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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
カラン合島国・フラン編
108/151

107話

 翌朝。3人で朝食を取る。

 フランはいつも通り元気だ。むしろ今日は村に行けるからいつもより元気だろう。

 フィーナも表面上は楽しそうにしゃべっている。しかし、表情のどこかに陰りが見える。

 目元も赤みはすっかり引いているのにそう感じるのは、かなり我慢していると言うことだろう。

 俺たちはいつもよりゆっくりと朝食を取り、宿を出た。


 3人で手をつなぎ、自由船乗り場へと向かう。フランが真ん中で俺が右、フィーナが左のこの並び方もいつの間にか当たり前のものになっていた。


「この先が自由船乗り場だぞ」

「お船たのしみ!」

「船ならここに来るときも乗ったろ?」

「小さいお船の方がすきなの!」


 どうやらフランは大きな周回船よりも、ボートのような自由船の方が好きらしい。


「どこが好きなんだ?」

「えっとね、こう水しぶきがばしゃんってなるところ!」


 フランはそう言いながら手を一生懸命に広げて、ぴょんぴょんと跳ねながら波しぶきを表現する。その姿は大喜びで両手を振り上げている様子にしか見えない。

 そう言えば昨日も水しぶきが何回かかかって来たな。波が砕けるときにどうしてもかかってしまうらしい。

 こればかりはどれだけ熟練しても回避が難しいとか船主が言っていた。自分も10年以上自由船の船主をやっているがいまだに避け切ることが出来ないのだとか。


「フランちゃんは水がかかるのが好きなんですか?」

「ん?」


 フランが首を傾げた。それにつられてフィーナも首を傾げる。


「違うんですか?」

「水がばしゃんってなるのが好きなの!」


 なるほど、水が砕けてはじける瞬間が好きだったのか。それを間近で見られるから自由船の方が好きってことなのか。

 確かに俺も子供のころは海面に手を付けて水が割れるのを見てるのとか、石を投げ込んで水しぶきが飛び上がるのが好きだった気がする。

 まあ、普通の子供とは違って、海面は実際に1メートルぐらい割ってたし、石は岩って言ってもおかしくないのを投げ込んでたけど。


「そう言うことか。今日も見れると良いな」

「うん!」

「自由船乗り場が見えましたよ。あんまり混んでないみたいですね」


 自由船乗り場の列は昨日の2分の1程度しかない。回転の速さから考えればほとんど待たずに順番が回ってくるだろう。

 昨日は時間が仕事の出勤とか登校の時間と被ってたから混んでたのかね?

 今は出勤も登校も終わった時間だし、移動してるのは買い物の主婦とかがメインになるのか? けど主婦がいちいち買い物に自由船を使うとは思えないしな。

 てか、一家に1台ボートとか持ってるのか? そうじゃないと移動代がかかりすぎる気がする。


「カランって一家に1台ボート持ってたりするのか? 買い物とかの度に自由船使ってたらきりがないよな?」

「確か持ってたはずですよ。船は馬車と違って場所もあまりとりませんし安いですからね。場所によっては自作している村もあるんじゃないですか? そういう船専用の停泊所もあるはずですし」

「やっぱそうなのか」

「私のおうちもお船あったよ」

「フランの家もあったのか」

「うん、たまにお母さまが乗せてくれたの」

「そうだったのか。また乗せてくれるといいな」

「うん!」


 フランの頭を撫でながら、自由船の順番を待っていると、すぐに順番は回ってきた。


「お待たせしました。どうぞ」

「3人だけど大丈夫?」

「もちろんですよ。この船は6人まで1度に乗せて運べますからね! まあ私も含めてなんで5人ですけど」


 へへへと気のいい笑みを浮かべる船主だった。


「どこに向かいましょう」

「ロズルカ村って分かる?」

「すみません。今地図出しますんで」


 やはり村の名前だけではなかなか分からないらしい。昨日の船主はリク島と言っただけで島の場所が分かっていたようだが、あれも長年の経験のおかげと言うやつなのだろう。今日の船主は見たとことろまだ20代前半みたいだし、分からなくても仕方がないかもしれない。

