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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
カラン合島国・極星編
129/151

128話

 港にはすでに俺達の乗る中型船、漁船より一回り大きい大型クルーザーと言った感じの船が停泊しており、すぐに出発となった。

 俺がデッキに出て、島々を眺めていると声を掛けられる。


「どうかしたの? なんだかいつもと雰囲気が違う感じがするけど」

「ルリーか」


 振り返れば、ルリーがいる。服は常闇の時と同じものだが、性格は日常バージョンになっているようだ。


「いいのか? こんなところで日常バージョンになっても」

「別にいいわよ。今騎士たちはみんな船の中で休んでるしね。それに、この船意外とスタッフも多いから、私を見ても常闇様が好きな子って扱いになるわ。それであんたこそどうしたのよ」


 話しを逸らそうと思ったのだが、失敗したみたいだ。

 なので俺は仕方が無く考えていたことをぽつぽつと話していく。


「どう復讐してやろうかと思ってな」

「復讐? 物騒ね」

「俺の親父になるかもしれない人を殺されたんだ。当然だ」


 この世界で俺はフィーナとフランという家族同然の存在を手に入れた。それは、家族から捨てられた俺にとってかけがえの無いものだ。

 だからこそ思う。家族を奪う原因を作った帝国が許せないと。


「本当なら滅ぼしてもいいところなんだけどな。それだと被害が大きくなりすぎるだろ?」

「なんか滅ぼせるのが当たり前みたいに聞こえるんですけど」

「そう言ったつもりだ。俺の力なら帝国も滅ぼせる。その自信はある」


 自らの右手を握り閉めて、今の自分の実力を考える。

 俺の力はこっちの世界に来てからも確実に上がってきている。こちらの世界に来る前ですら、トラックは受け止められたし木だって薙ぎ倒せた。けど、今ならトラック程度は受け止める必要すらない気がする。

 たぶん腕を出しただけでも止められるだろう。木なんてあってないような物だ。

 神さんは俺をこっちに送る時に言っていた。将来の俺は高層ビルですら一撃で粉砕できると。それだけの力をこの体は平然と蓄えられると。

 俺は今その言葉を痛感していた。そしてそれにプラスされるように追加された魔法の力。全属性を操れる上に、威力は1等星以上。魔法なんて空想も、元の世界の映像のおかげで簡単に補完できる。

 実際に戦った雷帝フェイリスや、常闇のルリ-も正直に言えば物足りなかった。

 俺がラッシュをかければ受けきることも出来ずにやられるフェイリス。結界という制限下の中で、俺に一撃も入れることが出来なかったルリー。まあルリーは僅かに毒を飲まされたが、今はあの毒に対抗する手段も勉強した。

