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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国キクリ編
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9話

 ちょうど魔物の死骸を片付け終え、血を洗い流したところに応援の部隊が到着した。

 何事も無くなっていた俺たちを見て、呆然としている。

 そこにエリシアが近づき、状況を説明した。すると応援部隊の隊長のような人が驚いた顔をして俺の方を見る。

 何となく予想はつくけど、俺はあえて分からないふりをして手を振っておいた。


「さて、いい加減逃げたいんだけどな……」


 にわかに騒がしくなる応援部隊を見ながらつぶやく。

 てかこれ絶対に後で面倒になるフラグだろ。そろそろこの町も出た方がいいかもしんないね。変に目をつけられるのも厄介だし。


「君、少しいいか?」


 ほら来た。


「ああ、なんだ?」

「貴様、総隊長になんという口のきき方だ!」


 

 俺が普通に答えたら、俺に声をかけてきた男の隣にいた男が怒鳴りだす。いかにも二番手的な脳筋だ。

 それにしても総隊長ってことはキクリの騎士団のトップか。魔物相手にわざわざトップが出てくるとはご苦労なこって。


「俺は冒険者だぜ。隊長だろうが部隊長だろうが総隊長だろうが平だろうが、誰だろうと口調は変えねぇよ。変えて欲しけりゃ実力示しな」

「貴様!」

「待て!」


 二番手くんが剣を抜こうとしたのを総隊長とやらが止めた。

 総隊長はずいぶんと落ち着いてるね。


「部下がすまんな」

「気にすんな。それで何の用だい?」

「ジルコルを1人で倒したと聞いてな。それも魔法一撃で倒したと聞いた。それほどの力を持っているのならさぞ有名な冒険者かと思ったんだが」

「見たことがないと?」

「ああ、すまないが」

「まあ当然だろうな。俺が冒険者登録してからまだ半月も立ってないし」


 受けた依頼はこれが2つ目だしな!


「そうだったのか。道理で見ない顔だと思った。私はこの町の部隊を率いてもう5年以上になるからな。だいたいキクリの町を拠点にしている冒険者は顔見知りなんだ」

「へー、あんま出世できてないんだな」


 あまりに怒らなかったからつい挑発してしまった。うっかりサリナの忠告を忘れてしまっていたよ。


「ハハハ! キクリは平和な町だからな。手柄を上げられるような事件が起きないんだよ」

「なるほどね。でもそんな町を作っているのは騎士団を率いる俺だと?」

「そう言うことさ」


 総隊長と2人でにやりと笑いあう。隣で二番手くんが真っ赤になっているが、それは無視無視。


「じゃあ俺は帰ってもいいかい? 仕事が無いならここにいる必要も無いしな」

「エリシアの話では君1人のおかげでだいぶ仕事がはかどったと聞いている。できれば明日も手伝ってほしいものだ」

「それは周り次第だな。そろそろランクアップ試験がありそうでね。そっちが来たらそれを優先するつもりだし」

「おお、そうだったのか。頑張ってくれ。そうだ、俺はゴウト、ゴウト・ガーランドと言う。君の名を聞いても良いかな?」

「エリシアから聞いてるくせによく言うぜ。漆桃花だ。トーカでいいぜ」

「そうか、覚えておこう」

「面倒事以外の仕事なら歓迎するぜ」


 俺は部隊を連れて去っていくゴウトの背中にそう答えておいた。




 町に戻りギルドに依頼完了の報告に向かう。

 ギルドへは、報告が行っているとエリシアは言っていたし、依頼は問題なく完了されるだろうな。

 にしてもそろそろあの串焼きが食いたい。マナっていつ回復するのかね? 一度聞いてみるか?

