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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
カラン合島国・学院編
117/151

116話

 しばらくすると、校舎の窓から校庭を見る生徒の数が増えてきた。

 まだ授業中のはずなのだが、どうも教師がこの試合の準備の為に早めに授業を切り上げたらしい。


「よし、お前ら、こっちも授業は終わりにするぞ! この後知ってるだろうがトーカと常闇様が試合をすることになっているから、見たければ校庭の端、ロープの張ってある外側にいろ。それより中は立ち入り禁止だぞ」


 教師の声で、生徒たちが校庭の端へ移動し始める。

 俺は一旦サイディッシュを振るのを止め、軽く上がり始めた息を整える。

 そのついでに、周りをよく見てみれば、校庭はぐるっとロープで囲まれ、その外側には魔法科のみならず、多くの生徒が集まって来ていた。どうやら、そこが観客席になっているらしい。何となく体育祭を思い出す構築だな。

 そして、そのロープの内側には、何か道具が置かれている。


「先生! それなんですか?」


 俺の質問にその道具をいじっていたカジール先生が答える。


「これは結界装置だ。闘技大会に出たことあるなら、結界が張ってあったのは覚えているだろ?」

「ああ」

「あれの簡易版だな。校庭で魔法が飛び交うんだ、これぐらいは用意しておかないと、校舎が崩壊しかねない。今回は常闇様の毒魔法もあるしな。これが無いと観客が皆倒れてしまう可能性もある」

「なるほどね」


 確かに、闘技大会の時はフィールドに結界のような物が張られていた。確か効果は死ななくなるだったか。こっそり拷問結界と名付けていたのを覚えている。

 どうやら今回は、それの簡易版ってことらしい。朝から先生方が走り回っていたのは、この道具を集める為と調整のためらしい。

 この道具の結界能力は、闘技大会で使われていた拷問結界ほどある意味安全性が高いものではないが、結界外への魔法の衝撃を防ぎ、生徒たちを戦闘の余波から守ることが目的のモノのようだ。

 要は、俺と常闇様に安全策は何もないってことだな。まあ、ただの試合だから、殺し合うつもりは無い。けど、俺のサイディッシュって、基本的に当たればただじゃすまない武器だし、少し心配かも。

 相手がA+の上に、どんな攻撃を持っているのか分からないから、こっちも加減してる余裕があるか分からないしな。

 とっさの動きで首跳ねちゃったとか洒落にならんぞ。


「先生、こっちの安全策はどうなってるんですか?」

「王宮お抱えの医者が来る。設備も馬車で最高級の物を持ってくるらしいぞ。一体いくら掛かってるんだか」

「おお、それなら安心か?」


 デイゴで見た医療技術は相当な物だったしな。王宮お抱えって事なら、デイゴで見た医療技術と同レベルを期待しても良いかも。

 けどやっぱり首が飛んだらアウトっぽいし、それは気を付けておこう。

 あと、最後に確認だけしたいな


「先生、この結界ってもう張れる?」

「ん? ああ、一応張れるぞ」

「ならどんなもんか試してみたいんだけど、張ってもらっていいですかね?」

「試し打ちか。確かに実験は必要かもしれんな」


 カジール先生は何か考えるように顎に手を当てた後、他の場所で道具の点検をしている先生に声を掛けた。


「先生! 少し結界の耐久実験をしたんだが良いだろうか? 道具自体をいじっているのだし、安全を確認するには越したことがないと思うんだが!」


 その問いに、遠くの先生が頭上で大きく丸を作った。つまりOKってことだろう。


「では魔法回路を起動させてくれ!」


 そう言いながら、カジール先生は手元の道具に付けられたスイッチを入れる。すると道具の表面に魔力回路が浮かび上がり、等間隔に設置された他の道具へと光を繋いだ。

 それはすぐに他の道具へと伝播し、一瞬にして校庭をぐるっと囲む光の円が出来上がる。それはまるで、地面に巨大な魔法陣を描いているようにも見えた。

 完全に円がつながり、キーンと高い音が校庭に響き渡る。すると一瞬まばゆい光が校庭を覆い、薄い膜を作る。その膜は、最初は黄色が混ざっていたが、すぐに無色透明に変わる。

 それを見て、カジール先生は満足したようにうなずいた。


「よし、起動は成功したな。後は強度の問題だが、理論通りに上手くいっていると良いのだが」

「何か変えたのか? 少しいじったって言ってたけど?」

「ああ、この魔法道具はこの校庭を囲む程度なら普通はこんなにもいらないんだ」


 校庭に設置された道具の数は、全部で30。カジール先生は、普通に使うだけなら、この数の半分で十分だと言った。


「なら、数を増やして結界の強化をしたってことか?」

「まあ、理論上はそうなんだが……なにせ魔法回路が入っているからな。色々調整が必要だったんだ。魔法科学科の先生が頑張って改良してくれたから、何とかなっていると思っているがな」

