プロローグ
ページを開いていただきありがとうございます。稚拙な文章ではございますが、暇つぶしにでも読んでいただければ幸いです。
ストック消費後は2~3日に1度のペースで更新していきたいと思いますのでよろしくお願いします。
学校の帰りにゲームセンターに寄って少し遊び、辺りが暗くなり始めたころに下校する。
それが俺の日課だ。
そしてその日も同じようにゲームセンターで遊び、暗くなり始めたところで帰るため、ゲームセンターに一番近い交差点で信号待ちをしていた。
その時、反対側の道から女の子が飛び出してきた。歩行者信号は赤。どうやら女の子は反対側に親がいるのを見つけ、走り出してしまったらしい。
「待って、小梅!」
母親がその子の名前を呼び止める。理由は簡単だ。トラックが交差点に進入してきている。トラックは黄色を急いで曲がろうとしたのか、結構なスピードが出ていた。
俺の見立てでは確実にトラックの運転手が女の子に気付いても止まれない。確実に轢かれる。
そう結論が出た時、すでに体は動いていた。
鞄を投げ捨て、交差点に飛び込む。
抱き上げて通り抜けるほどの余裕はねぇな。ならあの子だけでも守るか。
母親の声に驚き、道路の真ん中で止まってしまった女の子の前に出て、トラックを正面に据える。
周囲の人々から叫び声や驚愕の声が聞こえる中、俺はトラックに向けて5年ぶりに本気で拳を振りぬいた。
「おりゃ!」
ガン!!!っと激しい音がして俺の拳とトラックが正面から衝突する。
その瞬間、俺は光に包まれた。
「ここはどこだ?」
真っ白な空間。床は雲のようにふわふわとしている。
そして少し先にはローマの宮殿のような豪華な建造物があった。
「とにかくあそこに行ってみっか」
「その必要は無いぞ」
俺が歩き出そうとした時、声を掛けられる。
「んあ?」
「その必要はないと言ったんじゃよ」
振り返ればおっさんがいた。
真っ白い服を着て、ひげを蓄えたおっさんは偉そうに俺を見下ろしている。
「おっさん誰?」
「儂は神じゃ」
「……痴呆?」
「ンなわけあるか!」
持っていた杖で殴られた。
「痛えな。いきなり何すんだよ」
「いきなり痴呆呼ばわりするお主が悪いわ!」
「知らねえよ。いきなり出てきて神とか言っちゃう、少しイっちゃった人にはそれぐらいがちょうどいいって」
「事実じゃから仕方なかろう。ちなみにここは天界じゃよ」
「天界?天国とか地獄とかじゃなくてか?」
俺はトラックと正面からなぐり合ったんだから、死んでてもおかしくないはず。ならばこの真っ白ふわふわ空間は天国かと思ったんだが、どうやら当てが外れたらしい。まあ目の前に自称神様が出てきたわけだし、ちょうどいいか。
「自称じゃのうて正真正銘神じゃよ! 周りからもきっちり認められておるわ!」
「マジか!? 心が読めるっぽいしマジっぽいな!」
「じゃからそうじゃと言っとろうに……」
神さんは疲れたようにため息をつく。もう年なんだろうな。
「お主のせいじゃ! お主の!」
「俺のせい? なんでだよ」
「お主の行動が原因じゃよ。ここに呼んだのもその為じゃ。全く無駄に力を使わせよって……」
どうやらこの神さんは俺に用事があったらしい。
「お主今、子供を庇ってトラック殴ったろ」
「おう、正真正銘全力全開で殴ってやったぜ! 子供助かった?」
「子供は助かった」
「そりゃ良かった」
守ったのに助けられなかったら虚しいからな。
「良くないわ!」
子供を守ったのになぜか怒られた。なんでだ、子供は世界の宝だろうに。
「お主がトラックを殴った影響を教えてやろう! まずトラックの運転手。こいつはエアバックに強打、シートベルトをしとらんかったからそのままフロントガラスに突っ込んで死んだ。まあ、こいつはお主が何かせんでも、ここでハンドル操作をミスして死ぬ予定じゃったし良いわ。ただ、お主が殴ったトラックは大破。その破片で、幸い死人は出ずとも、近くにいたサラリーマンの内2人重傷、1人が軽傷じゃ! 子供がひかれるより明らかに被害がでかくなっとるわ!」
「おお、でも子供守るためだししょうがねぇじゃん」
「しょうがないで済まされる問題か……」
大人なんだから、自分の身ぐらい自分で守れるだろ。子供はそれができないから助けられるべき存在なんだ。そんなの常識だろ?
