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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国キクリ編
11/151

10話

 廊下を少し進み、そこで立ち止まる。


「魔の領域から来た冒険者ってリリウムだったんだな。別れた後すぐにこっちに出発した感じか?」


 まだ2週間もたっていないのだ。かなり急がなければここまで来れるような時間ではないはずだ。


「そうだ。トーカがキクリを拠点にしていると言っていたからな。君のことをもっと知りたいと思ったんだ。そうしたら自然と体が動いていたよ」

「ふーん。で、実際あった気分はどうよ?」

「よく分からん、と言うのが正直な感想だな。フェリールを倒したときに見たような強さを今のトーカからは感じられない。確かに今でも気配には機敏だし、そこらへんの魔物や盗賊、冒険者なら相手にならないようだが、あの時よりかは比べ物にならないほど弱くなっている」

「そりゃそうだ。あの時は急いでたし本気出してたからな。常日頃から本気出すほど荒れてねえよ」


 そんな周りを威嚇しながら我が道を行くような人生は送っちゃいないぜ。伊達に地球で16年間も隠して生活してきた訳じゃねえからな。


「なるほどな。だが、これほど違いがあると少し驚くぞ」

「そうなんかね。俺はあんまり実感が湧かねぇな」

「本人は自覚なしか。恐ろしいな。いや、逆に言えばそれほどでなければフェリールを殴り殺すことなど不可能か」


 リリウムのその言葉で思い出した。


「そういやあフェリールの話題で変な噂が流れてんだけど知ってる?」

「変な噂?」

「そう、なんか俺が現地にいた冒険者を囮にしてその隙に倒したとか、現地の冒険者が倒したフェリールの素材を横取りしたとか」

「なんだその噂は! 私は正しくすべて伝えたぞ!」

「じゃあ、そん時の言葉を再現できるか? そうすりゃあなんでこんな噂が流れたか分かるかも知んないし」

「私は直接ギルドマスターに面会を求めてそこで話した。内容はトーカと名乗る新人の冒険者がフェリールを拳1つで殴り倒したことと、それを私がそばで見ていたこと。そしてトーカが必要な素材しか取らずに帰ったから、他の素材を偶然通りかかった冒険者が回収する可能性があることだ」


 分かった。明らかに最後のが原因だわ。


「なるほどな。つまり誰かがリリウムとギルマスの会話を盗み聞きして、その時に〝素材を通りかかった冒険者が回収〟と〝もう1人いた冒険者の存在〟を混同して、俺がもう1人の冒険者から素材を奪ったってことになったんだろうな。ゴシップの生まれた経緯なんてこんなもんか」

「なるほどそういうことか。しかしどうするのだ? 1度広がった噂はなかなかつぶせないぞ?」

「もちろんほっとくさ。人の噂も75日ってね」

「なんだそれは?」

「噂なんて75日もほっとけば勝手に消えるってことだ。その間どれだけ言われようが後には残らんから関係ねえし。まあ、本気でやばくなったら、この町出て別の町にでも行けばいいしな」


 そろそろ他の町も見てみたいしな。ある程度金も入ったことだし、そろそろ別の町に移動しても良いかもしれない。フェリールの件と、今日のジルコルで俺がかなり話題に上がることは予想できる。ランクアップ試験を受けたら町を移動しようかね。

