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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
カラン合島国・フラン編
106/151

105話

 情報が入ったのは、3日後だった。その間何をしていたかと言えば、観光だ。フランも、地元の島から出たことは無かったようで、色々と興味深そうにしてたから、3人で町を回っていた。

 町には、なんというか懐かしい空気が溢れていた。

 学校帰りに買い食いする男子学生の姿。アクセサリー店を見る女子生徒の姿。登校や下校の時間になると、道は学生たちであふれていたのも懐かしい。

 まさに、日本の学校と同じような雰囲気を醸し出していたのだ。

 フィーナもフランも、それを若干うらやましそうな視線で見ていた。まあ、現代なら2人とも学校に行ってる年齢だしな。世界が世界なら、2人とも学校でモテただろうに。

 さて、話しを戻して情報のことだ。

 部屋にやってきた職員の話では、3人の冒険者がそれぞれ情報を持ってきたらしい。それを統合して確実な情報と判断したため、教えに来てくれたと言うわけだ。

 情報を持ってきた3人にはそれぞれ1500チップずつ払っている。これはあらかじめ了承を得ていたことだ。情報の正確性を上げるには、何人かの冒険者の話しを合わせて見るのが1番だからな。


「ではこちらがまとめた情報となります。依頼料は締めて4500チップになりました」

「依頼料は俺の口座から落としてもらうことって出来る?」

「はい、可能ですよ。では後程引き落としさせていただきます」

「お願い。俺の依頼はこれで取り下げるぜ」

「了解しました。では、こちらに依頼完了のサインをお願いします」

「ほいほい」


 さらさらと名前を書き込むと、職員はそれを受け取って帰っていった。

 そして手元に残された1枚の用紙。

 依頼内容報告書と書かれたそれには、地図と共に、リク島とロズルカのことが書かれていた。


・リク島

 第12副都市島から約10分ほど船で行った場所にある無人の島。肉食動物・魔物などの生存は確認されておらず、植物の生い茂っているだけの島とされている。


・ロズルカ

 村の名前である。第12副都市島から15分ほど、前述のリク島からは10分ほどの場所にある。

 ロズルカ村がある島はコノムル島という半径一キロほどのカランの中では大きな島になる。他の村が存在するため、カランでは珍しく村と島の名前が別の村である。

 住民の数はおよそ100人。老人が20名、成人が70名、子供が10名ほど。

 しかし、つい最近盗賊に襲われており、現在の正確な村人の人数は不明。襲撃の際にバラバラに散ってしまっている。襲撃時の恐怖からか村に戻っている人も少ないため、生死も不明なものが多い。

 死亡が確認されているのは、30名であり、多くは老人と成人である。

 子供が何名か連れ去られていると情報があるが、こちらも生死は不明。


 第12副都市島は、16ある副都市島の12番目に位置する島だ。副都市島は時計回りに第1から順番になっているため、地図を見れば非常に分かりやすい。

 今いるコロンから第12副都市島へ行くには七島のティントという島を経由しなければならないが、定期船も出ているから足は問題ない。

 リク島はただの無人島で、特に特筆すべき点は無いな。船もタクシー船を頼めば問題なく連れてってくれるだろう。

 これが、危険な魔物がいて近寄りがたいとかだったら、船1つ出してもらうのも苦労しただろうけどその心配はなさそうだ。

 問題はロズルカ村だ。

 場所は分かったし、住民に生き残りがいるのも分かった。書いてあることからすると、盗賊に襲われた後も何人かは村に戻ってきてるみたいだし、フランの詳しい身元はその人に聞けば分かるだろう。

