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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
カラン合島国・フラン編
105/151

104話

 朝目が覚めるとフランが俺の上にまたがっていた。


「おはよう」

「ママがパパになった?」

「ママなら外にいるぞ。ほら、匂いかいでみ」


 俺がスンスンと鼻を鳴らすと、フランも真似をして鼻で強く息を吸い込む。

 その匂いには、コンソメの匂いが混じっていた。


「ごはん!」

「そゆこと。んじゃフィーナにおはよう言って顔洗いに行くか」

「うん!」


 テントから出て、たき火の元へ向かう。

 そこでフィーナは鍋を火にかけてかき混ぜていた。どうやら今日はコンソメスープとパンらしい。


「ママ、おはよう!」

「フィーナ、おはよう」

「フランちゃんもトーカもおはようございます」


 フィーナはこちらを向いてニコリとほほ笑む。


「もうすぐできますからね」

「俺たちは顔洗って来るわ」

「はい、待ってますよ」


 フィーナに送られながら、俺たちは小川に降りて行った。




 港町に着いたのは、フランと一緒に行くと決めた第2の町から3日後だった。

 予定通りの進行だ。


「やっぱ港町は他の町と違うな」

「ですよね。それにここはカランの窓口ですから特に印象が違うかもしれません」

「おっきい」


 フランの一言が町のすべてを物語っていた。

 多少起伏のある町は、港にむけて下るように緩やかな坂が続いている。

 町の入口から見ると、町の全てが見えている気分にさえなってしまう。そして遠くに見える島。それがカラン合島国だ。

 うっすらと霧がかかっているが、それでも島の形ははっきりと見て取れる。

 その島は結構大きいのか、山も平らな場所もあるようだ。


「あの島まではだいたい船で20分と言ったところでしょうかね」

「近いな」

「ええ、それに船の数も多いですから、今日でカランへの入国は可能でしょうね」


 その言葉にフランが反応する


「カランにいけるの?」

「そうですよ、フランちゃんの故郷です」


 故郷と言うほど他の国にいたわけでもないが、帰ってきたという気分にはなるのだろう。


 港町の大通りは馬車が通れるようにかなり大きく作られている。港まで直通のため迷う心配も無い。カランに馬車を持っていきやすいようにするための作りだ。

 本当にこの町がカランの玄関口として作られたことがよく分かる。

 俺たちはまずカランへの入国審査を済ませるために、役所に来ていた。ここで身元検査と持ち物検査をして異常がなければ入国が認められることになる。

 調査と言っても、犯罪歴と、禁輸品を持っていないかだけを調べるもので、意外と簡単なものだ。

 しかも、俺たちはユズリハとデイゴの身分保証書を持っているため、身元審査は楽々パス。フランはまだ6歳だから楽々パスした。

 荷物検査も、俺の持っていたサイディッシュが多少詳しく調べられたが、問題なし。

 フィーナの馬車も問題なしとして、無事入国許可書が発行される。

 ついでにその場で船の予約も出来るため、そのまま予約も済ませてしまった。


「出港は18時の最終便ですね」

「じゃあ、それまでに飯食べちまうか」

「そうですね、フランちゃんは何が食べたい?」

「うーん……」


 フランは悩んだまま固まってしまう。


「寒くなって来たし、あったかいもんがいいな」


 だんだんの季節は冬に向かって行っていた。秋の風はだんだんと冷たさを増し、今では時折北風が身を震わせることもある。


「お鍋?」


 あったかい物を想像して、フランが出した結論は鍋だった。


「いいですね。そろそろいろんなお店もお鍋を始める時期ですし」

「うし、なら鍋にするか。適当に美味い鍋のある店聞いてくる!」


 決定したことで、俺はすぐに近くの店に飛び込み、そこでおすすめの鍋を出している店を聞いて来た。

 戻ってくると、フィーナが若干呆れた表情で俺を見ていた。


「聞いてきたぜ!」

「行動早いですね……」

「善は急げって言うだろ? な」


 フィーナの視線から逃れるためにフランに振る。


「なに……それ?」


 可愛らしく首を傾げられた。

 意味が分からなかったらしい。


「まあ、いいや。教えてもらったから、食いに行こうぜ!」

「はあ……もう、しょうがないですね」


