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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
カラン合島国・フラン編
107/151

106話

 さすがに最後の踏み込みで、他の部屋の奴らが動き出した。

 まあ、地面揺らせば当然だよな。

 だが、この部屋で異常が起きているとは分からないらしい。とりあえず部屋から出てきて廊下でメンバーと何事かと話し合っている様子だ。

 直にこの部屋から誰も出てこないことを疑問に思うやつがいるはずだ。

 俺が侵入しているのがバレるのも時間の問題だろう。

 けど、自分からわざわざ見つかりに行く必要も無い。誰か来たらそいつを人質にして他の連中の動きを止めるのも良いし、そいつを殺してから順番に殺していくのも良いかもしれない。

 扉の影に隠れながらそんなことを考えていると、やはり1人の男が気付いた。


「おい、デルとニールはどうした?」

「まだ部屋にいるのか?」

「今の地震に気付かないはずないしな……俺が見てくる」

「おう、頼むわ」


 気付いた男が部屋に近づいてくる。


「おい、デル! 二―ル!」


 ガンガンと扉を叩くが、もちろん死んだ2人が答えることは無い。


「開けるぞ?」


 ドアノブが回され、ゆっくりと扉が開かれる。俺はその瞬間を狙って扉を開いた。

 突然開かれた扉に、バランスを崩されて男が部屋の中に飛び込んでくる。

 俺はすぐさま扉を閉めて、男の口を塞いだ。


「こんにちは盗賊さん。冒険者です」


 男は目を剥いて俺を見るが、俺の力で押さえつけられているため抵抗できない。

 そのままナイフを振り下ろし、男を殺す。

 そして外の様子を確認した。

 突然扉の向こうに消えた仲間に、驚きを隠せいない男たち。


「おいおい、馬鹿やってないで早く出てこいよ」

「そうだぞ。地震の後の点呼は義務だ。頭のルールに逆らうのか?」

「おい、お前ら!」


 いつまでたっても反応のない部屋に、次第に仲間たちが疑問を持ち始める。


「おい、なんかおかしくないか?」

「なんでカガまで出て来ない?」

「お前ら、様子がおかしい。今度は全員で行くぞ」

『おう』


 1人の声で、全員が部屋の前に移動してくる。


「武器構えとけ。念のためだ」

「開けるぞ?」


 1人がドアノブに手をかけ、緊張の面持ちでゆっくりとひねっていく。

 その時を見計らって今度はドアを思いっきり蹴った。

 瞬間、蝶番が吹き飛び、扉が男たちに向かって吹っ飛ぶ。数人を巻き込んで扉は大きく倒れた。

 それを見て呆然とする盗賊たちに、部屋から飛び出した俺はナイフを投げつける。自分のナイフではなく、盗賊たちから奪ったものだ。

 そのナイフは狙いたがわず1人の男の喉元に突き刺さった。


「な!?」


 突然の出来事に対処しきれずパニックになる盗賊たち。

 それをしり目に、俺は確実に1人ずつ殺していく。

 リーダーはすでに捕まえてしまっているため、ここに残っているのはせいぜいサブリーダーぐらいだろう。それならば誰を生かしておいても問題ない。

 最後の1人だけを生かすと決めて、俺は自分のナイフも投げつける。

 一連の流れでさらに3人の盗賊を殺し、残ったのは扉に巻き込まれた4人だけだ。

