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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ギンバイ帝国・極星編
145/151

144話

「行くのですよ!」


 威勢のいい声と共に、木剣が振り下ろされる。それを同じように木剣で受け止めながら、俺は力を込めて押し返した。


「本気で来ないと一瞬だぞ?」

「なら本気なのです!」


 次の瞬間、シスは両手に持った木剣で俺に切りかかってくる。

 右から振り下ろされる剣は体を捩じって躱し、左から横なぎに振るわれた剣はしっかりと受け止める。

 そして突き出された右手の剣に対して俺は蹴りを合わせ上空へと弾き飛ばした。


「すごすぎるのです! これは良いのですよ!」


 シスは弾き飛ばされた木剣を見向きもせず、左手の木剣を即座に両手でつかみ、俺に振り下ろす。

 そこで俺は疑問を持った。木剣の軌道が俺に当たらないのだ。

 俺の動体視力で見る木剣の軌道は、俺の体の前面を空振りするような軌道だ。

 実際、俺が一歩も動かなければ、木剣は目の前を通り過ぎ、緩い風が俺の顔に当たる。

 その風に一瞬目を閉じた。ほんの瞬き程度の瞬間だ。

 しかし再び目を開いたとき、シスの姿は正面から消えていた。驚きながらも、俺は視界の隅に動く影を見つける。それは俺の足もとだ。

 シスは振り下ろした動きをそのままスライディングにつなげていた。

 見事に俺の股を潜ったシスは、起き上がりながら斬り上げるように木剣を振るう。

 とっさに体を反転させ、その斬り上げを木剣で受け止めた。


「この技を止められたのは初めてなのですよ!」

「そりゃ、そんな動きされたら誰だって驚くわ」


 そもそも、目の前をかすめる剣の軌道など、反応しない方が珍しいのだ。何らかの形で剣を置くなり、体を動かすなりして躱そうとしてしまう。

 その隙に股や体の横を通り過ぎて後ろから斬る技なのだろう。

 俺は運よく視界の隅にシスの姿を見つけたが、もし見つけられなければ俺も斬られていた。


「けどまだ止まらないのですよ!」


 そう言ってシスが左手を剣から離す。どういう理由かは知らないが、そのタイミングは俺の好機だ。

 力を込めてシスの体を押し返そうとする。

 その力にシスは抗うことなく、剣を自分の体へと引き寄せ受け流す。おかげで俺とシスの体が密着状態と言えるほどまで近づいてしまった。

 この状態なら、俺は拳なり蹴りなりでいくらでも対策出来る。なので、シスの出方を見てみることにすると、シスがニヤリと笑った。

 その笑顔に嫌な予感がする。

 次の瞬間、俺の頭上へと先ほど俺が蹴り上げた木剣が降ってきた。


「あぶねっ」


 とっさに飛び退いてその木剣を躱せば、シスはまるで落ちる場所が分かっていたかのように、木剣を空いた左手で掴み構えなおす。

 どうやら俺は、シスに誘導されていたようだ。


「よく今のに気付きましたね! 師匠なら脳天にくらってたですよ!」

「こら! 私でも躱したぞ!」


 シスの言葉に、外野で俺達の練習風景を見ていたリリウムが文句を飛ばしてくる。確かにリリウムならエアーマントとかで木剣の軌道を見切って躱しただろうな。けど今魔法禁止の訓練だし、意外と直撃したかも。

 そんなことを思いながら、仕切り直しにしようとすると、フィーナが訓練場の扉からやってきた。


「みなさん、お弁当作ってきましたよ。お昼にしませんか?」

「良し、飯だ」

「ちょっと待つのですよ! まだ試合は終わってないのです!」

「なら終わらせる!」


 俺は全力で踏み込み、シスの横を抜け背後へと移動する。そして足を払い肩を引っ張ることで、シスの地面へと倒した。


「あうっ」

「俺の勝ちな」

「そんな馬鹿ななのですよ!」


 完全に追い切れなかっただろう俺の動きに、シスは倒れたまま頭を抱える。


「シス諦めろ。こいつはそういうやつだ」

「むちゃくちゃなのです!」


 リリウムがシスの下に寄ってきて引っ張り起こしながら何か言っているが、そんなことはどうでもいい。それよりフィーナの昼飯だ!