 フィーナの言葉で、俺たちは店に向かって歩き出した。


 紹介してもらった店で海鮮鍋を注文し、3人で鍋をつつく。

 鍋はトマトベースのスープになっていて、魚介の出汁と合わさって何となくブイヤベースを思い出させる。

 フランは直接鍋に届かないため、フィーナが適当に皿に取り分けてそれを食べていた。


「ここ2日はお肉が続いてましたからちょうどよかったですね」

「だよな。これを狙ってたんだよ」

「もう、調子いいんですから。フランちゃん、火傷しないように気を付けましょうね」

「うん」


 白身魚に齧りつきながら、フランが頷く。それに合わせて、フランの髪がふわっと揺れる。

 食生活の改善のためか、毎日綺麗に洗っているからか、フランの髪はどんどん綺麗になっていく。まあ、フィーナが色々やっていることもあるのだろうが、今は天使の輪と言えばいいのだろうか。灯りに髪の毛の一部が反射して、綺麗な光の輪が出来上がるほどだ。

 これで金髪だったら、どこぞのお姫様でも問題ないだろう。むしろ、ユズリハのミルファと交換してもいけるんじゃないか?

 お転婆なお姫様を思い出しながら、俺たちはゆっくりと鍋をつついて行った。


 鍋を最後まで食べきったところで、ちょうど船にいい時間になった。


「そろそろ行きましょうか」

「そうだな。フランは満足したか?」

「お腹いっぱい」


 多少苦しそうにしながらも、フランは笑顔でうなずく。


「んじゃ行くか」


 店を後にして、俺たちは港に向かう。

 馬車はすでに船の船員に渡してあるため徒歩で移動だ。

 俺とフィーナがフランを挟み、フランの両手をそれぞれに持って3人で歩く。

 はたから見れば、家族に見えるだろうか? しかし俺もフィーナもまだ見た目は子供だし、恋人とどっちかの妹とでも取られるかもしれないな。


 港で見た船は、客船ほど大きくはないが、そこらへんに停まっている帆船よりは大きいと言った感じの大きさだ。

 要は中途半端なのだ。まあ、短い間を結ぶだけだし、これで十分なのかもしれないな。

 チケットを見せ、船に乗り込む。中は人をなるべく乗せるためだけの作りになっていた。

 豪華な内装はほぼなく、質素な壁紙と並べられた椅子が効率の追求をよくあらわしている。デイゴまで乗っていた船よりもフェリーにそっくりだ。


「フラン、甲板に出るか?」

「お外?」

「そうですよ」

「行く!」


 と、言うことで俺たちは階段を上り、まっすぐ甲板へ向かう。

 甲板に出ると、潮風が吹きつけてきた。


「少し寒いな」

「うん……」

「ふふふ、こんなこともあろうかとしっかり準備してますよ」


 フィーナが鞄の中からフランのサイズにあった服を取り出す。厚手のコートのようだ。

 それをフランが着ると、膝丈までが完全に覆われる形になった。


「あったかい」

「そうでしょう。前の町で買っておいたんです」

「俺の分は?」

「トーカは大丈夫でしょ?」


 なにを言ってるんですか? みたいな目を向けられた。

 まあ実際大丈夫なんだけどちょっと悲しいです。

 旦那より子供を優先する母親が多いってのはこういうことなのかもしれない……

 未婚のまま家庭を持つ男の辛さがちょっと理解できてしまった。




「カランだ!」

「からんだ!」

「はいはい、通行の邪魔になりますから、そういうのは移動してからしましょうね」


 フィーナに背中を押される形で、俺たちは船から降りた。

 とりあえず馬車を受け取り、この町で宿を探すことにする。

 

「この町には止まり木ってあったよな」

「はい。コロンは玄関口ですからね。あると思いますよ」


 コロンと言うのがこの島の名前だ。


「ならそこだな。フラン行くぞ!」


 フランを持ち上げて、肩車する。


「おー!」


 フランが右手を振り上げて、俺は足を進めた。


 止まり木はやはりあった。しかも港からしっかり案内板まで出てる。

 ギルド御用達は伊達じゃないらしい。

 案内に従い、俺たちは止まり木につく。

 カランの止まり木はユズリハの木造やデイゴの石造りとも少し違っていた。


「浮いてるな」

「ぷかぷか」

「船ですね」


 桟橋から伸びた先に止まり木はあった。コテージのように海面に建てられたそれは、宿としては異色だろう。

 浮いてるように見えたのは、その宿が船に乗せられているような外装をしていたからだ。よく見れば船型の底からさらに柱が伸びて海の中に突き刺さっている。それで支えているのだろう。

