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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
カラン合島国・極星編
130/151

129話

 乱戦が繰り広げられる中、俺は魔法使いたちの行動に集中していた。帝国騎士たちは初撃で総崩れを起こしているから、あの魔法があっても鎮圧されるのは時間の問題だ。この分ならば、魔法が完成する前にルリーが止められそうだが、もし何かあった場合に即座に飛び出せるようにサイディッシュを展開させ準備をする。

 そのルリーは傷ついた騎士を護衛しながら、暴走している帝国の連中を着実に殺していっていた。

 左手の毒のナイフを使って相手の動きを止め、右手の剣で首を落としていく。暴走しているとは言え、人間だ。体を動かしているのは脳であり神経であるため、首を落とせば動きは止まる。さすがに、首を落としても動かれたらどうしようも無かったが、その心配は無かったみたいだ。


 そうしている内に、帝国騎士達は全員がその体を地面に横たえた。


「掃討完了! 残るは魔法使いどもだけだ!」

『おぉぉぉおおおおお!!!』


 剣を高々と掲げながら、騎士達が儀式を続ける魔法使いたちを取り囲む。

 すると、突然儀式を行っていた魔法陣が強く輝き、魔法使いたちを光の中に取り込んだ。

 それに焦った一人の騎士が、剣を突き出した形で魔法陣に向かって突撃をかける。

 しかし、剣の切先が魔法陣より内側に入ることは無かった。

 それを見た魔法使いの一人が嘲笑する。


「愚か者め。我らの儀式を邪魔しようなど、不可能に決まっている」

「火、集中を乱すな」

「失礼」


 火と呼ばれた魔法使いは他の魔法使いから注意を受け、再び儀式の詠唱に集中する。

 つまりは魔法陣に防御の機構も備わっていたのだろう。

 騎士は時間稼ぎ。捨て駒にすぎなかったようだ。


「ルリー」

「分かっています。強引にでも突破しますよ」


 自らにパンプアップの毒を注入したルリーが、騎士の一人から借りた大剣を振り上げる。


「ハッ!」


 力のままに振り下ろされたその大剣ですら、魔法陣の光は弾いた。

 反動が手に伝わったのか、ルリーは痛そうに眉を顰める。


「これは不味いですね。物理的にはほぼ不可能なレベルじゃないですか?」

「なら魔法で。魔法騎士がいなくとも、全員魔法は使えます」


 魔法騎士は騎士達の中でも魔法に特化した存在らしい。その全員が一等星の加護を持ち、剣を捨てた代わりに、破格の威力の魔法を行使する。しかし、海騎士陸騎士の中にも二等星の加護持ちはいるし、中には一等星もちらほらと混じっている。彼らは単に剣を捨てきれなかった騎士達だが、上位の彼らは魔法も剣も腕はピカイチだ。


「全員魔法用意。それぞれ最大威力の物を使いなさい!」

『ハッ!』


 ミラノの声に合わせて、魔法使いを取り囲んでいた騎士達が持っている剣を地面に突き立て、腕を目の前の光の壁に向け詠唱を始める。


「撃て!」


 再びのミラノの声で、それぞれの完成した魔法が光の壁に襲いかかる。それは激しい光と爆発となって、周囲を覆い尽くす。


「これでどうですか」


 煙の向こうを睨みつける騎士達。そして潮風によってその煙が晴れてい来ると、騎士達の顔が絶望に染まった。

 そこには無傷で輝く光の壁。その中の魔法使いたちは、騎士達に見向きもせず詠唱を続けていた。


「これでも無理なのですか」

「いよいよ不味くなってきましたね」

「今度は一点に集中させて――」

「どいてろ。俺がやる!」


 俺は、ルリーたちの魔法でも光の壁に傷一つ無いと分かった時点で飛び出していた。

 そしてミラノが新しい手段に転じようとしたところで、その横を走り抜け光の壁に向けて、サイディッシュを振り下ろす。


「ぶち抜け!」


 振り下ろされたサイディッシュは高速でその刃を回転させながら光の壁に突き刺さった。そう、ルリーの怪力でも、集団魔法でも傷一つつかなかった魔法の壁に突き刺ささったのだ。そして回転する刃は容赦なく壁の傷を抉り押し広げていく。