「だからテストか。なら俺も結構力入れてぶつけた方が良いな」

「ああ、そうしてくれ。実際、戦闘の余波に耐えられなければ意味が無い」

「了解。じゃあちょっと離れててくれ」


 カジール先生を結界から遠ざけ、俺は右手を結界に向ける。使う魔法はすぐに決めた。そう、炎弾だ。あのドームを破壊した威力を防げるのなら、戦闘中に壊れることは無いと予想する。


「星示せ、火竜の炎弾。ファイアボール!」


 簡単に放たれた炎弾は、まっすぐに結界へと衝突し、激しい爆発を起こす。

 衝撃が伝わり、結界をびりびりと揺さぶるが、結界は罅1つ入ることなくしっかりと耐えきった。

 外でその光景を見ていた生徒たちは、いきなり俺が放った炎弾に驚き、一斉に逃げていたが、結界がそれを防いだとみると、その場で立ち止まってその光景を見ていた。


「大丈夫そうだな」

「ああ、しかし相変わらず凄い威力だな」

「まあ、俺だからな。そう言えばこの結界物理攻撃も防げる?」

「ああ、魔法と同じ威力までは防げるはずだぞ」


 おお、それは万能。ぜひ旅のお供に欲しいですね。高いだろうけど。

 そう思いながら、俺はおもむろに結界に歩み寄る。そして腕を引き、結界に向けて振り抜いた。

 ドンッと激しい音がして、先ほどの炎弾と同じ程度に結界が揺さぶられる。しかし、同じように罅は入らなかった。


「完璧だな。俺の拳でも割れねぇや」

「……お前本当に人間か?」

「おう、っと来たようだな」


 振り返り口を開けたまま固まるカジールの背後に、ミラノの姿が見えた。そしてその隣には、噂に聞いていた漆黒の衣装をまとい、綺麗な黒髪を流す女性がいた。

 その姿はまさしく常闇。なるほど、確かにあの姿なら常闇のルリーって分かるわ。

 ルリーの登場に合わせるように、学校中から歓声が上がる。ルリーはそれに答えて、小さく手を振りながらこっちに歩いてきた。

 結界をいったん止めて、ルリーとミラノを中に入れる。


「トーカ様、お待たせしました」

「こんにちわトーカさん。今日はよろしくお願いします」


 丁寧に頭を下げるミラノとルリー。その行動と言葉づかいに、俺は驚かされる。雰囲気まで完全に別人だからな。


「お前、本当にあのルリー?」

「はい、キティー・リューリン、私の事ですよ。昨日は私が大変ご迷惑をおかけしました」

「あ、いや、別にいいけど……」


 全く別人のルリーに、どう対応すればいいのか困惑してしまう。


「トーカさんの困惑も分かると思いますが、昨日の私も今の私も私であることに変わりはありませんので、気にしないでください」

「それにしても変わり過ぎだろ」


 この変わり方のレベルは、もはや別人。二重人格や、実は他人でしたって言われても「あ、やっぱり?」で対応できるレベルだぞ。


「それの秘密は試合中にでも分かりますよ。それではいつから試合を始めますか? 場所の準備などもあると思いますが?」

「場所なら先ほど完成しました。こちらはいつでも試合が始められる状態です。後は、王宮の医療スタッフが到着すればすぐにでも」


 カジールがこちらの現状を説明する。そして、医療スタッフがまだのため、そのスタッフの到着と準備が整い次第試合が開始させることになった。

 それまでは、俺もルリーもお互い適当に体を動かしてアップすることになる。

 まあ、俺の方はさっきからずっと動かしてるし、いつでも行けるんだけどな。

 と、言うことで、俺は体を冷やさない程度に動きながら、ルリーのアップを見学させてもらうことにする。

 単純に、どんなアップをするのか気になるのもあるが、毒使いがアップする必要があるのかという疑問もあるのだ。

 そう思いながら見ていると、ルリーは柔軟体操を始める。

 ミラノに手を貸してもらいながら、体をぐりぐりと解していく。そして前屈をしたところで、ルリーと目があった。


「どうかしましたか?」

「体柔らかいんだなって思ってさ」


 ルリーは特に辛そうな表情をすることも無く、前屈の状態でぴったりと手が地面に付いている。

 その状態で俺と目が合ったと言うことは、ルリーは股の間から俺を見ている訳だが、その状態になるには、必然的に俺に尻を向ける必要がある訳で――

 形の良い尻がしっかりと現れているのである。まあ、スパッツのような物を穿いているため、体操服を着ているのとあまり変わらないのだが、普通にワンピースのような物の影から見える姿が、そこはかとなくいやらしい。