 まあ、寝てる最中ずっと揺れてたら船酔い必須だし、そんなことするはずないか。

 気持ちを切り替えて、俺たちは止まり木に向かった。


 止まり木の部屋で、俺はフィーナから机の上に地図を広げて、カランに関する基本情報を聞いていた。


「カランは島国ですが、もっとも侵略されにくい国だとされています」

「不思議だよな。小さな島が集まってるだけの国なんだからさ、物量で制圧すればいい気がするんだけど」

「まあ、実際に侵略しようと思えば簡単でしょうね。ただ、それだと採算が取れないんですよ。カランの主な資源は豊富な水産資源です。私たちのよく使っている海藻系の出汁は全てカランの海藻を使っていると言ってもおかしくありません。しかし、逆に言えば資源が水産資源ぐらいしかないですよ」

「なるほどね。人的資源と水産資源か。確かにそれだと難しいな。せめて鉱山があれば元は回収できるだろうけど」

「あるとしたら海の底ですからね。そういう訳で侵略の価値がないけど、なくなるとご飯的に困る国なんです」

「絶妙なバランスの上に成り立つ国か。島のシステムはどうなってんの?」


 定期船とかタクシー船とかの話は聞いたけど、島ごとの特徴とかはまだ聞いてないし。

 島だと大きさに限界があるから、色々な施設を分散しないといけなくなっちまうだろうしな。


「地図で説明しますね。まずは七島と呼ばれる主要島7つです。この島々に定期船が発着してますね。今いるコロンもその七島の1つです」


 フィーナが示す7つの島は、地図上で最も大きな7つの島だ。それがカランの主要都市になっているらしい。

 そしてと言って、フィーナは七島より少し小さな島16個に目印を打つ。


「この16個の島が副都市と呼ばれる島です。主要都市には及ばないですが、必要最低限の物は揃えられる島と言ったところですね。この七島と16島までに学校が存在しています」

「カランの子供には義務教育があるんだよな? なら周りの島から集まってるのか?」

「基本的にそうですね。ただ通えない距離にある島もありますから、そう言う島だと寮生活をさせるか、島に小さな学び屋を作ることもあります。その辺りは臨機応変にと言った感じですね」

「なるほどね」

「あとの島は、無人島か村のある島ですね。おそらくロズルカというのもこの村か島の名前です」

「なら明日からさっそく聞き込みかね」

「そうしたいのはやまやまですが、まずは島を移動しますよ」

「移動?」


 ここにも冒険者ギルドがあるし、十分情報は集まると思うんだけど。


「確かにコロンにもギルドはありますが、規模はそこまで大きくないんですよ。だから明日、カランで一番大きいギルドに行こうと思ってるんです。その島がここトルムリです」


 フィーナが示したのは、この島から3つほど島を渡った場所にある七島の1つだ。


「つまり、一番情報が集まるギルドで調べた方が早いってことか」

「それもありますし、コロンから行ける島だと、結構限られちゃいますから」


 コロンは他国との入口として使われているため、機能もそれをメインにしたものが揃っている。

 そのため、島から他の島に出ている船は、他の七島に比べると少ないと言うことらしい。


「了解。ならトルムリに行って情報収集だな。やっぱ事情に詳しい奴がいると効率がスゲー上がるな」

「ふふ、しっかり頼っちゃってください。その分トーカには収入面で頑張ってもらいますからね」

「任せとけ」


 翌日の予定を決めて、俺たちは眠ることにした。


 翌朝、早速フランを連れて俺たちはトルムリに渡る。

 そこはまさしく主要都市と言った感じだった。にぎやかな市場、観光客のような人たちの活気、それらは全て王都や首都と似たような空気を感じだ。


「確かにコロンとは空気からして違うな」

「そうでしょ。ギルドは確か島の南側らしいですよ」

「うし、フラン行くぜ」

「おー!」


 いつものようにフランを肩車して、俺たちはギルドに向かった。


 ギルドに入ると、中にいた連中の視線がこちらに向く。そしてすぐに外れたかと思ったら、再び視線が集中した。綺麗な二度見だな。

 そしてざわざわと近くにいた人物たちと話し出す。

 俺たちはそれを気にせず受付に来た。


「すんません、依頼出したいんだけど」

「依頼の受付です……ね!?」


 にこやかに答えた受付嬢が、固まったかと思ったら、変な声を出した。


「と、ととと、トーカ様!?」

「え? まあ、トーカだけど」

「少々お待ちください!」


 そう言って受付嬢はすぐさま席を立つとダッシュで奥へ消えて行った。

 なんだったんだ?