 そんなことを考えながらギルドの扉を開くと、やけに中が騒がしかった。

 そして俺を見た冒険者たちから空気が変わっていく。


「ん? なんかあったのか?」


 俺に集中する視線を無視しながら完了報告のため、受付に向かった。


「やあ、ハルちゃん」

「トーカさん! やっと帰っていらっしゃいましたね!」

「ん? どったの?」


 やけに慌てたようなハルちゃんの声に、一瞬驚いた。


「どうしたのじゃありません! 今、トーカさんが倒したとされるフェリールの事実確認が完了したんです! そしたらいろいろ無茶なことしてたみたいじゃないですか! ギルドの中で噂が駆け回ってますよ!」

「へー、確認早かったな。最短でも一か月かかるんじゃなかったのか? てか噂?」

「トーカさんが殴ってフェリールを倒したとか、他の冒険者を囮にしてその隙に倒したとか、他の冒険者が倒したフェリールの素材を横から奪ったとか!」

「最初の以外は全部はずれだな」


 ハハ、他の冒険者ってのは、リリウムのことを指してんだろうけど、だいたい違ってるな。リリウムの奴どういう広め方したんだ?


「その噂のことについてトーカ君呼び出し受けてるわよ」


 声をかけてきたのはハルちゃんの後ろからやってきたサリナだ。

 どこか面白そうに俺を見てくる。


「呼び出し? 誰から?」

「ここのギルドマスターと幹部たち」

「マジで? 面倒なのがそろってんなー」

「面倒で済めばいいんだけどね」

「権力に駆られた人たちってことかい?」

「ギルドマスターはまあ良識人なんだけどね。他の幹部に1人面倒くさいのがいるのよ。貴族上がりの幹部で、それを理由に何かと押し付けてこようとするから」

「サリナも被害者?」

「妾になれってうるさかったわ」

「そん時はどうしたの?」


 ぜひ先輩の意見を聞いておきたいね。俺だと殴って終わりにしそうだから。


「妾になるぐらいなら魔物に犯されたほうがましって言っといたわ」

「わお、強烈」

「さすがに激怒してたけどね。それ以来構ってこなくなったわ。他の幹部連中と一緒の時に言ってやったのが効いたみたいね。マスターも少しは動いてくれたみたいだし」

「そりゃよかった。じゃ、あんまりギルマスとゆかいな仲間たちを待たせるのも悪いし行くとしますかね。どこに行きゃいいの?」

「2階の1番奥の部屋よ。面談室って書いてあるから分かりやすいわ」

「実質は?」

「取締室?」

「ハハ、だいたいわかったぜ。じゃ行ってくら」

「行ってらっしゃい」

「気を付けてくださいね」


 しっかりと報酬1万チップとジルコルの牙を売った代金30万チップを口座に振り込んだ後、俺はハルちゃんとサリナに見送られながら、階段を上って行った。

 にしても呼び出しか。ここで噂が広がったってことはその魔の領域からきた冒険者ってのは事実を把握しているはずだよな。噂の中に正しい奴も交じってたから、上の連中には事実が伝わってるはず。なら、この呼び出しは、ランクアップに関することか、それとも別のやっかいごとに巻き込まれかねないことってことだよな。

 考えながら廊下を進み、突き当たりについた。そこには応接室の書かれたプレートが掛けてある。


「ここか」


 ノックして名前を告げる。中から入りたまえと聞こえたので扉を開いた。


「失礼するぜ」

「よく来たね。待っていたよ」


 応接室はどちらかと言えば企業の集団面接に近い形をしている。

 入口入って目の前に置かれた椅子。そしてその先にずらっと並ぶおっさん達と机。真ん中だけは少し豪華な机で、他の人たちが座っているのが長机のようなものだ。

 ってことは中心のひげを蓄えたおっさんがギルマスだろうね。そして入ってすぐに俺に粘っこい視線を投げかけてきた右端のおっさんがサリナの言っていた貴族だろうな。1人だけ服が違うし。そして左端に見知った顔がいた。

 リリウムだ。

 魔の領域から戻ってきた冒険者ってリリウム自身のことだったんだな。


「呼び出しに応じてきたぜ」


 ポツンと置かれた椅子に断わりも無く座る。

 おっさんたちはそれを特に咎めることなく話を切り出した。どうやらこの程度の失礼は他の冒険者たちで慣らされているらしい。


「唐突に呼び出してすまんね。まずは自己紹介と行こうか。儂がキクリの町の冒険者ギルドマスターをしているオレガノ・ジルコストじゃ。周りにいるのは幹部たちだが、まあ今は紹介せんでもよかろう」


