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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
カラン合島国・学院編
115/151

114話

 授業を終え、宿に戻ってきた俺は、フィーナ達に今日あったことを話す。


「ね、トーカの仕業じゃなかったでしょ」

「うん、くやしい」

「なにが?」


 どこか誇らしげなフィーナと、悔しそうにうつむくフラン。

 一体何がどうなってんの?


「今日のライトは、私もフランちゃんももちろん知ってますよ。あれだけ派手に照らしてれば、学校にいれば嫌でも分かります。ただ、それをやったのがトーカかそうじゃないかでフランちゃんと意見が別れましてね」

「フランは俺がやったと思ったわけか」

「それで私は違うと思ってたので、勝負してたんです」


 なるほど、それで悔しいなのか。そこはかとなくバカにされてる気がするが、今は気にしないでおこう。


「だから言ったでしょ。トーカじゃあんなに綺麗に魔法は使えないんですよ。トーカなら、たとえライトだろうと校舎を壊すか、山を削るか、海を割るかするはずですからね」

「うん、今度からは気を付ける」

「ちょっと待て。それはあれか? 俺が魔法を使えば必ず何かぶっ壊れると言いたいわけか?」


 フィーナ達の会話に待ったをかける。てか、フランも気を付けなくていいからな。俺そんなに物騒な事ばっかりしてるわけじゃないからな!


「何かおかしいですか?」

「?」


 2人とも、お願いだから「何当たり前の事言ってるんだ」みたいな顔でこっちを見るのは止めてくれ!


「俺だってやろうと思えば安全な魔法だっていくらでも使えるんだぜ? そりゃ、ちょっと危ない魔法もあったりするけど、それが悪目立ちするだけであって、常にぶっ壊す魔法を使ってるわけじゃない。魔力探査だって、俺が考えた魔法だってこと忘れてない?」

「ああ、そう言えばそうでしたね」


 今思い出したと言わんばかりに、フィーナは手をポンと打つ。

 ちきしょう、完璧に忘れてやがったよこいつ。

 そもそも、俺が魔法で何かを破壊するのは、大抵の場合が仕方がなくやってることだぞ。強力な魔物とか、敵とかが現れた時しか使ってないはずだ。

 盗賊程度なら、しっかり抑えた魔法とか、そもそも魔法すら使わずに戦ってることだって多々ある。

 魔法が強すぎて忘れられがちだが、俺の身体能力は魔法が無くても石壁ぐらいなら壊せる能力あるんだぞ?


「とにかく! 俺はそんな物騒な魔法ばっかり使ってるわけじゃないんだから、フランに変な事を教えないでくれよ。フランは、今の感性のままがちょうどいいんだからさ」


 巨大な魔法があったから、俺が発動させたと思った。うん、ちょうどいいぐらいだよな。

 それより問題は今日現れた謎の女のことだよ。


「あの女、どうすっかな。きっと明日も来るだろうし」

「断ればいいじゃないですか。別にいきなり襲ってくる訳じゃないでしょ? 体験入学も明日までですし、それが終わればこの島からまた離れるでしょうし」

「それもそうか。けど気になるのは、やけに俺の情報に詳しかったんだよな」


 経歴程度なら、ある程度は割れているだろうが、氷海龍と戦った情報も、不確定ながら握っていた。

 そうなると、かなりの情報収集能力があることになる。

 つまり、何か大きな組織がバックに付いている可能性も否定できないのだ。そうなると、カランにいる間、悪ければカランを出てからも付きまとわれかねない。

 あいつの御守り役みたいに、カランの騎士が付いてたのも気になるよな。あれってつまり国が関連してるってことの可能性も十分あるもんな。

 まあ、たまたま友人が騎士をやっているだけって可能性もあるけど。


「じゃあいっそ体験入学が終わったら戦うって条件を提示しちゃえばいいんじゃないですか? 戦いたいって言うなら、戦うけど、時間と場所はこっちが指定するぞみたいな」

「うーん、それも手か。そうすると場所がなー。学院は貸してくれないだろうし」


 あの惨状を見た後で、俺が戦いたいから校庭貸してとか言っても、絶対拒否されるだろ。そうなると、どっかの無人島でやるしかなくなる。

 面倒なんだよな。

 相手は色々はっちゃけてたけど、突然襲い掛かってこなかったから、ある程度常識はあるだろうし、街中で襲ってくることも無いと思うし。


「うーん……」


 フランがうつらうつらと船を漕ぎ始める。

 そろそろいい時間だしベッドに移動させようかと思ったところで、部屋の扉がノックされた。

 目線でフィーナが出ると言って来たので、俺はそのままフランを抱いてベッドへと運ぶ。


「はーい」


 フィーナがそのノックに応えて扉へ向かう。


「トーカさんにお客さんです。キティーという方で、騎士の方をお連れです。今は下の食堂に待たせていますが、お会いしますか?」


 聞こえてきた声の、タイムリーすぎる来客に、思わず咳き込みそうになる。フランが起きるといけないので、それをグッと押さえて、俺は寝室にフランを寝かせた。


「ちょっと待ってください、トーカに聞いてみます」


 寝室から戻ってきた俺に、フィーナが問いかける。


「噂の女性が来たみたいですけど、どうします? 騎士の方も一緒みたいですけど」

「うーん、あの騎士の人が一緒なら大丈夫かね」


 きっちりあのお転婆を抑え込んでたみたいだし、落ち着いてる人っぽかったもんな。会話するなら、あの人とになりそうだし、いるならあって見ても良いかもしれない。今会わなけりゃ、どうせまた明日学院に来るんだろうしな。


