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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
カラン合島国・学院編
112/151

111話

三部程度の構成と言ったな。あれは嘘だ!

と、言うか書いてみたら予想以上に多くなっちゃいましたね。

 レランの宿でのんびりと過ごし、俺たちは予定通り朝7時半に学院の前に来ていた。

 そこにはすでに何人もの子供と、その親が来ており、賑わいをみせている。

 学院の門の横に、受付らしきものが簡易で作られていた。俺たちはそこに向かう。


「すみません。体験入学を希望したものですが」

「おはようございます。希望学科とお名前を伺ってもよろしいですか?」


 長机を置いただけの簡単な受付には、OLのような女性がいた。

 その女性は、にこやかに尋ねてくる。


「魔法科希望の漆トーカ、家庭技能科希望のフィーナ、普通科入学前コースのフランです」

「はい、ありがとうございます。少々お待ちください」


 そう言って、女性は手元の名簿から俺達の名前を探していく。

 そしてそこにチェックを付けて、横に置いてあった袋を俺達に渡してきた。


「こちらが体験入学に必要な道具となります。3日間使いますので無くさないようにお気を付けください」


 俺とフィーナには、それぞれ服が入っていそうな大きさの紙袋が。フランには、それより少し小さめの物が渡される。

 特に袋の口は閉じてないので、それとなく中を確認してみれば、そこには懐かしい感じのする教科書が入っている。そして筆記用具用として使うのだろう、インクとペンも入っていた。


「この後時間になりましたら係りの者がそれぞれの学科ごとに呼びにまいりますので、それまで少々お待ちください」

「分かりました」「はい」「うん」


 それぞれに頷いて受付を離れる。するとすぐに受付に次の人が来て、資料を貰って行った。

 俺たちはそれを背後に見ながら、適当な場所で立ち止まる。


「楽しみですね」

「そうだな。フランの袋は何が入ってるんだ?」

「えっと」


 フランが袋の口を開き、中を確認する。俺とフィーナもそれぞれ上から覗き込むようにその中身を見た。

 中には1冊の薄い本と、ペンとインク、それから運動で使うのだろうか縄跳びが入っている。子供用に調整してあるためか、どれも小さめだ。


「フィーナのは?」

「私のは、エプロンとか入ってますね。後は料理のレシピ本とかですかね?」


 さすが家庭技能科。エプロンは基本装備らしい。

 しかし、家庭技能ってことは掃除とか洗濯もやるんだよな? 3日で終わるのか?