 住人が100人程度で、子供が10人程度ならなおさらだ。

 子供が村の宝みたいになってるはずだからな。

 問題は戻ってきていない住人のことだ。

 フランが連れ去られている以上、フランの両親はかなり辛い思い出が村にあることになる。もし生きていた場合、村にいる可能性は少ないだろう。

 住んでいる村人たちが行先を知っていればいいが、もし知らなければまた地道な情報収集に戻る必要になってしまう。

 まあ、その時はその時だ。途中で投げ出すつもりは元からない。最後までしっかり付き合うつもりだ。


「うし、場所も事情も分かったし、明日さっそくこの第12副都市島に行くとしますかね」

「そうですね。午前中に行けるでしょうから、すぐにロズルカ村に行きますか?」

「いや、明日は副都市で1日泊まる予定」

「え?」


 すぐにロズルカに行くと思っていたのか、フィーナが首を傾げる。


「明日は俺だけでリク島に行く。生き残りがいるんだし、さっさと潰しちまった方がいいだろ。不安要素は残しておきたくないしな」

「そう言うことでしたか。分かりました。じゃあ私はフランちゃんとお留守番してますね」

「おう、副都市なら買い物とかも出来るかもな」

「晩御飯を作って待ってますよ」


 宿でも頼めば厨房を貸してくれたり、それ用の部屋を貸してくれたりする。そこで自炊することも可能なのだ。

 また新しい料理の研究でもするのだろう。


「おう、よろしく」


 明日の晩飯が楽しみになったところで、俺たちは準備の為に早めに寝ることにした。




 翌朝。早々に俺たちは副都市に移動し、宿を取った。


「パパどこかいっちゃうの?」

「ハハ、ちょっと仕事に行って来るだけだぜ」


 宿の部屋で不安そうに俺を見上げるフランに、頭を撫でながら言う。


「フィーナと一緒に待っててくれよな」

「うん」


 フィーナが一緒にいると聞いて、少し安心したのか、フランの表情が和らいだ。


「行ってらっしゃい。大丈夫だとは思いますけど、気を付けてくださいね。怪我するとフランちゃんが心配しますから」

「任せろ。なるべく早く帰ってくるぜ。晩飯は任せたからな!」

「私もてつだう」

「はい。フランちゃんと一緒に用意して待ってますよ」

「おう、行ってきます」


 2人に見送られながら部屋を出ると、本当に家族になった感じがするな。

 前の世界じゃ、そんなことしてもらったことなんてほとんどなかった。せいぜい幼稚園に入る前ぐらいまでは、お見送りしてもらっただろうか。

 祖父母の家から実家に戻る時だけは、毎回必ずお見送りしてもらっていたから、残ってる印象としてはそっちの方が強いな。

 宿を出て港に行く。

 そこにはタクシー乗り場のように、自由船の乗り場が作られている。そこに行けばタクシーに乗る感覚で自由船に乗ることが出来るのだ。

 自由船乗り場には人の列が出来ていた。しかし、回転は早いらしく、次々に船に乗り込んでいく。

 俺も列に並んで順番を待てば、すぐに回ってきた。


「いらっしゃい。どこまで行きます?」

「リク島って分かるか?」

「ああ、あの無人島ですかい。分かりました。ここからなら15分あればつきますよ」


 そう言って船主が船を漕ぎ出す。

 ゆっくりと動き始めた船がスピードに乗るには、さほど時間がかからなかった。

 大海原を横目に、島に沿うようにして移動していく。そして島どうしの距離が一番近くなったところで一気に海を渡る。

 最短距離を突っ切った方が早いんじゃないかと思ったが、波の関係上小型の船で最短距離を進むのは危険らしい。