 船主が懐から出してきたのは、カランの島の位置が詳細に書かれた地図だ。

 七島や副都市島、ある程度人の行き来がある島にはすでに名前が書きこまれており分かりやすくなっているが、さすがに無人島や、小さな村があるような島の名前は書きこまれていない。

 俺は情報と一緒にもらったロズルカ村のある島、コノムル島の場所を確認しながらその場所を示す。

 ロズルカ村はコノムル島の西側にあるので、そっち側に泊まってもらうことをお願いしておく。


「分かりました。コノムル島のロズルカ村ですね。今日は少し波があるんで、船が揺れるかもしれません。なんで気分が悪くなったりしたらすぐに言ってください。近くの島に泊まりますんで」

「了解。フィーナ達もいい?」

「はい」「うん」

「じゃあ出発しますね」


 船はゆっくりと停泊所から離れ、海に出て行った。



「アハハハ! ザッパーン!!」


 フランのテンションが高い。当然だろう。島間の移動中、波は昨日より遥かに高く、その分水しぶきも激しく上がる。

 まあ、それに合わせて船も激しく上下するが、俺達3人は特に問題ない。


「アハハハハハハハハハハ」


 まあ、フランのテンションが若干ヤバい感じになっている気もするが。


「すみません。これでも精一杯抑えてるんですが」


 船主は申し訳なさそうにしながら必死に舵を取る。


「いやいや、いいって。フランも喜んでるしな」

「私がしっかり押さえておきますから大丈夫ですよ」


 フィーナはフランが船から落ちることが無いようにフランの服に着いた飾り用のベルトをしっかりと握っていた。

 これならいかに激しく船が揺れようとフランが1人で海に落ちる心配はない。まあ、フィーナごと落ちたら意味はないが、その時はフィーナが魔法で何とでもするだろう。

 いざとなれば俺が海を割っても、凍らせてもいいしな。水流を操るなんて手もあるし対応策はいくらでもある。


「あと少しすれば波は落ち着くと思いますんで」


 船は島と島の中間を離れ、少しずつコノムル島へと近づいていた。それにつれて海流が安定してきたのか、船主の言った通り船の揺れもだんだんと穏やかな物になってくる。

 フランのテンションもそれに合わせてだんだんと落ち着きを取り戻してきた。


「そろそろ着岸します。直前に船が激しく揺れますんで、座っといてください」

「フランちゃん」

「はーい」


 フィーナに抱かれる形で、フランが座る。

 それを確認してから、船主はゆっくりと船を岸に近づけて行った。


 海岸から村まではしっかりとした道が整備されている。まあ、島を出て他の島に買い物に行くことや、学校に行くことが当然の国だし、海岸までの道が整備されているのは当然と言えば当然だ。