「トーカのは普通ですね」


 俺の袋の中身を覗き込んだフィーナが、どこかつまらなさそうに言う。

 フランは微妙に背が届かなく、ぴょんぴょんと跳ねながら、袋の中身を覗き込んでいた。


「まあ、魔法科だからな。魔法に道具っていらないし、教科書とペンがあれば十分なんだろ」

「まあそれもそうですね」


 俺の言葉にフィーナが納得したところで、門の所に先ほどとは別の女性がやってきた。


「お待たせいたしました! これより普通科・入学前コースの皆様の案内をさせていただきます。対象のお子様は私の前に集まってください!」


 その女性の言葉に、すぐに何人かの子供たちが動き出す。

 フランは少し不安そうだが、俺が「楽しんで来いよ」と言ってやると「行ってきます」と言って駆け出して行った。

 それだけで門の前に集まっていた人たちの3分の2が集まってしまう。付添いの親御さんも結構いるようで、一緒に集まって門の中に入って行ってしまった。

 すると、途端に先ほどまで賑わいを見せていた門の前が寂しくなってしまう。どこか風も強くなった気さえする。

 そして次に呼び出しがかかったのが、家庭技能科だった。家庭技能科の体験入学者は3名だけらしく、名指しで呼び出されていた。


「では行ってきますね」

「おう、頑張ってこいよ」

「美味しいご飯を作れるようになって帰ってきますよ」


 フィーナは、袋を持って呼び出した教師の元へと歩いて行った。

 そして何度か色々なコースの呼び出しがあった後、最後に残ったのは2名。

 俺ともう1人の、俺と同い年ぐらいのポニーテールの女の子だった。どことなく着ている衣装が冒険者を思わせる。

 2人だけになると、どちらともなく相手のことが気になってしまう。

 俺がちらちらとそちらを伺っていると、その女の子と目があった。その表情はどこか強張っているようにも見える。


「もしかしてあんたも魔法科?」

「もって事はあなたも?」

「おう」


 どうやらその女の子も、魔法科の体験入学者だったようだ。

 その女の子は、俺も同じ学科の体験入学生だと分かると、ホッとしたように息を吐き笑顔になった。


「そっか、よかった。1人だったらどうしようかって、ちょっと不安だったんだよね」

「俺もだわ。ツレと一緒に来たけど、ツレは別の学科行っちゃったしな」

「そうなんだ。あ、私はサーニャ。一応冒険者やってる」

「俺はトーカだ。奇遇だな、俺も冒険者だ」

「その恰好見れば1発で分かるよ」


 俺の恰好はいつも通りのズボンにTシャツ、ハーフコートと言う格好だ。そしてトレードマークのサイディッシュをしっかりと背負っている。


「まあ、そりゃそうか。しかし、冒険者で魔法科の体験入学なんて、珍しいな。まあ、俺が言えることじゃないかもしれんけど」

「私魔法がどうしても上手く出来なくてね。今までは剣技で何とかやって来たけど、そろそろ厳しくなってきたんだよ。だから魔法が少しでも出来る様になればと思って受けることにしたんだ」

「今ランクなに?」


 そろそろ厳しくなるときいて、C-あたりかと想像する。


「やっとC-になったところ。ランクアップ試験が、魔法なしじゃ辛すぎてね」

「なるほどな」


 納得するようにうなずいてはいるが、実際の所、俺はいきなりB-に上がってるし、その後もいきなりA+行っちゃったから苦労が全く分からない。


「そっちのランクはなんなんだい? ここ受けるぐらいだからやっぱり私と同じぐらい?」

「まあ、そんなところかな?」


 何となくA+ってのは黙っておいた。何かそれを言うと、気安く話せなくなる気がしたのだ。まあ、A+ってのはそれだけネームバリューがあるし、隠しても良いよな。

 あと気分的に実力隠して入学ってかっこよくね?


「属性も聞いていいかな? 私は3等星の火属性なんだけど、どうも火力がしょぼいんだよね。その辺りこの学校でどうにかできたらいいとは思ってるんだけど」

「俺は炎属性の1等星だな。何かアドバイスできることがあったら言うぜ」

「それは助かる。3日間よろしく」

「おう、よろしく」

「お待たせしました! 魔法科の方、こちらまでお願いします!」


 がっしりと握手を交わした所で、魔法科担当の先生がやってきて俺達を学院の中へと誘導した。


 案内された教室の中には、すでに生徒たちが座っている。みんな同じ制服を着ており、その上からローブを羽織っている。あのローブが魔法科を示しているのだろうか?

