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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
カラン合島国・極星編
135/151

134話

 サミリラに戻ってきた俺は、船が着岸するのを待たずに港へと飛び降りる。


「先に行ってるぞ!」

「こちらも着岸次第すぐに向かいます!」


 ミラノに一言だけ声を掛け、俺は大通りを議会に向けて全力で疾走する。

 幸い民衆に手だしはされていないようで、町は綺麗なままだ。露店などは出たままだが、近くの家や教会に避難しているようで、道に死体や血痕が残っていたりすることはない。

 人のいない道は非常に走りやすく、俺は物の数分で議会へと到着した。

 そこには町とはうって変わって大量の死体が転がっている。しかしよく見ればそれはカラン騎士ではなくギンバイの漆黒の鎧をまとった兵士達だ。

 まだ残って戦っている者たちも、満身創痍と言った様子だった。


「善戦してる? けど議会から火が出てんじゃねぇか!」


 門の付近で戦っているはずなのに、議会からは火の手が上がっている。一度議会内部まで攻め込まれたのだろうか?

 しかし、攻め込まれていた状態からここまで押し返すことなど、普通は不可能だ。

 だがその原因は意外とすぐに見つかった。


「あはははは! 皆殺しですよ!」


 顔や体を返り血で真っ赤に染めながら、狂気にも似た笑みを浮かべ兵士を斬り殺す一人の少女。その動きを見て、押し返せた理由が何となくだが分かった。

 そしてその少女と目が合う。


「敵の援軍ですか? 援軍ですよね? 相手は冒険者も雇っていると聞きましたよ! なら敵で間違いありません。師匠様もカラン騎士以外は敵と思えと言われましたからね。なら殺しても問題ないですよね? そうに決まっています! そうだ、殺そう! あははははは!」

「何この子、怖い!」


 高笑いをあげながら俺に斬りかかってきた少女に対しての第一印象はこれだった。

 いや、正直いままで色々な連中は見て来たし、俺も結構狂ったように戦闘するときはあるから、多少おかしい連中なら問題なく思えるんだけど、この子ヤバいって。なんていうか根本的な狂気具合がぶっ飛んでるんですけど!?

 俺が本能的に恐怖を覚えたのってある意味初めてじゃね!?


 少女の左手から振り下ろされる剣をサイディッシュで受け止め、右手から突き出される剣をグローブでつかむ。

 サイディッシュはまだしも、グローブで受け止められたことに驚いた少女は、一瞬目を見開くも、すぐにその瞳を鋭くし、小さく舌なめずりをした。


「これは強敵です! 私は感じますよ、ビリビリと! この強敵を倒すことで、私はまた新たな高みへと登れるんですね! さあ、今すぐ私の踏み台となるべく屍になってください!」

「今すぐじゃ登れてねぇだろ!」


 高みへ上りたいんなら、極限の戦いをしなさい。一瞬で片付いてたら、それは余裕の勝利です。勉強になんてなりません!


「確かにそうですね! なら精々足掻いてください!」

「どこまでも上から目線だな!」


 さすがにイラッと来た。カランを守ってくれてたっぽいから殺すのは無しにしてやろう。けど、俺を馬鹿にした罪はきっちり払ってもらおうではないか!

 俺は左手を引き、握ったままの剣ごと少女のバランスを崩しにかかる。少女も抵抗を試みるが、俺の力に適うはずも無く体制を崩しかける。しかしすぐに剣を手から離してバランスを崩されるのを避けた。状況判断はなかなか早いみたいだ。

 奪った剣をそのまま投げ捨て、空いた左手で少女に向かってパンチを繰り出す。グローブを付けたままのパンチは、素手で殴るよりかなり痛い。

 というよりも、俺の力でパンチすれば、少女の骨ぐらいなら簡単に砕けてしまうだろう。

 本当なら顔面にくらわせてやりたいところだが、まだ幼い少女の顔に傷をつけるのも悪い。軌道を脇腹に向けて振り抜いた。

 少女は俺のパンチの軌道に気付いたのか、すぐさまバックステップで躱し距離をとる。けどそれは悪手だ。俺のサイディッシュが火を噴くぜ!

