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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ギンバイ帝国・極星編
148/151

147話

 怒涛の皇帝殺害劇から明けて翌日。俺とオルトは早急に新しい重役たちを集めるため、城内を歩きまわっていた。

 今までの重鎮たちは、当然前皇帝を信奉していて俺達に付く者はいない。その場では泳がせるために逃がしたが、おそらく地方領主と合流して再び帝都に攻め込んでくるだろう。

 しかし、城内にも前皇帝を信奉していない者たちも少ないながらいる。今そんな数少ないメンバーを集めているのだ。

 メイドや騎士には意外とオルトに付く者たちが多く、城内の情報は簡単に入って来たため、地図を片手に廊下を歩いている。


「次はこの部屋だな」

「ここにはどんな人がいるの?」

「名前はオース・ジークフリート。情報だと大貴族の元軍務司令官。侵略作戦に反対して降格されたみたいだな。今は部屋に閉じ込められてデスクワークに追われる日々らしい」

「あらら、典型的な左遷だね。でもそう言う人がいるのは助かるよ、国の方針に異を唱える人って帝国だと大抵殺されちゃってたりするし」

「それだけ有能だってことかね?」


 扉の前で話していると、扉が開いた。


「部屋の前で話しているのは誰だ? むっ?」


 中から出てきたのは初老間近と言った感じの男性。甲冑は着ておらず、剣も下げていない。一見文官のようにも見えてしまう彼が、ジークフリートなのだろう。

 しかし、腕の部分で服を引き延ばしている筋肉は、ジークフリートが明らかな武官だと言うことを顕著に表していた。


「初めまして。新皇帝のオルトです」

「サポーターのトーカだ」

「いたずらならよそでやってくれ。儂は資料整理が忙しいのだ」


 事実として受け取ってもらえなかった。まあ、十代の二人がいきなり皇帝とその側近だって言っても誰も信じ無いわな。


「あと、いたずらでも皇帝を語るのはよせ。反逆罪で処刑されるぞ」

「その心配はないですよ。オウガ五世皇帝陛下はすでに亡くなっていますから」

「なに?」


 部屋にもどろうとしたジークフリートは、その言葉に足を止めて振り返る。


「儂は皇帝に意見してこの部屋に閉じ込められた。しかしそのような事を言われては、放っておくわけにはいかんぞ」

「意外と忠義心はあったのかな? けど事実だから仕方がないですよ。信じられないようならそこら辺のメイドにでも聞いてください。一応帝都にはすでにお触れを出してありますから、すぐに確認はとれます。とりあえず今はここまでにしておきましょうか、押し問答しても意味がありませんからね。事実が分かったら皇帝の執務室に来てください。兵士には話を通しておきます」


 オルトはそれだけ言って扉の前から歩き始める。

 俺は、軽くジークフリートに手を振って、オルトの後に続いた。


 執務室で紅茶を飲んでいると、部屋がノックされる。


「陛下、オース殿がお見えになりました」

「うん、通して」

「失礼します」


 先ほどとはうって変わって、丁寧な言葉づかいでジークフリートが入って来た。そしてその場ですぐに頭を下げる。


「先ほどは大変失礼いたしました」

「いいよ、だいたい状況は把握できた?」

「はい。メイドや騎士から事の顛末は把握しております」

「なら話は早いね。ジークフリートには軍務司令官に戻ってもらいたい。侵略を拒む考え方は、僕と一致するからね」

「分かりました。喜んで受けさせていただきます」


 こうして、オルト政権に必要な人物を一人ずつ集めて行った。


 全ての役職に誰かを配置するのに二日もかかった。前皇帝に意見した者は大抵が遠くの地方に飛ばされていたり、殺されていたりして、城内には俺達に従ってくれると言う大臣クラスが殆どいなかったのだ。そのため、城下町にある下級貴族なんかも調べ出し、自分達の考えに同調できそうなメンバーを集めて行ったのだ。


 三日目。謁見の間に新生ギンバイ帝国首脳部が一同に会した。その面々ははっきりと分かるほど若い。まあ、今までの貴族たちは大抵が前皇帝のやり方に賛同する連中ばっかりだったから、大抵の連中は帝都から出て行ってしまった。しっかり私財も持ち出したから、ちゃっかりした連中だ。

 そして今ここに集まっている者の大半が下級貴族より選出された者達だ。下級貴族は皇帝と関わることが少なく、大貴族からも馬鹿にされていたため、意外と帝国の体制に不満を持っていた。

 おかげでこうして何とかメンバーを集めることが出来たのだが、これ大丈夫か? 俺が提案しておいてなんだけど、ほとんどの連中が政治素人って……


「じゃあまずは挨拶させてもらうよ」


 勇者が玉座から立ち上がる。


「新たに皇帝になったオルトだ。みんなは極星の勇者って言った方が分かりやすいかもね。僕を蘇生させて兵器にしようとした前皇帝を殺したのは僕だ。そして帝国の様式に則って正式に皇帝になった。今後は僕が皇帝として帝国の政治を担っていくからよろしくね」


