第六話 「リーシェンの街」
流れ
街道を歩く
三回ほど魔物と戦う。
父であるアイクとアイクが引く馬に乗るリンデ婆とクロウの三人は踏み鳴らされた街道を歩いていく。
時折、防寒着を着ていても肌を突き刺すような冷気が首元を撫でる。
思わず首をすくめ隙間がないように首元をしっかりと閉じる。
「はは、やっぱり家に居たほうが良かったんじゃないか?」
「だ、大丈夫です!」
「ほほ、坊ちゃんはお元気ですなぁ」
そう会話をしながら進んでいると、村はぼんやりとしか見えないところまで進んでいた。
「どうだ、平気か?」
「…大丈夫」
クロウは、リンデ婆の前に座って休息をとっていた。アイクはこれもリンデ婆と、クロウが合間で休息を取れるようにわざわざ馬を連れてきたのだろう。
正直、今のクロウの年齢を考えればかなり頑張ったといえる距離を歩ている。しかし子供の体では未成熟で、大人と比べて歩幅は小さい。
故に疲労もたまりやすく、休憩は必須だった。
「おや、もういいんですか?」
「うん、リンデ婆が温かくてゆっくり休めたからね」
「おやおや」
アイクが手綱を引く馬の背でしばらく休憩をしたクロウは馬の背から降りて再びアイクの隣を歩き始める。
「お、流石は俺の息子、元気だな…。ッ!」
「父さん?「静かにっ!」」
張り詰めた空気の中で足を止めアイクは注意深く周囲を観察する。
(まさか、魔物か?)
「英雄の軌跡〜青銀の聖女と黒の魔王〜」 での魔物との戦闘はランダムエンカウントで、マップ上に敵が見えており、接触することで戦闘になるシンボルエンカウント方式ではなかった。
だからこそ嫌なタイミングでエンカウントが被った時は何度も絶望を味わった。
しかし、今の自分がいるのはゲームではなく現実であり。魔物に襲われて死ねばそこで終わり。
現代社会では決して関わることのない命のやり取り。
改めてそのことを認識すると無意識のうちに体がこわばり、心なしか呼吸が浅くなるのを感じていると。クロウの背中にそっとアイクは手を添える。
「大丈夫だ、俺が居る」
「…父さん」
姿を現したのは尻尾が2つに分かれている、二尾狼。その数、三。対してこちらは老婆と馬、そして子供と戦力としては圧倒的に不利な状況。
「お前たちは絶対に俺が守る。だから安心しろ」
そう言うとアイクはクロウをリンデ婆が乗っている馬に乗せる。
「父さん⋯?」
「念のためだ。もしもの時は。頼むぞ」
そう言い、アイクは前に立ち腰の鉄剣を抜き構える。
「グルルルッ」
三頭のうちの一頭が駆け出し、それが合図だったのか他の二頭も左右に分かれえる。
二尾狼の動きに合わせて馬がアイクの背後を取らせないようにいるのを気配で感じながら、アイクは小さく息を吸い、集中する。
「シィッ!」
最初の一頭がアイクにかみつこうとした勢いを利用するため、アイクは横に一歩ズレてすれ違いざまに鉄剣を振るい、二尾狼は二つに両断される。
「ヒヒーンッ!」
馬の嘶きが聞こえ振り返るクロウが手綱を握り必死に馬の操り、その背を追うように二尾狼の一頭が追う。リンデ婆はどこか辛そうだが、必死に鞍にしがみついている。
逃げているようにしか見えないその光景、だがアイクに焦りはなかった。馬を操ることに必死だが二尾狼との距離はつかず離れずと絶妙。そして息子のクロウの雰囲気はまるで何かを狙っているかのように冷静だったからだ。
そして一匹をクロウたちが引き付けてくれているおかげでアイクは難なく二匹目の二尾狼を倒すことに成功する。
「父さん!」
まるで、それを待っていたかのように突っ込んでくるクロウが駆る馬が横を通り過ぎ、追いかけることに夢中になっていた二尾狼が気づいた時にはその体に鉄剣によって両断されていた。
「ふぅ~」
辺りにほかの魔物が居ないことを確認し、アイクは息を吐きながら剣を鞘に納めると腰にポーチから解体用の小刀を取り出すと二尾狼の解体を始める。
「父さん、何しているの?」
「ん?ああ、見るのは初めてか。これは二尾狼の心臓を取り出しているんだよ」
