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店主おすすめ!代用エルフミートの生姜焼き定食

バルフェルト町の集会所は人で溢れていた。国際エルフ保護委員会(IEC)の代表団、バルフェルト評議会、エルヴァーデンの長老たち、そして各国のメディアが集まっていた。入口ではエルフィン・シェパードのメンバーたちが「エルフは食べ物じゃない!」と書かれたプラカードを掲げていた。


トルバドが会場に入ると、前方には北方連邦や南海同盟など、エルフが生息していない国々の代表が座っていた。シルヴァネル長老に招かれ、彼はエルフの代表団の側に席を取った。


会議は国際エルフ保護委員会の議長、グレイロック博士の開会宣言で始まった。


「本日は、バルフェルト地方におけるエルフ捕獲の是非について議論します」


最初に立ったのは北方連邦の代表だった。「知性ある種族を食材とすることは、現代の文明社会において許されません。『文化的伝統』という主張は時代遅れです」


様々な国の代表が次々と意見を述べた。その大半はバルフェルトの捕エルフを批判するものだった。特にエルフが生息していない国々の批判が最も激しかった。


バルフェルト評議会議長のガンポが反論した。「我々の捕獲は持続可能な方法で行われています!科学的調査の結果、年間50体の捕獲は生態系に影響を与えません」


「その『科学的調査』のデータを公開していただけますか?」北方連邦の代表が遮った。


「我々の調査方法は国際基準に則っており...」ガンポは焦りを見せた。


「あなた方が『科学的調査』と称して捕獲したエルフの多くが、実際には食用になっていると聞いていますが?」


会場が騒然となったその時、会場の後方でドアが開いた。エルフィン・シェパードのリーダー、ウェスタン・グリーンピースが入ってきたのだ。


「皆さん、これをご覧ください!」彼はタブレットを掲げた。「これがバルフェルトの『科学的調査』の真実です!」


スクリーンには前日の森での会話が映し出された。しかし音声が巧みに編集されており、まるでシルヴァネル長老がエルフの捕獲に反対し、トルバドが「もっと捕るべきだ」と主張しているように見えた。


「これは捏造だ!」トルバドは立ち上がって叫んだ。「そんな会話はしていない!」


シルヴァネル長老も静かに立ち上がった。「この映像は文脈から切り離され、編集されています」


ウェスタンはさらに映像を続けた。バルフェルトの「科学的調査」の様子を捉えたとされる映像だ。エルフを捕獲した後、すぐに解体し始める猟師たちの姿があった。


「これが彼らの言う『科学』です!」ウェスタンは叫んだ。「彼らは古い野蛮な習慣を守るために嘘をついているのです!」


国際代表たちからは非難の声が上がった。その時、一人のバルログが立ち上がった。バルフェルト地方で郵便配達をしている痩せたバルログだった。


「すみません」彼は緊張した様子で言った。「私...実はあなたを知っています、ウェスタンさん」


「先月、私は王国の首都で小包を届けた時、高級レストラン『黄金の角笛』であなたを見かけました」


ウェスタンの顔から血の気が引いた。


「あなたはエルフ料理を...楽しそうに食べていました」郵便配達人は続けた。「特に『エルフ長老の耳のパテ』を」


会場がどよめいた。エルフィン・シェパードのメンバーたちに動揺が走る。


「嘘だ!」ウェスタンは顔を真っ赤にして叫んだ。「私がエルフを食べるなんてあり得ない!」


「これは何ですか?」郵便配達人はポケットから写真を取り出した。それはウェスタンが高級レストランでエルフ料理の前に座っている姿だった。


エルフィン・シェパードの女性メンバーが声を上げた。「ウェスタン、これは本当なの?私たちは本気でエルフを守るために活動してきたのに...」


「黙れ!これは策略だ!」ウェスタンは必死に言い訳をした。


その時、王国の情報局の職員が立ち上がった。「エルフィン・シェパードの資金源について、重要な情報があります。彼らの主要スポンサー『エル・ファンド』は、実はエルヴァーデンの森の北側で大規模な鉱山開発を計画している企業『フェンリル・マイニング社』の子会社です」


「エル・ファンドは過去3年間、エルフィン・シェパードに多額の寄付を行っています。同時期に、フェンリル社はエルヴァーデンの森の鉱物資源の採掘権を獲得しようと働きかけてきました」


シルヴァネル長老が立ち上がった。彼の目には深い怒りが宿っていた。「だから我々の森の周辺で突然、捕獲反対運動が活発化したのか。エルフとバルログを対立させ、森から我々を追い出す計画だったのだな」