 俺とサーリャはとりあえず廊下に待機。先生が説明をして、俺達が教室に入るという転校スタイルを取るようだ。

 先生が説明をする中、サーニャは廊下で緊張からかガチガチに固まっている。今歩いたら同じ方の手と足が同時に出そうだな。


「サーニャ大丈夫か?」

「あ、ああ、もちろん大丈夫だよ! 冒険者だからね。これぐらいの緊張どうってことないひゃ」

「うん、大丈夫じゃないな。ほれ、とりあえず深呼吸」


 サーニャが俺の合図に合わせて息を吸い吐き吸い吐き、何度か繰り返す。


「ふぅ……ありがとう。少し落ち着いた」

「そりゃよかった」

「じゃあ二人とも入って来て」


 ちょうど先生から声が掛かる。


「んじゃ行くか」


 俺がドアに手を掛け横にスライドさせる。ドアは何となく懐かしい重みを伴ってガラガラと開いた。

 中には40人程度の生徒がいる。その視線は今全て俺に向かっていた。

 向かって右手には黒板、異世界でも黒板は普通にあるらしい。教師はどこか面白そうな表情でこちらを伺っている。

 俺はゆっくりとしたペースで歩みを進め、教卓の横ぐらいで足を止め座っている生徒たちの方に向き直る。

 その横にサーニャも同じように並んだ。


「トーカ君と、サーニャさんだ。3日間だけだがお前たちと一緒に勉強することになる。トーカ君から自己紹介をお願いできるかい?」

「はい。初めましてトーカと言います。まだ初めて半年程度しか経っていませんが冒険者をやっています。加護の星は――言う必要あります?」

「どちらでもいいよ。どうせ実習になればすぐに分かることだしね」

「じゃあ秘密で」


 サーニャには1等星の炎と伝えてあるが、ここは隠しておこう。それにしても先ほどからの教師の視線と意味ありげな言葉。

 どうも俺がA+冒険者だって知っているような気がする。知っていて、あえて生徒たちに教えていないような。

 なら、俺も隠させてもらおう。その方が面白そうだ。なんせ俺が冒険者だと言った瞬間、俺のことを馬鹿にするような目線が何個か飛んできた。

 ありゃあれだ。貴族とかぼんぼんとかそんな感じの奴の目線だ。


「次はサーニャさん」

「は、はい! サーニャと申しまふ! 私もC-ですが冒険者をやっています! 加護の星は3等星の火ですが、どうも上手く使えずに威力が出ません。ここで何かヒントを見つけられたらと思います。よろしくお願いします!」


 サーニャは緊張して、視線がやや上を向きながらも、一気に自己紹介を終える。C-ランク冒険者と言ったところで、やはり同じような視線が飛び、魔法を上手く使えないと言ったところで、僅かだが嘲笑うような声が聞こえた。

 まあ、魔法科なんて言うぐらいだから、魔法が得意な奴とか好きな奴が多いだろうし、そういう反応があるのは予想出来ているが、やっぱりいい気分じゃないな。

 同業ってことを抜きにしても、頑張ってる奴を笑うやつは好きになれない。


「二人は後ろの空いてる席に座ってね。場所はどっちでもいいから」


 先生の指示に従い、俺たちは後方の空いている席に座る。ちょうど並んで空いているし、俺たち用に準備していてくれたのだろう。


「じゃあ、早速授業を始めようか。最初は基礎魔法学からだ」


 ホームルーム後はそのまま1時間目に突入するようだ。

 俺とサーニャは紙袋の中から基礎魔法学二と書かれた教科書を取り出し、勉強の姿勢に入った。


 1時間目の基礎魔法学の授業を終えた感想。なんというか非常に懐かしい。

 授業の内容は無属性魔法の種類や、等星による威力の違いなんかがメインだったが、やっていることは教科書の内容を教師が黒板に書き、それを俺達がノートに取っていくという、現代と同じことだったのだ。

