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4。いざ、協力者探し!

 ゲンさんに手を振り、私は船長たちと共に病院を後にした。心配そうに見上げるイーヴォを撫でて、私はぼーっと考える。

 今頭を占めているのは、娼館とかではなく別のことだ。


『そういえば、王子が気を病むんじゃないかという程の勢いでお主を捜索しとるぞ。まだ帰るつもりがないのなら、フェロウド王国には近寄らん方が良い』


 診察が終わったと船長を呼ぶ直前に言われたそれに、私は今大いに悩まされている。なぜなら、王子にそこまで探されるほどの記憶がまっっったくないからである。え、私何かしたっけ。約束すっぽかしたとかだったらまだ気は楽なんだけど、絶対に違うだろう。

 正直、婚約者としての世間体で探してるのでは、としか思えないのだ。私は彼に特別好かれるようなことはしていないし、なんならつっけんどんな態度で嫌われていてもおかしくなかったから。


「それじゃ、おれはここら辺で。アレクも街探索楽しんでね」

「…ん?あ、うん!」


 一人悩んでいれば、いつの間にか宿屋のすぐ近くに来ていたらしい。副船長の声でようやく思考を浮上させる。隣で船長が呆れたように私を見ている気がするが、きっと気のせいだろう。うん。

 手を振って人混みに消える副船長を見送り、私は宿屋で待ってくれているはずのレックとマルズを探しに船長と別れようとした。


「ちょっと待てやコラ」

「ぐえっ」


 が、またしても船長に首根っこを掴まれてしまった。私は猫じゃないんだぞ!首根っこを掴まないでくれ!!


「な、なんですか船長!僕、そろそろ行かないと二人に置いてかれちゃう…!一人で街を回れっていうんですか!?」

「絶対ェに一人で歩くな。つか、ちげぇよ……あー、まぁ、何だ。全然詳しく教えちゃくれなかったが、何かヤベェ病気とかではねぇんだな?」


 気まずそうに目を反らしながら頬を掻く船長。私は、そんな船長に不覚にもキュンとしてしまった。だって、珍しく照れてるんだもん。顔が良いから、その珍しい表情も相まってときめいてしまう。

 世界一恐ろしい海賊と言われているが、船長は自分の船に乗ってる仲間に対して人一倍心配性らしいと、この二年間に身をもって知った。あと、こうして心配していると口に出そうとすると照れることも。

 副船長曰く、素で気遣うことに慣れてないらしい。だから言葉にしようとすると、どうにもこっ恥ずかしくなるのだとか。

 滅多に見られない船長の様子にこっそりキュンキュンしていれば、何も返答しない私を訝しんだ船長がぐいっと顔を覗き込んできた。

 いつも思うけど、この船長距離感が近い!!


「おい、聞いてンのかアレク」

「聞いてます聞いてます!大丈夫っすよ、船長。いたって健康だってゲンさんも言ってたでしょ?」

「テメェらが結託して口裏合わせてる可能性だってあるだろうが」


 ギクッ。


「い、いや~。流石に死ぬような病気だったら言いますよ~。ゲンさんだって医者なんだし、そこを誤魔化すわけないでしょう?」

「…………はぁ。それもそうだな。止めて悪かった」


 パッと手が離されて、急だった為に少しふらついてしまう。船長が支えてくれたため、転ぶことはなかった。

 納得はせずともどうにか誤魔化せたようだが、やっぱり船長は勘が鋭すぎる。全くもって大正解だったよ危ない。


 絶対に一人で街を歩かないように、という散々聞いた注意をもう一度聞き、もう二人とも街に出ちゃったかなーと思いつつ宿に入る。すると、入ってすぐの受付付近に二人が居た。

 まさかここでずっと待っていてくれたのかと思ったが、どうやら違うらしい。


「部屋で待ってたら、さっき副船長が来たんだよ。ちょっと話したらすぐ来るだろうからって。病院大丈夫だった?」

「ま、今回は怪我隠してたアレクが悪いぞ。一週間近くも血の臭いしてたもんな~」

「えっ!?レックも気づいてたの!?」

「いや、俺どころか全員気づいてたと思うが?」

「なんですと…」


 おぉう…流石海賊。犬…いや、この場合は鮫並の嗅覚と言うべきかな。

 というか、なんか恥ずかしいぞ!!え、全員血の臭いに気づいてたんでしょ!?何か、よくわかんないけど恥ずかしい!!社会の窓が全開だったみたいな恥ずかしさがある!!

 一人悶えていれば、顔を見合わせて首を傾げた二人が、パシンと軽く私の頭を叩いた。そこまで痛くないけど、思わずなにすんだ!と顔を上げる。


「反省は後にしろって。ほら、早くしねぇと日が暮れんぞ?」

「あ、そうだった!待っててくれてありがとう!早く行こ!」

「街を回るのはいいけど、行きたい所とかないの?」


 レックに言われ、思い出したかのように宿を出る私たち。適当に市場とかを見て回るだけのつもりだった私は、マルズの言葉にふと考える。


 そう言えば、さっきゲンさんに娼館行ってみろって言われたなぁ。


「んーとね、娼館行ってみた」

「お前は俺らを殺す気か」

「アレクにはまだ早いよ」

「うぬぅ…」


 食い気味に却下されてしまった。大体、マルズのまだ早いはわかるが、レックの殺す気かはなんだ。誰に殺されるというんだ。


 結局、二人とも口を揃えて「船長たちが怖い」と言って聞き入れてくれず。さてどうしたもんかと考えた結果、ならもう素直に船長に行きたいんです!って言えばいいのでは?と思い付く。翌日、早速試そうと宿屋を歩く。

 しかし私もチキンであった。船長は流石に説教になったら怖いなと思ったので、優しそうな副船長に交渉することにしたのだ。いるかなーと部屋をノックすれば、すぐに副船長が出てきてくれた。


「副船長~、ちょっとお話が…」

「ん?なぁに?」

「僕も娼館行ってみたいなぁ、なんて」

「え、娼館?何でまた……」


 やっぱり理由を聞かれてしまった。他の人なら、男だもんね~で済まされていただろう。しかし、私はまだ15歳。流石にちょっと早い。

 だがしかし!私には言い訳がある!!