 この世界でも俺の力は明らかに異常だ。ちょっと強いなんてレベルじゃない。

 しかし通常モードのルリーは俺の言葉を信じていないようだ。胡散臭そうに半目になって俺を見てくる。


「それで、どうするつもりなの? 本当に帝国滅ぼしちゃう?」

「だからやらないっつってるだろ。それじゃ帝国の連中と同じだ。だから考えてるんだよ。俺なりの復讐方法ってやつを」

「だからあんなに空気がピリピリしてたのね」


 それほどまでに俺はピリピリしていただろうか? 確かにちょっと物騒な事とか色々考えていたが、ヤバい空気を振りまくほどでは無かったと思うんだけど。


「すごかったわよ。なんだかトーカの周りだけが暗い感じ? あれね、麻薬中毒でぶつぶつ言ってる奴みたいだったわ」

「人を薬中と一緒にすな!」

「あはは、そうね、もっとヤバいものね」


 そこまで言われると、さすがにヤバかったのかと反省する。


「ふぅ……」


 小さく息を吐いて、潮風のふんだんに混じった空気を肺一杯に詰め込んでいく。


「どう? 少しは気分転換出来た?」

「ああ、悪かったな」

「良いわよ。戦いの前に、後ろからあんなヤバげな空気漂わされちゃ、うちの兵士達がまいっちゃうもの」

「今は目先に迫ったことを考えるか」

「それが良いわよ。じゃあ私もそろそろ臨戦態勢に入らないとね」


 目標の島が見えてきたところで、ルリーが再び常闇モードに戻る。


「日常の私と話すと気が紛れますでしょ?」

「あの気楽さは良いな。けどしっかり考えてるところは考えてるじゃん」

「普段は何も考えてないんですよ。自分でもびっくりするぐらい。今はさすがに空気を読んでくれましたけど」


 ルリーはどこか嬉しそうに話す。日常の自分が上手く機能してくれたのが嬉しいのだろう。基本的に日常版のルリーは役立たずで通ってるしな。


「あの島で蘇生の儀式が行われているですね」

「ああ、森の中央の方に行くと、少し開けた場所がある。儀式はそこで行われてるみたいだ。俺たちは全員でそこに乗り込むのか?」

「いいえ、魔法騎士全員と海騎士の半分が仲間の捜索に向かいます。森の中で沢山隠れるのは難しいですから」

「それもそっか」


 仲間をさがして見つけ出さなければ、根本的な解決はしないもんな。儀式だけ潰しても、また新しい人員が補充されるだけだろうし。


「ルリー、トーカ様ここに居られましたか」


 二人で島を見ていると、デッキにミラノが出てきた。俺達を探してくれていたようだ。


「間もなく島に着きます。着岸しましたら、すぐに部隊を別けて移動を開始しますので、準備しておいてください」

「分かりました」

「了解」


 ミラノはそれだけを伝え、すぐに船の中に戻って行ってしまう。さすがに、指揮する立場にあると色々と忙しいのだろう。


「じゃあ俺達も行きますか」

「そうですね」


 間近に迫った島を見て、俺はもう一度気合いを入れ直した。




 島に降り立つと、すぐに騎士の一部が別れて行動し始めた。あれが、潜伏箇所を探す部隊なのだろう。

 そして残りは俺を先頭に儀式を行っていた場所へと向かう。

 地形の関係上、俺が進んだ場所とは正反対の場所から入らなければならなかったが、島自体は小さめなので、東西南北さえ分かっていれば、問題なくその場所まで着くことが出来た。