 ユズリハに戻って来てから十日ほど。その間俺はのんびりと過ごしていた。

 今日のようにシスの訓練に付き合ったり、ミルファとの約束を守るためフランやフィーナと一緒に町を散策したり、リリウムの家でティータイムとは思えないほど豪華なお菓子やお茶と共に優雅なひと時を過ごしたりしている。

 そして今日の午後ももちろん予定が入っている。

 今日の午後にはパーティーがあるのだ。しかも店を一軒貸し切っての盛大なパーティーだ。

 フィーナの作って来たサンドイッチをほおばりながら、俺は午後のことを聞く。


「午後のパーティーはリリウムやシスも参加するんだよな?」

「ああ、招待状を貰ったからな。行かない訳がない。同伴者も一名まで有効ということだから、シスも問題ないしな」

「パーティーって何するところなのですか? 戦ったりできるのですかね?」

「そんな訳あるか」


 シスが見当違いな発想をしてリリウムに小突かれる。

 パーティーを一言で説明するなら何がいいか。そう考え一つ思い浮かんだ。


「リリウムの家でやったお茶会だな。あれをもっと賑やかにしたもんだな」

「おお! じゃあご飯が出るのですね!」

「おう、料理屋貸し切りって話だからな」


 俺とフィーナにもその招待状は届いていた。

 差出人はマナとカナ。あの二人が料理屋を貸し切って、盛大にパーティーをしようと誘って来たのだ。

 それはデイゴで別れるときにした約束だった。

 あれから二人にはまだ会っていない。もともと彼女たちの家はキクリにあるし、会いに行く機会も無かったからな。そしてマナのタレを輸入している串焼き屋の屋台も、もう畳んでしまったのか移動してしまったのか無くなっていた。そのせいで二人の情報が全く入ってこなかったのだ。


「いったいなんのパーティーなんだろうな?」

「デイゴで話していた時のことなら、トーカの闘技大会優勝祝いじゃないんですか?」

「けどそれならリリウムやフィーナだってそうだろ。それに、あの時の約束は、マナカナの店ができたら遊びに行くって話だったし」

「最近おめでたいことが多いですからね」


 町自体も戦勝ムードで非常に盛り上がっているのだ。それは戦争が終わって半月は経っている今でも一向に収まる所を知らない。

 いたる所で戦勝セールが行われ、トーラン砦での攻防を吟遊詩人が酒場で歌っていたりする。

 極星対狂呀なんて呼び方でピックアップされてたりする唄もあるもんだから、聞いてるこっちは恥ずかしいったらありゃしない。事実だけを歌ってくれるんならそうでも無いんだろうけど、スゲー脚色されてるからな。

 俺なんか、歌の中じゃ金髪碧眼で、白銀の鎧を纏った高潔な騎士ってことになっているし、勇者は悪魔に魂を封じられた哀れな存在ってことになってる。

 勇者の方はあながち間違ってないけど、俺の方の白銀の騎士ってなんだよ。武器は大鎌だし、服も結構黒多いぞ。


「とにかく行けば分かるだろう。かなりの数の招待状が出されているようだし、大人数が集まるんじゃないか?」

「そうなのか?」

「噂ではな。ユズリハでトーカに関わった人物が、かなりピックアップされているのではないかと言われている」

「そんなのどこで言われてんだよ」

「王宮だな」

「は?」


 ここでは聞くはずのない名前が出てきた。


「王宮だ。王族の方々にも招待状は出されていたらしい。さすがに王族の方の参加は難しいだろうがな」


 警備の面からしてもそれは無理だろ。それにしてもマナとカナはどれだけの人に招待状出してんだ? まさか本当にかたっぱしから出してるわけじゃないよな?

 少し不安になりながら、俺達の昼はゆっくりと過ぎて行った。


 夕方。俺達四人にフランを合わせた五人で招待状の指定した店へと足を運ぶ。

 そこは中央通からは一本外れているが、人通りはほどほどにある道だ。そこに目的の店は合った。

 周りの家と同じように木造と石で組まれたその家屋からは、明るい声が漏れ聞こえている。

 入口はウエスタンで出て来るような両開きのドア。その頭上には小さな看板が掛けられていた。

 そこに書かれている名前は「食堂、フェアリーズ」

 俺は扉を押して中へと入る。


『こんばんは』

「いらっしゃいませ! キッチンフェアリーズにようこそ!」


 その声は俺の知っている声だ。てかマナだろ。なんでマナが店で受付やってんだ?