 鎌を展開させ魔力を流し込む。強烈な回転が火花を飛ばし、見るものを威圧する。

 それを見た瞬間、少女が少し驚いた。


「その武器はもしかして!?」

「おら! ボーっとしてっとぶっ飛ばすぞ!」


 何か話しかけてきた気がしたが、戦闘中にそんなことをするなどもってのほかだ。それをやっていいのは相手が自分より弱い奴の時だけだぜ!

 突っ立ってボーっとしていた少女の鎧をかすめるように、俺はサイディッシュを振りぬく。鎧をかすめただけにもかかわらず、振り抜かれたその衝撃だけで見た目からして軽いその少女は後方へと大きく吹き飛んだ。


 ぶっ倒れた少女へと近づき状態を確かめる。サイディッシュで付けた傷は鎧だけに刻まれており、少女自身には大した怪我はない。

 痛みに唸ってはいるが、意識はしっかりとあるようだ。なのでちょっと尋ねてみる。


「おい、大丈夫か?」

「そう聞くならそれ以前に止めるべきなのです」

「攻撃してきた奴に情けかけてやっただけでもありがたいと思えよ」


 本当なら殺されても文句は言えないんだぞ?


「この乱戦中に敵味方を見分けるなんて無理なのです。それこそ分かりやすいようにカランの旗でも持って突撃してくるべきなのですよ」

「んなむちゃくちゃな。それよりお前、俺のこと知ってるのか? なんかサイディッシュ見た時驚いてたよな?」


 確かに俺のサイディッシュは初見ならばまず驚く。しかし、こいつの驚き方は少し違う気がした。何と言うか、サイディッシュ自体は知っていて、それが目の前に現れたことに驚いた感じに思えたのだ。

 サイディッシュを知っていた。そうならば、俺のことを知っている可能性もある。ってことは必然的に俺の知り合いの知り合いである可能性があるのだ。


「師匠様から、ぶっ飛んだ男が鎌と斧の付いた武器を振り回してると聞いていたのです。この島に来たのも、師匠様がその人と会うためだったのですよ」

「その師匠様ってもしかして?」

「リリウム・フォートランド師匠なのですよ。まさかこんな風に会うとは思ってもみなかったのです。もっと穏便な会い方で、戦いを教えてもらおうと思ってたのですよ」

「師匠って呼んでるってことは、リリウムが弟子をとったのか。何か探すとは言ってたけどマジで取るとはな」

「ふらっと孤児院にやってきて、サラッと貰われたですよ。ビビッと来たとか意味わかんない事言って、私に剣を教えてきたのです。まあ、私も帝国には復讐したかったのでちょうどよかったなのですがね」


 リリウムは何をやっていたんだろうか。色々聞きたいことはあるが、それよりも今は状況の改善に努めた方が良いかもしれない。

 俺は周囲を見回す。

 ギンバイ兵はあらかたが片づけられ、残りもあとわずか。戦意も喪失しており、ちょっとつつけば投降するんじゃないだろうか? まあ、カランの騎士たちが投降させる気無いみたいだし放っておけばいいか。