「ここがその儀式場ですか」


 俺が案内した広場を見て、ルリーがため息を吐く。

 他の騎士達もミラノも、その場を目を見開いて見ているだけだ。

 そこには、昨日俺が見たままの状態の広場が広がっている。しかし、儀式の痕跡はいたるところに残されている物だ。

 多くの足跡や、何かを掘り返したような不自然な土の盛り上がり、椅子にでも使うように切られた丸太が横たわっていたりしている。


「こんな場所があったなんて思いませんでした」

「俺も見つけた時は驚いた。たぶん地元民かなんかが伐採場に使っていたんだろ」


 俺は広場の隅に建てられた小屋を見ながらそう言う。昨日見た時は見つけられなかったが、どうやら反対側からだと茂みに隠れるようにして建っていたらしい。

 ミラノは騎士にその小屋を調べるように言ってからこちらに歩いてきた。


「それでは私たちは予定通り、ここで隠れて帝国兵たちを待ち伏せします」

「ええ、私たちもすぐに隠れる準備を始めましょう」

「そうだな」


 長時間隠れることになる可能性があるため、しっかりとビバークの準備はしておく必要がある。

 俺はこっそりと魔力探査の魔法を発動させ、周囲に怪しい魔力が無いかを調べながら自分が隠れる為の場所を探す。

 なるべく辛い体勢にならないような場所で、広場を一望できる場所が望ましい。

 そう考えて、俺は木の上を選択した。

 ここならば、ある程度横になっても気付かれないし、上から一望も出来る。


「ここにするかね。他の連中も大方場所は決まったみたいだな」


 魔力探査は、騎士達が一点にとどまっていることを示している。ビバークの準備を始めたのだろう。

 そしてしばらくして、森は静けさを取り戻す。そこには、騎士達が隠れているとは思えないほど静寂に満ち、鳥たちのさえずりだけが聞こえていた。




「思ったより早いお着きだな」


 俺は木の葉の隙間から小さく呟いた。

 帝国の連中が儀式場に現れたのは、俺達が到着してから一時間程度経った頃だった。

 ちょうどその時、俺はフィーナにもらった朝食用のサンドイッチを気分よく食べていたもんだから、それを妨害されたことにちょっと腹が立つ。

 その帝国兵たちは、隠れている俺達に気付く様子も無くなれた作業で儀式の準備を始めていた。

 そう、慣れているのだ。

 つまりこの場所で儀式の準備を数回は繰り返していたと言うことになる。

 ミラノの指示では、俺は極星の勇者が召喚されそうになるまで待機と言うことになっている。極力自分の国の問題は自分の国で解決したいのだ。

 そうしないと、国の威信としても、その後の俺への報酬も結構莫大なもんになるからな。俺も、そこはケチるつもりは無いし、しっかり貰うものはもらうつもりだ。それが冒険者ってもんだろう。その金で、俺達の家を買ってもいいしな。

 将来設計を考えながら魔力探査で騎士達の動きを観察する。

 カラン騎士達は、すでに臨戦態勢のようだ。少しでも魔法を発動するような素振りを見せれば、跳びかかれるようにしている。

 現行犯で逮捕するためには、魔法の発動が条件になるため、仕方がないがやっぱり危ないよな。もし止められなければ蘇生されちゃうし、失敗は許されない。

 どことなく帝国騎士からもカラン騎士からも緊張が漂い、空間にピンと張りつめた空気が流れている。

 その中で俺だけがサンドイッチをむしゃむしゃと頬張りながら、高みの見物を決め込んでいた。




 カラン兵たちに緊張が走る。

 帝国の騎士達は慣れた様子で警備をするが、慣れているせいで隠れている騎士たちの存在に気付いていない。これがもし最初の任務だったのなら、間違いなく気付いただろう。それほどまでに彼らの距離は近い。

 草むら一つ挟んだ位置で息を殺すミラノは、怒りであふれそうになる気配を懸命に殺しながら帝国の動向を伺っていた。

 そして手話で近くの兵士達と連携をとる。

 ルリーは離れた場所からいつでも毒で援護できるようにはしてもらっているが、できることならばルリーの出番無く速やかに終わらせたいところだった。


(総員に通達。私の合図と同時に一斉に攻撃を開始。相手の生死は問わない)

(右翼7名了解)

(左翼8名了解)


 それぞれから了解の合図が戻ってきたところで、帝国の動きに再び注目を戻す。

 中央付近で何やら儀式の準備をしている魔法使いは全部で9人。儀式の内容が死者蘇生であるとすれば、9人と言うのは異常な数だが、それが極星の勇者を蘇生させるのであれば最適な数となる。

 魔法を発動させる8人と生け贄となる1人。しかし、その1人はてっきり近くの村から攫った人物か盗賊があてがわれると思っていたのだが、魔法使い自らがその生け贄になるとは予想外だ。