 そのおかげで俺はなんとも懐かしい空間を思い出すことが出来た。

 全員が教科書や黒板を見ているかと思えば、たまに生徒どうしておしゃべりをする。外をむいてボーっとしている者もいる。

 ノートを書いているように見せかけて、実は漫画を描いている者もいた。

 後ろからだとその授業風景がよく見える。

 そして昔通っていた高校もこんな感じだったなーと思っていたら、あっという間に1時間目が終わってしまったのだ。

 そして教師が教室を出て行ったとたん、生徒たちが俺達の方向へ一気に向かってきた。


「トーカって言ったよな?」

「サーニャさんだよね?」

『冒険者って今までどんな依頼受けた?』


 俺達が冒険者だと言った時から、その事を聞きたくて仕方が無かったのだろうか。俺達を見る生徒の視線が輝いていた。

 その視線にサーニャは若干怖がっているようにも見える。


「俺は魔物の討伐とか、採取系の依頼が多いな」


 魔物は基本2等星級、採取も危険が伴う物ばっかりだったが。


「私は護衛と採取をメインにやってたわ」

「あれ? 二人ってペアでやってたんじゃないんだ?」

「ああ、俺達は今日ここでたまたま会っただけだしな」

「なーんだ」


 一部残念だと言うような声が上がる。もしかしたら恋愛関連で盛り上がれるかもしれないと思った連中なのだろう。心なしか女子が多かった気がするし。

 そして、俺達がそれぞれ関係ないと分かれば生徒たちは俺とサーニャそれぞれに質問するためか二手に分かれた。

 サーニャ側には数少ない女子が全員と、一部の男子生徒(多分サーニャ狙い)が。そして俺の方には、血気盛んそうな男子生徒が集まる。

 そして遠巻きに俺達を見るなんともプライドの高そうな一団が1つ。


「なあ、魔物ってどんな奴倒したことがあるんだ?」

「そうだな、長い蛇みたいなやつとか、デカいイノシシみたいなやつとかか。無駄に硬くて家とかぶっ壊してくの」

「マジか! それってジルコルじゃねぇのか!?」

「ああ、それそれ」


 すっかり名前を忘れていた。初めて討伐した魔物って確かあのジルコルだよな。いや、フェリールがいたか。けどあれ討伐出来たって話すのは不味そうだしいいか。


「あれ魔法効きにくいんだよな。どうやって止めたんだよ? やっぱ岩にぶつけたのか?」

「建物に突っ込んでスピードが落ちたんだよ。そこに剣突き刺して傷口から魔法で中身を炙ってやった」

「えげつねぇことするな」

「焼肉の良い匂いがしてたぜ」


 俺の話を面白そうに聞く生徒たち。カランでは子供が冒険者になって魔物を倒すと言うことはまずないのだろう。

 なら、実際に倒したことのある奴は意外と人気者になれるのかもしれない。

 俺の隣では、サーニャが女子たちから色々と質問されている。


「サーニャさんは護衛とかしてたんだよね? やっぱり盗賊とかが襲って来るの?」

「襲撃はあんまり無いかな。商人の人とかもなるべく安全な道を通るから。それより夜中に魔物とか動物が襲ってくるのが辛いのよ。眠いし、肌荒れるしで」

「あーそれキツそう。私も冒険者やろうかなって思ってたけど、やっぱり魔法師団志望にしようかな?」

「うそ、カーナ冒険者志望だったの!?」

「だって冒険者ってかっこいい人多いじゃん」

「そっか、カーナはおっさん好きだったわね」

「おっさん好き言うな! 私はダンディーでワイルドな人が好きなのよ!」

「あはは、確かにそれなら冒険者は多いかもね。彼みたいな子は私今まで会ったことなかったし」


 サーニャの視線は俺に向かっていた。確かに同年代って冒険者であんまり見たことねぇな。大抵が年上だったし。

 まあ、それを言うなら同年代でしかも女子のサーニャの方が希少価値は高いけどな。


「お前ら席に着け。授業始めるぞ」


 短い休憩時間は、おしゃべりをしているとすぐに終わる。

 それはどうやら、異世界の学校でも変わらないようだ。




 フィーナやトーカより一足先に教室にやってきたフランは、そこで3日間のクラスメイトと顔を合わせる。

 教室まで来るときは、親が一緒だった子も、教室では親から離れて、あらかじめ決められていた自分の席に座っている。

 親は教室の光景を待機用に設けられた別の部屋から魔法で見ていることが出来るのだが、それは子供たちには知らされていない。

 フランを含めた子供たちは、どこか緊張した面持ちで先生が来るのを待っている。

 そこで、フランは隣の子から肩を叩かれた。


「ねえねえ、名前なんて言うの?」

「ん? フラン。あなたは?」

「わたしはカミナ。よろしくね」

「うん、よろしく」


 簡単なあいさつだった。しかしそれは隣の席の子へと次第に伝播し、先生が教室に来るころには自然とクラス中で自己紹介が始まることになっていた。

 そして先生が来たことで、その自己紹介もいったん止まり、全員が先生を注目する。おとなしい子が多いように見えるのは、女子の比率が多いからだろう。


「みなさんおはようございます」

『おはようございます!』


 元気のいい声と共に、フランの学校は始まった。


 1番目の人から順番に自己紹介をするという、さっきまでの自己紹介タイムはいったいなんだったのかと言いたくなるようなホームルームを終え、フランたちは保健室へとやって来ていた。