 と、思いながら眺めていたら、なぜか俺も取り囲まれていた。


「貴様も雇われた冒険者か!」

「違うぜ」

「ウソをつくな! ならばなぜ我らの味方を攻撃した!」


 まあ味方ってのは間違いなくこの少女だろうな。


「こいつが先に攻撃してきたんだ。こっちは仕方がなく反撃しただけだぜ。てか俺のこと知らない? A+の漆トーカだけど」

「A+?」


 俺の言葉に騎士が一瞬眉を顰め、そしてすぐに気付いたようにハッとする。


「狂呀のトーカ? しかし彼は今ルリー様たちと行動しているはずだ」

「ルリーたちももうこの島にはついてる。もうすぐこっちに来る。俺は機動力があるからな、一足先に来ただけだ。それよりギンバイの兵士はこれで全部なのか?」


 周囲を見回しながら尋ねると、騎士達の包囲の外側から声が聞こえた。


「あと一人だ。ドラグルが議会に侵入してしまった」


 囲いを割って姿を現したのは、隠密筆頭だった。


「ドラグル? A+の?」

「そうだ、あいつはギンバイ帝国に雇われてこの襲撃の初撃を行っている。そのせいで我々では止められず議会内部に侵入されてしまった」

「なら俺はそっちの相手に行った方が良さそうだな。あんたは後から来るルリーたちに状況を説明しといてくれ」

「分かった。議員たちは議会の最深部にいるはずだ。そこにお前の連れも一緒に避難している。騎士に案内させるから、先にそちらに行ってくれ」

「了解」


 筆頭が近くの騎士に俺の案内を頼む。騎士は少し緊張したように敬礼し、俺のもとに駆けよって来た。


「ご案内させていただきます」

「おう、頼むわ」


 騎士が議会へと走りだし、俺もすぐに後を追った。


 走って移動しながら、議会内部の大まかな構造を俺は騎士から教えられた。

 それによれば、議会は地上三階地下三階建になっており、地上の三階が議員用の仮眠や休息をとるための部屋、二階が会議室、一階が事務受付と倉庫、資料室になっており、地上一階から三階までは、通行書さえあれば議会で働いている一般人が入ることが許されている。

 そして同時に一般人が知らない部分が議会には存在する。

 それが地下の階層だ。

 地下一階には重要案件を集めた特別資料室、議会を守るために待機している騎士団の詰所、隠密の休憩所などが設置されており、もし敵に地下への侵入を許してもここで食い止められる構造になっている。そしてそのさらに下、地下二階は本物の迷路になっており、侵入された場合の時間稼ぎができるようになっている。そのため廊下は複雑に入り組み、部屋はほとんどが無人になっていた。そして地下三階。ここには議長室と緊急避難用の部屋、最重要機密の資料保管庫がある。

 そして秘匿されているだけに地下への階段は分かり難い場所に隠してあった。

 元からして議会の一番奥に設置されている地下への階段は、迷路のような廊下を進み、隠し扉のようになっている壁を開けなければ降りることは出来ないらしい。

 そして俺たちは今その隠し扉の前へと到着していた。

 だがその隠し扉は破壊されていた。

 扉自体が元から無かったかのように跡形もなくなくなっている。微妙に煙たく焼け焦げた匂いがするし、ドラグルが爆破して突破したんだろうと予想する。


「地下に侵入されたのか!?」

「こりゃますますヤバくなってきたな」

「すぐに地下へ!」

「おう」


 俺達が地下への階段を降りようとした時、突然目の前が光った。


「なんだ!」


 騎士は光に目を細めながらも、すぐさま剣を抜き構える。

 俺はその後ろで、手で影を作りながら光を見ていた。それは徐々に人型へと形を変えていく。

 そして光が収束し、その場に残ったのは一人の女性だった。

 真っ白な髪は白髪のように色の抜けたものではなく、純白の光沢を放ち、その両目は包帯で隠されている。

 まるで羽衣のようなヒラヒラとした衣装をなびかせながら、女性はにっこりと口元に笑みを浮かべた。


「こんにちは」

「何者!?」

「桃花さんの関係者ですよ。騎士さんはちょっと眠っててくださいね」


 女性はそう言って騎士に向けて手を伸ばす。一瞬光が走ったかと思うと騎士はその場に崩れ落ちた。


「お久しぶりですね、桃花さん」

「俺の知り合いに白髪の奴はいねぇぞ?」


 ばあちゃんも髪の色は紫に染めてたからな。

 警戒しながらも、フランクさを装い話す。今の魔法を見ただけでも、こいつが一般の人間とは別の次元にいることは分かった。なにせ加護に力を借りるはずのこの世界で、詠唱なしで魔法を発動できるものはいない。遅延と言うことも考えられるが、今の現れ方といい、俺の名前の呼び方といい、まずこの世界の人間じゃないと思った方が良いな。俺の同類か?


