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プロローグ

 涼しい朝、眠気覚ましのモーニングティーを飲んでいたら、突然前世を思い出した。


 そんなことってある??



 【彼の者と巡りて、その愛を辿る】という題名の乙女ゲームがあった。通称【かのあい】。私は、同じ部活の友人から勧められて一緒にプレイしていた。

 全て終わった時の感想は、なんと言うか、これでいいのかと問いたい内容であった。

 簡単にあらすじを言うとすれば、平民の女の子がひょんなことから貴族社会に飛び込み、攻略キャラと恋に落ちて愛を貫き通すお話。それだけならよくあるゲームだ。しかし、問題はその愛の貫き方。


 ヒロインと攻略対象が結ばれるために、言われなき罪で一族郎党処刑されるのがアレクシア・レーベアル――今の私である。

 

 アレクシアは、このフェロウド王国の王太子の婚約者だ。だが正直、今の私はこの立場に不満しかない。王子の婚約者になどなりたくなかった。

 ここは乙女ゲームと違うところで、完全に思い出していなくても、前世の影響があったのだろう。ゲームのアレクシアと違い、私は王子が好きではない。むしろ婚約者から外されるのではという希望を持って冷たくしている。なお、残念ながら婚約解消の話はまだ出ていない。

 そしてこのアレクシア、運営は彼女に何の恨みがあるのかと言うほど、どのルートでも悲惨な死を迎える。

 

 ここで重要なのは、アレクシアは確かに一般的な乙女ゲームで言う悪役令嬢の立場にある。

 だがしかし、彼女はヒロインに殺し屋を差し向けたことはおろか、ヒロインを虐めている様子すらゲーム内では一切描写されていない。

 何なら、ヒロインに心を奪われた王太子――彼は他の攻略対象のルートでも何故かヒロインに惚れる――を想って、毎晩涙で袖を濡らすのだ。

 こっちの方がヒロインだろとツッコミが入ったのは、言うまでもなかろう。

 

 そんな彼女を襲う悲劇が、一族郎党を巻き込む断罪処刑だ。ヒロインを過剰に虐めたという無実の罪を着せられ、どんな選択を選んでいても確定で処刑される。

 普通に考えたらかなり理不尽な展開だ。他のストーリーは乙女ゲームとして良い出来なのに、ここだけ謎に過激なのだ。


 なぜ一族ごとなのかと疑問に思っていたが、転生して分かった。恐らく、レーベアル侯爵家を消したい貴族たちが動いたのだろう。

 そして惚れっぽい王子を利用して、まんまと処刑を成功させたのだ。

 そう考えると、あのゲームはやけにリアリティがあることに気づく。なぜ平民の女の子を虐めただけで一族郎党処刑となるんだと思ったが、そう考えると納得がいくのだ。


 さて、話が長くなったが、私の現状は分かって頂けただろうか。もう一度まとめてみよう。

 つまりこのままだと私はおろか、家族も親戚も全員死ぬのである。パンナコッタ。間違えた、なんてこった。

 ちなみに私は今年で13歳。ゲームの舞台は、今年から通うことになっていた学園である。そして、その入学式が三日後に控えている。

 学園は全寮制で、卒業までろくに身動きが取れない。こっそり抜け出そうものなら、即刻バレて連れ戻されるだろう。

 ゲームの開始が二年後だとしても、入学してしまえば逃げることはほぼ不可能だ。私は、三日後の入学式をどうにか回避しなければならないのである。


 今更入学しませんなどと言えるはずもなく、そもそも貴族の子供は学園に必ず通わなければならない。

 では、どうするか。


 入学したくないのなら、家出すればいいじゃない!


 そうして私は、前世を思い出してすぐに行動を開始した。

 衣装部屋から兄の幼い頃の服を拝借し、何故かこっそり集めていた換金用の宝石と、ちょっとのお金を用意。荷物は必要最低限のみにして。

 夜を待って、机に『探さないで下さい』と書いた紙を置いておく。家族しか開けられない宝箱に家族への手紙を残して、念の為にそれを引き出しに入れた。

 兄と共に受けた剣術訓練の講師から貰った剣を腰に下げ、短剣を太腿にベルトで固定する。武器を隠すようにローブを着て、私は窓からこっそり飛び出した。

 

 そして庭の死角になってる場所で、長く伸ばしていた髪を半ばで縛ってから短剣で切り落とす。ちょっと毛先を整えて、切った髪をもう半分くらいの長さにしてから麻袋に入れた。