 そこには布で簡単に仕切られた場所が作られており、先生曰くその中で魔法適正の診断を行うのだと言う。

 それを聞いた全員の心が浮足立つ。

 なにせ、これまで大人たちだけが使い、年上の子たちが自慢げに見せてきた魔法を自分も使えるようになるのだ。楽しみにならない訳がない。


「じゃあ、名前を呼ばれた子から順番に来てくださいね」


 先生の指示にしたがい、やはり名簿の最初の子から呼ばれていく。

 そしてフランたちの見えないカーテンの向こう側から、やったーと言う元気な声が聞こえてきた。

 そしてその直後には勢いよく、さっき入って行った子が笑顔で飛び出してくる。

 よほどいい加護が付いていたのだろう。

 それを皮切りに次々と適性診断は行われていく。

 フランは名簿的に言えば中間ぐらいに当たる。まだ先には10人以上の生徒が診断をワクワクとしながら待っていた。


「ねえフランちゃん」

「なに? カミナちゃん」

「フランちゃんはどんな魔法が使ってみたい?」

「どんな魔法?」


 フランが最初に思いついたのは、フィーナが良く使っている氷の魔法だ。

 その魔法を使って、必要な分の水を調達している。次に見るのがトーカもフィーナも使っている魔力探査の魔法。しかし、これは使っているのを見たことがあるだけで、どのような効果があるのか分かっていない。

 そして最後に、自分を牢屋から助けてくれた地属性の魔法。最初見た時は怖かったが、今ではそんな印象もどこかに吹き飛び、ただかっこよかったと言う印象が残っている。しかし、自分で使ってみたいとは思えなかった。