 それに周回船もたまにその場所を通ることから、自由船はなるべく海原の方へ出ないことが義務付けられているのだとか。

 船主と話していて驚いたのは、自由船をやるのにも国の免許が必要なのだそうだ。

 免許の取得自体は簡単なのだが、細かいルールがありそれを覚える必要があるらしい。そして簡単なテストを受け合格すれば晴れて免許が手に入る。

 現代ならば当たり前だろうと思えることだ。

 しかし、ここは文明の進みが遅い異世界。ユズリハやデイゴでは識字率すら50%を超えていない世界である。

 そんな中でこれだけの人数が当たり前のようにテストを受けられ、しかも合格できるだけの勉強をすることが出来る国など、カラン以外には存在しないだろう。

 それだけカランの学習システムが発展していると言うことだ。

 改めてカランの学校制度に感服しながら、俺はリク島に到着した。


 リク島は情報どおりの無人島だった。少しだけ砂浜の海岸線があるだけで、後は全てうっそうとした木々に覆われている。


「お客さん、どうします? 迎えもしましょうか?」

「ああ、そっか。ここじゃ自由船拾えないもんな。じゃあ3時間後にここに頼めます?」


 3時間もあれば盗賊を根絶やしにすることは可能なはずだ。


「分かりました。では3時間後にまたここに来ますので」

「よろしくお願いします」


 船がゆっくりと浜から離れていくのを見置くって俺は島を再び観察する。

 森が深いせいで、木の下はかなり暗くなっている。蔦が乱雑に伸びて木の枝に引っかかっており天然のトラップになっている。首に引っかかろうものなら、かなり苦しい目にあうだろう。

 下手すりゃ死ぬな。

 トラップと言えば、盗賊もトラップを仕掛けてる可能性はあるな。

 いくら無人島とはいえ、盗賊がねぐらにしてるぐらいだし、ある程度の防御設備は整えている可能性がある。

 あの土属性を使う魔法使いがリーダーだったのだから、自然に溶け込ませたトラップを作るのは得意だったろうし、それも気を付けておかないとな。

 とりあえずは、ねぐらを見つけるか。


「月示せ、魔力の在り処。サーチ!」


 その場で魔力探査を発動させる。

 リク島をそのまま覆う大きさのサーチは、俺の脳内にリク島の正確な地図を浮かび上がらせた。と言っても、島の形と、凹凸が分かる程度だが。

 そこには鳥たちの微量な魔力と共に、10程度の人の魔力があった。つまりこれが盗賊と言うことになる。

 リーダーの言ってた通りだ。

 その灯りが集まっている場所は、島の中央付近になっている。つまりそこまではけもの道のような物が出来ているはずだ。

 さすがに道なき道を切り開きながら行くのは骨が折れるし、盗賊が使っている道を使いたいところだ。

 森の入口を少しの間探し、人の通った後を見つける。

 そこは人一人が体を横にして何とか通れる程度の道だった。


 道を慎重に進んでいく。当初警戒したようなトラップは仕掛けられていなかった。

 しばらく道なりに進んでいくと、少しだけ開けた場所に出る。そこには小さな崖と人一人が入れそうな大きさの穴があった。

 そして魔力反応はその奥からしている。つまりここが盗賊の住処と言うことになる。


「ようやく見つけたぜ。さて、どうやって殺すか」


 生かしておくのは1人で良い。後は全員殺す。しかし、1人だけ連れ出して洞窟を潰すと言う訳にも行かない。騎士団に報告した後、騎士団がこの場所を調べる可能性があるからだ。

