11話
近くの露店に入って武器屋の場所を聞くと、残念なことにすでに場所は行き過ぎていた。
教えられた道を曲がり、裏路地に入ったところに武器屋はあった。こりゃ気づくはずないわ。完璧に隠れた名店の雰囲気醸し出しているもん。
「誰かいる?」
店の扉を開きながら中に声を掛ける。
「いらっしゃい。おや、子供なんて珍しいね」
奥から出てきたのは20代の男性だった。エプロンをつけた優しそうな顔のイケメンだ。
「ハハ、子供でも実力は確かだぜ。剣が欲しくてな」
「私は付添いだ」
「おや、リリウムさんじゃないですか。噂はかねがね聞いてますよ」
「こんなところまで知られているのか……」
「ハハ、いい噂ならいいじゃねえか。変な噂立てられるよりかよ。で、剣だ、剣」
俺は室内に飾られている剣を一通り見回しながらどれが良さそうか物色する。
店員は俺の行動をしばらく見ていたが、目を離して1つの棚の前に立った。
「君ならこれぐらいの剣が良いんじゃないのかな?」
店員が差し出したのは幅の広い反りが入った片刃の剣だ。重量はさほどないが、切れ味で勝負と言った感じの剣。海賊とかが持ってそうな奴だな。
「これか?」
俺はそれを受け取り、2人から少し離れる。武器屋の室内が広く作られているのは素振りをしても大丈夫なようにだ。
俺はそこで軽く構え、縦に振り下ろした。
ヒュッと音がして空気が切り裂かれる。振った感触としての違和感は特にない。大きさとしては、俺の体型にあってるってことだろうな。
だが、どうもつまらん! どうせけん制用に持つんだから、もっと派手で風が巻き上がるような素振りをしてみたい!
「軽すぎるぜ。もっと重い奴が欲しい。それにもっとデカいやつな」
「うーん、君ならこれぐらいがちょうどいいと思ったんだけどな」
店員は納得がいかない様子ながらしぶしぶ俺の指示に従って剣を探し出す。
その間にリリウムに店員について聞いてみることにした。
「今の店員どう?」
「見る目はあるだろうな。最初トーカが棚を物色していたときに体の大きさと筋肉の付き具合を確かめてあの剣を勧めていた。私の見立てでも、トーカの体型ならあれがベストだと思うんだが、トーカは常識から外れているからな」
「なるほどね。てか決めたぜ。俺むちゃくちゃデカい剣にするわ。最低でも俺の身長な!」
「そんなむちゃくちゃな! と言いたいところなんだがな、トーカならそれもありかと思ってしまう……」
「だろ? 俺が普通の剣振ってるとかってありえないって」
店員が剣を選び終える前に、こっちで剣のことを決めてしまった。
「て、訳で店員さん! この店で俺の身長よりデカい剣ってある?」
「え? 君より大きい剣?」
「そうそう、柄を含んでもいいから俺よりデカいの」
「うーん、あるにはあるけど……」
俺が持てないと思ってんだろうな。てか店員も持てないだろうし、ここは手伝うついでに俺の力をみせといたほうがいいかもな。
「どこにあるかだけ教えてくれればいいぜ。俺が持ってくるから」
「うーん、まあ実際に持てなければあきらめるかな……」
店員は小さくつぶやいているようだが、しっかりと聞こえている。
振り回して度胆抜いてやろう。
軽いいたずら心を内に秘めながら、店員の後に続いて店の奥に入っていった。
すると奥からカンカンと鉄を打つ音が聞こえてきた。そして現れる小さな体。全体的に丸みを帯びているものの、その体は非常に筋肉質で、がちがちとしている。
ドワーフだ。
ドワーフはその種族の特徴として鍛冶に命を懸けるものたちが多い。しかしその反面非常に頑固なため他人に自分の打った剣を渡すことが殆ど無いと言われている。ってフィーナが行ってたな。貿易商としてはドワーフの相手は非常に苦労するんだと。
「親方。あの剣使いたいって子がいるんですけど」
そのドワーフに店員が声を掛ける。すると、カンカンという音が止まった。
「あの剣をだ!? どこのバカだ!?」
「そこの子ですよ」
「よっ」
とりあえず初対面はフレンドリーに。ってことでなるべく明るく挨拶してみた。
俺を見た瞬間、ドワーフと目が合う。数秒見つめ合うがやがて俺から視線をそらしてしまう。そして再びカンカンと音がなりだした。
「どうやらダメだったみたいだね。親方は自分が認めた相手じゃないと剣を握らせないんだよ。まあ、認められたとしてもあの剣は持てなかっただろうけどね」
店員は肩を竦め、俺を連れて部屋を出て行こうとする。だが、俺はそこから動かなかった。
「おいおい、人を見た目で判断するのはどうかと思うぜ。仮にも鍛冶屋ならな」
俺の言葉にドワーフは背中を向けたまま返す。
「見た目で決めたわけじゃない。お主は剣をけん制程度のために使う気だろう。剣は相手を殺すためにあるものだ。ならばお主に剣は必要ない。そう判断した」
俺の一瞬見ただけでそこまで判断すんのか。ドワーフってすげえのな。それともこれが職人の目って奴なのかね?
「つまり俺には剣が必要ないと?」
「そういうことじゃ。使われない剣ほど哀れなもんは存在せん。鍛冶屋は剣を作る以上、その剣が人を殺すことを覚悟して作っている。それを中途半端な気持ちで持たれるのは最も不愉快な行為だ」
「なるほどね」
鍛冶屋なりのポリシーってやつか。なら俺がこれ以上なにか言うことはできないな。
「わかった。邪魔して悪かったな」
「気にするな。本気で振るう気になったらまた来い。そしたら武器を作ってやる」
「そりゃいいな。期待しておくぜ」
奥の部屋から出て店員と一緒に売り場に戻る。そこではリリウムが1人剣を見ながら待っていた。
「悪い、待たせたな」
「いや、それより剣はどうした? まさか持てなかったのか?」
「剣に会わせてもらえなかった。まあ、一本芯の通った職人魂に負けたってやつかな」
俺の言葉に眉を寄せるリリウム。意味が分からなかったようだ。
と、そこに今まで黙っていた店員が話しかけてきた。
「親方に認められるなんて君すごいんだね! 将来有望じゃないか!」
「あれで認められたことになんの?」
最初の1回以外1度も顔合わせてくんなかったんだけど?
「親方が剣を作ってやるなんて言ったのは、爆炎のドラグル以来初めてだよ!」
「誰それ?」
てか何その痛い厨二な二つ名。
「爆炎のドラグルを知らないの!? A+の冒険者だよ!?」
「へー、A+って確か3人しかいない冒険者だよな?」
「そうだ、爆炎のドラグル、雷帝のフェイリス、常闇のルリー。3人とも卓越した技術を持つ冒険者だ」
「リリウムは会ったことがあるのか?」
話しぶりからすると一緒に戦ってそうな言い方だが。
「ああ、昔1度同じ魔物の討伐依頼に出てな。1等星級の魔物だったためにA-以上のランクの冒険者がかなり集められた。そこに爆炎のドラグルがいたんだ。他の2人は人づてに聞いただけだがな」
「へー。そのドラグルの剣をここで作ったのか」
「そういうことだね。親方がドラグルさんを見た時に一目でこいつなら使いこなせるって思ったらしいよ」
「あの爺さんならやりそうだな」