「とくにないかも」

「えー」


 フランの答えに、カミナは不満げに声を上げる。


「わたしはね、お水の魔法使ってみたいんだ! それでお花にいっぱいお水あげるの!」


 カミナの母親は家庭菜園をしていた。そしてその農園を手伝っていたカミナには、母が魔法で水をやる姿がとてもかっこよく見えたのだ。


「できるといいね」

「うん!」

「次フランちゃん!」

「はい!」


 フランの名前が呼ばれ、フランは足早にカーテンの先に向かう。

 そこには男性が1人と、先ほどの先生がいた。

 そしてそこに置かれた小さなテーブルの上には、何やらキラキラ光る光の玉2つがある。


「じゃあこの玉に手を乗せてね」

「はい」


 言われるままに、先生が指を指した方の玉に手を乗せるフラン。

 すると光の玉が発光し始めた。それを真剣な目で見つめる男性。


「ふむ、等星は2等星ですね。なかなか優秀です」

「2等星っと、じゃあ隣の玉に触ってみて」


 先生は、ボードにフランの等星を書き込みながら言う。

 フランはその指示に一度頷いて、隣の玉にも手を触れる。

 すると今度は色の付いた光が出る。

 その色は片側に黄緑より薄い緑色。そしてもう一方に金色が光っていた。

 それを見て、男は目を見張る。先生も、どこか呆然とした面持ちでそれを見ていた。

 いつまでたっても何も言わない2人に対し、フランはどうしたものかと悩んだ結果、玉から手を離すことにする。

 すると、すぐに光は無くなり、元の透明なガラス玉に戻ってしまった。

 光が消えたことで、男が我に返る。


「こ、これは……2属性の適正」

「フランちゃんが2属性使い……なの?」

「もう1度触って見てもらっていいかな?」


 男性教諭の指示に1つ頷き、フランはもう1度玉に手を触れる。そして先ほどと同じように2色の光が現れた。


「そのようだな。これは親御さんに報告を」

「分かりました。授業後、親御さんたちに連絡をしておきます。じゃあフランちゃん。フランちゃんは2等星の風と雷の属性を持っているってことを覚えておいてね」

「はい」


 フランはよく分からないまま、カミナの元へと戻っていった。


「フランちゃんどうだった?」

「たぶんいい感じ。2等星って言ってたし」

「すごいじゃん! お父さんが2等星って沢山はいないって言ってたよ!」


 しかし、フランの知っている大人としては、実の両親こそそれほど強くは無かったが、今の両親は2人とも1等星だ。要はフラン以上に凄い人が半分もいるのである。


「そうなのかな?」


 一般との感覚の違いから、フランはただ首を傾げることしかできなかった。




 フィーナは一緒に体験入学する人たちと自己紹介を兼ねた談笑していた。


「じゃあシホさんとツーチさんはお知り合いなんですか?」

「と言うより幼馴染ね。同じ町で育ったし」

「そうね。そしてなぜか性格も似ちゃったと」


 シホとツーチ、外見は全く違うのだが、話し方や笑い方、細かい仕草などがなぜか良く似ている。

 外見以外なら双子と言われても、疑問は持たないだろう。


「それで私たち二人とも、家事が壊滅的だったのよ……」

「おかげでもらってくれる人が全然いなくてね……」

「だからここに来たと」

「なにがなんでも上手くなって、シホより先に結婚するの!」

「絶対に私がツーチより先に結婚するわ。上手く行けばここで相手見つけられるかもしれないしね!」


 この世界において15はそろそろ結婚を考えてもいい年だ。

 そして2人とも今年で15になると言うことで、多少の焦りが出始めていたのだ。

 フィーナはまだ13の上、しっかり彼氏もいる為そのような危機感を感じたことは無かった。しかし、もし父親と今だ一緒に行商をやっていたら、同じように焦り始めていたのかもしれない。