「なんだと思う?」

「それはトーカだからでしょ。トーカはもうB-ランクの一般冒険者じゃなくて、4人目のA+冒険者なんですから」

「ああ、そういうことか」


 フィーナの忘れてたんですか?って視線が痛い。

 フランはよく分かっていない様子だ。


「パパ凄いの?」

「凄いですよ。パパは最強ですから」

「パパすごい!」


 純粋な視線が何かこそばゆい!


「お待たせいたしました。こちらの部屋へどうぞ」

「いや、別に依頼を出したいだけなんだけど……」


 個室に案内されそうになって、慌てて止める。

 しかし受付嬢はそれをはねのけた。


「何を言いますか! A+冒険者の方が来てくださったのです! 普通の対応なんて出来るはずがありません!」

「あ、ああ。そうなの? なら頼むわ」


 勢いに押し切られてしまった……まあ、依頼が出せるならいいのか?

 受付嬢について、俺達3人は個室に通される。そこは豪華な調度品が並ぶ、客室だった。

 ソファーに座るように促されたため、そのままソファーに座る。

 その正面に案内してきた受付嬢が着いた。


「では、依頼を出したいと言うことでしたが」

「おう、情報収集の依頼をな」

「情報ですか。そうするとランクは大分低くなりますね」


 受付嬢は何かのマニュアルを見ながら、俺の依頼内容に合わせてチェックのような物を入れていく。

 それで依頼の難易度や料金を算出するのだろう。

 話している途中に入って来た別の女性にお茶を貰い、喉を潤しながら説明していく。フランはジュースを貰ってご機嫌の様子だ。


「情報の内容は、ロズルカという言葉の意味とその場所。あとはリク島の場所だ」

「言葉と場所ですか。リク島の場所自体はギルドでも簡単に調べることが出来ますが、言葉の意味と言うのは?」

「島か村の名前……だと思うんです。最近盗賊に襲撃されている村の」

「盗賊の襲撃?」

「この子の村が襲われたんです。攫われて捕まってたところを保護しまして」


 フィーナがフランの頭を撫でながら、事情を説明する。

 その事を聞いて、受付嬢は真剣な顔で情報をまとめていく。


「ふむ、大まかな事情は分かりました。とりあえず今から値段とランクを計算しますので」


 そう言って、受付嬢は懐から取り出した計算機に数字を打ち込んでいく。

 そして数分、受付嬢は計算機をこっちに向けて、料金を説明し始めた。


「まず基本的な依頼料が500チップ。次に依頼内容による増額が情報収集ということで500チップ。今回の情報ですと、冒険者の情報収集にも危険性は伴わないため増額は発生しません。依頼ランクも最低のF-ランク依頼となりますので、ランク分増額金は200チップになります。信頼度を上げるためにさらに300チップ。合計で1500チップになります」

「意外と安いな」


 情報料ってもっと高いもんだと思ってた。てか町の情報屋とかこれだとぼったくり値段だろ。今回は情報屋の場所とか分からないからギルドに頼んだけど、これからもそうしようかな。


「そうですか? これでも高い方だと思いますよ? A+ランクの冒険者からの依頼と言うことで、情報の精度をあげるために、最後のものを少し高く料金設定してますから」

「そうなのか。これだと町の情報屋は倒産しちまうんじゃ?」

「ああ、それは情報の速度の問題ですよ。即日でお金を払えば手に入る依頼と、冒険者が調べて、持ってきた情報じゃ、速度が全然違いますし、鮮度も違います」

「そう言うことか」


 冒険者から情報を得るとしたら、その日に欲しい情報が手に入る確率は少ない。

 そうすると、必然的に情報屋を頼る必要がある。逆に鮮度が必要ない情報なら、ギルドに依頼を出して安く手に入れた方が良いってことか。

 得意分野でカバーする感じだな。


「こちらの内容でよろしければ、こちらにサインをお願いします」

「おう、問題なしだ」


 差し出された用紙にサインを入れ、依頼を登録する。これで俺達はあと待つだけになる。


「では、依頼が完了したら連絡させていただきますので、宿の場所などを教えていただけますか?」

「この島の止まり木だ。スイートにいるから」

「分かりました。情報が入り次第お伺いさせていただきます」

「じゃあよろしく」「よろしくお願いします」「おねがいします」


 俺に続いてフィーナが頭を下げる。フランも見よう見まねで同じように頭を下げていた。


冒険者や商人など、旅人が多いこの世界では、コンソメなどが料理店で売られています。これは固形などではなく液体のものが木のボトルに入れられています。

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