 オルトの挨拶に、全員がうやうやしく頭を下げた。


「じゃあ初顔合わせの人も結構いると思うから、ここで自己紹介をしていこうか」


 そうして、全員が一通り自己紹介をしていく。案の定、ほとんどの者が社交界にすら慣れていない下級貴族だ。自己紹介でも緊張のせいで噛み噛みだったり、必要な情報を言われるまで喋らなかったりとグダグダだった。


「んじゃ最後に俺だな。俺は冒険者の漆桃花だ。しばらく帝国が荒れるだろうから、その間その辺りの鎮圧を担当するぜ。政治自体には関わらないつもりだからよろしく。あと俺が言うこと聞くのはオルトだけだからな。俺を動かしたきゃ先にオルトに言ってくれ」

「それ動く気ないってことでしょ……まあ、とにかくこのメンバーで今後の帝国を動かしていく。慣れないこともあるだろうけど、その時は年上に素直に頼って行こう。幸いここには前重鎮の方もいるしね」


 そう言ってオルトはジークフリートを見る。それに合わせて全員の視線がそちらに向いた。

 視線を集められたジークフリートは、少し困ったように頬を掻きながらも、最大限の努力はすると言ってくれた。

 まあ、なんとかなるだろう。


「じゃあ、今後の方針を発表しようか」


 そうして会議は本格的な内容に入っていった。




 新生帝国ができてから一週間。その情報は偵察部隊によってもたらされた。


「なるほど、各町から義勇軍ねぇ。名目は賊に乗っ取られた帝都の奪還か。まあ名目としては妥当だよね。前皇帝もおんなじ事して今の帝国作ったんだけど、やっぱり殺害して継承って無理があるよね」

「とりあえずその仕来りは今後変えるとして、相手の数は?」


 俺が聞くと、オルトは俺にその資料を渡してきた。

 それを読んで、相手の規模を把握する。なるほど、シグルドの予想していた通り、なかなかの大規模だ。

 数は七万以上。各町から最低でも一万行くか行かないかは出兵している訳だ。けど、この帝都でも、男手だけで一万となると、町の三分の一ぐらいの人数はいる。これは下手すると女子供も動員している可能性が高い。

 そうなると、こっちの兵士たちと戦わせるのはちと酷だな。


「俺が出るか」

「僕もいくよ。力を見せつけるつもりなんでしょ? それなら威力は大きい方が良いしね」

「了解。こっちに到着するのはだいたい一か月後か」

「普通の軍の移動なら一か月もかからないはずだけどね。民間人が多い証拠だ」

「戦わずに済ませたいところだな。後は孤児院の設置を急がせないと」

「それはすでに手配済み。とりあえず帝都だけで十軒建てるように言ってある。他の町も貴族を黙らせたら順次設立していくよ」


 オルトはさっそく俺の復讐のための下地を作ってくれているらしい。なんともありがたいことだ。

 意外と今のメンバーも有能な者が多いらしく、問題なく政治は運営されている。


「ならあいつらが来るまでは、こっちの整備だな」

「そう言うこと」


 オルトは伝令を持ってきた兵士に、防衛のための準備をするように伝え退室させた。

 そして俺たちは、どんな方法が一番相手の威嚇できるかというのを考え、作戦を練って行った。




 自称義勇軍は予定より一週間ほど遅れて到着した。

 その数は当初よりかなり減って五万五千。どうやらここまで歩いてくることが出来なかった民間人がかなりの数出たらしい。

 まあ、普通は馬車かなんか使って自分のペースで町間は移動するもんだからな。訓練も受けていない民間人が進軍のマネ事をしたって上手く行くはずも無いか。


「トーカ、防衛は帝都外壁の上からやるよ。中に入れる訳にはいかないからね」

「了解。防衛部隊の展開はどうするんだ?」

「一応外門の内側に待機させてる。けど必要ないんじゃないかな?」

「そうだろうな」


 相手は民兵。それも統率なんて有って無いようなものだ。強力無慈悲な一撃を見れば、すぐに腰が竦むだろう。

 攻撃されても平気で突撃できるのは訓練されているからなのだ。普通の神経では、攻撃してくるのにそこに向かって飛び込むなんてことは出来ない。


「じゃあとりあえず降伏勧告しておこうか」

「ほいほい、風で届けさせるぞ。月示せ、声の風。サウンドオーバー」


 相手の軍は大声を出せば何とか聞こえるという距離まで近づいてきている。しかし門がしまっていて入れない状況だ。

 投石器なども用意はしてあるみたいだが、まだ後方に下げられている。上から破壊されることを警戒してるんだろうな。

 俺が手で合図をだし、声を拡大させる魔法を使用したことを伝えると、オルトが頷いて近づいてくる兵士達に向かって声を掛けた。


「みなさん初めまして。新皇帝オルトです。僕たちは、出来ることなら民間人であるあなたたちとは戦いたくないと考えています。もし領主の命令で強引に連れて来られているのなら、攻撃の姿勢を見せないでください。我々は敵対意思の無い者に攻撃を仕掛けることはしません」

