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6。まさかの再会

 ニマニマしたお姉様たちからの質問責めにぐったりとしていれば、いつの間にか日暮れが近くなっていたらしい。

 すっかり今の自分の格好を失念していた私は、ガチャリと開けられた休憩室の出入り口で固まっている人物を見て唖然とする。


「…おま、は?」

「え、せっ、船長!?何で!?」


 そう。そこに居たのは、先程まで話題になっていたロクサス船長だったのである。

 てっきりドミニク副船長が来るものだと思っていたから、私も思わず固まってしまった。お姉様たちに囲まれてタジタジになっている船長を見て、はっと我に返る。


 そして、ナイスバディなお姉様が腕に抱きついている船長が目に入った。

 なんか、なんかなぁ。ちょっと悔しいと言うか、なんと言うか。そりゃあ、私は好きで海賊やるために男の振りをしてる訳だけど。いや、別にそういうんじゃないんだけどさ?


「…せんちょー、やっぱり…似合ってませんか?」


 私だって女の子な訳でして。化粧もされて、こんな綺麗な格好させられたら、似合ってるかどうかは気になるし。

 お姉様たちには可愛いとか似合うとか言われたけど、それって子どもが何着ても可愛く見えるあれだと思うんだよね。やっぱり、他の人から――船長からどう見えるのか知りたい。

 そう思って船長を見る。どうかな。船長からこの格好はどう見えてるのかな。


「……………似合って、る…」

「…!え、ほ、本当!?ふふ、えへへ…」


 絞り出すような声に、お世辞だったとしても似合ってると言われて顔がにやける。ついつい手で頬を押さえるが、隠しきれてる気がしない。

 一人で浮かれていれば、お姉様たちに何かを言われたらしい船長が黙りこんでしまった。何やら難しい顔をしている。


「船長?」


 近づいて顔を見上げる。余談だが、私と船長の身長差は30cm近くもある。ちょっと首が辛いが、下から見上げると顔がよく見えるのである意味役得だといつも思っていた。

 じっと見上げていれば、船長の藍色の瞳がギラリと光った、気がした。言うなれば、好物のおやつを食べる時のイーヴォ()ような――


「………可愛いな…」

「ぅえ!?!?」


 思わずと言った風にポツリと漏れた呟きに、不意打ち過ぎて顔がボッと熱くなるのを感じる。頭が真っ白になり、顔を背けることもできずにしばらく船長と見つめ会うこととなった。


 数分後、愉快と言わんばかりにニヤつくお姉様たちにからかわれ、何となく居心地が悪くなったのは言うまでもあるまい。


 帰るから着替えろと言われた私は、またしてもお姉様たちに連れられ、あれよれあれよと着替えさせられた。

 部屋を出るときに船長が疑問の声を上げていたが、確かに彼から見たら男性が女性に着替えさせられると実に妙な図だっただろう。

 そうして着替えた服は、今日私が来ていた服ではなかった。


「見てみて船長さん~♡可愛いでしょ~♡」

「帰るっつただろうが!何でまた女物着てんだよ!」

「船長!今度はレースの多いふわふわな服ですよ!どうです!?」

「お前もお前で、なんでそんなノリノリなんだよ……」

「…似合いませんか?」

「ちくしょう可愛い!!」

「やったー!」


 またしてもお姉様たちの着せ替え人形と化した私。先程のは大人っぽかったが、今度はふわふわで可愛い系の服だ。スカートの端を持ってくるりと回って見せれば、片手で顔を覆った船長がぐわっ!と叫ぶ。

 可愛いと言われて素直に嬉しい。照れ隠しにもういっちょくるりと回っていれば、突然とんと肩を押された。バランスを崩して、船長の方へ転びそうになる。


「わっ、とと…」

「うお。おい、何してる?」

「あら~♡これは絵になるわ~♡」

「でも、お姫様と海賊じゃ身分差がありすぎない?」

「何言ってるのよ!それがいいんじゃない!」

「「「わかるわ~」」」

「…………なんだってンだ…」


 船長が私を受け止めれば、私を押したらしいお姉様たちがキャッキャッと会話を始める。当たらずも遠からずな会話をされ、『身分差』という単語に体が強ばる。

 というか、君ら私が性別隠してるって言ったの覚えてる??ねぇ、積極的にバラしにいってない??気のせい??

 ついついお姉様たちを睨めば、あまり悪びれもせずにてへっと笑われた。くぅ…美人はやっぱり顔が良い…つい許してしまう。


 今度こそ元の服装に着替え、オババや皆に手を振って店をあとにした私と船長。既に外は暗くなっていて、今いる通りも昼間に感じた雰囲気が一気に強くなっていた。

 何だか気まずくなって、無意識に船長から数歩離れようとすればガシッと腕を捕まれた。


「おい、何逃げようとしてやがる」

「い、いや~?」

「…宿屋に戻る前に、何か飯でも食ってくか?」

「え、いいの?」

「あぁ。好きなの食べろ。奢ってやる」

「わぁい、船長太っ腹~!」


 腕を引かれるがまま、宿屋がある通りの方へ進む。そこで好きなものを食べていいと言うので、お言葉に甘えることにした。

 気まずさはすぐどこかに行ったようで、船長の隣を平気で歩けるようになっていた。何を食べようかなーと一緒に歩いていれば、先程お姉様たちに教えてもらった香水店を見つけた。小さく質素な外見だが、種類は豊富にあるらしい。