「ハハ! やっぱ魔物の鱗は違うな!」


 今までは鈍く輝いていた刃は、現在バスカールの改良により黒い光沢を放つウロスルナの鱗を使った刃へと変えられている。

 そしてそのおかげで新たに能力が追加された。それは魔法も斬れると言うもの。

 一等星級のウロスルナは二等星程度の魔法までは完全に弾くことが出来る。そして一等星の魔法であっても、威力を減衰させるだけの魔法抵抗があるのだ。

 それを刃にしたことで、サイディッシュの刃も魔法を切れるようになってしまった。

 もちろん刃物としても切れ味もそのままにだ。


「おら!」


 力を込めた一振りで、光の壁は完全に切り裂かれる。

 そのまま壁の中へと侵入し、中央にいるおそらくこの儀式の生け贄になるであろう魔法使いに向けて短剣を突き立てた。


「生け贄が死んでれば儀式は成功しないよな」

「クックック、そうだ、確かに生け、贄が、死んでいては儀式は、成功しない」

「ならお前らの計画は潰えたわけだ」

「残念だがそうはならない! 儀式はすでに完了している!」


 魔法使いは、俺が握ったままの短剣から強引に自らの体を引き抜く。

 あふれ出した血が地面に垂れ、魔力回路にもかかる。その時、周囲の魔法使いが一気に詠唱を開始した。


『彼の者の魂を捧げ、我らの星の力を持って、その姿を蘇生せよ! リボーン!』


 その瞬間、刺した男の体がぼろぼろと崩れ落ち、一瞬にして灰の山となる。それに驚いて俺はとっさに後方壁の外へと飛び出した。

 すると今度は、灰が中へと竜巻状に巻きあがり、壁の中の視界を覆う。


「間に合わなかったか……」


 俺はただ一言つぶやいた。それは、カラン騎士全員に伝播し、騎士達に焦りの表情を浮かばせる。


「トーカさん」

「ルリーあれ止める自信ある?」

「ちょっと厳しいですが、二人でなら」

「ならやってみるか!」


 幸いなことに、まだ勇者自体は蘇生していない。蘇生にも少しの時間がかかるのだろう。しかし、魔法使いたちは全員詠唱を終えているし、手も下げてどこか待ち望んだ表情をしていることから、すでに魔法使いの儀式自体は終えてしまっているのだろう。こうなると魔法使いどもを殺しても蘇生自体は止められない可能性が高い。

 ならば、もっと根本的なものを壊す必要がある。


「ルリー、魔力回路を破壊するぞ」

「危険ですがやるしかないですね」


 大量の魔力が注ぎ込まれた魔力回路を破壊する。それは、魔力爆発が起こる可能性がふんだんにあるのだ。小さい規模の物なら、カラリスの店でもよく起きている程度の簡単な爆発だが、合計九人もの魔力が注がれた回路だと、それ相応の爆発が起こる可能性がある。

 それは、当然魔力回路を破壊する俺やルリーも巻き込むのだが、今は躊躇っていられる余裕は無い。

 飛び込むタイミングを計ってうなずき合い、俺は再び切り裂いた場所から壁の中へと踏み込む。そして足もとに浮かんでいる魔力回路に向けてサイディッシュを振り下ろした。

 その直後にルリーが壁の中に入ってくる。そして俺と同じように大剣を魔力回路へと突き刺し、同時に魔法使いたちを殺すために毒を散布する。

 その時点で俺はルリーと入れ違いになるように壁の外へと退避を完了させている。

 ルリーの毒は、壁に阻まれ外までは出て来ない。蘇生の瞬間に目を奪われていた魔法使いたちは、その毒によってなすすべも無くもがき苦しむ。

 そして魔力回路がいっそう強く輝く。魔力回路の流れを強引に斬って分断させたことで、異常な魔力溜まりが生まれ爆発しようとしているのだ。


「ルリー!」

「分かっています!」


 毒の霧を身に纏わせながら、壁の切れ目からルリーが飛び出してきた。それを確認して俺は詠唱を開始する。


「月示せ、堅牢なる囲いの壁。キューブウォール!」


 俺の全力による詠唱。それによって生み出されたのは、巨大な土壁。その強度は鉄の壁よりも遥かに硬いだろう。それを光の壁の外側を覆うようにして配置した。

 切り裂いた場所だけでなく全てを囲ったのは、爆発によって光の壁が無くなる可能性を考えたからだ。

 あの壁が魔力回路に連動して発動していたのなら、爆発の瞬間には無くなってしまっている可能性もあるのだ。


 そして魔力回路が限界に達した。


 ドンッと激しい爆発音がして、壁に激しい衝撃が伝わる。その衝撃は壁の表面をガリガリと削り土煙を天へと巻き上げていく。まるで写真で見た核爆発のようにきのこ雲が出来上がっているんのだ。