「やっと来たね! みんな集まってるよ!」

「お、おう。なんでマナが接客やってんの?」

「なんでって、ここ私のお店だもん」


 そう言ってマナは胸を張る。


「マジで!?」

「うん! 闘技大会の賞金で、王都にお店を出すことにしたんだ! キクリでもいいと思ってたんだけど、どうせお金があるなら、もっといろんな人に私の料理を食べてもらいたいなって思ってね」


 招待された店は、なんとマナのお店でした。なるほど、だから貸し切りなんてことができたのか。

 さすがに、王都の夕方の時間帯ともなれば、客は多い。それなのに貸し切りにできるなんて、相当な額が無けりゃ無理だもんな。

 マナたちなら賞金で出来るだろうけど、それは店を開くための大事な資金だったんだし、使う訳ないと思ってたが、まさかこんな方法があったとは。


「フィーナさんも久しぶり! さあみんな入って入って」


 マナに案内されるまま、俺たちは店の中へと入っていく。

 そこには懐かしい顔が大勢いた。キクリのギルドに努めている受付のサリナさんにハルちゃん。王都へ移動するときに一緒に依頼を受けたチームスグリのメンバーたち。

 王都の住人では、王都ギルドにいるナージュにギルドの食堂で働いているシャイナとラミナ。チームハイドランジアの三人もいる。

 当然のようにカラリスもバスカールもいた。

 そして驚いたことにその中にミルファとクーラの姿もあった。王族がこんな所に来て大丈夫なのかよと言いたいが、まあ大丈夫なのだろう。いつも自由に城下町歩いてるし。

 彼らは、俺が入って来たのに気付くと、会話を止めてこっちにやってくる。

 本当に久しぶりの顔ばっかりだな。


「なんか久しぶりだな」

「個人個人のお話は後々! 今はパーティーを始めるよ!」


 簡易に作られたお立ち台の上に乗って、マナが声を上げる。

 マナの声に合わせて、従業員なのだろう人たちが、テーブルに次々と料理を運び始めた。その中には当然カナも、そして屋台で串焼きを売っていた青年の姿もあった。

 どうやら屋台を畳んだのは、ここで働き始めたかららしい。

 そして机に料理が並び、それぞれの手にお酒やジュースが握られるのを確認して、マナが口を開く。


「みなさん今日は私の招待状に集まっていただいてありがとうございます! 今日のパーティーは、トーカさんのA+昇格だったり、ユズリハの戦勝祝いだったり、とにかくめでたい事をめいっぱいお祝いしようと言う企画です! 懐かしい顔で談笑するもよし、新しい知り合いを見つけるもよし、今夜は精一杯楽しんで行ってください!」


 みんなから拍手をされ、嬉しそうに頭を下げるマナ。そして俺と目が合った。


「それじゃあ、今回のメインゲストであるトーカさんから一言いただきましょう!」

「うおっ!? マジか!?」

「トーカ、早く早く」


 俺はフィーナに背中を押されながら、マナの下へ行き、お立ち台へと乗せられる。

 全員の視線が俺に集中した。

 なんか奇異の目で見られるのには慣れてるけど、こういう視線は苦手だ。スゲー恥ずかしい。


「あー、今日は招待ありがとう。何かいろんなことを祝うってことだから、精一杯楽しもうと思う!」


 とりあえず話始めたが、何を話せばいいのか分からん。助けを求めるように料理の配膳を終えたカナを見れば、「質問されそうなことを先に行っておけば」と言われた。

 なので、それを予想して言っておこう。


「とりあえず今まではデイゴやカランを回って旅をしてた。その間に出来た家族を紹介するな」


 そう言ってフィーナとフランを呼び寄せる。


「彼女のフィーナと娘のフランだ」


 俺の紹介に合わせて、フィーナがお辞儀をすると、フランもそれを真似してぺこりと頭を下げた。

 俺の紹介にか、はたまたフランの可愛さにか、男性陣からは口笛が飛び、女性陣からは歓声にも似た悲鳴が上がる。


「しばらくしたら、どこかに腰を落ち着けるのもいいかと思ってる。その時はよろしくな」


 それだけ言って、俺はフィーナ達と共にお立ち台から降りる。

 すると再びマナがお立ち台へと上がった。


「じゃあ、パーティーの開始にはやっぱりこれだよね。みんな、トーカさんとの再会を祝って! カンパーイ!」

『カンパーイ!』


 そうして楽しいパーティーは始まった。


 開始直後こそ質問攻めに合ったが、その後は何とか落ち着きを取り戻し、俺も少しは料理に手を出せるレベルまで周囲の視線は分散した。

 そこでフィーナやフランと共に、テーブルの上に並べられた色とりどりの料理を適当に取って食べながら、みんなのことを少し観察する。

 チームスグリやチームハイドランジアは、リリウムやシスと共に談笑していた。スグリのメンバーなどは、ほぼ全員が格上の相手と言うことで、かなり緊張しているようだが、ハイドランジアのメンバーもリリウムも気さくな連中ばかりなため、楽しめているようだ。