 ギルマスの言葉に、幹部連中の数人が苦笑する。他は1人を除いて無反応。その1人は憎々しげにギルマスをにらんでいた。例の貴族様だ。


「漆桃花だ。トーカって呼ばれてるぜ。自由に呼んでもらって構わない」

「そうか、ではトーカ殿と呼ばせてもらおうかの。して、トーカ殿は今日呼び出された理由は分かっておるかの?」

「正確には知らねぇぜ。まあフェリールの討伐に関することだってぐらいは分かるけどな」

「そうじゃな。お主が冒険者に登録してから今日まで受けた依頼は僅か2つ。しかも2つ目はさっきまで受けておったみたいだしの。さらに先ほどの騎士団から報告が来て、依頼中に現れたジルコルを魔法1つで倒したと」


 ギルマスの発言に幹部連中にどよめきが走る。ついさっき渡された情報は、まだ幹部連中には届いていなかったらしい。


「ああ、もともと魔法の練習用に受けた依頼だったんだけどな。まあ練習と実戦、両方できて一石二鳥だ」

「それでの、フェリールの依頼を成功した時から話し合ってきたことじゃったんじゃが、お主のランクアップ試験を、少し特例をつけて受けてもらおうと思っとる。今日、彼女のおかげで事実が確認されたしの」


 そう言ってギルマスはリリウムの方を見た。

 やはり受付で聞いた通り、俺のランクアップは特例が適用されるらしい。


「そうだな、俺は構わないぜ。どっちにしろ受ける依頼はCランク以上が多くなるだろうし。ランクアップ試験はどの位を受けるんだ?」

「もともとはC-への試験を考えておったのだがの。ジルコルも単独で容易に倒せるとなるとB-でも良いかもしれん。みなはどう思う?」


 ギルマスが他の幹部に声を掛ける。幹部も何かと悩んでいるようだが、おおむねB-の試験を受けさせても良いんじゃないかという反応だ。

 リリウムなんかは「受けさせるべきだ」なんて言っちゃってるし。


「ふむ、ではこの後B-へのランクアップ試験を受付に通達しておく。そこで依頼を受けて試験をこなしてくれ。それに成功すれば晴れてB-じゃ」

「了解。話ってのはそれだけかい?」

「おお、そうじゃ忘れるところだった。先ほどの報告でウィンドカッターを使いジルコルを倒したと聞いたが本当かの? ウィンドカッターは確かに使いやすい攻撃魔法ではあるが、逆に言えばそれほど強い魔法ではない。フェリールと同等の固さを持つジルコルには効くような魔法ではないのじゃが」


 やっぱそこも突っ込まれるか。どうやって誤魔化したもんかね。とりあえず俺が1等星の加護を受けてるってことにしとけば納得してくれるかね?


「魔法ってのは、何等星の加護を受けているかで同じ魔法でも威力が変わるんだろ? 俺はここの教習本で調べた限りじゃ1等星の加護を受けてるみたいでさ。そのせいで威力が上がったんじゃね? 俺も魔法初心者だからよく分かんねえけど」


 言葉の最後にこれ以上聞いても無駄だと釘を刺しておく。

 ギルマスはそれを読み取ったのか、すぐにあきらめてくれた様子だ。だが、若干物分りの悪い連中もいるみたいだな。


「ふざけるな! そんなことがある訳ないだろ! 我らに嘘をついても得にはならんぞ!」


 1人のおっさんが抗議にならない抗議の声を上げる。


「おっさん、実際出来ちまったもんはしょうがないだろ? あの場には冒険者も騎士もいた。そいつらが全員嘘をついてるってか?」

「それは……しかし今までの常識では――」

「人は進化するもんだぜ、おっさん。今まで無理でもこれからはできるようになったってことじゃねえか。時代に取り残されてるぜ」


 おっさんを完全に黙らせて、ギルマスに向き直る。


「これで要件は全部か? ランクアップ試験があるならさっさと受けちまいたいんだけど」

「そうじゃ、呼び出してすまんかったの。もう行ってもらって大丈夫じゃ」

「おう、なら失礼するぜ」


 俺が席を立ち、出口に向かうとリリウムも俺に付いてくるように部屋を出た。


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