 そしてその海岸の隅っこに船置き場も設置されている。

 ここに村人たちが自分の船を保管しているのだろう。


「ここおうちの近くだ!」

「フランちゃん!?」「フラン!?」


 砂浜に降りた瞬間、フランはそう言って駆け出した。

 見覚えのある場所に出て懐かしくなってしまったのだろう。村への道を一気にかけていく。

 俺とフィーナは急いでその後を追って行った。


 突然駆けだされたと言ってもまだ子供の足だ。俺達が追いつくには1分もいらなかった。

 フランのもとに駆けつけ落ち着かせようとしても、フランの興奮は収まらない。


「パパ、ママ、早く!」


 俺たちの手を引っ張るようにして強引に足を進めるフラン。

 そしてやがて家の屋根が木の影から見え始めた。

 その数は次第に増える。そして何件かの家からは煙が立っている。白い煙だし、燃えている訳でもないから料理をしているのだろう。

 つまり、ここの村に生活している人たちがいると言うことだ。

 さらに歩くと村の入口が見えた。

 入口には丸太と看板でゲートが作られており、その周りは柵が貼られている。おそらくこの柵は村を一周しているのだろう。

 ある程度大きさのあるコノムル島だと、危険な獣も少しはいるのだろう。


「フラン、この村であってるか?」

「うん! そうなの!」


 3人で村の入口を潜る。村の中に人の姿は無かった。みんな家の中にいるのだろう。

 しかし、ところどころに襲われた後が残っているな。完全に崩れてしまった家や、弓で打たれたのだろうか、扉にはそれっぽい後も残っている。

 死体や血の跡が残っていないのは幸いか。


「フランちゃんのお家はどこにあるんですか?」

「こっち!」


 フランに手を引っ張られながらさらに村の奥に進んでいく。

 そしてやがて見えてきた1件の家。2階建ての他の家とさほど変わらない大きさの家だ。

 フランの両親か、それとも村人が片づけたのかは分からないが、家の扉は無くなっており、いたるところに切り傷が見られる。

 一部黒くなっている所があるのを見ると、もしかしたら火をつけられていたのかもしれない。それでもしっかりと家の原形を残し、今もそこにあるのだから燃え広がることは避けられたのだろう。


「ここがフランの家なのか?」

「フランちゃん?」


 俺が尋ね、フィーナがフランの顔を見る。しかし、フランからさっきまでのような元気な返答は来なかった。


「フランちゃんどうしたの?」


 最初にフランの異常に気が付いたのは、フランの顔を見ていたフィーナだ。

 フィーナの言葉に、俺もすぐにフランを見る。

 

「フランどうした?」


 フランは、目を大きく見開き、家を見つめていた。そしてその口元が僅かに振るえている。


「おとうさま……おかあさま……」

「はい」「どうした?」

「おとうさまぁ……おかあさまぁ……」


 俺達が答えてもフランは反応しない。そしてフランの頬に一筋の涙が走った。

 それを皮切りに、フランの瞳からはとめどなく涙があふれてくる。

 そしてフラフラとおぼつかない足取りでフランは自らの家の中に向かって行く。

 俺たちは何が起きたのか分からずに、ただフランについて行くことしかできなかった。

 そしてフランが扉の無い玄関から家に入る。

 そこで立ち止まった。


「ぁ……ぁぁああ……ああああああ!!!!」


 瞬間、俺にはフランの中で何かがはじける音が聞こえたような気がした。




 トントンとリズムよく野菜を切り、一つの鍋にまとめて入れていく。適切な手順ならば、火に掛けながら様子を見て、適切なタイミングで野菜を順に投入していく必要があるのだが、長年の主婦経験は面倒くささを省くことを優先させていた。

 女性が盗賊によって襲われたこの村に戻ってきてから、すでに半月もの時が過ぎている。

 最近になってやっと戻ってきた人もいれば、もう戻ってこないと言って荷物をまとめて出て行った人もいる。

 その中で女性が村に残ることを決めたのは、自分の生まれた家、思い出の詰った家を手放すことが出来なかったからだ。

 現在その思い出の家に住んでいるのは女性1人だ。

 夫は盗賊に殺された。息子は幸い仕事で町に出ていたため無事だったが、盗賊の襲撃を期に、収入も安定してきたことと合わさって、ティントに部屋を借りて移り住んでしまった。