 現在知られている死者蘇生の魔法は、一度生け贄を分解して、再構築と言う形で死者の魂と体を蘇らせる。

 魂の輪廻の原理を知っているトーカからすればおかしい事だが、この世界のミラノにはそれが常識として教えられていた。

 つまり、生け贄の体は魔法の成功と共に分解されてしまうため、人間でさえあればどのような生け贄でもいいのだ。わざわざ魔法使いが自らを差し出すような必要は決してない。

 何を考えているのか。

 ミラノには全く分からなかったが、今はそれを調べる余裕も無い。

 と、魔法使いたちの中心。おそらく生け贄の役割になっているだろう魔法使いが周りの騎士に声を掛ける。


「これより儀式を始める! これが最終段階だ。最後まで気を抜かずに頼むぞ!」

『了解!』


 騎士達は一度だけその魔法使いの方を向き、帝国式の敬礼をする。そしてすぐに森の警戒に戻る。

 それを見た魔法使いが手を天に掲げ何かを詠唱し始めた。

 それに合わせるように、足元から魔法陣が浮かび上がる。


「星に願いて、蘇生の儀式を歌う! 連立を紡ぎ、星たちの力よ、集約せよ!」


 その声に合わせるように、周りの魔法使いたちも手を掲げ詠唱を開始した。


『星に願いて、蘇生の儀式を歌う。連立を紡ぎ、彼の星に力を捧げよ!』

「集いし力を使いて、我の望む姿を描かん!」

『捧げし力よ、彼の者の願いを叶えたまえ!』


 紡がれる詠唱はまるで合唱のごとく、地面に輝く魔法陣へと吸い込まれていく。そこでミラノは思わず見とれていたことにハッとなる。

 そしてすぐさま周りの騎士に視線を送る。

 騎士達も同じように、詠唱の様子に目を奪われていた。そこから注意を戻させるために、ミラノは足元にあった小さな石を騎士達の足もとへと転がした。

 それに気づいた騎士達が次々に意識を取り戻していく。


(スタンバイ)

(左翼好し)

(右翼好し)


 両サイドから返答が返ってきた。それを確認してミラノは剣の柄を握りしめる。

 そして一気に草陰から飛び出し、目の前にいた帝国騎士を切り倒した。


「全部隊戦闘開始! 一匹たりとも逃すな!」

『うぉぉおおおおおおお!!!!!』


 ミラノの先陣と共に、隠れていた騎士達が一斉に近くの帝国騎士に切りかかる。

 帝国騎士は突然の襲撃に、驚きの声をあげながらなんとか戦闘態勢をとり反撃を開始する。その辺りは、さすがに重要任務の警備を任せられるだけは地力のある兵士達だ。

 しかし、一度押し込まれた勢いは簡単には押し返すことは出来ない。その上、帝国騎士は不意打ちで何名かがすでに殺され、怪我を負いながら戦っている者もいる。

 勝負は一瞬で着くかに思われた。


「星に願いて、眠りを覚ます。星に願いて、共鳴を生む――」


 その声は帝国の騎士達全員から聞こえてきた。


「枷を外し、世界にあらがう力を与えん。絶対の力を与えん。ミキシングマジック、ワールドオーバーサブミッション」


 その瞬間、押されていた帝国騎士達の鎧が輝き、魔力回路が浮かび上がる。その現象をミラノはレポートで知っていた。

 デイゴの闘技大会で使われた、禁忌の強化・暴走の魔法。

 そしてミラノと切り結んでいた兵士の力が突然グッと増す。

 さらに詠唱は続いた。


「星に願いて、繋がれたすべての枷を外せ。リミットブレイク」

「しまっ!?」


 その力の上昇に、相手を抑えきれず剣を弾き飛ばされ、ミラノはその場に尻もちをつかされる。そしてミラノが見上げる先から振り下ろされる帝国騎士の剣。

 それを睨みつけるようにしながら、覚悟を決めた時、影が横切った。

 その影は一瞬にして騎士の両腕を切り飛ばし、さらに追い打ちをかけるようにナイフを鎧の間に突き立てた。それだけで帝国騎士は完全に動かなくなる。


「ミラノ、大丈夫ですか?」

「ルリー、助かったわ」


 ルリーは右手にカランの騎士剣を持ち、左手に毒のナイフを持って悠然とミラノの前に立っていた。


「ここからが本番ですよ。蘇生を止めるためにあの兵士達をどかします」

「ええ、私は大丈夫だから他の騎士の援護をお願い」

「分かりました。あの強化は麻痺の毒も効果が薄くなるようですね」


 毒のナイフを突き刺して動かなくなったはずの騎士が再び立ち上がる。すでに両腕は肘から先が無いのにもかかわらず、なおもミラノ達に襲いかかろうとする。

 その首をルリーは剣で斬り飛ばし、騎士を完全に殺した。


「ナイフでもこの程度の麻痺となると、散布では意味が無いかもしれません」

「直接叩くしかないわね」


 その間にミラノは自分の剣を拾い直し、体勢を整える。


「あの魔法使いたちには効くかもしれませんから、一応使っておきますね」

「お願い。じゃあ気を付けて」

「ミラノもね」


 2人に襲いかかってきた騎士を、ミラノが剣で受け流し、ルリーが首を飛ばして瞬殺する。そして2人は示し合わせたような動きで正反対の方向に飛び出し、苦戦する仲間の元へと援護に向かった。


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