 倒れた扉を蹴りあげるようにしてどかした男たちは、俺に剣を向けてくる。

 俺はそれに対抗してサイディッシュを背中から抜き放ち、鎌を展開させた。

 キーンと音が鳴りだし火花が飛ぶと、男たちに再び動揺が走る。


「運が悪かったな。俺に目をつけられたのが運の尽きだ」


 サイディッシュを振りかぶり、横なぎに振るう。

 衝撃波が男たちを襲い、狭い通路の中で反響し、2度3度と男たちの体を殴る。

 男たちは声も出せないままその衝撃に倒れて行った。

 そして最後の1人になる。

 偶然にも味方がその衝撃の盾になって、体を殴られずに済んだ男がいたのだ。


「なんなんだ! お前は!?」


 あまりの出来事に、尻もちをつき恐怖におののく男。俺はそれにゆっくりと近寄り胸元を掴み宙に持ち上げる。


「いったろ。冒険者だ。まあ後は復讐者かね?」


 復讐は他人のためだが。


「さて、お前は騎士団に突き出すが、その前に言っておきたいことはあるか?」

「た……助けてくれ。俺たちはただ命令されて盗賊になっただけなんだ!」

「誰に?」

「ギンバイ帝国だよ! あそこが難民の俺達に盗賊になったら仕事をやるって言ってきたんだ!」


 また帝国か……なんか最近ことごとく帝国の悪事に巻き込まれている気がするな。


「その証拠は?」

「1番奥の部屋に帝国からの指令書がある。俺たちはそれにしたがってここにアジトを作ったに過ぎない! 全部あいつらに命令されてやったことなんだ! 仕方が無かったんだ!」

「ふーん。それで村を襲ったり、奴隷を売ったりしてたわけか」

「そ、そうだ! 本当は俺達だってやりたくなかった!」

「まあ、関係ないけどな」

「え!?」


 胸倉から手を離すと、男はドサッとその場に膝をつく。

 ちょうど男の顔が俺の膝の場所になるように。


「とりあえず眠ってろ」


 男の顎に向けて、膝を振り上げる。

 ガンッと重い音がして、男はその場に倒れ込んだ。一応息はしている。一応レベルでだが。


「さて、じゃあその資料とかを探しますかね」


 帝国がそこまで指示してたのが本当だとしたら、俺は帝国も滅ぼす必要があるかもしれないと思いながら、俺は廊下を奥に進んで行った。


 言われた通り、奥の部屋を調べてみれば、出るわ出るわの資料の山。

 盗賊に対する指令書のみならず、指定の村を襲えだの、この場所を調査しろだの、ギンバイの人間が行くから協力しろだの、言い逃れの出来ない資料がわっさわっさ。

 まさか、これほど資料が出て来るとは思わなかった。

 てか普通この手の資料って読んだら焼却処分するもんじゃないのか?


「まあ、ある分にはしっかり貰いますけどね」


 資料をまとめて持っていこうとしたとき、用紙の間から一枚の封筒が落ちてきた。


「おっと……何だこりゃ」


 落下直前で受け止めた封筒は、他の資料と明確に質が違った。

 表面には何も書かれていない。裏面を見れば、封蝋に蝋印が押されており、まだ未開封であることを示していた。

 俺はその内容に興味が引かれる。


「ちょっと失礼して……」


 俺はその封蝋をはがし、中に入っている手紙を覗いた。

 しかし、期待とは裏腹にその内容は他と大差ない物だった。

 今度ギンバイの魔法使いが行くから、協力しろと言うことらしい。どうやら魔法使いたちは秘密裏にカランに来るから、見つかるとマズイ。だからアジトを貸して、地図の位置まで案内しろと言うことだ。