 移住の際にはもちろん一緒にと誘われたが、夫との思い出のあるこの村から出ることは、女性には出来なかった。

 暖炉に炭を1つ入れ、燃え移ったところでその炭を窯の中に移し替える。

 熱く燃えている炭はすぐに他の隅にも移り、窯の中を熱していく。

 その熱が窯上部に伝わり、コンロの役割を果たす。

 窯の上部に手をかざし、熱が伝わっていることを確認して、女性は鍋を手に持つ。

 その声が女性に聞こえたのは、その鍋をコンロの上に置こうとした直前だった。


「ぁ……ぁぁああ……ああああああ!!!!」

「なっ! なに!? 泣き声!?」


 その声に驚いて、女性は鍋を落としそうになる。手の力が抜けるのをすれすれで抑え込み、何とか地面への落下は防ぐことに成功した。

 そして鍋を元の位置へ戻すと、すぐさま玄関へと向かう。

 子供の異常なまでに悲痛な泣き声に、嫌な光景が頭の中を駆け巡る。それはほんと半月ほど前に見た光景だ。

 燃え上がる家、知人友人の叫び声、盗賊たちの怒声、その中に子供の泣き声ももちろん混ざっていた。

 そしてその声は今のように悲痛な物だった。

 またあの盗賊が来たのか。そんな恐怖が湧きあがる。

 実際はそんなことはもう無いことを知っているはずなのにだ。

 昨日の夕暮れ時、自分たちを襲った盗賊団が冒険者によって壊滅させられたのを聞いたのだ。

 それは町に仕事に出ている女性の友人からの話だったが、騎士団からの正式な発表と言うことで信頼性も高い。

 ならば今何が起きているのか。

 気付けば女性は、玄関を飛び出して泣き声の聞こえる方へと走っていた。


 最初に女性の目に飛び込んできた光景は、巨大な刃物だった。

 棒には斧のような刃物と、その反対側には棘の生えた板のような物が取り付けられている。

 それを見て、女性はとっさに足を止めて近くの物陰に隠れた。

 そしてその刃物を背負っている男を見る。

 男はさほど大きくはない。身長は160あるかないかと言ったところだろう。服装は一般人とさほど違いはなく、綿のズボンに黒い麻のコートのような物を着ている。

 その風体からは盗賊とは思えない。

 そしてその隣にいる人物に視線を移す。

 背後からは良く見えないが、白い膝丈のコートを着ているように思える。そこから覗く足は肌色が見えた。髪の長さから女性だろうと予想した。しかし、黒い男と同じように腰に小さい剣を下げている。

 そしてその2人の間から泣き声は聞こえていた。

 2人は、何やら必死にその泣き声の主に向かって言っているようだが、効果が無いのか、一向に泣き声は収まらない。

 何をやっているんだ。

 怒りにも似た感情が女性に押し寄せる。しかし経験の恐怖が、女性の足を竦ませていた。

 そして2人が困ったように顔を見合わせた時、その間から見えた少女の姿に、女性は思考を止めさせられた。

 気付いたとき、自然と足は進んでいた。


「あなたたち! 何をやっているの!」


 絞り出すように喉を震わせた声に、2人が振り返った。




 突然の声に、振り返ると女性がいた。

 年齢は40くらいだろうか。ふっくらとした体形は、どこか食堂のおばちゃんをイメージさせる。

 その女性は、顔を真っ青にしながら俺たちの前に立っていた。


「今すぐその子から離れて!」


 ヒステリックに声を上げる女性。その声に思わず俺もフィーナも後ずさる。

 その隙に女性はフランに向かって抱き着いてきた。


「あなたたちいったい何者なの!? なんでフランちゃんがここにいるのよ!?」

「おばさんフランの知り合いなのか!?」

「いいから答えて!」


 泣いているフランを胸に抱き込みながら、女性は俺を見上げて声を荒げる。

 状況が飲み込めず混乱する中、答えたのはフィーナだった。


「私たちは冒険者です。フランちゃんが盗賊に捕まっていたのを助けたので、ここまで連れてきました」

「冒、険者?――じゃああなたたちが?」

「私たちがどうかしましたか?」

「あなたたちが盗賊を倒した冒険者なの?」


 盗賊。それはこの村を襲った盗賊の事だろうか。それならば昨日アジトを潰して完全に滅ぼした所だが、その情報はこんなに早く伝わるものなのだろうか?