 部屋に少しでも髪を切った証拠を残してしまえば、何か不都合が生じるかもしれない。だから庭で切ることにした。多少髪が残っても、それは風が何処かへ飛ばしてくれるだろう。

 ちなみに切った髪はいい値段で売れると聞いたから、適当な場所で売り飛ばすつもりである。お金は大事。


 髪は短くしたし、普通の令嬢は扱わない剣も下げている。これで、誰も私を貴族の令嬢だとは思わないだろう。

 見回りの目を潜り抜け、私は屋敷からの脱出に成功した。目指すは港であり、乗れる舟を見つけて国を出る予定である。

 この国にいたら、すぐに見つかってしまう可能性が高いから、さっさと国外まで逃げるのだ。


 そうして休みを挟みつつ隠れながら進み、夜が明けて日も高くなってきた頃。私はようやく港町についた。そこで旅に必要そうな物を見繕いながら、身分証がなくても乗れる船を探す。

 しかし当たり前だが、どれも身分証が必要なものばかり。アレクシアの身分証では連れ戻されてしまうから使えない。


「ねぇ、君。小さい子が一人で何してんの?」


 はてどうしたもんかと途方にくれていれば、声をかけてくる人物が一人。物腰は柔らかそうな雰囲気だが、何となく気配が町の人とは思えない男性がこちらを覗き込んでいた。

 淡い緑色の髪に、金色の瞳した男性。敵意はまったく感じず、むしろ何故か懐かしい気持ちになる。何より、この人からは潮の香りが強くした。

 もしかしたら、と一縷の希望を託して口を開く。


「僕、この国を出なきゃならないんだけど、どの船も身分証が必要で。何も聞かずに乗せてくれる船とか知らない?」

「身分証、ないの?」

「うん。あっても見せれない」

「ふーん?訳ありっぽいね……良ければ、おれが乗ってる船に来てみる?乗せてくれるかは船長に聞かなきゃ分かんないけど」


 これぞまさに渡りに船、ということか。彼一人では判断出来ないようだが、しかし身分証がなくても乗せてくれる可能性があるならついていこう。悪い予感は何故かしない。こういうときの私の勘は当たるのだ。

 お言葉に甘えることにして、彼の後を大人しく着いていく。道中に自己紹介をし、彼はドミニクという名前だということを知った。


 そしてやって来たのは、港から少し離れた崖の下。よく見ると、崖の影に隠れるように一隻の大きな船がある。帆は畳まれているが、マストの先にある旗に私の目は釘付けになった。


 黒地にドクロマーク…!海賊船だ!!


 それに気づき、私のテンションは爆上がりする。何を隠そう、私は海賊ものの話が大好きなのである。

 某海賊漫画しかり、某パイレーツ映画しかり、とにかくそういう話を好んでいた。勿論、リアルに伝わる話も好きである。

 それがどうだ。本物が今、目の前に!これは片道送って下さい、だけで済ませたくない。いっそ私も仲間入りしたい。

 人を殺すとか、襲うとか、海賊になったらする場面も出てくるだろう。今の私はお話の世界にいるわけではない。これは現実だ。


 だけどまぁ、憧れの海賊になれるならどんなことだってしてやるわ!!人殺し?略奪?むしろそれこそ海賊の醍醐味というものではないだろうか……!!考えが甘いのは認める…!!


 こっそりワクテカしながら、ドミニクさんに着いて船に乗り込む。出航の準備でもしていたのか、のんびりと甲板を駆け回る乗組員たちが私を物凄く凝視してきた。

 そら、突然こんな子供がやって来たらガン見するわな。


「あぁ、いたいた。セーンチョー!ちょっと話が!」


 と、ドミニクさんがある人物に向かって声をかけた。

 

 その人はまるで深海、あるいは夜の海のような色をしていた。雑に束ねられた髪も、不可解そうにこちらに向けられた強い瞳も、吸い込まれそうな程深い深い藍。

 パチリと目が合い、私は何を考えるでもなく反射で叫んでいた。


「ここで働かせてください!!」

「えっ?」

「あ゛?」

「ここで働きたいんです!!」


 気分はまるで某アニメ映画。そうだな、題名は「アレクとアレクシアの神隠し」といったところだろうか。


 そんな感じで、私アレクシアは世界一恐ろしい海賊であるロクサス・サッチ船長に出会ったのだ。

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