 フィーナあたりに相談して、次行く町を決めておいたほうがいいかもしれない。


「ここに拠点があるわけではないのか?」

「いや、ここには一時的に来てるだけ。家なんか持ってねぇし、今も宿生活だ」

「そうだったのか。てっきりキクリを拠点にしていると言っていたから、ここに家があるのかと思ったぞ」


 話しながらギルドの1階に降りる。すると周りの冒険者たちの視線が俺たち2人に集中した。

 これは完全に噂が広まってるな。上がってる噂3つのうち信憑性があるのが横取りだけだってのが面倒くせぇな。


「トーカはこの視線に2か月半も耐えるのか」

「ハハ、ちょっと厳しいかも。ランクアップ試験終わったら町移動すっかね」

「私もそれがいいと思うぞ。近々大きな商隊の移動があるし、それについて行ってみてはどうだ?」

「へー、そんなもんもあるんだ。護衛の依頼とかも出るのか?」

「ああ、すでに依頼の募集は始まっているぞ。私もそれには参加する予定だしな」

「どこまで行くの?」

「王都だ」

「そりゃ面白そうだ。期間が合えばぜひお供したいね」

「試験の進み方次第だろうな。B-のランクアップ試験は1日で終わるようなものではないからな」

「なら今のうちから受けちまうか」

「それも手だと思うぞ」


 視線は一向に俺たちから離れない。仕方ないのでその視線を受けながら受付に向かった。もちろんハルちゃんの場所だ。


「ハルちゃんちょっといい?」

「あ、トーカさん。どうしました? と言うより大丈夫でしたか!?」

「問題なかったよ。そんでさ、俺のランクアップ試験が受付に来てるはずなんだけど、今から受けようと思ってな。この視線を受け続けるのは地味にキツイわ」

「あはは、分かりました。確認しますので少しお待ちください」


 ギルドカードをハルちゃんに渡して俺はリリウムとの会話に戻る。てかリリウムはいつまで付いてくる気だ?


「リリウムは今日どこに泊まるか決まってんのか?」

「ああ、すでに止まり木に宿を取ってある。あそこは女性の冒険者でも安心して泊まれるからな」

「なら同じ場所か。晩飯でも一緒に食うか?」

「そうだな、お供しよう。もちろん誘うのだからおごってくれるのだろ?」

「バカ言え、止まり木の飯は前払いだろ」


 冗談を交えつつ談笑していると、少しずつ視線が外れてくるのが分かる。


「これで少しは楽になるだろ?」

「このために付いて来てくれてたのか?」


 リリウムと仲良く話している。それだけで俺の信用度は上がるのだろう。それはそれだけリリウムが冒険者たちに信頼されている証拠でもある。

 A-の冒険者だとは聞いていたが、それ以上にすごい部分があるのかもしれないな。


「お待たせしました。確認が取れました」

「おう。で、どんな依頼なんだ?」

「こちらですね」


 ハルちゃんが依頼用紙を差し出してくる。それを受け取って見るとリリウムも横から俺の紙を覗き見る。それに合わせるようにハルちゃんが説明を始めた。


「今回のランクアップ試験は採取系の依頼になります。採取の対象はマンドラゴラ。ここから3時間ほど歩いた先にある森の中に生える魔物の1つです。これを5本収穫していただきます」

「マンドラゴラか」


 リリウムが眉を寄せながらその名前を呟いた。

 地球にも同じような名前の植物はあったな。空想上の物だけど同じような感じなのかね?


「マンドラゴラってそんな眉しかめるほど厄介なもんなのか?」

「そうか、トーカは初心者だったな。普通マンドラゴラの採取はB-かC+の依頼だから分からないか。マンドラゴラは魔物の生息する森の中にある根菜のよう魔物だ」

「生き物なのか?」


 確かに俺たちの世界のマンドラゴラも生き物っちゃ生き物だ。まあ輪切りしても中身大根と同じだったし、叫ぶ植物ってイメージが強かったけど。


「ああ、植物のように地中に埋まっているが、分類上は生き物になっている。特徴はやはりその声だろうな。地中から引き抜くと鼓膜を破壊し、脳を揺さぶる声を出すんだ。それを聞いて冒険者をやめることになった者達は大勢いる。討伐系ならトーカならば楽だったろうに残念だったな」

「トーカさんに採取系の依頼を出したのは偶然ではないと思いますよ。おそらく戦闘は問題ないから他の部分が大丈夫か見るために採取系にしたのでしょう。公共事業も今日受けてましたから」

「そう言うことか。口を挟んですまなかったな」

「いえいえ、リリウム様に説明していただけるなんて光栄なことですから」


 ハルちゃんもリリウムを信頼してるんだな。てか若干信頼を超えた感情がある気がするんだけど、もしかしてそっち系?


「では説明を続けさせていただきますね。マンドラゴラの採取に期限の制限はありません。しかしマンドラゴラが生きてることが成功の条件となりますのでお気をつけください」

「マンドラゴラってどうなると死んだことになるの?」

「基本的に生気がなくなったら死亡と判断されます。目安は頭に生えている葉っぱが黄色く変色してきたら死んだと思っていただければ大丈夫です」

「それ以外なら何しても大丈夫?」

「基本的に大丈夫ですが、トーカさんは常識から激しく外れていますから、なるべくことを荒立てるようなことは止めてくださいね」


 ハルちゃんににっこり笑顔で釘を刺されてしまった。まあ、問題起こしまくってるからな。仕方ないか。


「マンドラゴラはここに届ければいいのか?」

「いいえ、ギルドの裏庭にある畑に届けてください。そこで庭師がマンドラゴラを判断しますので、そこで5匹のマンドラゴラに異常がないと判断されれば庭師から依頼達成の書類が渡されますから、それを私たちのところに持ってきてもらって依頼完了。ランクアップとなります」