「会ってみるわ。フィーナはどうする?」

「もちろん一緒にいきますよ」


 そうだと思ってた。

 と、言うことで、俺たちは従業員に会うことを伝え、食堂に降りて行った。


 俺達が食堂の中を覗き込めば、すぐにその2人のいる場所は分かった。目立つんだよな、あのピンクいフリフリの服。それと騎士甲冑の組み合わせって異色すぎるだろ。周りの客も気になって仕方がないって感じだし。


「あの人ですか……たしかに面倒くさそうですね」

「だろ。でも行くしかないんだよな」


 食堂の中に入ると、ピンクい方がすぐに気付いた。


「やっと来たわね!」


 少女は俺に気付くと、すぐさま立ち上がり指を指してくる。


「ここであったが百年目よ! 私と勝負しなへぶっ!」

「お呼び立てして申し訳ありません。少しだけ話しを聞いていただけないでしょうか?」


 少女の頭を強引に抑え、テーブルに押し付けた状態のまま、騎士が落ち着いた声で言う。うん、やっぱりこの騎士が少女のストッパーを務めているらしい。


「おう、その前に自己紹介と行こうか。おばちゃん、こっちに果実水4つ」

「あいよ」


 カウンターにいたおばちゃんに声を掛けて、俺とフィーナは2人がいるテーブルに着いた。


「改めて初めまして。私はカラン騎士のミラノと申します。こっちのがキティー・リューリンです」

「初めまして。フィーナと申します」

「漆トーカだ。つっても、そっちは知ってるんだろうけどな」

「はい、色々と調べさせていただきました。まあ、そのせいでこの子がこんなことになっちゃってるんですけど」


 ミラノは席に着いて尚、しっかりとキティーの頭をテーブルに押さえつけている。キティーは手の下でもごもごともがいているが、力が違うのか、ビクともしない。


「今日のお昼はこの子がご迷惑をおかけしました」

「いや、特に何も無かったから気にする必要ないぜ。何か起こる前に止めてくれたみたいだしな」

「できることなら、あんな馬鹿デカいライトを打ち上げるのも阻止したかったのですが、力及ばず。まったく恥ずかしい話です」

「まあ、行動力は人一倍ありそうだしな」


 キティーは何とか抜け出そうと、腕を引っ掻いたり、机を叩いたりしている。しかし、騎士は全く気にした様子無く、腕に込めた力を一瞬抜くと、すぐにまた力を戻す。

 力が抜けた瞬間、キティーはガバッと顔をあげようと力を入れ腕が浮かぶ。しかし、すぐに戻った力のせいで、額をテーブルにしたたかに打ち付けられていた。


「ミラノ……痛い……」

「なら騒がないでください。ここは私たち以外にも他にお客様がいます。その方たちに迷惑をかけるようなことは許しませんよ?」

「はい……」


 小さな声でキティーは返す。それを聞いて、ミラノはやっと手を離した。

 その瞬間、キティーがテーブルに飛び上がり、上から俺を指差す。

 うん、こいつ全然分かってないな。


「漆トーカ! この私がここまで来てあげたんだ、か……ら……」


 キティーは最後まで言葉を言い切ることなく気を失った。そしてテーブルの上にガタッと崩れ落ちる。

 その背後には、危険なオーラを放ちながら、鞘付きの剣を振り下ろした姿のミラノがいた。


「まったく、この子は」

「あ、あの大丈夫なんですか?」


 白目を剥いて泡を噴くキティーの姿に、フィーナは若干心配になる。


「はい、この程度ではどうにもならない子ですから。それでお話しの続きなのですが――」


 ミラノは何事も無かったかのようにキティーをテーブルの上からどかし床に寝かせると、話しを戻してここに来た理由を喋り出した。


 だいたいの説明を聞き終えた頃、俺のコップに入っていた果実水は完全になくなっていた。


「なるほど、つまり国お抱えのこの子が、俺に興味を持って戦いたいと言って来たと。その上こいつは、1度決めると他人の迷惑顧みず突き進むと……本当に迷惑な奴だな」


 床に寝ているキティーを見下ろしながら、ため息を吐く。


「けど、なんで周りは止めねぇンだよ。もし俺があの場で相手するって言いだしたら怪我じゃすまないぞ?」


 国のお抱えってことは、結構強いんだろうけど、それでも所詮はお抱えレベルである。

 本気で強い連中は、シグルドのように近衛騎士になったりと、重要な役職に据えられるものだ。それが無く自由に動けている時点で、実力は知れているはずである。

 それなのに、A+でしかもかなり情報を手にいている俺に勝負を挑む。無謀も良いところだ。普通なら周りが縛ってでも止めるべき行動だろう。


「実力の事を心配されているのでしたら問題ありません」


 騎士は突然そんなことを言い出した。

 その言葉に、俺とフィーナも目を丸くする。

 A+冒険者の上に、闘技大会優勝、邪神級とも戦った可能性ありの存在に対して、実力の面では問題ないと言えるような相手は、片手で数えきれるほどしかいない。てか名前あげられる。

