる身がサンドイッチによく合う!

 俺は勢いのまま、一気に食べきっていしまった。


「ふう、美味かった。さて、腹ごしらえも済んだことだし、マンドラゴラを探しますかね」

 

 鞄を背負いなおして俺は森の中に入っていった。

 森の中は木が乱立しており、非常に歩きにくい。マンドラゴラがそういった場所に好んで生息するから仕方がないけど、億劫だな

 森に入って三十分ほどで魔物に出くわした。フェリールと同じオオカミを素体にしたもののようだが、大きさも普通のオオカミとなんら変わらないし、少し凶暴になった程度と言ったところだ。こういうのが5等星級とか4等星級とかになるのかと思いながら、ウィンドカッターで瞬殺する。

 すると最初の1匹を皮切りに断続的にオオカミが襲ってくるようになった。まるで俺のことを監視して、疲れるのを待っているような様子だ。

 そこで俺は昨日習ったばかりの無属性魔法を使うことにした。


「さっそく役に立つとは、リリウムが必須だって言うはずだよな」


 その魔法は探査の魔法だ。周囲に存在する生命反応を探す魔法だが、拠点を作る前や討伐対象を探すとき、隠れている盗賊の数を調べるときなどいろいろな場面で役に立つらしい。


「星誘いて生命を示せ、サーチ!」


 魔法が発動して、俺の周りに点在する生命反応の位置がまるでレーダーを使ったように頭の中に書き出される。

 それを見ると、俺は完璧に囲まれていた。

 ハハ、こりゃこの魔物の習性ってことか。群れで順番に襲って相手の疲弊を待つ。弱ってきたところで一斉に襲いかかって獲物を狩る。

 群で襲う動物がいても、ここまで高度な作戦を立てて襲う動物は少ないだろうし、これが魔物と動物の違いってことかね。後は積極的に人間を襲う所とかかな。


「なら誘き出してみっか」


 その後、数度の戦闘を経て、俺は近くにあった木に背を持たれかける。疲れている風を装って周りにいる魔物たちをおびきだし、逆に一掃するのだ。マンドラゴラ探すのにずっと付いてこられるのも面倒だからな。

 と、釣れた。

 がさがさと草むらが揺れ、そこからオオカミの魔物がわらわらと出てくる。その数はおおよそ20。よくこんなに隠れてたよな。最初は俺も全く気付かなかったし、気配を消す技術も身に着けている。


「やっと出てきたな。ちょくちょく来て鬱陶しいんだよ。一気に掃除してやるぜ。星誘いて氷結の世界を望む、ブリザード!」


 フィーナの保存の氷魔法を見た時から使ってみたかった氷魔法を発動させる。

 ブリザードは単純な吹雪を生み出すのではなく、それに触れたものを凍らせる力を持った氷の粒を生み出す。

 姿を現してこちらの様子をうかがっていた魔物はその氷に触れ一斉に凍りついていく。

 数分もしないうちにものの見事に20体のオオカミの氷像が完成した。


「完璧。やっぱ氷魔法は良いね。なんつうか、かっこいい!」


 吹雪の中に1人平然と立つ俺とか、周りから見たらめっちゃかっこよくね!?

 誰も答えてくれるはずのない自問をしながら、俺は森の中を進んでいった。


 さらに森の中を進み1時間、俺はまだ1匹もマンドラゴラを捕まえれていなかった。

 サーチの魔法を使っても、マンドラゴラは魔物だが生き物として認識されていないのか反応しないのだ。もしかしたらサーチの魔法自体が心音か何かを判断して情報を送ってくるのかもしれない。

 そのせいで自力でひたすら探すしかなく、森の中をさまよい続けていた。

 てか、いかん! 適当に進みすぎたせいで現在地が分からない!

 とりあえず川のある方を探して歩いたほうがいいのか? それともゆるく坂道になってるから上に上るべきか。

 と、1本の木の根元に変なものを見つけた。

 葉っぱだけが木の根の間から見えている。それは大根のようで……!