 しかし何とか俺の壁は爆発を防ぎ切った。

 中の様子は察するしかないが、魔法使いたちは跡形もないだろう。


「これでどうだ」

「ここまでやったんですから、蘇生も止まってくれるとありがたいんですが」

「土壁をとるぞ」


 俺の言葉に、騎士達が身構える。ルリーが頷くのを見て、俺は土壁を取っ払った。

 その先には地面が抉れ土がむき出しになった儀式場の後と、その上にたたずむ一人の人間。真っ白な鎧を身に着け、腰には騎士剣を下げている。体格は俺と同じぐらいで、肩に魔法使いの一人を担いだその人物の顔は、俺の位置からだと魔法使いの体が邪魔で見えなかった。


「……間に合わなかったみたいだな」

「ええ」


 全員に緊張が走る。

 その男が俺の声に反応してゆっくりとこちらに振り返る。そこで初めてその男の顔を拝むことが出来た。

 驚くほどイケメンだ。スラッとした顔立ちに、ブルーの瞳。髪の毛は茶色のサラサラで、まるでリンスでも使っているようだ。


「ごほっ……よくやった」


 言葉を発したのは、男の肩に担がれていた魔法使いだ。

 それを聞いて、男は肩から魔法使いをゆっくりと降ろす。


「お前は極星の勇者で間違いないな?」

「はい、かつて周りは私をそのように呼んでいました」


 それを聞いて、魔法使いは静かに笑いだす。そしてその声は次第に大きくなり、高笑いへと変わっていった。


「ついに! ついに成功したぞ! これが我らの悲願! 最強の兵器!」


 そして魔法使いの視線がこちらを向く。


「まずは最強と言われるその力を見せてもらおうか。極星の勇者よ、目の前の奴らを殺せ!」

「はい」


 勇者が静かに呟く。その瞬間、ミラノの前に勇者はいた。


「え?」


 突然の出来事にミラノもルリーもカランの騎士達の誰も反応できない。

 そしていつの間に抜剣されたのかも、振り上げられたのかも分からない勇者の剣がミラノに向かって振り下ろされる。

 俺はそれを、グローブを付けた左手で受け止めた。


「いきなり容赦なしかよ。ルリー、全員連れて、別働隊と合流しろ。ここからはお前らの入れる余裕はねぇ」


 ギリギリと力を込めてくる剣を左手の筋力のみで受け止めルリーに指示を出す。ルリーはその指示に素直に従った。今の勇者の動きに俺以外誰も付いて来れなかったのが、ルリーに現状を強引に理解させたのだろう。

 こいつには敵わないと。

 俺は勇者を睨みながら指に力を込める。ミシッと音がした時点で勇者は剣を引いた。


「バスカールに渡されたグローブ意外と便利だな」


 俺が左手に付けたグローブはバスカール製のものだ。動きを阻害しない簡単な手袋だが、その表面には、ウロスルナの鱗が綺麗に並べられている。多少動きにくさは感じるが、動き自体は阻害されないように、関節の部分は鱗がパズルのように組み合わさっている。

 サイディッシュを渡された時に一緒に渡されたもので、刃を作った時に、余った部分がもったいないと思って作ったのだとか。

 魔法も受け止め、剣も受け止められるグローブ。衝撃はそのまま手に伝わってしまうため、俺以外には実用性皆無のものだが、衝撃に耐えられる体があるのならば、これほど便利な物はない。


「さて、俺はお前を倒さないといけないのか」

「何をしている極星の勇者! 早くそいつを殺せ!」


 後ろで魔法使いが騒いでいる。しかし勇者はなかなか攻め込んでこない。まあ、俺と対するなら、なかなか攻め込めないのは当然だよな。迂闊に来れば、カウンターで一撃で沈めるし。