 昨日宿の食堂で、堂々と自分が処女なんて語っていた人物とは思えないいやらしさだった。

 それを見ていると、視線に気づいたのか、ルリーがフフッと小さく笑う。そして体を起こすと、自分の尻を手で隠すようにして言った。


「あまりじっと見ないでください。恥ずかしいです」


 その表情は、まさしく乙女。頬を赤くし、体をよじる姿に、校庭にいた男子どもからため息が漏れ、女子たちから男子に向けて殺気が上がる。

 そして俺には、校舎側から強烈な怒気が飛んできた気がした。

 そちらを見れば、校舎の窓からフィーナの姿が何とか確認できる。たぶん笑顔だ。ある意味の笑顔だ。


「凄い子ですね。私も殺気を感じましたよ」


 俺が慌てていると、ルリーが驚いた表情で言う。


「おう、俺もびっくりだ。いつの間にあんな殺気出せるようになったんだ? 鳥肌立ったぞ」


 袖をまくり、腕を擦る。


「母は強しと言うものではないですかね? お子さんがいらっしゃるのでしょう?」

「ああ、フランか。そう言えばフィーナに迫力が出るようになったのってフランと会ってからだな」


 それ以前から、怒っている時は怖かったし、戦闘でも結構な実力を持っていたが、それでも迫力と言うか、オーラと言うか、その辺の存在感のような物はいまいち強くなかった。

 どちらかといえばか弱い方だっただろう。

 しかし、フランと会い一緒に旅をしているうちに、なんだか俺が尻に敷かれるようになってる気がする。


「いいお母さんじゃないですか。幸せなんですよ」

「だと良いな」


 何となく目線でフランの姿も探す。午後はパーティーがあると言っていたが、もしかしたら見に来ているかもしれない。

 1年生の教室を適当に見てみると、男子の姿が多かった。やはり女子はこの手の物には興味が薄いのだろう。だからこそよく分かった。窓の1番良いところに陣取る、赤い髪の少女のことが。


「お子さんがいましたか?」

「おう、こりゃカッコいいところ見せてやらないとな」


 そう言いながら、俺はフランに向けて手を振ってみる。すると、フランは飛び跳ねながら嬉しそうに手を振りかえしてくれた。その光景に、フランの周りの生徒たちが驚いている。

 うん、なんだかんだ言ってフランも俺の影響を受けてる気がするな。しっかり周りを驚かせることが出来てる。

 属性も2属性持ちって話だし、こりゃ将来が楽しみだ。

 そんなことを思っていると、ミラノのもとに白衣を着た男が駆け寄ってきた。そして何かを耳打ちすると、ミラノが1つ頷きこちらを見る。


「医療班の準備が整ったようです。そろそろ試合を始めましょう」

「ようやくか」

「フフ、楽しみですね」


 サイディッシュを肩に担ぎ、俺はルリーを真っ直ぐに見つめる。

 ルリーもそれに対するように、真っ直ぐに見つめ返してきた。


「お互いいい試合をしようぜ」

「ええ、お互いが成長できますように」


 俺とルリーは1つ握手を交わし、ミラノの指示に従って、距離を取った。


 俺とルリーが対面し、その間にミラノが立つ。


「では結界をお願いします!」


 ミラノの声で、魔法道具のそばにスタンバイしていた教師達が一斉にスイッチを入れた。それに伴い、校庭が光に包まれ、一瞬の後に結界が張られる。これで俺達の戦闘に外の生徒たちが巻き込まれることは無くなったわけだ。

 結界が発動したのを確認すると、ミラノは俺達の間から下がり距離を取る。いくら騎士とはいえ、A+どうしの戦闘に巻き込まれればただでは済まない。ミラノは結界の1番端まで移動すると、手を上げる。

 その手が降ろされた時、俺とルリーの試合は始まるのだ。


「これより、A+ランク冒険者常闇のルリーと、狂呀のトーカの試合を始めます! 審判はカラン騎士のミラノが務めさせていただきます! ルールは一本勝負、負けを認めるか、意識不明になった時点で相手が勝者となります! 両者問題ないですね?」

「はい、問題ありません」

「ああ、大丈夫だ」


 俺達が頷くのを確認する。


「では――――試合、始め!」


 勢いよく、ミラノの腕が振り下ろされた。


次回、ルリーVSトーカ


ワードが変に記憶してるせいでーが-になってるところがあるみたいですね。あれば報告お願いします。

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