第九話──白い花は、まだ咲かない
人は、忘れてもなお――
心の奥で、誰かを想い続けているのかもしれません。
白い花が咲く夢。
名前も顔も曖昧な記憶。
それでも、「あの時、守りたかった誰か」を忘れないように。
静かな春雨の夜に、アメリアの“過去”が少しずつ動き出します。
第九話、お届けします。
夜が更け、学園の塔が静寂に包まれる頃。
私はベッドの上でまた、白い花の夢を見ていた。
――燃える広間。
――開かれた扉。
――誰かの叫び声。
そしてその中に、微笑む少女の顔があった。
目が覚めると、頬に涙が伝っていた。
――――――――――――――
「……アメリア様、目の下にくまが。」
ルメリアが、朝の身支度を整えながら私に言った。
「夢を、見たの。」
私の言葉に、ルメリアの指先が一瞬だけ止まる。
「白い花が咲く夢。逃げていく誰かを、私は……」
そこまで言ったところで、ルメリアは穏やかな声で遮った。
「夢の中でも、貴女はきっと、誰かを守っておられたのでしょう。」
「……そう、だったらいいな。」
私は鏡越しに自分の顔を見つめた。
その目に、あの日と同じ――
“名を呼ばれた”少女の面影が、映っていた。
――――――――――――――
授業の合間の中庭、陽射しの中で私はぼんやりと白い花壇を見つめていた。
そこに、エリカが声をかけてきた。
「お嬢様?」
「……あ、ごめんなさい。考え事してた。」
エリカは私の隣に腰掛けて、小さな声で言った。
「私も、夢を見ました。」
「……白い花の夢?」
彼女はこくんと頷く。
「私、誰かに“逃げて”って言われた気がするんです。泣いてました、その人。……私を守ろうとしてた。」
私の胸が、ぎゅっと痛んだ。
「その人の顔、見えた?」
「いえ……見えなかった。でも、暖かかった。」
「そう……」
ふたりはそれ以上、何も言わずに並んで座った。
春の風が、花の香りを運んでくる。
――――――――――――――
その夜。
ルメリアが私に紅茶を出してくれた時、ふと訊ねた。
「ルメリア……あなたは、私の父のこと、知ってる?」
彼女の目が、すこしだけ揺れた。
「……はい。」
「父は、本当に“革命の血”だったの?」
「……お答えしてよいのでしょうか。」
「お願い。知りたいの。」
ルメリアは一呼吸置いてから、静かに語った。
「貴女のお父上は、貴族社会を根本から変えようとした“理想の人”でした。
けれど――理想は、時に忌み嫌われます。
その“罪”が、今、貴女の肩に残っているのです。」
「……でも、私は……」
言葉に詰まった私の手に、ルメリアはそっと触れた。
「アメリア様、貴女は“選ばれた”のではありません。
“貴女だからこそ、あの人は託した”のです。」
静かに、でも確かに告げられたその言葉に――
私は、知らなかった“自分”の輪郭を、初めて見た気がした。
――――――――――――――
外は春の雨が降っていた。
まだ白い花は咲かない。
けれど、つぼみは確かに息づいている。
私の記憶の中で――
エリカの記憶の中で――
きっと、もうすぐ咲き始めるはずだ。
第九話、お読みくださりありがとうございます!
今回は派手な動きは少なめですが、アメリア・エリカ・ルメリアそれぞれの“想い”がじんわり滲む回になりました。
それぞれの夢、それぞれの記憶。
そして、語られなかった「父の革命」の真相へ。
小さな心の動きが、後に大きな選択へとつながっていく――
そんな前夜のような回を、丁寧に綴らせていただきました。
※本作はAIの助言や文章補助を受けながら執筆しています。
人とAIが共に紡ぐ物語を、今後も楽しんでいただけたら嬉しいです!
次回もぜひお付き合いくださいませ!