 分からないことが多いが、とりあえず女性は冒険者と言う言葉を聞いて少し落ち着いたようだ。今までのようなヒステリックな表情は消えている。

 しかし、まだ激しく緊張しているようで、額には大量の汗が見える。


「盗賊なら昨日俺が潰した。この島からだと5分か10分ぐらいの場所にある、リク島って無人島にいた盗賊団だ」


 俺の言葉にフィーナを見ていた女性がこちらを向く。その視線は俺の言葉が事実かどうか探っているようだった。

 だから俺はまっすぐにその視線を受け止め応える。


「本当に冒険者なのね?」

「はい。ギルドカードも持っています」


 そう言ってフィーナが自分のギルドカードを見せたので、俺も同じようにカードを見せる。

 何となく状況が飲み込めてきた。

 この女性はおそらく、俺達が村を襲った盗賊だと勘違いしていたのだろう。

 だからフランが一緒にいることに驚き、必死に助けようとしてくれたのだろう。


「ついでにユズリハの身分保証書もあるぜ」

「あ、私はデイゴの保証書があります」


 自分たちの安全性を示すために、より根拠の強い身分保証書も見せる。

 それで納得がいったのか、女性から恐怖の感情が抜けていくのを感じた。しかし問題は別の所にある。

 肝心のフランがまだ泣き止んでいないのだ。


「なあ、おばちゃんならフランがなんで泣いてるか分かるか? この家見たとたん泣き出しちまったんだ」

「私たちが宥めても全く耳に入ってないようで」


 さっきより声は小さくなったが、今だフランは女性の胸の中で嗚咽を漏らしながら泣いていた。


「あんたたちフランちゃんに家を見せたのかい!?」


 俺の説明に、おばちゃんが驚きの声を上げる。


「なんてことをしてくれたんだい! そんなことしたら泣くに決まってるだろうが!」

「何でだよ! フランが家に帰りたいって言うから連れてきたのに!」

「そうです! フランちゃんは両親に会えるのをすっごく楽しみにしてたんですよ!?」


 そこでフィーナが、自分の言った言葉に疑問を持った。


「そう言えばフランちゃんのご両親は? これだけ騒がしいのに家から出て来ないなんておかしくないですか? 扉は無いんだから、声は家の中まで届いているはずです」


 振り返った家の中は、静寂に包まれている。そんな中フランのすすり泣く声が痛ましいほどに聞こえてくる。


「馬鹿言うんじゃないよ! フランちゃんの親はこの子の目の前で殺されてるってのに! そんな場所に連れて来るなんてなに考えてるんだい!」


 おばちゃんの言葉に、俺の頭の中は真っ白になった。

 今なんて言った? フランの両親は殺されてる? しかもフランの目の前で? そんなことフランは今まで一言も言わなかった。むしろ両親が生きているような口ぶりだったはずだ。

 それはフランの嘘だったのか? そんなはずは無い。そんなことを嘘つく意味はない。それ以前に今目の前で泣きながら震えている少女が、そんな嘘をつけるようには思えない。

 そこから考えられる結論は一つ。


「フランは……親が殺されたことを忘れてたのか?」


 俺の口から洩れた言葉に、フィーナが口元を隠して涙を浮かべる。


「と、とにかくフランちゃんを落ち着かせないと――」

「こんな状態の子をどうやって落ち着かせるって言うんだい! 疲れて眠るまでは泣き続けるよ!」

「そうか、眠り。星誘いて、暖かな眠りへ(さそ)う。フレグランススリープ」


 俺の詠唱と共に、春風のような穏やかな風が流れ、どこからか花の香りが漂ってくる。その香りを嗅いだフランは、次第に嗚咽を小さくしていき、やがてそれは寝息へと変わって行った。


「今の、あんたの魔法かい?」

「あ、ああ。簡単な眠りに誘う魔法だ。自発的に眠らせるから体に悪影響は出ない」


 その分効果が弱く、心が高ぶっていたり、しっかりとした意識を持っている相手には効くまでに時間がかかる魔法だ。

 フランは大声で泣き、徐々に疲れてきていたためすぐに聞いたようだ。錯乱した心に花の香りも上手く作用したのだろう。


「そうかい。とりあえずこの子は家に運ぶよ。あんたたちもついてきな」

「すみ、ません」


 フィーナが涙を流しながら言う。

 そして俺たちはおばちゃんの後について村の中を歩いて行った。


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