 極星の勇者、雷帝フェイリス、爆炎ドラグル、常闇のルリー、邪神連中。うん、ぴったり5本だ。


「ほら、そろそろ寝たふりは止めなさい。自分のことぐらい自分で言いなさいよ」


 騎士はそう言って、横になっているキティーの頬をつま先でつつく。かなりぞんざいな扱いなのだが良いのだろうか? 実力的に俺とタメを張る相手なんだろ?


「あらら、ばれちゃってるわ。さすがミラノね」

「トーカさんも気付いてましたよ。ただ面倒くさいから触れなかっただけです」


 俺の感情までしっかりバレてる……


「う……まあいいわ。あたしのことを教えてあげる。聞いて驚きなさい。私の名前はキティー・リューリン、カラン貴族の中でも大金持ち(元は)の家系に生まれた、超絶美少女(外見だけは)のカラン合島国秘密兵器(醜聞的にできれば使いたくない)のって! ちょっとミラノ! なんでさっきから変な事付け加えて来るのよ!」


 絶妙なタイミングで「ああ確かに」と言いたくなるような絶妙な合いの手を入れてくるミラノに、キティーが怒りを露わにする。

 しかし、当のミラノはすまし顔で果実水をおかわりしていた。


「とにかく! その正体はカラン合島国に仕えるA+冒険者、常闇のルリー様よ!」


 ババンッとでも後ろでカラフルな煙が爆発しそうな勢いで、キティーはいささか主張の足りない胸を張る。

 その声は食堂全体に響き渡り、その場にいた客が一斉にその声の発生源に顔を向ける。そして「いや、ねぇよ」といった顔ですぐに自分たちの会話に戻って行った。


「そうか、常闇のルリーかー。それなら確かに、実力的には問題ないかもなー」

「そうですねー。じゃあ、そろそろ部屋に戻りましょうかー」

「そうだな、話しも終わったみたいだし」

「ちょ!?」


 俺とフィーナが席を立とうとしたところで、ルリーが慌てる。そして胸元をごそごそと探し始めたかと思うと、1枚のプレートを取り出した。


「これ見なさいよ! 私が本物の常闇のルリーだって証拠なんだから!」


 面倒くさいが、仕方がなくプレートを見る。

 それは俺が持っているギルドのプレートと同じものだった。そしてしっかりとA+の文字が掘り込まれている。


「はぁ……マジでこいつがルリーかよ。聞いてたイメージと全然違うぞ」


 生徒たちの話によれば、ルリーは漆黒の髪に漆黒のドレスを纏い、令嬢のように綺麗な微笑を見せる女性だと聞いてたんだけどな。

 目の前の現実とはまるで別人だ。あいつらこれのどこをどう見たら令嬢に見えるんだ?


「それは国のイメージ戦略です。こんな子がA+冒険者で国で1番強いとか言われても、信じたくないでしょう?」

「だから秘密兵器?」

「はい」


 ミラノは大きくうなずく。


「ミラノさんも苦労してるんですね」

「フィーナさんも多少は苦労しているようですが」

「けど私は好きでやっていますから」


 フィーナが照れくさそうに言う。それを聞いて、俺の頬も若干熱くなるのを感じた。


「あらあら、お熱い事ね! いまだに処女の私に見せつけちゃって!」

「そう言うことを大声で言うからモテないんですよ!」


 ガンッと音がして、再びキティーが倒れる。ミラノがまた剣で殴ったのだ。


「それでお願いがあります。このバカと試合をしていただけないでしょうか?」

「マジでやるの?」


 すごく面倒くさいです。学院が終わったら依頼も受けたいのに、試合とかして怪我したらどうするんだ。


「相応の報酬ももちろん用意させていただきます。それとカラン全島で使える割引券などいかがでしょうか?」

「トーカ、頑張ってくださいね」


 フィーナが1発で落ちた。


「あ、はい」


 そして笑顔で手を掴まれては、俺に断わる手段は皆無だった。


 その後、ミラノとどこで試合をする、何時からするなどを話し合った結果、場所は学院の校庭を借りることになった。

 俺的には設備関連が心配なのだが、この戦闘で出た被害は全て国が負担すると言うことで、了承した。

 そして試合の日時は明日の午後、授業が終わった後に行うことになった。これは生徒たちに高レベル魔法使いどうしの戦いを見せて勉強させるためらしい。


「では私たちはこれで失礼します」

「漆トーカ! 明日を楽しみにしているわよ! 私の期待に応えて頂戴ね!」


 怒涛の勢いでやってきて、怒涛の勢いで去っていくキティー。うん、本当にイメージ戦略って大事だわ。

 つくづくそう思いながら、俺とフィーナは部屋に戻った。


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