 けどそれは俺もそうなんだよな。勇者に隙が見つからない。

 攻め込めば俺がカウンターで沈められる。

 俺達がにらみ合っている間にルリーたちは島から退避を開始する。

 それはあらかじめ決めていたことだ。もし極星の勇者が蘇生してしまった場合、すぐにカランの騎士は全員その島から脱出する。

 そうしなければ、戦闘に巻き込まれるのは目に見えているからだ。さすがに誰かを守りながら戦えるほど、極星の勇者は甘くない。


 そして俺たちは同時に動いた。

 勇者の剣をサイディッシュの柄で受け止める。力は均衡した。そう判断した瞬間で俺も勇者もすぐさま剣を引き距離をとる。


「月示せ、炎華の胎動」

「一極よ、大輪を咲かせ」

『フレイムエクスプロ―ジョン』


 俺達の魔法が同時に発動し、周囲を一瞬にして焦がしていく。だがどうやら俺の方が星の加護は強いようだ。

 勇者の爆炎は次第に俺の爆炎によって押されていき、勇者の鎧を軽くあぶったところで魔法が終わった。


「加護は俺の方が上みたいだな」


 その言葉に、勇者の顔が一瞬ムスッとした気がする。しかし、それも一瞬すぐに無表情に戻り剣を握り直す。

 ちなみに魔法使いは、さっきのフレイムエクスプロージョンを見た時点で逃げ出した。ここにいるのはマズイと理解したんだろう。

 そしてそろそろカランの連中は船まで戻れたころだろうか。なら俺も全力で行こう。


 サイディッシュを体をひねるように後ろに構え、勇者を見据える。勇者は俺の行動を警戒して防御の体勢をとる。

 そして全力で振り抜いた。

 衝撃波が俺を中心に広がり、島の木々を一斉に吹き飛ばしていく。勇者もその衝撃を受け、大きく後退した。だが後退した程度だ。

 勇者はとっさに地面に剣を突き刺し、それを支えにして衝撃波を受け止める。普通なら地面ごと勇者も持ってくはずだったんだが、何か魔法も発動していたのだろう。勇者の正面と真下だけ地面が抉れていない。しかしそれ以外は全て抉れた。

 そう全て。島一つを氷海龍と戦った時以来久しぶりに禿げ島にしてやった。


「これで動きやすくなったな」


 今までも十分な広さがあったが、やっぱ何もない方が奇襲を警戒しなくていいしな。

 勇者は地面から剣を抜き、付いた土を振り払う。


「強いな……」


 小さく呟いたその声を俺は確かに聞いた。


「あんた本当に――」


 操られているのか。そう聞こうとして、再び目の前に剣が迫る。サイディッシュでは間に合わない。そう判断して、左手を突き出す。


「一極よ、変形させよ。トランスフォーム」


 魔法が発動する。それを見た時、俺は手を引いてとっさに剣の範囲から転がって逃れた。

 そして俺のいた場所を通り過ぎる刀。

 そう刀なのだ。こっちの世界で一度も見たことが無い剣のバリエーション。切ることを最優先にした切るための武器。

 日本男児なら一度は扱ってみたいと思う武器。外国人お土産ランキング上位ランカー。

 そして主人公が握ると途端に硬くなる武器。

 勇者の握る剣。それはまさしく日本刀に変わっていた。

 もしグローブで受けようとしていたら、間違いなく左手の半分を削がれていただろう。


「あぶねぇな」

「……」


 サイディッシュを近くに突き立て、俺は輪廻剣を取り出す。さすがにサイディッシュでは勇者の速度について行けない。さっきもそのせいで懐に飛び込まれてしまったのだ。ならば、動きやすい輪廻剣で行くべきだと判断した。

 そして今度はこちらから切りかかる。

 勇者は平然と俺の速度に反応してきた。しかし、こちらの武器は剣型のチェーンソー。脆い日本刀ならば、合わせることはできない筈だ。


「解除」


 勇者がつぶやき、日本刀で輪廻剣を受け止める。その時には、剣はすでに元の騎士剣に戻っていた。

 つまり、日本刀の形は魔法で作っていると言うことか。だから解除すればすぐに騎士剣に戻り、チェーンソーを受け止めるだけの力を発揮できると。

 こりゃ面倒だな。チェーンソーの優位性があまり発揮出来ていない。

 剣を切り結びながらそう考えていると、今度は勇者が動く。


「二極の星よ、氷炎の宴を開け。ブレイズブリザード」


 勇者が発動した魔法は、炎と氷二つの属性を持って俺の両サイドから襲いかかってきた。


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