 正直俺にはあまり関係ないことだが、ギンバイが何をしているのか興味がある。

 魔法使いを10人単位で動かすのだ。それ相応の物があるに違いない。

 最近ギンバイにずっと迷惑かけられっぱなしだったし、少しぐらい仕返しをしても良いと思う。てかそれをしないと気が済まない。

 場所としては、ここからさほど遠くはないらしい。他の資料も少し調べてみれば、その場所を記した地図を見つけた。

 俺は自分の地図にその場所を記す。そして何事も無かったように手紙を封筒の中に戻して部屋を出た。


 砂浜で気絶した盗賊と待っていると、自由船がやってきた。


「お迎えに参りました」

「おう、お疲れさん。こいつも一緒に乗せるけどいい?」

「こ、この人は?」


 ロープで縛られ白目を剥いている男を見て、船主が動揺する。


「盗賊。この島に盗賊のアジトがあってな。さっきまで潰してたんだよ。ほら、最近冒険者ギルドに3国共同依頼って出されたの知らない?」

「ああ! 知ってます知ってます。盗賊を倒して騎士団につき出したら報酬が出るやつでしょ! なるほど、それで無人島に来てたんですかい」

「そゆこと。んでこいつがその盗賊だな。他の連中は全員倒しちまったからこいつは証拠として騎士団に持ってきたんだよ」

「分かりました。そう言うことでしたら問題ないですよ」

「サンキュー」


 盗賊を船の中に乗せ、俺も飛び乗る。突然暴れ出されても困るので、俺が盗賊の上に座るようにして乗り込んだ。


「それじゃ出発しますね」


 ゆっくりと動き出した船と共に、俺はリク島を離れた。


 副都市に到着した俺は、料金を払ってそのまま騎士団の詰所へと向かう。

 その際に人を引きずる姿がかなり注目を集めたが、引きずられている人物が明らかに盗賊然とした姿をしていたために、特に声を掛けられることは無かった。

 俺の背負っているサイディッシュが、俺を冒険者と主張してたのも大きな要因だろう。

 3国共同依頼はカランにもすでに浸透しており、冒険者たちはチームで盗賊のアジトを次々に襲っているらしい。

 意外と盗賊もしぶとく頑張っているらしいが、それでも絶対数は減っているとか。

 やっぱどんな生き物も外敵がいると数を減らすもんだな。

 副都市の道を歩きながらそんなことを思っていると、いつの間にか騎士団の詰所まで来ていた。

 騎士団の詰所は石造りの3階建ての建物だ。

 入口には、大きなカランの国旗と騎士団を示す盾のマークが掛けられており、扉は常に開け放たれている。

 どんなときにも駆け込めるようにとのことで、現代のまんま交番や警察署の役割を持っている。

 俺が詰所の前まで来たとき、数名の騎士たちがすでに詰所の前で待機していた。

 誰かが通報していたのだろう。

 そして俺を見た瞬間駆け寄ってくる。


「君、少しいいか」

「おう、俺も用事があったんだ」

「彼……のことでいいのか?」

「おう、盗賊だ。依頼完了の報告書が欲しくてさ」

「分かった。彼はこちらで預かる。報告書は事実が確認でき次第ギルドに提出しておこう。君のギルドカードを見せてもらっていいかい?」

「おう」


 そう言って、俺は新しくなった自分のギルドカードを見せる。


「な! これはA+ランクのギルドカード! と、言うことは君が4人目の?」

「漆トーカだ。よろしくな」

「こちらこそよろしくお願いします」


 急に子供に対する口調から丁寧度に変わった。

 この辺りの変化は面白いな。


「あとこれ、アジトにあった資料の一部。なんかヤバそうなのも何個かあったから先に持ってきたぜ」


 俺は、ギンバイとの関連性を示す情報が載った手紙を騎士に渡す。

 騎士はそれをその場で少し読み、顔に驚愕を浮かべた。


「これは!?」

「な、ヤバそうだろ?」

「すぐに騎士団長へ! 漆殿、協力感謝します!」


 そう言って騎士はすぐに詰所の中に走って言った。

 事実どうこうはさておき、ギンバイの手紙は結構ヤバい物も多かったからな。すぐに対策しないといけないようなのとかあるし。あの魔法使い10人が来るやつとか。


「さて、俺は帰りますかね」


 届けるものは届けたし、後は騎士団の確認待ちだ。この場で俺がやることは何もないし、いても仕方がない。

 まだ日は高いが、それでも15時を過ぎている。何かおやつになるものでも買って帰ろうと、俺は市場の方へ足を延ばしていった。


 宿に帰ってくる。


「ただいまー」

「ぱぱおかえり」


 ソファーに座っていたフランが駆け寄ってくる。

 それを受け止めて、頭を撫でてやった。


「トーカ、お疲れ様です」


 フィーナは簡易的に設けられた流しで何か作業をしている。お茶でも入れているのだろう。

 2人が出迎えてくれることに、嬉しさを感じる。何気ない会話でも、なんか最近ほっこりしちまうんだよな。