「ああ、この姿ではあったことがありませんでしたね。ではこんな感じではどうでしょう」


 そう言って再び女性の体が一瞬光る。次の瞬間には、一人の修道女が立っていた。

 両目に包帯を巻き、胸の前で手を組むその姿に俺は見覚えがあった。


「デイゴの情報屋」

「正解です。まだ他の姿もありますよ」


 そう言って女性はその姿をさらに変える。

 その女性はサングラスのような真っ黒なメガネが特徴的だったレランの塔型図書館で見た司書さんだった。

 そして三度姿を変える。

 次は眼帯をした、ギルドの受付嬢に。


「と、まあこんな感じで桃花さんの知り合いなわけですよ」


 最初の姿に戻った女性は、包帯で目を覆っているのにもかかわらず、普通に見えているかのように俺に顔を向けて話す。


「ふむ、知り合いなのはよく分かった。けど、あんたが何者なのかってのは余計に分からなくなったな。俺と同じ感じなのか?」

「立ち話もなんなので、近くのお部屋でお話ししましょう」


 そう言って女性は、すたすたと歩き出す。ここで無視して地下へ行ってしまっても良いかもしれないが、騎士の案内役が眠らされてしまっている以上、俺が一人で地下に行ってもちゃんと目的の場所に到着できる確証はない。なら、こいつについてってみても良いかと考える。

 女性はすぐ近くにある部屋に入った。そこに俺も続く。

 部屋の中は倉庫になっていた。所狭しと色々な物が置いてあり、ずいぶんと埃っぽい。

 その中で適当な場所から椅子を引っ張り出し女性は自分だけ腰掛けた。


「さて、では私の何を聞きたいですか? 話せることなら話しますよ」

「なら聞くぜ、あんたは何者だ?」


 考えられるのは、俺と同じように特殊な能力を持ってこっちの世界に送られて来たもの。それならば特殊な能力を持っているのにもうなずける。しかし女性は首を横に振った。


「ちょっと違いますね。この世界とは別の世界から来たのは確かですが、私はもっと別の存在。人間とは違う存在ですよ」

「人間と違う?」

「はい、いわゆる天使ってやつですね」


 まさかここに来てその単語を聞く日がくるとは思わなかった。

 神さん関連が絡んできたのって、転移する時だけだったし、とっくに放っておかれている物だと思ってたんだけどな。

 そう思っていると、女性はクスクスと笑う。まるで人の心を読んだかのように。


「実際に読んでいますよ。うっすらとですけどね」


 そう言って女性は突然目の包帯を取り払う。

 その瞳には、くっきりと五芒星が刻まれて淡く光っていた。


「私は天使ですからね。この瞳は生きものの心情を読むことが出来ますから」

「天使ってのはそんなことが出来るのかよ。ってことはさっきの魔法みたいのも天使の能力ってことか?」

「あれは天使の能力と言うか権限のような物ですね。私は神様の使いとしてこの世界の管理を任されていますから」

「管理者権限?」

「そんな感じです」


 なんとも便利な能力だ。自由に場所を移動したり、変身したり、眠らせたり、まさにゲームの管理者だな。


「普段はあの図書館で司書として生活してます。でも常時発動しちゃってるので、目は隠しとかないといけないんですよね。まあ緊急事態の時は惜しげなく使いますけど」


 天使は面倒くさそうにそう言った。つまり、あのサングラスや眼帯、包帯はこの能力を隠すためのものだったってことか


「ならデイゴの情報屋やギルド職員は」


 普段が図書館にいるのなら、あそこにいたのは緊急と言うことになるはずだ。

 そして二つとも俺が関わっている以上、俺が無関係とは思えなかった。


「そうですよ。デイゴの時は桃花さん、フィーナさんを攫われて暴走しそうになってたじゃないですか」

「確かに」

「神様が如何に忙しいからって、イレギュラーな存在を別世界に移しただけで放っておく訳ないじゃないですか。現に桃花さんは、この世界の国ならどこだって滅ぼせるレベルの力を持ってるんですから、監視するのが当たり前です」


 つまり俺はこっちの世界に来たときからずっと監視されてたわけか?


「まあそんな感じですね。けど四六時中見てた訳じゃないですよ? 私にも私生活がありますから」

「天使の私生活か。ちょっと興味あるかも」


 天使ってトイレ行くのだろうか? アイドルはトイレ行かないらしいけど。


「バカな事考えないでください」


 若干頬を赤らめた天使に怒られた。


「そんなことより、桃花さんの話です。あの時桃花さんは暴走しそうになっていました。あの状態のままだと、無差別に人を殺しながら情報を探して彷徨っていた可能性がありましたし、もしフィーナさんが氷海龍によって殺されていたら、それこそデイゴの一部がなくなっていた可能性もあったんですよ。それを止めるために私が情報屋として割り込んで早いうちに情報をお渡ししたんです」