「美女とお話してみたいです!!!」

「そっかぁ~、ならいいよ」


 よっしゃあ!!いや、どうかとは思うけど。この言い訳(なお半分ぐらい本心)はどうかと思ったけども!!

 いいじゃない…女の子だって美女とキャッキャッお喋りしてみたいんだもん。なんなら、今後の参考程度に色々お話聞いてみたいんだもん。

 というか、副船長軽すぎない?これでOK出ちゃうの?こちらとしては助かったけれど。


 やはりと言うかなんと言うか、船長には内緒だと釘を刺された私は、意気揚々と副船長の跡をついていく。気分はまるでカルガモだ。

 いや、船長に見つからないようコソコソしてるから、どちらかと言えば泥棒か忍者の方が近いかもしれない。

 大通りを抜け、昼間だからか閑散とした()()()()()()()のある通りに出た。凄い、大人の世界って感じが既にしている。

 これが夜だったら、私はきっと尻込みして止めていただろう。でも昼間だから怖くない!!


 ちょっと待って?昼間って娼館やってるの?


 ああいうのは夜のお店だろうから、もしかしたら昼間は営業してないのでは?もしや、だから副船長は許可してくれたのか!?若干の疑いを持ちつつ、そうだとすれば今後しばらくチャンスはないなと考えながらついていく。

 そうしてやって来たのは、ちょっと和風や中華の雰囲気がある三階建ての建物。店名は『華蝶』。一瞬日本語かと思ったが、あれは極東の島の文字だろう。乙女ゲームにも確かにいました、サムライっぽい攻略対象。東にある島出身だったはずなので、多分合ってる。

 日本っぽい要素があるのはその島だけだし、いつか行ってみたいとは思っていた。でも、それは船長と航海士次第なのであんまり言っていない。

 一度さりげに行ってみたいなぁと呟いたことはあるけど、未だに近くを通る様子もないので多分今後も行かないだろう。


 そんなことを思い出していれば、あんまり開いているようには見えないお店に遠慮なく入店する副船長。慌てて私も入れば、受付っぽいところに一人のお婆さんがいた。ちょっと意地悪そうな顔をしている。


「なんだい、今は休憩中だよ……おや、ドミニク。珍しいねぇ、あンたが昼間に来るなんて」

「やぁ、オババ。お金は払うから、迎えに来るまでこの子を預かってて貰えない?」

「うちは託児所じゃないよ!まったく……おぉ、まだ子供じゃないか。()()拾ったのかい。懲りないねぇ。どのぐらい預かればいいんだい?」

「今日だけでいいよ。日暮れ前には迎えに来るからさ。暇な姐さんたちとお喋りでもさせてくれればいいよ」

「ほー、今日だけかい。本当に珍しいねぇ。アンタ、名前はなんてんだい?」

「…え、あっ、僕か!アレクです!よろしくお願いします!」


 ポンポンと進む会話にポカンとしていたため、突然話を振られて吃ってしまった。慌ててお辞儀をすれば、お婆さんが驚いたように目を開く。


「おやおや、礼儀正しい子だね。いいよ、弁えてる奴は嫌いじゃあない。金はいいから、ここにいる子らに冒険話でも聞かせてやんな」

「はい!」

「それじゃ、夕飯前には迎えに来るからね。大人しくしてろよー、アレク」


 ヒラリと手を振って店を出ていく副船長。大人しくって、どういう意味ですかね!?


 お婆さん――オババって呼んでいいと言われた――に案内されて店の従業員用の部屋に着いた。どうやら休憩室らしい。ここで働いてる人は、今の時間は大体この部屋で話しているか自室で寝ているとのこと。夜の仕事だからね。昼間は休んでたいよね。

 部屋に入ると、綺麗なお姉さんが数人テーブルを囲んで談笑していた。入ってきた私を見て、ピシリと固まる。そりゃあ、いくら子供でもこんなところに男が入ってきたらそりゃビックリする――


「何よこの子!!肌も焼けて毛先はパサパサじゃない!!」

「嘘でしょ!?こんなに元がいいのに、信じらんない!!」

「冒涜!これは『美』と『可愛い』に対する冒涜よ!!」

「誰よ!!こんなになるまで放っといた馬鹿は!!」

「女の子は常に可愛くなければならないわ!!」

「「「今すぐお風呂とスキンケアよ!!!!」」」

「え、ちょ、なに、ええええええええええ!?!?!?」


 がっしりと羽交い締めにされ、私は美女に引きずられていく。そして連れてこられた先はお風呂場。ぽぽぽぽーんっ!と服を脱がされ、隅々まで石鹸で洗われ、ついでに香油を全身に塗り込められ、終わる頃には半分ほど魂が出てたと思う。

 なんというか、令嬢時代を思い出していっそ懐かしかったよ。疲れたけど。


 やりきった顔のお姉様方が私に着せる服を選んでいる間、私はひたすらに遠くを見ていたのであった。

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