第三話 「加護」
この世界に転生して、五年が経過した。五年という月日はあっという間だった。だが、この五年という時間を過ごし俺の予想は確信に変わっていた。
「英雄の軌跡〜青銀の聖女と黒の魔王〜」
この世界に転生する直前までプレイしていたこのゲームにはRPGにおける職業というものない。しかし職業の代わりに「加護」というものが存在している。その起源は世界を見守る精霊の力だという人もいれば、人を護る為に神様が授けたものと様々な解釈が存在するが、それは今どうでもいい事で。
この「加護」というものはいくつかの種類とランクというものがある。まず加護の種類に関しては大きく4つ。それぞれ「力ある者」「癒す者」「齎す者」「育てる者」がある。
そしてそれぞれの加護の強さを分かりやすくしたものがランクで上から「神代」、「古代」、「幻想」、「無想」の4つに分かれている。
そして、当たり前だが「神代」は天変地異を起こせるレベルのものでネット上でも「名前こそあるがそもそも存在しない」とすら言われているほどに希少な加護だった。
さて、ここまで言っておきながらの俺の加護は「力ある者」。ランクは最低の「無想」だった。
「‥‥終わった」
これがゲームに準拠した通りのものだとしたら、俺は正直詰んだと言える状態だった。そもそもからすれば、クロウ・ホークスという名前を聞いた時点から嫌な予感はしていたのだが、それが見事に的中してしまった。
なぜ名前を聞いた瞬間から嫌な予感がしていたのか? その答えは簡単。クロウ・ホークスはゲーム内のキャラクターの中で最低の性能で、良くも悪くも平凡。縛りプレイで使おうにも火力も防御力も、何なら素早さも平凡で普通過ぎるという理由で使われることのないザ・モブの称号を欲しいままにするキャラだったからだ。
「せめてランクが上なら少しは方法はあったんだがな…」
そして、先程の選定の儀はいわば魂に宿る力、「運命力」ともいうべきものを測るものでその中で分かったランクは先程言った通りの最低の「無想」。正直一般人に毛が生えた程度の「加護」で、身体能力も一般人よりは高いがその程度。おまけ程度に攻撃の際は攻撃力上昇。
正直、ここまでの内容になればもはや笑いが出てくるほどだった。
だが、そんな俺でも一つのスキルがあった。ゲームでもだがどうやらこの世界でもスキルは存在している事に俺はほっとしていた。まあ、この世界でのスキルは加護という型から漏れ出た雫のようなものらしいが。いわゆる搾りかすという補助的な扱いらしくあまり重要視されていない、だが俺からすれば最低でもそのスキル次第で今後が決まってくる重要な要素なのでせめていいものをと願い頭に浮かび上がったのは見慣れないスキルだった。
スキル:【無限錬鉄】
[ーーーーーーーい限りーーーー成ーする。折ーーとしても心火を灯しーーーー上がる毎にーーー上昇」。
「なんだ、このスキル?」
加護がわかると同時に頭の中にこのスキルが浮かんだのだが、俺は頭を傾げた。何せ「英雄の軌跡〜青銀の聖女と黒の魔王〜」内でのスキルに関しては何度も遊んだだけあって全て暗記していた。
だというのに、【無限錬鉄】というスキルはゲームでは一度として見たことも、公式の情報サイトにすら記載されていなかったスキル名だった。さらに言えばその内容に関しても穴抜けが多くその内容を読み取ることは出来なかった。
「まあ、何かしらの条件を達成することで何かが上がるのは確か見たいだけど…」
しかし、上昇系のスキル。それは何らかの条件を解除しなければならないというのは面倒ではある。しかし大抵のゲームにおいて強力なものは必ずと言っていいほど条件が設定されている。その例に漏れず【無限錬鉄】が当てはまってくれていれば大きな助けになるに違いないが。
「まあ、まだ焦る時期じゃないし、取り敢えず少し気長に探る事にするか」
謎の多いスキルに関しては先送りにすることにして。俺は一旦家へと帰宅することにした。
少なくとも物語が始まった時点での主人公レオンは既に学院に在籍していたが、その際の説明で十歳になって学院に入学したと書かれていた。
そしてレオンと同じ時期に入学したクロウ・ホークスもまずは十歳の誕生日を迎える必要があるからだった。
そんな事を改めて思い返していると畑で作業をしていた母さんが俺に気付いたようで手を振っていた。
「クロウ、お帰りなさい」
「ただいま、母さん」
ホークス家は地方貴族で爵位は男爵。ローレンス地方東部に小さな町と幾つかの村を統治する小さな領地を持つ家だ。とはいってもアイクとタリアは貴族である事を鼻にかけず、むしろ質実剛健。無駄を良しとせず領民と一緒に秋になると冬の準備を始める季節という事もあり、母さんは収穫を手伝い。父さんは山に入って獣を狩り、肉の保存食を作るそんな時期だった。
「クロウ様、結果はいかがでしたか?」
「あ、そうですよ! 【加護】はどうでしたか?」
一人が尋ねたのをきっかけにその場にいた村人たちが興味津々とばかりにどうだったかを尋ねてきて。その事に対して「最低ランクの空想でした!」と声高らかに言うほどの度胸は流石になくて。
(さて、どう言おう?)
そう迷っていると刈り取りの作業をしていた一人の老婆が村人たちをたしなめた。
「これこれ、まだ幼い御方にそう群がって質問をするものではないよ。後からアイク様かタリア様が必ずお教えくださるのじゃ。気になるのは分かるが今は収穫を優先すべきではないか?」
「…ああ、確かにリンデ婆様のいう通りだ」
「いや、すみませんクロウ様。つい気になってしまいまして…」
「良いですよ、気になる物事を前にしてそれを知っている人に対してはだれしもそうなってしまうものですし」
謝ってくる村人にそう言うと村人たちはもう一度頭を下げると収穫作業へと戻っていき、俺は収穫作業を続けるリンデ婆へと歩いて近づく。
「いやはや、申し訳ございませんね」
「いえ、さっきも言いましたけどあんまり気にしてないですよ」
「かっかっか! 5歳になられたばかりだというのにクロウ様の度量の大きさには驚かされますわい」
「褒めてもなにもないですよ? それより手伝います」
村の知恵袋にして薬師でもあるリンデ婆にはそう言われて俺は照れ笑いを浮かべながら取り敢えずは収穫作業を手伝うことにした。
そうして、収穫作業は滞りなく進んでいき。やがて季節は冬に差し掛かる。そんな時期に村に一つの知らせが届いた。