 私の視線に気づいた船長が、香水店と私を何度か見てから首を傾げた。


「何だ、彼処で影響でも受けたか?今も甘い匂いがしてるが…」

「ひぇ…あ、うん!ちょっと…寄ってみてもいいですか?」

「まぁ、いいが。男が寄るような場所じゃねぇぞ?」


 顔を近づけ匂いを嗅がれ、情けない声が出そうになる。どうにか持ち直して、今度は私が船長の腕を引いて店へと向かった。


 店に入ると、流石に男二人は珍しいのか店員らしき老人が驚いたように目を見張る。それを気にせず、私は店に並べられている香水のテスターに近づいた。


「船長はどれがいいと思います?」

「買うのか?今後付けるような場面はねぇと思うが…」

「普段用のですねー。海で邪魔にならないようなのって、よく分からなくて」

「あ?普段から付けんのか?ったく、変な影響受けてきやがって……」


 呆れたような船長の声に苦笑する。君らの鼻良すぎるのが原因なんだけど。しかし、そんなことを言いつつ香水を選んでくれるあたり、この船長はやっぱり仲間に甘い。

 

 ラベルを読んである程度絞りこんでから、船長と一緒にテスターの匂いを嗅いでみる。船長が選んだのは、私が考えていた通り爽やか系の匂いだった。潮の匂いに混ざっても気持ち悪くならないようなやつである。

 やっぱりこういう感じのやつだよねーと思いつつ、女の子な部分がもう少し可愛らしい匂いのものに惹かれてしまう。さっき、くど過ぎず甘過ぎずないい感じのものがあったのだ。

 しかし、今の私は海賊一味の下っ端男子。そんな女子っぽい匂いをさせていれば、性別を疑われるか女と会ってきたか?とからかわれるかの二択である。


 その事をちょっと残念に思いながら、船長の選んだ香水のテスターを手に取る。柑橘系中心の匂いっぽいが、少しスッとするからミント系も入ってるかもしれない。

 あまり強くもないし、船長が選んだからきっと邪魔にならないだろう。他の人の気分が悪くなるような匂いは流石に付けられないからね。


 その香水をいくつか購入し、ようやく夕飯を食べにいこうと店を出る。何が食べたいか聞かれたので、私の買い物に付き合ってくれたお礼と言うことでお肉を所望した。

 イメージ通り過ぎるが、やはり船長は肉が好きなのだ。ちなみに鶏肉を一番美味しそうに食べているように見える。

 そしたら少し嬉しそうに行く店を決めるものだから、何だか可愛いなと思ってしまった。


 そうして、船長オススメの店に向かう途中のこと。


「…アレクシア嬢?」


 その声に、ビクリと肩を揺らす。同時にしまったと思った。隣の船長に気づかれていないことを願いつつ、聞こえなかった振りをして歩く。

 しかし、どうやら相手はそれを許してくれなかったらしい。突然ガシリと腕を掴まれ、その勢いのまま相手を振り返ってしまった。


 まず目に入ったのは、柔らかくウェーブのかかったハニーブロンドの髪。格好は見知った鎧ではなくラフな、それでいてしっかり戦闘向きであろう格好だったが、確かにその顔は見覚えのあるものだった。


「やはり、アレクシア嬢ではございませんか…!?」

「ひ、人違いです!!」


 婚約者であった王子とのお茶会などでよく顔を合わせたことのあるその人物の名前はロイド・グラヴィス。フェロウド王国王太子の近衛騎士団隊長、その人だった。


 強く握られた腕に、思わず顔を歪める。それに気づいた船長が、思い切りロイド隊長の腕を払ってくれた。ついつい腕をさすってしまい、強く握っていたことに気づいたロイド隊長がしまったと言いたげな表情をした。

 しかしそれはすぐに引き締められ、船長と睨み合いになる。バチバチと音がなりそうな一触即発な雰囲気に、ハッとして周りを見渡した。いくら夕飯時を過ぎているとしても、外はまだまだ人が行き交っているのだ。

 案の定私たちは悪目立ちしていて、慌てて二人の腕を掴む。


「ちょっ、とりあえず二人ともこっち!」

「うぉ!?」

「わっ!」


 一先ず落ち着けるところに移動しようと、覚えた街の脳内地図で必死に探す。何処か、何処かと考えて、


 何故か私は、港にある私たちの船へと来ていた。


 謝るから船長、そんなに私を凝視しないでください。完全に無意識だったの!!


――――――


――フェロウド王国、王城の一室にて。


「アレクシア…何故だ、何故僕から逃げる…僕から離れるんだ…君は、君は……」


 輝く金髪を持つ少年が、自室でガリガリとペンを紙へと走らせていた。何枚もの紙が机の上から溢れ、床をも侵食していく。

 一心に机に向かうその紫色の瞳は、昔は澄んでいたであろうに、今は酷く曇ってしまっていた。


「……もう、君を()()()()()()()()()だけなのに…何故分かってくれないんだ……



……明日香…」

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