「こいつか!」


 駆け寄ってその葉っぱを観察する。よく見ると、その葉っぱは僅かに動いているように見える。今日は風が出ていないから、動くのはおかしい。


「やっと1匹目か。星誘いて音を塞げ、ストップ」


 マンドラゴラに防音の魔法をかけ、一気に引き抜く。

 突然引き抜かれたマンドラゴラは口を開け悲鳴を上げているようだが、俺には聞こえない。と言うか、音が口から出ていない。


「こりゃ面白いな」


 懸命に声を上げようとするマンドラゴラを見ながら、いたずら心が湧きあがる。そして持ってきたロープを取り出し、その一部に玉を作る。

 そして玉がちょうどマンドラゴラの口に入るようにして縛り上げた。


「できた。マンドラゴラの緊縛プレイ!」


 ロープによって縛られたマンドラゴラがプラーンプラーンと揺れる。魔法で音を防がなければ到底できない芸当だ。

 あまりの完成度の高さに少し、やった俺自身が引いてしまったが、まあ何はともかく1匹目ゲットだ。

 記念の1匹目を鞄にしまわず手でプラプラと揺らしながら、2匹目のマンドラゴラの散策に戻った。


 力強い気配を感じたのは、マンドラゴラを見つけてすぐのことだった。


「なんだこの気配」


 普通の動物とは比べ物にならない。さっき倒したオオカミの魔物でも比べ物にならない。比較するならフェリール。それでもフェリールが下回ってる。


「星誘いて生命を示せ、サーチ」


 気配の場所を探るために、サーチを掛ける。

 森の中は、木の葉で日の光が遮られ、非常に見通しが悪い状態になっている。そんな中でもこれだけ濃密な気配を発する存在ならば、目立つはずだ。

 サーチから届けられた情報に一瞬、俺は目を疑った。


「なんだこれ? デカすぎじゃね?」


 オオカミの魔物ならば点で映像化された姿。それがその気配の映像化された姿にはしっかりとシルエットが映し出されていた。


「でかい……トカゲか?」


 自分で言って、ある1つの説が思い浮かんだ。そうだ、ここは異世界なのだ。ならば異世界の生き物でトカゲに似た生き物がいるはずじゃないか。マンドラゴラがあったんだからその生き物がいてもおかしくない。

 幻獣の頂点として、古くから崇められ神秘の象徴とされ、またあるときは恐れられ、厄災の象徴とされた存在。


「ドラゴン――」


 自分で言葉にするだけで背筋がゾクゾクする。

 ドラゴン。ドラゴンなのだ! このシルエットは!

 1度そう見れば、もうそれ以外の姿には見えない。

 この世界のドラゴンがどういうものか知らないが

 ――見たい!

 むしろそこにドラゴンがいると分かってて見に行かないのは礼儀に反するだろ!

 誰に対する礼儀なのか分からないが、特に気にせず森の中をドラゴンに向けて直進していった。


 草陰に潜みながら、その存在を覗き込む。

 スゲー! マジでドラゴンだ! 西洋や東洋の龍のイメージとは違う、地を這うドラゴン。漢字で表すなら龍よりも竜の方が正しいんだろうな。

 ドラゴンは、こちらを背にして川から水を飲んでいる。まさかドラゴンを探して水場を見つけれるとは僥倖だったけど、ドラゴンが占有しているようじゃ俺が使うのは無理だろ。襲ってこないなら貴重っぽいドラゴンを殺したくはないし、なるべく共存しておきたい。

 と、ドラゴンが動いた。

 のそのそと四足の足を動かし近くにある木の根元まで移動する。そして何かを掘り出すように前足で地面を掻き出した。

 すると突然悲鳴が森の中に響いた。


「なっ!? この悲鳴は!」


 その強烈すぎる悲鳴に、俺は一瞬意識が遠のく。それをぐっとこらえ、音を遮断する魔法を唱えた。


「星誘いて音を塞げ、ストップ」


 ついさっきマンドラゴラに掛けた魔法を俺の耳に掛ける。それだけで悲鳴は聞こえなくなった。

 しかしなんで突然マンドラゴラの悲鳴が出たんだ? 俺の捕まえたのは今も木の枝に吊るされたままプラプラと所在なさげに揺れている。魔法も解けていない。

 なら考えられるのはあのドラゴンの影響。さっき地面を掘っていたってことは、まさかマンドラゴラを掘り出したのか? てかドラゴンがマンドラゴラを掘り出す理由としたら食糧? いや、それより気になるのは、ドラゴンがどうやってマンドラゴラをあんな簡単に見つけたのかだ。もともとある場所を知っていたのか? それとも何かしらマンドラゴラを探す方法があるのか?

 もう少し近づいて観察してみた。遠目に見るだけじゃどうしても限界がある。

 昨日習った魔法の中に気配を遮断する魔法があったはずだ。自力でできるに越したことは無いが、今の俺じゃそんな芸当はできないし、ありがたく使わせてもらおう。


「星誘いて吐息を消せ、スニーク」


 感覚的には変わってないが、これで周りからは俺の気配が消えたはずだ。

 ドラゴンはマンドラゴラを食べて満足したのか、木陰で休み始めた。

 チャンスだ。今ならドラゴンの警戒は薄い。そこに気配を消した状態の俺が近づいてもばれないはずだ。

 草むらからこっそりと移動を開始する。

 すこし遠回りをして、移動の際に草の音が聞かれないように細心の注意を払う。

 そしてドラゴンとの距離が10メートルを切ろうとしたとき、突然ドラゴンが起き上り、こちらに向かって威嚇するような態度を取った。

 たまたま俺の方を向いていた訳ではない。俺は移動のために木の上に乗っていた。ドラゴンはその俺がいる場所をまっすぐに見上げている。


「バレてる……気配は消したのになんでだ?」


 俺は魔法を解くと、敵意がないことを示すように地面に降りて少しずつ後退した。

 俺が離れて行ったのを確認したドラゴンは僅かに警戒を残したまま、再び地面に体を横たえる。

 ひとまずドラゴンと戦闘と言う事態は避けられた。そこで今起こったことを考察する。気配を消していた俺を見つけたってことは、それ以外のもので判断してるってことだ。ならばドラゴンが仮に魔法を使えるとしよう。その場合使われる魔法は何か? 1つは俺もつかった生命探知の魔法だ。これは心音を探査して使用者に届けるものだが、その際に気配を消されると探査に引っかかりにくいのも分かっている。また、俺自身に消音の魔法が掛けられているから、心音は外に漏れないはずだ。

 つまり、気配を隠したさっきの状態では、これに引っかかることはおかしい。さらに言うならばマンドラゴラを見つけれたのも、これとは違う魔法を使っていたと言うことになる。

 ではどんなものを調べれば俺とマンドラゴラの2種類の存在を見つけることができるのか。俺とマンドラゴラに共通しているものと言えば、一応生き物だと言うことぐらいだ。ならばドラゴンは気配ではなく生命力のような物を感じ取っている?

