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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国キクリ編
14/151

13話

 2時間後、そこにはテーブルに突っ伏すリリウムの姿があった。頭からは湯気が出ているような錯覚を覚えさせる。

 さすがに一気に詰め込みすぎたかも知んない。

 小学校6年で勉強する内容を2時間に詰め込んだからな!

 リリウムの物分りが案外良いから、すらすら教えてしまった。


「大丈夫か?」

「大丈夫だ……ただ、今までの常識がことごとく破壊されると少しな……」

「あー、それはまあ慣れろ」


 理科とか化学なんてこの世界の住人には未知の領域だからな。だが、強引な詰め込みのおかげもあって、リリウムは集音の魔法を使えるようになった。


「だが、これで情報収集が楽になる。うまく使えばタダで宿屋の情報を手に入れられるんだからな」

「そういう所じゃ、あんま使わない方が良いと思うけどな」


 リリウムの言葉に俺は否定的に返す。


「何でだ? これを使えばいろいろ便利だと思うんだが」


 確かに便利だ。秘密にしておきたい情報が簡単に手に入るんだから。犯罪でも、儲け話でも、誰かの秘密でも容易に手に入る。だが逆に言えば――


「便利すぎるんだよ。密談している内容をこっちが聞ければそれだけ有利なことは間違いないが、相手は密談している前提で動いている。ならこっちがその情報を知っていた場合相手はどう思う?」

「……密談を聞かれた。もしくは誰かが漏らした……か」


 自分の言葉にハッとしたように顔を上げる。

 気付いたか。


「そういうこと。その漏らした相手とつながりを持っているのは、情報を知ってる俺らってことになる。漏らした人間が見つからない場合、情報を知っている本人を消すように動くことになるはずだ」


 そもそも情報を漏らした人物などいないのだ。ならば確実にこちらを狙ってくる。そんな危険なリスクを背負っても欲しい情報ならばいいが、簡単な儲け話程度情報で狙われるのは割に合わない。


「なるほど。知りすぎるのも問題か」

「知ってても良いけど、それで常に自分が有利になるようには行動しないのがベストだな。まあ理解はしてても感情じゃ難しいし、やっぱ知らないのが一番だよ」

「そのようだな」

「さて、リリウムが魔法を使えるようになったことだし、そろそろ俺の頼みを聞いてもらいたいね」

「ん? なんだ?」

「無属性の魔法で、覚えておいて損のない魔法ってのがあれば教えて欲しい。俺は魔法に関してはまるっきり素人だ。無属性も知っているものは教習本に乗ってたライトとムーブの2つしかない。これから旅をするにしても、便利な魔法は覚えておいて損は無いからな」

「なるほど、構わないぞ。そうだな、無属性で持っていても損のない魔法はだいたい限られているし、トーカの理解力なら今日中にでも覚えられるだろう。マンドラゴラを探しながら練習してみても良いかもしれないな」

「そりゃ助かる。さっそく頼むよ」


 今度は俺がリリウムに魔法を教わりながら、夜は更けていった。




 うっすらと覚醒していく意識の中、鳥の鳴く声が聞こえる。


「俺は……」


 カーテンの隙間から差し込む朝の光に目を細めた。


「ふわぁぁぁあああ、ああ、もう朝か」


 窓の外では完全に日が昇り、僅かに外の喧騒が聞こえてくる。

 どうやら昨日、魔法を習いながらそのまま寝落ちしてしまったらしい。

 と、そこまで思い出して今自分がどこにいるか思い出した。

 ってかやべぇ! リリウムの部屋で寝落ちした!?

 急いで起き上り周りを見回す。どうやら俺はソファーで眠ってしまったらしい。


「……ミスった。まさか他人の部屋で寝落ちするとかありえねぇ。てかリリウムも起こしてくれりゃいいのに」


 そういえばリリウムどこ行った? ベッドにはいないし、もちろん目の前のソファーにもいない。トイレか?

 と、その時ドアの開く音が聞こえた。その音に反応して後ろを振り返る。


「お、起きたか。ずいぶんぐっすり眠っていたな」

「ああ、おはようって……」

「ん? どうした?」


 俺が振り返ると、そこにはリリウムがいた。

 そこまでは問題ない。リリウムの部屋なんだから、リリウムがいるのは当然のことだ。

 けどその恰好がよろしくない。


「もう少し恰好どうにかしたらどうだ? 一応俺も男だぜ?」


 リリウムは水浴びをしてきたのか、Tシャツ1枚と言う格好だ。下着ははいてるんだろうけど、Tシャツで隠れて下に何もはいていないように見える。髪もしっとりとぬれ、いつもより6割増しの色気を放っている。

 そこまで無防備な姿をさらせるって、俺は男としてそこまで意識されてないかね?


「ハハ、女の部屋でそこの住人より早く寝る奴には言われたくないな」

「そりゃ悪かったけどよ……」

「まあ、いいじゃないか。冒険者なんてやってれば外で着替えることも川で水浴びをすることもあるんだ。いちいち気にしていたらやっていられない。要は触らせなければいいだけなんだからな」

「なるほど。慣れってのは怖いもんだね。じゃあ俺は部屋に戻るよ。悪かったな」

「気にしないでくれ。起こさなかった私も悪いんだ。ずいぶん気持ちよさそうに眠っていたものでね。思わず見とれてしまったよ」

「恥ずかしいとこ見られた気がするな」

「たまには弱みを見せるのも良いことだと思うぞ? トーカは強すぎるからな。そうでもなければ孤立する」


 その言葉に俺はビクッとなった。

 ――孤立。

 それは俺が子供のころ体験していたものだったからだ。完全に吹っ切ったと思ってたのに、体はその単語に勝手に反応してしまう。

 でも大丈夫だ。神さんだって言ってたじゃないか。半分は化け物だとしても半分は世界最強でいられると。ただの化け物として恐れられ、怖がられ、誰も近づかなくることは無いはずだ。


「……そうだな。じゃ、また朝飯で会おうぜ」

「ああ、また後でな」


 俺は吹っ切るように笑顔を作ってリリウムの部屋を出た。


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