 シスはどうせ片っ端から訓練に誘っているのだろう。

 そしてその右手のテーブルには、ギルド受付や給仕などのギルドメンバーが集まっている。

 王都とキクリではなかなか会う機会も無いし、貴重な情報交換の場ってやつだな。そしてなぜかそこにミルファが混じっている。

 比率的に、そこは女性陣が集まりやすいし、ミルファも居やすいのだろう。クーラはそんなミルファの為に料理や飲み物を運んでいる。今日は招待されてきているのに、とことんメイド根性が染みついているようだ。

 そして、バスカールとカラリスは、マナカナと話していた。聞いていると、食堂に適した魔法回路の道具を作るとかなんとか。

 また新製品の発明でも考えているのだろう。

 武器を作るよりも、生活に役立つ物を作った方が、二人に対する近隣住民の評価も上がるだろうしちょうどいいかもな。カラリスもよく家の工房で爆破騒ぎを起こして迷惑かけてるらしいし、この機会に少しは役立つ発明でもしておいた方が良いだろうしな。


 そしてそんな観察をしていた俺達の下へ、女性が酔っているのかトコトコと少しおぼつかない足取りでやってくる。

 それは、ギルドの食堂で働いているシャイナだった。


「トーカさん! お礼が遅くなったのですが、サインありがとうございます! あれは家宝になりますよ!」

「そう言えばちゃんと受け取ってもらえたんだな。よかったよかった」


 王都から旅立つときに、サリナに渡すように頼んでおいたサインは、無事にシャイナの下へ届いたらしい。

 シャイナも俺が将来大物になると読んでたんだから、凄い目利きだよな。


「ギルドの皆に自慢しまくりですよ! おかげでセクハラまがいのタッチ数も減ったのです」

「そうなのか? てかまだ全部躱してるんだよな?」

「それは当然ですよ。私の体はそこら辺の冒険者には指一本触れさせませんからね。あ、でもトーカさんなら――」

「それ以上は、私の目の青いうちはダメですよ~」


 俺を誘惑しようとしたシャイナを、フィーナがすかさずブロックする。

 その迫力に、シャイナもすぐさま下がった。


「じょ、冗談ですよ。私の体は、愛する人のためだけにありますからね」

「そんな相手がいるのか?」

「現在捜索中です」

「頑張れよ」

「これが持つ者の強みと言うものですか。言葉がしみますね」


 シャイナは、胸を抑えながら、とぼとぼと受付員メンバーの下へと戻って行った。


「トーカは色々なところで好かれますね」


 フィーナがちょっと拗ねたように頬を膨らませてサラダを食べる。


「ぱぱモテモテ?」

「まあ俺だからな」


 俺はフランの頭を撫でながら、胸を張る。


「けど一番は二人だからな」

「一ばんなのに二人いるの?」

「同率一位だ。どっちも大切だからな」

「私もパパ大好き」

「おう、ありがとうな、わが娘よ」


 フランを抱き上げて頬ずりしてやった。まだ髭は生えてないからちくちくはしないぞ。娘に嫌われる年じゃないからな。

 ついでに拗ねているフィーナも軽く抱き寄せておく。


「もう、こんな人が多いところで」

「恋人アピールは重要だろ?」


 こうすりゃ、変な誘いも無くなるだろうしな。フィーナが拗ねることも少なくなるだろう。

 その姿に、再び冒険者メンバーから口笛が上がったが、俺はそこに向かってサムズアップし余裕を見せておいた。


 その後もなんだかんだと賑やかに過ごし、あっという間に時間は過ぎる。すでに周りの店は閉店し、灯りをこぼしているのはこの店のみとなってしまう。

 それを外に出て確認した俺は、楽しい時間はこんなにも早く過ぎるのかと思う。


 そこにテレパシーが飛んできた。


 そのタイミングにうんざりする。

 まあ、そろそろ来るころだろうとは思っていたが、何もこのタイミングで来なくてもいいだろうに。

 がっくりと肩を落としながら、俺はその通信に出た。


「はいはい、こちらトーカ様だ」

『なんだかご機嫌斜め?』