 そこまで考えてある1つのワードが頭に浮かぶ。

 ――魔力

 教習本ではどんな生き物であっても持っているとされるものであり、星の加護に祈りをささげるときに使われるのが魔力だ。

 ちなみに、星の加護を使う時に使われる魔力は非常に小さなもので、魔法の使い過ぎによる魔力切れなんて漫画や小説で出てくるような事態は起こりえない。

 仮にドラゴンが魔力を感知して俺やマンドラゴラの位置を特定できたとするなら、これは非常に便利な魔法と言うことになる。

 属性的に言えばおそらく無属性。しかも相手の魔力を調べるだけだからサーチの魔法とさほど変わらない難しさになるはずだ。


「ためしにやってみるか。呪文はサーチの応用で、威力は一応最大にしておくか。

 月示せ魔力のありか、サーチ」


 魔法が発動し、俺の頭に映像が映し出される。できた。これが魔力の反応を視覚化したものか。

 揺れる炎のようなものが地図上に現れる。ドラゴンは魔力も強いらしく、くっきりとその姿を映し出している。

 そしてドラゴン以外にも小さな魔力の反応が各地に点々と存在する。おそらく鳥や虫には反応していない。それを含めると炎の数としては明らかに少なすぎるからだ。ならばこの反応は魔物の反応だろう。魔物はその名の通り、体内に持っている魔力の量が多い。

 もう少し練習すれば、魔力の小さい生き物でも見つけられるようになるかもしれないが、今はこれが限界だ。そして今に置いてはちょうどいい。

 魔物にしか反応しないと言うことは、この中にマンドラゴラの反応もあると言うことだ。

 マンドラゴラ以外の魔物が動いているのならば、動かない反応を優先して探せばそこにマンドラゴラを見つけられる可能性は一気に上がる。

 ドラゴンに会って思わぬ収穫があった。これは感謝せにゃならんな。今度なんかドラゴンが喜ぶものでも持ってこようかね!

 木の枝に吊るしたままのマンドラゴラを回収して、俺はそそくさとドラゴンのいる水場を後にした。

 

 その後は破竹の勢いだ。

 マンドラゴラが見つけにくいのは擬態が上手く、サーチに反応しないからだ。しかし今の俺にはその場所がしっかりと分かる。

 あとはその場所に行って魔法をかけ引き抜く。ついでに縛り上げる。

 それを繰り返せば、1時間程度で残りの4匹を捕まえることができてしまった。


「まさか1日で終わってしまうとは……」


 自分の鞄の中に入った縛られたマンドラゴラを見ながらつぶやく。

 時折、魔法をかけなおして音が出ないように注意しながら今度は森の出口を探す。

 マンドラゴラを探しているうちにずいぶんと深いところまで来てしまったらしい。高い木に登って上から見てみたが、どこまでも森が続いており、その先に小さく草原のようなものが見えた。おそらくそこが俺の入ってきた場所なんだろうな。

 半日程度で森の中をここまで進めた俺にも驚きだが、そこまでしないとマンドラゴラを5匹も捕まえられなかったのは事実だ。

 今日出会ったドラゴンに感謝しながら、俺は森の中を草原に向けて歩き出した。


 それから2時間。歩き続けてやっと森の入口まで出てこれた。長かった……途中またオオカミの魔物におそわれたが、特に問題なく対処し、氷像を作っておいた。

 そして、最初に凍らせたオオカミの氷像に出くわしたとき、思わぬ物語を見つけてしまった。

 1体の氷像に1匹のオオカミが寄り添い、懸命になめて氷を溶かしているのである。その足元には小さな子オオカミたちが同じように足元をなめている。

 そんな姿見せられたら思わずウルッと来ちゃうじゃん!

 てな訳で木の上に上り、気配を隠しながら氷を溶かしてやった。

 一瞬のうちに凍らせたから、コールドスリープ状態になっていて無事に生き返らせることができた。

 突然解けた氷に助けようとしていたオオカミが驚いていたが、助かったのが分かると嬉しそうにそのオオカミに頬をこすり付けていた。

 その姿をみてまたウルッと来る。

 そんなことをしながら入口に戻ってくると、すっかり辺りは夕日に赤く染められていた。


「ここから2時間かけて帰ると暗くなっちまうな」


 日が暮れる前に帰るつもりだったけど、まあ1日でマンドラゴラを5匹捕まえれたんだし、しょうがないかね。


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