俺はこの力のせいで、幼いころから親には助けてもらえなかった。逆に怖がられて暴力を振るわれそうにもなった。
だから俺は子供を守る。子供を守るためなら、犠牲ぐらい幾らでも出してやる。
「それにしても普通の人よかは力があるとは思ってたけど、想像以上だな。さすが俺!」
「笑いごとじゃないわ! お主完璧に人間辞めとるじゃろうが!」
神さんがふわふわの床に地団駄を踏む。そのたびにふわふわと何かが跳ね上がった。
なんか面白れぇ。
まあ、トラックを拳で破壊できる人間を人間とは言わねえかもな。でもできるから仕方がないじゃん。
「そうじゃ、儂もそれが不思議じゃった。儂が作った地球の人間はどう頑張ってもトラックを素手で破壊などできん! で、お主のことをすぐに調べてみたのじゃ」
「なんかわかったの?」
「お主の魂に何か細工がされとる」
「細工?」
工芸品みたいになってんのかね? 綺麗な模様が描いてあるとか?
「ふざけとる場合か! 神の作ったものに細工をするなど狂気の沙汰としか思えん。下手すれば輪廻から外れて一生転生出来んようになるところだったわ!」
「マジか、かなりやばいもんなんだな。じゃあ俺の力もその影響?」
「どうやらそうみたいじゃな。ほかにも星の一つが赤く見えたりせんかの?」
「お、すげーな神さん。見えてるぜ、月が真っ赤にな」
「月か……それは普通の月が真っ赤に見えると言うことかの?」
「うんにゃ、南から上って北に沈む月だ」
「やっぱりか……」
神さんがまたため息を付く。
「お主はやはり異世界輪廻組らしいの」
「なんだそりゃ?」
輪廻や異世界なんてワードは聞いたことがあるけど、それに組が付いたもんは知らねえな。
「普通は地球の輪廻、異世界の輪廻と別々にあるんじゃがな、時々世界のバランスを取るために異世界から地球に、地球から異世界に魂の輪廻を移すときがあるんじゃ。まあ、記憶は無くなるからほとんど関係ないんじゃがな」
「へー、そんで」
「お主の魂は細工をされて輪廻を廻った。普通なら元の世界に再び生まれ落ちるはずが、たまたまバランス調整のために地球の輪廻に入れられたんじゃろ。そのせいで異世界なら問題の無かった細工がこの世界で異常をきたしたと言うわけじゃ」
へー、じゃあ俺の前世、異世界人なんだ。なかなか面白そうじゃん。剣と魔法とかだったのかね。魂に細工とか言ってるし、魔法はありそうだな。
ん? てか俺の魂に細工したのって俺自身? 確かに俺ならやりそうだし。
「そうみたいじゃな。どうやら前世のお主が自分の記憶を引き継いで輪廻を巡るために細工を施したようじゃ。異世界に行く時の衝撃でその細工に異常が出たんじゃろ」
「ふーん。で、俺どうすんの? 死んだみたいだし、このまま輪廻直行? それとも細工治す?」
「いや、お主はまだ死んどらん」
マジ? トラックと殴り合って俺死なねえの?
「マジじゃ。お主の体は無傷。ただ事が事だけに儂がここに呼び出したんじゃ。要件が済めばまた地球に戻す」
「要件?」
「お主、異世界に行く気は無いか?」
神さんが面白そうなこと言い出した。
これが俗にいう異世界転移って奴じゃねえか!
「お主は体のスペックが高すぎるんじゃ。地球じゃと、その力を持て余すじゃろ」
「まあな。子供のころから少し力入れるといろんなもんが壊れちまったし。大変だったぜ」
今は大分セーブできるようになったけどな。昔はトラックとなぐり合うなんてできなかったけど、体が成長したら力も上がったんかな?