「了解。ちなみに成功報酬は?」

「マンドラゴラ1匹に付き1万チップ。依頼の達成報酬が5万チップになります」

「フェリールと比べるとずいぶん安いな」

「あんな化け物と一緒にしないでください! あれは準備に大量のお金をかけて、仲間と綿密な計画を立て、完璧な準備をして挑んで、初めて成功するようなものなんです!」

「そうだぞトーカ。フェリールは別物だ」

「そうなんか。まあ、しゃーないか。了解、早速明日からマンドラゴラ探してみるぜ」

「健闘をお祈りします」


 依頼の受領が完了したギルドカードを返してもらい、ギルドを出た。

 そしてそのまま止まり木に帰っても良かったのだが、晩飯の時間まではまだ少しある。

 そこで俺はリリウムを武器屋に誘った。


「武器屋か。そういえばトーカは武器らしい武器を1つも持っていなかったな」

「まあな。下手な剣振るより殴った方が威力強かったし、金も無かった。フェリール倒してずいぶん余裕ができたから、いい加減サバイバルナイフ以外の武器も必要かと思ってね」

「いるのか?」

「威嚇にはなるだろ? 丸腰の相手と武器を持った相手、見た目で襲ってくる相手を躊躇させるには武器を持ってる方が良いに決まっている」

「なるほど、けん制か」

「さっきの感覚じゃ何人か闇討ちしてきてもおかしくない感じだったからな」

「なに!?」


 ギルド内での視線の中に明らかに異質なものが2、3混じっていた。あれは噂の本人を見ようとかそういう目線ではない。おそらく何が事実か知っていてそれゆえに俺を殺せば強さのアピールになると考えているバカな連中の目線だ。

 目線は俺に向けられていたからリリウムは気づかなかったんだろうな。あんな視線を向けられれば普通ならリリウムでも気づけるはずだ。


「てなわけで武器が欲しいんだ。予算は100万チップで」

「トーカ……」

「ん? 足りない?」


 異世界の武器の相場なんて知らんし、これだけあればまともな武器が買えると思ってたんだが違うのか? ゲームなんかじゃ1本10ゴールドの剣とかあるから100万だせばそれなりのもんが買えると思ったのに。


「いや、十分すぎる。それだけ出せばそれなりの名剣や名槍が買えるぞ?」

「マジ? ならもう少し減らしても良いかな? 皆が使うような武器っていくらぐらいすんの?」


 リリウムを連れてきてよかった。危うくムダ金を使うところだったぜ。金はあるとはいえ冒険者、突然どんなふうに金が必要になるかわっかんねえからな。


「一般的な冒険者が持っている剣が私のような騎士剣で1本20万チップぐらいだ。けん制に使いたいのなら30~40万チップのものを持っていれば大丈夫だろう。ちなみに私の今持っている剣は60万チップしたものだ」


 案外良い剣使ってたんだな。フェリールの時にあんまり切れてなかったから普通の剣と思ってた。よく考えてみりゃ、A-の冒険者が普通の剣を装備してるわけねえよな。


「そんなもんか。そうだ、俺が持つんならどんな武器が良いかね?」

「そうだな、フェリールを殴り殺せるだけの力を持っているのだし、かなり大きな剣を持っていても大丈夫そうだが、邪魔になりかねない。逆に細い剣でスピードを出してもいいが、それだと大型の魔物には意味がなくなる。この辺りは武器屋で実際に振って違和感が少ないのを選ぶべきだろうな」

「そんなもんか。でさ、1つ聞きたいんだけど」

「なんだ?」

「武器屋ってどこ?」


 そこでリリウムが歩みを止めた。

 俺も少し歩いたところで、それに気づき振り返る。


「どったの?」

「知らずに歩いていたのか?」

「リリウムが知ってると思って」

「私はキクリにはあまりいたことがない。だから店は詳しくないぞ?」

「え? そうなの? てっきりこのあたりのことなら知ってると思ってたんだけど」

「……」

「ハハッ……近くの人に聞くか」


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