二尾狼の心臓。それは滋養強壮に効く薬の材料の一つで、街では高値で取引される素材なのだそうで討伐した際は出来るだけ心臓をとるようにしているのだとか。
だがアイクが剥ぎ取りをしたのは最後の一匹だけで、ほかの二匹をアイクは手早く土の中に埋めており、その対処の違いがクロウにはわからずにいると、後ろのリンデ婆が説明をしてくれた。
「二尾狼の心臓を手に入れるためには、胴体に傷をつけず一撃で頭を潰す必要があるんじゃ。そうでなければ心臓はあっという間に傷み、薬として使えないんじゃよ」
「リンデ婆は物知りだね」
「ほほっ、伊達に長いこと薬師をしておらんからなぁ。じゃが、それを言うならクロウ坊ちゃんの方がすごいと思うがの」
「え?」
「初めての魔物との遭遇だというに、冷静にアイクに負担が行かぬように馬で二尾狼を攪乱しておったじゃろ?」
リンデ婆の言う通り。幼いクロウに戦う術はない。だが、自分の足よりも速く体躯の大きい馬に乗っているのであれば、こと時間稼ぎであれば少なくとも格好の獲物として二尾狼を引き付けることはできる。
そう思いこみ上げる恐怖を必死に抑え込み、遅延させることに成功した。
「お主は父親思いの良い子じゃな」
そう言いリンデ婆は優しくクロウの頭を撫でてきて。クロウは気恥ずかし気に俯くが、嫌な気分ではなくしばらくの間、リンデ婆に頭を撫でられ続けた。
その後、処理を終えたアイクと合流し三人と一匹はリーシェンの街へと向かって進み始めた。
幸いして、その日は何事もなく村に到着し。宿をとった三人は食事を終えると湯で体をふくと早々に床に就いたが、クロウだけは眠れないでいた。
(理由は、わかってる)
初めて、魔物を見た。命のやり取りをした。だがクロウが直接戦っていたわけもはない。だというのに目にした光景が脳裏に焼き付いて離れない。
「眠れないのか?」
「…うん」
話しかけられて横を見ると既に横になって眠っていたと思っていたアイクがクロウの方を向いていた。クロウの様子に何かを感じたのか、アイクはなんとなしに話しかける。
「怖かったか?」
「・・・・うん」
「そうだろな。俺だって、お前ほどの歳だったら絶対におもらししているだろうし、逃げちまっていたかもしれないがな」
そういうアイクに、クロウは思っていたことを尋ねてみることにした。
「父さんは、怖くはないの?」
「ああ? 怖いに決まっているだろ?」
「じゃあ、なんで戦えるの?」
クロウの疑問、あの状況下であれば逃げるという選択肢もあった。難しいが不可能ではない。だというのにアイクはあの場で戦うという判断を、最悪は自分を切り捨てるという決断をしていた。なぜそんなことが出来たのか、それをクロウは知りたくて父であるアイクに尋ねたが。
「それは、お前が自分で見つけるしかないな」
「え?」
アイクからの返事はクロウ予想してないものだった。てっきり教えてくれるとばかり思っていたクロウの驚きの表情にアイクはいたずらっ子のように笑う。
「大丈夫だ。守りたいと思って行動したお前なら、案外とすぐにその答えを見つけることが出来る」
「何を根拠にそんなことを言うのさ?」
「俺の息子だから。じゃ駄目か?」
「駄目じゃないけど・・・・」
まるで、ほしいものを取り上げられた子供の用に膨れる年相応の表情を浮かべるクロウにアイクは笑う。
「まあ、これは俺が教えるより自分で見つけることが大切だ」
そろそろ寝ろ、明日も早いぞ。
そう言いアイクは今度こそ眠りについたようであっという間に寝息を立て始める。
「自分で見つけろって…。ちょっと無責任じゃないかな?」
そう言いながら、アイクと話をしたことで落ち着いたのか。クロウもアイクを見習うかのようにあっという間に眠りについたのだった。
それから、二度ほど魔物と遭遇するもアイクが難なく討伐して、途中で幾つかの村で休息をとりつつ、村を出発して三日目、クロウ達はついにリーシェンの街に到着したのだった。