「そういうことじゃ。お主が成人まで行くと予想では片腕でビルが壊せるぞ」
「マジ!? 解体業者とか向いてる?」
「そういう問題じゃないわ! お主周りから見たら完全に化け物じゃぞ。研究のためにバラされて終いじゃ」
「マジか~、それはエグいな」
「じゃから異世界じゃ。お主の前世の世界ならその力を持っていても世界最強で済むじゃろ。行動次第では、半分化け物半分英雄で済まされるレベルじゃ」
異世界スゲーな。それでも世界最強な俺の方がすごいのか?
「そういうことじゃ。どうする?」
「俺が異世界なんかに行ってってバランスは大丈夫なのか? 俺がこっちの世界に来たのはバランスを整えるためだろ?」
「問題ない。異世界側で死んだ5人をこちらに移す。向こうは死がこの世界より身近じゃからな。死人は多い。しかしお主の力が大きすぎるせいで5人も必要になったのは驚きじゃったぞ」
「問題ねえのか。なら異世界行くぜ。どうせこのままじゃモルモットなんだろ」
「そうじゃ。じゃがすぐに転移はできん。こちらも準備があるからの。ちょうど明後日は満月じゃし、月が重なる。その時に異世界に移す。良いな?」
「月が重なるのがなんか関係あるのか? 満月も」
俺の疑問に神さんは予想していたように答えた。
「月が重なると、異世界との共通点ができて転移に儂の力の消費が少なくて済むんじゃ。満月に近ければ近いほど共通点は大きくなるしの」
「なるほど。そういうことね」
つまり疲れるのが嫌だと。
「ちゃうわ! 儂も世界管理には結構な力を使っとるんじゃ。無駄に力を消費していざという時に使えんのでは意味がないんじゃよ!」
「はいはい、そういうことにしておくよ!」
「このがきゃ!」
一瞬神さんの本性が現れた。
「おほん! とにかく明後日の夜12時に家の屋上にいろ。そしたら転移してやる」
「了解了解。それまでに家族にサヨナラしとくぜ」
まあ家の家族はとっくに俺の力を怖がって近づかないけどな。
「……じゃあ元の世界に戻すぞ」
「おう、どこに出るんだ? トラック殴った場所か?」
「いや、今あそこはまずい。目撃者が多かったからの。お主、大変なことになるぞ? じゃから部屋に直接戻してやる」
「そりゃ助かる。鞄置いてきちまったが、まあ使わねえだろうしな」
「鞄は儂が回収しとく。身元が分かるものは厄介じゃろうて」
「サンキュー」
「じゃあ送るぞ」
神さんが俺に手をかざした瞬間、俺は再び白い光に包まれた。
家に帰った後、俺は実家に直行した。もちろん今のことを話すためだ。
家族に起こった出来事を話して異世界に行くことにしたと言ったら嬉しそうに送り出された。
さすが家の親だぜ。悲しむなんて感情は全くなかった。
翌日には学校へ行って、割と話す人以上友人以下のクラスメイト連中にお別れをしてきた。さすがに神さんとかの話は伏せたが、失踪するって予告しといた。消えた後、俺の存在が無かったことになるのか、それとも失踪扱いになるのか神さんに聞き忘れたから一応の保険だ。
俺が突然失踪すると言っても、ほとんどの連中は驚かなかったことに、逆に俺が驚かされた。聞けば、お前なら何してもおかしくないらしい。昨日のトラック大破の事件も俺がやったんじゃないかって噂になってるらしい。
うん、当たり。
一人なぜか泣きそうな顔した女子がいたけど、そんなに俺は怖がられてたかね? まあいいや。ともかく、そうしてお別れを済ませた。準備は万端だ。
そうして満月が見下ろす中、俺は自分の家の屋上に上っていた。
「相変わらず今日も真っ赤だな」
俺が見上げる月の色は真っ赤に染まっている。
しかし世界が全体に赤くなることは無い。片割れの月だけが煌々と真っ赤に輝いているのである。
「あの神さんが言うにはそろそろだけど」
もうすぐあの南から上がって北に沈む真っ赤な月が、普通にある見慣れた月と重なる。
その時俺は異世界に旅立つらしい。
「おっ、始まったか」
先ほどから二つの月がゆっくりと重なり始めていた。そして今、その月が完全に重なる。
真っ赤な月が普通の月を覆い隠すように重なり、完全に重なった。
すると真っ赤な月の周りにいつもの月が綺麗な円を作って光を届けてくる。
「こりゃ絶景だな。カメラもってくりゃよかったか」
その言葉を最後に、俺はこの世界から旅立った。