「フィーナさんは家事とかできるの?」

「はい、一通りは出来ると思いますよ」

「ならなんでここに?」

「もっと美味しい料理を食べてもらいたい人がいるんです」


 少し恥ずかしそうに、頬を染めて話すフィーナ。その食べて欲しい相手はトーカとフランの2人なのだが、それを知らない2人には完全に惚気にしか見えなかった。


「聞きましたツーチさん。この子彼氏持ちですよ!」

「聞きましたわ、シホさん。これが持つ者の余裕と言うやつですよ!」

「え? 別にそういう訳では……」

「だまらっしゃい!」

「この3日間で絶対フィーナさんより上手く家事が出来るようになってやる!」

「え、えー……」

「3人とも入って来てください」


 よく分からないライバル意識を持たれたフィーナは、困惑しながら教師に呼ばれ家庭技能科の教室へと入って行った。




「まま!」


 フィーナが教室でその声を聞いたのは、ちょうど昼の休憩に入った時だった。

 その声につられて教室の扉を見れば、そこには教師に引率されたフランが立っている。

 教室は突然の訪問者に困惑していた。


「まま?」

「誰の子?」

「このクラスに子持ちなんていなかったわよね?」

「まさか誰かの隠し子とか?」

『なに!?』


 最後の反応は3人しかいない男子生徒の反応だった。

 フィーナはとりあえず大事になる前にと席を立つ。その行動に、一緒にいたシホとツーチはぎょっとした。


「え!?」

「うそっ!?」


 シホの手が自然とフィーナに伸びる。しかしその手がフィーナを掴むことは無く、ただ虚空を仰ぐだけだった。


「ちょっと行ってきますね。フランちゃん!」


 驚き固まる2人をしり目に、フィーナはきょろきょろと自分の姿を探すフランに声を掛ける。


「まま!」


 その声に反応して、フランがフィーナの方を向く。そして目を輝かせた。

 引率の教師から手を離し、フィーナの元へと駆け寄ってきたフランを、フィーナはその場でしゃがんで正面から受け止める。


「どうでした? 学校は楽しかったですか?」

「うん!」


 優しくフランの頭を撫でるフィーナ。

 フランは、今までの寂しさを埋めるように、フィーナの肩に頭をこすり付けていた。

 そのたびにフランのふわふわとした赤い髪が揺れ、フィーナの頬をくすぐった。


「うそっ? フィーナさんの子供?」

「あの子、もう子供がいたの?」

「てか旦那誰よ!」

「くそうっ……フィーナさんが人妻だったなんて……」


 クラスの反応はおおむねこうだ。ただフィーナも予想していたため、特におどおどする様子はない。


「フィーナさん。ちょっとお話しがあるんですが良いでしょうか?」

「あ、はい大丈夫です」

「ではこちらへ」


 フィーナはフランと共に、廊下へと出る。廊下にはまだ人が少ない。

 そして教師の後に続いて行くと、廊下の突き当たりで足を止めた。そこまで来ると、完全に人の姿は見えなくなる。


「フィーナさん。落ち着いて聞いてほしいんです」

「なんでしょう?」


 教師の深刻な表情に、フランの事で何か問題が起きたのではないかと不安になるフィーナ。


「さきほどフランちゃんの魔力適正の審査を行いました。その結果がこちらになります」


 教師が差し出してきた1枚の用紙。そこには簡潔に等星と属性が掛かれている。

 その属性の場所を見て、フィーナは目を見開く。


「これは、本当なんでしょうか?」

「はい、判定水晶をつかいましたので、間違いありません。フランちゃんは2属性持ちです。不安になるかもしれませんが、フランちゃんの性格を考えれば、たとえ2属性持ちであっても悪い方向には進まないと思いますので、落ち着いて向き合ってあげてください。最初は力に振り回されることもあると思いますが、怖がらないで頂けると――」


 教師は、フランが2属性持ちと言うことで、一般常識から悪い方向へと考えを巡らせていた。

 2属性持ちは、昔からある物語のせいで、悪の象徴とされることが多い。そのため、2属性持ちを子供に持つ親は、その子供を捨てようとすることがあるのだ。

 闘技大会でシグルドが2属性持ちであることを明かし、その性格から多少はイメージを払拭したからと言って、根付いたものは簡単には変わらない。

 教師が心配したのはそこだった。だからこそフィーナを落ち着かせるために必死になったのだ。だがそれは、無用の長物だった。


「ああ、それは大丈夫ですよ」


 フィーナはあっけらかんとした表情で答える。


「2属性持ちだからって、私がフランちゃんに対して態度を変えることはありません。フランちゃんが力に溺れそうになっても、しっかり導いてくれるパパがいますから。まあ、フランちゃんならそもそもそんなことにはならないと思いますけどね」


 そう言って手を繋いでいたフランの方を見れば、フランも大きくうなずく。

 あまりにも平然と受け入れたフィーナに、教師の方が驚いた。


「本当に大丈夫なんですね?」

「ええ、大丈夫です。むしろ2属性持ちだなんて、誇れることですよ。さすがトーカの娘ですね。フランちゃんは」

「うん」


 フランもどこか誇らしげにうなずいた。


 わざわざ伝えに来てくれた上に、心配までしてくれた教師に礼を言い、フィーナはフランを連れて2人のもとに戻ってきた。


「その子、フィーナさんの子供なの?」

「そうですよ。私が生んだわけでは無いですけどね」

「え? じゃあ養子?」

「そうですね」


 3人の会話を聞いていたクラスメイトたちは、その言葉を聞いて一同にホッとする。


「じゃあ旦那さんは?」

「彼氏はいますよ。 今は彼氏と一緒にフランちゃんの親をやってます」

「もしかして食べさせたい子って」

「もちろんフランちゃんと彼氏です」


 満面の笑顔で答えるフィーナ。


「この子完全に新妻やってるわ……」


 その様子に、2人はただ呆れるしかなかった。




 昼の休憩を終え、家庭技能科は裁縫の勉強に入っていた。

 今日のテーマは枕。日頃から良く使い、消耗も早い物だからこそ、自分である程度補修できるようにするための授業だ。

 そのために用意されたのは、学生寮からかき集められた使い古された枕達。

 汗染みができ、綿もへたって枕自体がぺしゃんこになってしまっている物や、綿が減ってしまっている物。中には破れてそこから中身があふれ出している物もある。

 教師は山のように積まれたその枕を指差しながら、言い放った。


「今日の授業は、この枕を自分で使えるまで修復してもらいます」


 その課題に、クラス中からブーイングが上がる。当然だ、誰が使ったのかも分からない、謎の染みが出来た枕など、誰が使いたいと思うものか。

 だが、それこそが教師の狙いだった。


「確かにこの状態の物では使いたいとは思わないでしょう。しかし、これを自分でも使っていいと思えるレベルまで修復出来たのならば、それは他人にも使わせられるレベルの物が出来たと言うことです。他人に使わせるのに、まさか自分が使えないような物を与えたりしませんよね? つまりはそう言うことです。分かったら全員始め! 終わらないと今日の授業は終了しませんよ?」