ウェスタンは顔を青ざめさせた。「そんなことは...知らなかった...」


「ウェスタン・グリーンピース」情報局の職員は続けた。「あなたはフェンリル社の広報部に勤務していた経歴がありますね」


会場は完全な混乱に陥ったまま、幕を閉じた。


それから一か月後、バルフェルト地方とエルヴァーデンの森の代表者たちは「バルフェルト・エルヴァーデン共生ワークショップ」を開催した。シルヴァネル長老はエルフとバルログの歴史的関係を再確認した。


「我々エルフは『森の恵みの循環』という古い概念を大切にしてきました。かつて飢饉の時代、バルログたちが生き延びるために、我々は自らの肉を分け与えることに同意したのです」


「しかし」長老は続けた。「その合意は『必要な時に』『互いを尊重しながら』というものでした。近年の『科学的調査』という名目での乱獲は、もはやその精神には沿っていません」


ガンポ評議会議長は反省の弁を述べた。「我々も...科学的調査という名目で実際には商業捕獲を行っていたことは...認めざるを得ません」


そこでトルバドが「新・森の恵み協定」を提案した。「エルフ自身の明確な同意に基づく、限定的かつ儀式的な『森の恵み』の共有。そして、エルフ料理の技術を守りながらも、大部分は代替食材への移行を進める」


その提案は受け入れられ、国際エルフ保護委員会も、この当事者同士の対話による解決策を支持した。


トルバドの店は、料理と対話の場として生まれ変わった。店の入口には「森の恵み亭 - 食べることから、学ぶことへ」と書かれた新しい看板が掲げられていた。


メニューには以下のような料理が並んでいた。


『伝統技術で作る代替エルフ耳天ぷら(マッシュルーム使用)...780G』

『長老の智慧の継承 - 一年に一度の儀式でいただく本物のエルフ料理(予約のみ・数量限定)...3000G』

『エルフとバルログの共同開発!新世代の森の恵み煮込み...950G』


トルバドは厨房で、若いエルフの見習いに包丁の使い方を教えていた。


「エルフの肉を扱う技術は、他の素材にも応用できるんだ」彼は教えていた。「この筋の切り方が旨みを閉じ込める秘訣だ」


店の冷蔵庫の一角には、北方連邦の新興企業「イマジネルフ社」から届いた最新の()()()()()()製品が並んでいた。「本物と区別がつかない!100%植物由来!エルフの苦しみなし!」と派手なパッケージには書かれている。トルバドはそれを手に取り、鼻をしかめた。


「これがあれば問題解決だと思っている連中がいるんだ」彼は見習いに笑いながら話した。「先週、試しに調理してみたが、味も食感も全く違う。『エルフの風味を再現!』とか書いてあるけど、一体誰が監修したんだか」


皮肉なことに、北方連邦の「エシカル・グルメ」を自称する人々の間では、このイマジネルフ製品が大流行していた。「本物のエルフを食べたことないくせに、代用品が本物そっくりだって喜んでる」とトルバドはよく冗談を言っていた。


「味が大事なんであって、何を材料にするかだけじゃない」トルバドは新しい料理哲学を語るようになっていた。「でも、時には本物の価値を忘れないことも大切だ」


ネリーはエルヴァーデンの森から来た同年代のエルフの子どもたちと友達になり、彼らを学校に招いて文化交流をしていた。以前彼女をいじめていた子どもたちも、今では興味深そうにエルフの子どもたちの話に耳を傾けている。


そして時折、年に一度の儀式の日には、古来からの「森の恵みの循環」を象徴する特別な料理も、限られた形で提供される。それはエルフ自身の同意に基づいたものだ。


「お互いを理解するには、時に同じテーブルにつくことが必要だ」トルバドはよく言っていた。「それは必ずしも、誰かが誰かを食べるテーブルである必要はない」


フェンリル・マイニング社の採掘権申請は却下され、エルヴァーデンの森は「エルフとバルログの共同文化遺産」として国際保護区に指定された。


エルフを食べる問題について、単純な答えはなかった。しかし、対話と相互理解によって、伝統を尊重しながらも時代に合わせて進化していく道が見つかったのだ。


トルバドとシルヴァネル長老は、時々森の縁にある古い石橋で会い、バルフェルトとエルヴァーデンの新しい物語について語り合う。そこでトルバドは、かつて「最高のエルフ料理人」と呼ばれていた自分が、今では「エルフとバルログの架け橋」と呼ばれることの皮肉と喜びを噛みしめるのだった。

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