 なるほど、氷海龍の時の事情は分かった。

 けど、ギルドの時は緊急事態なんてあったか? 確かにゴブリンの巣の討伐はギルド的には緊急事態だったけど、天使が動くほどの自体でも無かったはずだ。


「あれは蘇生魔法の行使を止めてもらおうと思ってたんですよ」


 そう言いながら天使はため息を付く。


「わざわざギルドの存在に割り込んで、蘇生の魔法を行っている所を見つけることが出来る依頼を割り当てたのに、妨害も何もしてくれないんですもん。正直がっかりしましたよ」


 そんなこと言われても……俺だってなんかヤバげな集団がいるってだけで攻撃を仕掛けるほど物騒なつもりは無い。

 あの時だって、魔力回路を描き写したり、しっかりと背後関係の確認をしたりで、間違った対応はしたつもりは無いぞ。


「まあ、一般的な観点からみればそうかもしれませんね。その後すぐに蘇生魔法を止めるために動いてくれましたし。だから私の働きとしては正解だったんですよ? まあ蘇生されちゃいましたけど」

「蘇生されると何か不味いのか?」

「そりゃ、魂を描き変えちゃうんですからマズイに決まってるじゃないですか。輪廻間の移動時になにか不具合が起きる可能性もありますからね。桃花さんのそれだって不具合が原因なんですから」

「そう言うことか」


 俺みたいに、たまたまバランス調整のために別輪廻に移した場合、何らかの不具合が発生して異常な力を持った人間が生まれちまう可能性がある。

 俺は魔法こそ使えなかったけど、もし地球に誕生して何らかの異常で魔法が使える様になったら色々と混乱が起きるだろうしな。

 ギルドの時はそれを防ぐために動いたってことか。

 二つの事情は分かった。確かに天使が動くだけの理由はある。

 なら今回は?

 今回も、天使が動くだけの理由が何かしらあるはずだ。そこに俺が関わって今の状況となると、正直考えたくはないが、結論は一つしかないかもしれない。知らないうちに俺の額から冷や汗が垂れていた。

 俺がその考えに辿り着くと、天使はにっこりと笑いそうですよと言った。


「フィーナさんが危ないので私が出てきました」

「フィーナは無事なのか!?」

「はい、まだ無事です。けどさっきの騎士の案内で最深部まで行こうとしていたら危なかったんですよ。フィーナさんのいる場所までは結構時間がかかりますからね」

「ならこんなところでくっちゃべってる場合じゃねぇだろ!」


 早く助けに行かないとフィーナが危ない。

 俺は急いで部屋を飛び出そうとする。そこを天使が俺の手を掴んで止めた。


「何のために私が出てきたと思ってるんですか! 今勝手に走り出されたらそれこそ間に合わなくなりますよ!」

「じゃあどうしろって言うんだ!」


 騎士の案内じゃ間に合わない。俺が走っても間に合わない。それじゃフィーナを救う方法が無いだろ!


「ここの床をぶち抜いてください。壊すのは得意でしょ?」

「床を?」

「ここの真下、少しずれた場所にフィーナさんたちはいるんです。だからここを垂直にぶち抜けば一気にフィーナさんの元へ行くことが出来るんです。私だって無駄にこんな埃っぽい部屋に入った訳じゃないですよ。さあ、どんと行っちゃってください!」


 そう言いながら天使は軽く中に浮き上がる。床をぶち抜いたときに落ちないようにしたのだろう。

 てか、それだと俺が落ちるよな? 地下三階までぶち抜くとなると、結構な高さになると思うんだが。

 そう思って天使を見ればにっこりと笑って「さあ、どうぞ」と言わんばかりにガッツポーズをしやがった。

 分かったよ、やればいいんだろ! フィーナのためだ、背に腹は代えられん! けど、一人だけ逃げるのも許さんぞ。


「月示せ、太陽の落激。フレアドライブ!」


 地面に向かって拳を振り下ろす。その瞬間、建物自体が激しく揺さぶられ、天井が崩落し、一瞬にしてその場が光に埋め尽くされる。

 天使は驚きながら悲鳴を上げ、俺は一瞬にして砕け散った天井と床に巻き込まれながら地下まで一気に落ちて行った。


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