「黙れ逆賊! 陛下の命を奪っておいて、何が殺したくないだ! 我々は陛下の意思を継ぎ、逆賊を打ち帝国を我らの手に取り戻す!」


 オルトの演説をぶった切って大声で怒鳴って来たのは、謁見の間にいた重鎮の一人だった。スゲーデケェ声。

どうやら早々に近くの町に逃げて、そこで領主と足並みを合わせたらしい。

 どうせ領主にも、自分が皇帝になって、優遇してやるとでも言われたのだろう。勇者に対して軍を出すなんて馬鹿な事やるような奴だし、実際馬鹿なんだろう。

 そう考えると、意外と下級貴族にデキる奴らがいて良かった。あんな馬鹿ばっかりだったら、帝国は終わってた。


「もう一度言うよ。領主や官僚のことは放っておいて構わない。どうせ彼らには遠征軍を出した時点で死罪が決まってるからね。でも君たち民間人は違う。強制されただけの民間人を僕は手に掛けたくない。今逃げられるのならば逃げればいい。けど兵士達に囲まれている今の状況じゃ、それは難しいよね。だから戦う意思は見せないでね。後、これ以上近づいたら攻撃開始するから、領主たちも良く考えて指示を出すように」


 オルトがもういいと合図を送って来たので、魔法を消す。


「さて、どうなるかな」

「民間人は悩むだろうな。その場で逃げれば殺されるだろうし、かといって向かって来ても殺される。戦う意思を見せないなんて、曖昧な所で判断は難しい」

「でも悩んでくれれば十分だ。その悩みが逃走への切っ掛けになることもある」

「そうだな」


 そしてゆっくりと自称義勇軍が前進を開始する。

 それに合わせて、俺たちは一度頷き合い、先頭に狙いを定めて詠唱を開始する。


「月示せ、雷帝の怒り。サンダーボルト!」

「二極の星よ、極寒の嵐を起こせ。アイステンペスト!」


 直後、進軍する兵士達の目の前に激しい音を鳴り響かせて、巨大な雷が落ちた。それは地面を大きく抉り、周囲の兵士達の鎧へと感電する。

 文字通り青天の霹靂に、民兵たちは驚き進軍を止める。そして落雷の近くにいた兵士達は、感電のせいでその場に崩れ落ちた。

 続くように周囲の地面に霜が降りる。そして強風が吹き荒れ始め、霜を巻き上げ兵士達の体を急速に冷やしていった。

 自然現象ではありえないことの連続に、兵士達はそれが魔法による攻撃だとすぐに気付いたのだろう。

 慌てだし、すぐに盾を構える。しかしそんなものでどうにかなるほど俺達の魔法は甘くない。

 立て続けに落ちる雷と、収まることない霜の混じった強風に、民兵たちが立ち向かえるはずも無い。

 今民兵たちの心の中は恐怖で埋め尽くされているだろう。そして頭の中ではさっきのオルトの言葉が繰り返されているはずだ。

「逃げれるなら逃げればいい」と

 しばらくは動かなかったが、一人、また一人と武器を捨て部隊から離れて逃げ出す。それに呼応された民兵たちが次々に逃げ出し始めた。

 指揮をする立場の者たちは、必死に声を上げ民兵が逃げ出すのを抑えようとする。しかし止まる様子のない逃走に、指揮官は兵士に命じて民兵の逃走する先を防がせようとする。だが、数が圧倒的に違った。パッと見たところ、兵士一人に対して、民兵はだいたい十人程度。ざっと十倍近い差があるのに、止めることなどできるはずがない。

 みるみるうちに部隊の編制は崩壊し、残ったのは正規の兵士達と極僅かの傭兵だった。

 そこまで来れば、すでに勝負はついたような物だろう。

 オルトは近くに待機していた伝令に、門を開け反逆軍に攻撃を仕掛けるよう命じた。

 少しして門が開き、こちらの兵士が突撃を開始した時、すでに義勇軍の兵士達に士気は残されていなかった。

 まあ、あんな魔法を初っぱなから見せられちゃ、士気も無くなるよな。あの魔法が自分達に降ってくるかもしれないんだから。


「これで第二段階終了だな」

「そうだね。これからは帝国全土の平定だ。忙しくなるね」


 これで俺の主な仕事はひと段落したことになる。後は政治の問題だからオルトが決めることだ。今後の俺の仕事は、各地で起こるだろう小さな反乱に対処することだ。それは逆に今までのように城でのんびりしていられなくなると言うことだ。

 真っ赤な月が見下ろす空の下で、俺はフィーナとフランが恋しくなった。


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