「ゲームの最中に親に電源抜かれた気分だな」

『最悪だね……まあ、最新情報だよ。あと五日で僕の支配は完全に解ける』

「ほうほう」

『その場所は帝都。それも謁見中に合わせて解こうと思うんだ』

「皇帝の目の前でか。ってことはそのまま暴れるのか?」

『生を冒瀆した罪は、死を持って償わないとね』


 謁見に合わせて支配を解く。そうなれば勇者の本来の力が解放され、目の前の皇帝なんて簡単にひねりつぶせるだろう。

 その後どうするか分からないが、前言っていたことを考えれば、たぶん帝国の首脳部を根絶やしにして、ギンバイ帝国自体を滅ぼすだろうな。それが蘇生させたことへの復讐にするみたいだし。

 けど、そうなると俺はちょっと困る。

 俺の復讐計画には、帝国の存続は重要なのだ。


「ってことは、俺はお役御免か?」

『できれば僕の支配解放に合わせて強襲して欲しいんだよね。桃花の力はしっかり分かってるし、僕たちの力を合わせれば、帝国を滅ぼすのに三日もかからないだろうし』


 確かに頭を叩いて、周りの細かいのを潰せば簡単に帝国は落ちるだろうな。頭脳がなくなれば国は存続できないだろうし、地方領主がすぐに反乱を起こすだろう。

 カランがまさしくそれをやられそうになったからな。その危険性はよく分かる。

 けど俺はその意見を否定した。


「悪いが俺は反対だ。そっちに行くのは賛成だけど、俺は別の復讐を提案するぜ」

『別の復讐?』

「オルト、お前皇帝やれ」

『…………は?』

「だから、お前が次期皇帝やるんだよ。んで、周辺領主ごとガッチリ監視すんの。長い間生きてんだから、それぐらいの知識はあるだろ?」

『え? まあ、できなくはないけど』


 それでもオルトは乗り気じゃないみたいだ。けど、俺としてはこの案を押し通したい。

 俺の復讐は帝国を完璧に改変することだ。周りの国に迷惑かけた分、それを償ってもらわないと意味が無い。今帝国がつぶれれば、中身は内乱でぐちゃぐちゃになるだろう。そうなれば、これまでの帝国がやってきた村潰しや侵略の責任はだれが取る? 皇帝一人が死んでチャラなんかにはさせない。

 その為には、オルトが皇帝になるのがベストだ。力もあり、能力もある。そんな奴には領主も逆らえない。その力を利用して、領主に賠償金を払わせ、力を削ぎ、戦争なんてさせる余裕をなくす。

 そうすることで、帝国を平和な国に変えてしまう。勇者が皇帝になれば、次の代も変なことは出来ないだろうしな。蘇生した相手に国を乗っ取られるとか洒落にならんし。


「お前の書いた勇者の伝説ってのは読んだ。冒険して、説得して、ハーレム作って大分楽しんだみたいじゃないか。けど、まだ国政は手付かずだったよな? なら次はそれをやってみたらどうだって話さ」

『なるほど。僕もまた安穏と生きるのはどうしようかと思ってたし、それも面白いかもしれないね』


 勇者は俺の案に乗って来た。

 そこで俺は、さらにたたみかける。


「蘇生して操ったはずの勇者に、国を乗っ取られたとなれば、その皇帝は一生馬鹿にされるよな? なんだったら墓を作って、馬鹿って書いてやればいいんだし。それができるのは次期皇帝だけだろ?」

『オーケー、その提案に乗ろうじゃないか!』


 勇者陥落。ちょろいな。


「なら五日後に、帝都の城、謁見の間で会おう」

『あ、そうだ。謁見の間にはさ、天井にステンドグラスが張ってあるんだよ。当日はそこから飛び込んできてくれない?』

「お前がぶち破った穴か? いいね、恐怖心を刻み込んでやろうぜ」

『じゃあ五日後に』

「おう」


 オルトとの連絡を終え、俺は店に戻る。

 戻ってきた俺に気付いたフィーナがすかさず俺に近づいてきた。


「何かあったんですか? 嬉しそうですよ?」

「ああ、ちょっとな。最高の展開になりそうだ」


 俺はにやにやと笑みを浮かべながら、パーティーを全力で満喫した。


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