 奴隷をギンバイに売っていたと言うことだし、何かギンバイとの関わりが分かる証拠が見つかれば、デイゴだけでなくカランもギンバイに迫ることも可能になる。


「とりあえず会った奴から殺していくか」


 それ以外に手が無いのも事実だ。だから俺はまっすぐ突っ込むことにした。


 洞窟の中はデイゴにあった隠れ家よりはるかに綺麗だった。

 洞窟とは思えないほど滑らかな表面は、コンクリートで固められたトンネルのようだ。

 一定の間隔で置かれた松明が、明るさを十分に保ち、凹凸の無い壁面のおかげで中がしっかりと見渡せる。

 どこかの炭鉱や坑道よりはるかに綺麗である。これなら洞窟にこもっていてもそれほどストレスは感じないだろう。

 さすが土属性のリーダーがいただけのことはあると言った感じだ。

 しかし、敵の襲撃は予想してなかったのか、トラップの類が全くない。

 普通、侵入者を知らせるための罠や、撃退用の罠ぐらいあってもいいと思うのだが。

 しばらく進めば分かれ道に出た。

 なんと親切に看板まで設置させている。

 それによれば右が居住区で左が倉庫と牢屋らしい。魔力探査で調べれば、右側に人が集まっていることから、牢屋には誰もいないようだ。

 まあ、リーダーがいない状態で他の村を襲うとは思えないし、捕まえた人たちはデイゴの隠れ家の方にいたので全員なのだろう。

 それにしては捕まっていた人数が3人と少なかった気もする。

 しかし今その事を気にしても仕方がないので、俺は居住区の方へ足を進めた。


 居住区には、壁に沢山の扉が並べられており、さながら寮を思わせるつくりになっていた。

 1部屋に2つの反応があることから、2人部屋となっているのだろう。これは俺にとって都合がいい。

 1部屋ずつ潰していけばいいだけなんだからな。一斉にかかってこられても問題はないが、狭い洞窟の中じゃサイディッシュは振り回しにくいし、俺の魔法も使いにくい。

 威力がありすぎるのも問題だな。

 そう思いながら、1つ目の扉を開ける。


「こんにちわー」


 なるべくフランクに言ってみた。

 中には盗賊らしき人物が2人。1人はカップを持ったまま俺の方を見て固まり、もう1人は武器の手入れらしきことをしていてこちらを見てすらいない。

 その手入れ中の男が声を出す。


「ノックぐらいしろ。またリーダーにどやされるぞ」

「安心しろって。お前らのリーダーはもう捕まってっから、怒鳴られることは永遠にねぇよ」

「なに?」


 俺の言葉に疑問を持ったその男が武器を置いてこちらに振り返る。そして同じように固まった。


「お、お前何もんだ!?」

「冒険者だ」

「冒険者!? 襲撃かよ!」


 カップを持っていた男が、そのカップをこちらに投げつけてくる。

 中身が入ったままのカップがこっちに飛んできたので、俺はそれを軽く避ける。その間に2人は臨戦態勢を整えていた。

 武器の手入れをしていた男が、その武器をカップの男に渡し、自分は懐からナイフを取り出したのだ。

 いい感じの連携だ。さすがに2人部屋にいるだけのことはある。


「デル、俺がひきつけっから仲間呼んで来い」

「おう、耐えろよ」

「無理無理」


 俺が入口の前に陣取っている以上、2人が仲間を呼ぶには声を上げるか、俺をどかすしかない。

 しかし、この洞窟。作りがしっかりし過ぎているせいで、防音もばっちりなのだ。扉を閉められると外に声が殆ど漏れない。

 大声をあげれば廊下ぐらいには届くかもしれないが、さらにその先にある部屋の中に届くことはまず無いだろう。

 つまり、仲間を呼びに行くには俺をどかすしかないのだ。


「なんだと!」

「2対1だ。いくら冒険者でも隙ぐらい作れる!」


 男がナイフで飛びかかってくる。

 俺は懐からナイフを取り出し、それを受け止めた。

 その隙に、デルが俺の横から攻撃を仕掛けてくる。これで俺をどかせるつもりなのだろう。

 しかし甘い。ナイフに少し力を込めれば、男は簡単に弾き飛ばされる。

 そして切りかかってきたデルの剣を受け止め、鳩尾に蹴りを叩きこんだ。

 デルはそのまま水平に吹っ飛び壁に体を打ち付ける。口から血を流しながら、そのままズリズリと壁にへたり込んでしまった。

 俺の蹴りで内臓が破裂したのだろう。体がはじけ飛ばない程度には手加減したのだから感謝して欲しい。

 そして弾き飛ばしたナイフ男に迫る。

 男は警戒して手を出してこない。ただ構えて俺の動きに注目しているだけだ。

 だから、全力で踏み込む。

 地面が抉れ、部屋に土煙が巻き上がる。

 突然のことに何が起きたのかと声を上げる男だが、その喉元にナイフを突き立て声を命ごと奪った。


「いくら俺を見たって、目で追えなきゃ意味ねぇよな」


 壁に倒れ込んでいるもう1人は、気絶しているようだがまだ息がある。

 今までなら見逃したところだが、今回そのつもりは無い。

 確実に殺すために、俺はその男の心臓にナイフを突き立てた。


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