「これお土産な」


 市場で買って来たクッキーをフランに差し出す。フランはそれに目を輝かせながら受け取り、フィーナの元へ駆けて行った。

 そしてフィーナと共に戻ってくる。


「ありがとうございます。お茶入れますね」

「おう、皆で食べようぜ。市場で一番人気のクッキーらしいぜ」

「それは楽しみですね」

「たのしみ!」


 俺はサイディッシュを壁際に置いて、フランと共にソファーに腰掛けた。


 クッキーを楽しみ、その後フィーナ特製のパスタを楽しんだ午後は、ゆっくりと過ぎていく。

 現在は日が沈み、部屋の中は魔力回路のランタンで照らされて幻想的な雰囲気を出していた。

 フランはランタンのゆらゆらと揺れる灯りにまどろみ、ソファーで船を漕いでいた。


「フランをベッドに連れてくな」

「お願いします」


 小声で話し、フランをお姫様抱っこする。そして慎重に寝室へと連れて行った。

 布団をかけて、ゆっくりと頭を撫でる。気持ちよさそうにフランは微笑んだ。きっと楽しい夢でも見ているのだろう。

 寝室のランタンを消し、リビングに戻ってくる。

 そこでお茶を飲んでいたフィーナの横顔に、俺はかげりのような物を見た。


「フィーナ、どうした?」

「明日。明日でフランちゃんと、お別れになっちゃうかもしれないんですよね」

「そうだな」


 フィーナの隣に腰掛けながら、その言葉にうなずく。

 上手くいけば明日、フランは本当の両親のもとに戻ることになる。

 そうなれば必然的に、俺達とはお別れになるのだ。


「フランちゃんには良い事なんだと思います。お父さんやお母さんと一緒に暮らすのは大切な事ですから。フランちゃんの話しを聞いていても、ご両親が悪い人には思えません。きっとフランちゃんは愛されてたんだと思います」

「そうだな」


 だからフランを無理やり自分たちのもとに置いておくことは出来ない。それはフランの為にもならない。

 愛されているなら本当の両親のもとで育つべきだ。それは俺も同じ意見だ。

 俺はフランの年には、すでに両親から無視されていたが、祖父母が両親の代わりとなってくれた。

 フィーナも、母はいなかったが、常に父が一緒にいてくれていた。

 今のフランの年齢には、両親が必要なのだ。それは偽物の両親より、本物の両親の方が良いに決まっている。


「ちゃんと理解しているはずだったんですけどね。一緒にいる期間なんてあっという間でしたし、ここまで辛くなるはずじゃなかったのに……」

「フィーナ……」


 俺からフィーナに言えることは何もなかった。

 たとえ何か励ましの言葉があったとしても、それは何の意味も責任も無い、空っぽな言葉になると感じた。

 だから俺は黙ってフィーナの肩を抱き寄せる。


「トーカ」


 静かに涙を流すフィーナを、俺はただ優しく撫で続けた。


 やがてフィーナの嗚咽が寝息に変わるころ、俺はそっとフィーナの肩から手を離す。

 目元は若干赤くなってしまっているが、それほど腫れてはいない。これなら明日の朝慌てることも無いだろう。


「おやすみ」


 フィーナのおでこにそっと唇で触れ、フランと同じようにお姫様抱っこで、フランの眠る寝室にフィーナを運んで行った。


 フランの一件があって、一緒のベッドに寝ることはあったが、俺とフィーナは基本的に別のベッドを使っている。と言うか部屋も別だ。

 彼女であるとはいえ、清く正しい恋愛をしていると言っていいよな?

 てか、爺さんに手は出さないって約束しちまったからな。それが無かったら間違いなく手を出してる自信がある。

 だから、もし俺がフィーナを抱くことがあるとすれば、それは間違いなくフィーナと付き合っていることを爺さんに話してからと言うことになる。

 そうすれば爺さんとの約束も解消される筈だからな。

 まあ、話す際に小さな修羅場は起こるだろうが、フィーナを好きな気持ちは変えられないし、譲歩するつもりも無い。

 フィーナもその事を何となく分かってくれているのか、迫ってくる様子はない。まあ、フィーナが淡泊なだけかもしれないが……ヤバい、それ想像したら少し怖くなった。

 とにかく、俺とフィーナは清い関係を築いている訳だ。

 そんなことを、ベッドに入り天井を見ながら考えていると、次第に俺の瞼は重くなってくる。

 盗賊たちとの戦闘はそこまで疲れるようなことではないが、それでもやはり体を動かしたことに変わりはないらしい。

 それに人を殺すってのは、精神的にどこかで疲れを持ってくるのかもしれないな。

 瞼の重さに任せてゆっくりと目を閉じながら、俺は眠りに入って行った。


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