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閑話 貴重な自分

作者: アマダス
掲載日:2026/04/26

私は、貴重な人間よ。


リサがそう言ったのは、

ミル=セナでの一件が、あらかた片付いたあとのことだった。


リサは無駄を嫌う。


やるべきことを終えれば、さっさと寝てしまう――

それがいつもの彼女だ。


不死の軍勢、ドレイク。

七席の思惑。

それに、レイのこともあった。


さすがのリサも、少し煮詰まっていたのだろう。


黒帆同盟が用意してくれた宿は上等で、

テラス席があるのを見て、珍しくリサが足を止めた。


「少し、ゆっくりしていこうか」


そう提案すると、


「……悪くないわね」


と、あっさり頷いた。


同盟の人から貰った酒と、

キッチンを借りて作った簡単なつまみを並べる。


野菜の酢漬け。

塩漬け肉のオイル煮。

それから、旅の途中で見つけた果物の乾物に、

ミル=セナでよく食べられている硬いヨーグルトを添える。


「こんなものしか作れないけど」


そう言った僕に、


「あんた、こういうのは要領よく作るわよね」


珍しくリサが僕を褒めた。


――“こういうのは”。


その言い回しに、思わず苦笑いが漏れる。


けれど。


リサの言葉は、たとえ皮肉が混じっていても、

どこか心地よかった。


彼女はきっと、僕のことを本気で気にかけてくれている。


それが分かるからだ。


「飲みなさいな。一人じゃつまらないわ」


有無を言わせず、僕のグラスにワインが注がれる。


リサはユノよりもずっと酒に強い。

酔ったところを、僕はまだ見たことがない。


「良いお酒よ。特に香りがいいわ」


グラスを軽く揺らしながら、リサが言う。


確かに、柑橘を思わせる爽やかな香りと、

程よい酸味がある。


「いつもの強い酒とは違うね」


そう言うと、


「あんたは、分かるからよ」


と、リサがぼそりと呟いた。


「……何が?」


そう聞こうとした僕に、リサは視線を寄越して――


言った。


「私は、貴重な人間よ」


「教養がすべてだなんて言うつもりはないわ。

でもね、ユウ。

あんたがそれを持ってるなら――それは価値なの」


リサは、グラスの中のワインをくるりと回す。


「酸化したワイン」


意味、分かるでしょ?


そう言って、少しだけいたずらっぽく笑った。


「ユウの言葉はね、

先人を馬鹿にするのよ」


「――あんたにそれを教えた人間の積み重ねを、

軽く扱ってるってこと」


リサは僕の料理を一口つまむ。


「美味しいわ、とても」


それからワインを口に含み――


「だから、“こんなもの”なんて言うのはやめなさい」


静かに、そう言った。


僕は頭をかいて、


そういえば、この塩漬け肉のオイル煮は姉が教えてくれたんだったろうか。


「ごめんなさい」


どちらにでもなく、けれど、僕は謝った。

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