 教師の言葉を聞いて、生徒たちはいっせいに枕に駆けよる。

 まずは自分が直す枕選びからだ。女子生徒たちが群がって枕を睨むその光景は、まさしく現代のバーゲンセールを思わせる。

 そのため、男子生徒は完全に蚊帳の外だった。

 そしてこの雰囲気に乗り慣れていないフィーナ達も、枕を囲む生徒から少し離れた場所にいた。


「どうしましょう? このままじゃ良いのは全部取られちゃうわ!」

「私たちも突っ込みましょう! そうすれば少しは良いのが狙えるはず!」

「私はちょっと……遠慮しておきますね。フランちゃんも怖がっちゃってますし」


 フランは、フィーナのスカートをギュッと握りしめたまま、獣となって枕を漁る女性徒たちを見て震えていた。


「確かにあれは怖いわよね」

「気付いたらぼろ雑巾になってるかも」

「私やっぱりやめとくわ……」

「私も……」


 結局フィーナ達3人と男子生徒たちは、ある程度女子が枕を選び終え、空いたところで数少なく、かつ争奪戦でボロボロになった枕達から、少しでもマシな物をと必死に選ぶのだった。


 事件が起こったのは、そろそろ授業も残り半分になり、生徒たちが焦り始めるころだった。

 突然ドゴンッと大砲が打ち出されるような音と共に、窓ガラスがガタガタと揺れた。

 最初はみんな地震だと思った。しかし、その衝撃が地面を揺らすことは無く、一瞬で収まったのだ。

 みんなが何事かと外を見れば、そこには真っ赤な火柱が天に向かって伸びている。

 そしてその発生源は、学校の行事や体育などで使われる訓練ドームだった。


「何あれ!?」

「爆発!? それとも魔法!?」

「ばーか。魔法であんな大きい火柱上げれる訳ないじゃん。どうせ魔法道具の試作でも爆発させたんでしょ」


 一部の女子生徒が、その柱を見ながら何が原因かと話し合う。その様子は、とても火柱が上がっている状態とは思えないほど穏やかだ。


「え? でも今って魔法科があそこ使ってるんじゃ?」

「そうなの?」

「うん、お兄ちゃんが今日は午後からドームで実技やるって言ってたし」

「そう言えばあんたの兄貴魔法科だったわね。カッコいいんだっけ?」

「身内贔屓も含めて、中の上ってとこかしらね」

「あら手厳しい」


 女子生徒たちの会話を聞いて、フィーナは確信する。

 フランの方を向けば、フランも何か納得したようにこくこくと頷いていた。

 つまりフランの勘が当たったのだろう。


「ねえ、フィーナさん。今彼氏あそこにいるんでしょ? 大丈夫かな?」

「シホ、馬鹿な事言うんじゃないわよ。不安になるだけでしょうが!」

「あ、ごめんフィーナさん」


 不味い事を言ったかと、シホは不安げにフィーナの顔を見る。しかし、当のフィーナはケロッとしていた。


「ああ、トーカなら大丈夫ですよ。と、言うよりあれの原因多分トーカですし」

「ぱぱならやりかねない」

「あら、フランちゃんそんな言葉どこで覚えたんですか?」

「ぱぱが言ってた。俺ならやれるって」

「後でトーカには折檻が必要ですね」


 チラッと火柱を見ただけで、後は普通に枕の修復に戻るフィーナ。そして何事も無かったかのようにフィーナの手元を見るフラン。

 その2人の様子に、シホもツーチも、話しを聞いていた他のクラスメイト達も、ただ唖然とするしかなかった。


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