とある中学生の話
「とある中学生の話をしよう。」
急にソイツが話を切り出した。
「ほう...因みにどういう系統の話だ?」
「聞いて驚け、恋愛話だ」
コイツが...か。珍しい。
「ほう」
「聞く気になったか?」
「それなりに」
「じゃあ時系列通りに話すぞ」
ソイツは今までこんな話を私にしてこなかったのに急にこうやって話をしてきたのだから何か裏があるのだろうと身構えて話を聞き始めた。
前置きとしては「俺の話ではない、そして出す名前は全て偽名だ」とのことだった。まぁ、言われなくともそうだろうとは思っている。
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「志倉~!」
「どしたん馬鹿」
「私に彼氏できた!」
「ふーん」
「...え...?」
「いやいやいや、なんかの間違いでしょ?あんたみたいな馬鹿に彼氏が出来るとか...今、あんた...時期わかってんの?どういう時期か」
「えーいや夏でしょ?」
「それはそうなのよ。他には?」
「夏休み前」
「いや、この馬鹿に訊いた私が馬鹿だったわ。あんた、今中三の夏でしょ?」
「あぁ、そういえば」
「前だって『英語のテストが』過去最低点のよんじゅー...」
「黙っててよ志倉!そんなの"彼氏"に聞かれたら...」
「へぇー塾一緒なんだ」
「あ...」
「ほんとに馬鹿じゃん」
「馬鹿じゃないもん!」
「おぉ...急に怒った。こわーい」
「志倉...馬鹿にしないでよ」
「急に声小さくするじゃん」
「聞こえたら困るじゃん」
「肯定ってことでいいのね?」
「...いいよ」
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「なぁ、これってなんかもうちょい心情みたいなの入らないのか?聞きにくいんだが」
「すまん、すまん。聞いた話だからな、よく分からんくて」
「そんな話するんじゃねぇよ」
「心情入れるから聞いてくれ」
「...分かったよ...」
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「それであんたっていつから付き合い始めたの?」
そんな事を志倉さんに聞かれるとは思っていなかった。ドキドキしながら答える。
「7月の5日に...」
付き合い始めたキッカケは志倉さんなんだけどね、と心の中で小さく呟く。
「へー意外と最近なんだね。私に言ってくれるって凄い...なんか、うん、嬉しい。言葉にするの難しいけど」
「志倉なら安心して言えるなと思って」
「馬鹿なりにわかってんじゃん~!」
志倉さんはそう言って私の頭をわしゃわしゃとかき混ぜてくる。
「や、やめてよ」
「嬉しい癖に~」
と幼馴染だからこそ分かっていることをしてくるんだからこそたまらない。
「んで、相手って誰なの?」
「え!?分かってなかったの?」
志倉さんが意外と恋愛に疎いということを今知った。
「分かってないよー塾が一緒ってことしか教えてくれないんだから...ヒントヒント!」
「うーん...幼馴染!」
「私!」
幼馴染と言って直ぐに『私!』と言ってくるあたりが本当に可愛い。
「惜しいなぁ」
「どこがよ!」
このノリツッコミも志倉さんらしくて最高にいい...!
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「ちょっと待ってな。これ、お前の話じゃないよな?」
「...どこがどうなって俺の話になるんだ?」
「いや、あまりにも話をしてる側の心の声が多すぎる」
「なるほどなー」
「そこから修正しても手遅れだぞ?」
「流石にわかってるぞ」
本当にコイツは大丈夫なんだろうか...?と親友の事を心配しながらも「すまんな、話の腰を折ってしまって...」「じゃあ続けるぞ...?」
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「で、誰なの?」
「えー?まだヒントいる?」
「いる」
「同じ小学校」
「私じゃん」
「ふふっ」
「で、誰なの?」
「苗字がさ行」
「私じゃん」
「同じ電車で同じ駅で乗ってくる」
「私じゃん」
「男子だよ?」
「私じゃん」
「え?」
「だって、俺。五月雨に内緒にしてたけど、五月雨と付き合ってる男子って俺だし」
「え?え?」
「いつもは流石になぁと思いながら一緒に居たいから塾で時々スラックスで上ブレザー着て来てるんだよ。流石にこれは姉のだけどな」
「え、でも、志倉は...」
「残念、志倉っていうのは偽名で本当は、笹倉なんだよな」
「彼氏の名前も...」
「「笹倉」」
「笹倉レオン...」
「怜雄な」
「ごめん、いつまで経っても名前覚えられなくて」
「だからこうやって俺に"何回も"あそばれるんだよ」
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「ちょっとまて笹倉」
「なんだ?」
「俺の彼女に手を出したのか?」
「さぁな?だが俺は、記憶力が調整されている深月にいつまでも執着するんだよ」
そう俺が言い放つと先程まで俺を親友だと思っていた男は大きく舌打ちをした。
「俺の深月を返せ!」
「深月の記憶の男子をお前以外をろくでもないやつに書き換えようとしたのが悪いんだよ。だからお前はやっと"彼氏"になれたのにこうやって"親友"だと思っていたやつに取られるんだよ」
「待て...!!」
「ざまあ」
俺はアイツに"親友"だと思える立場にまでなって、先を越されて取られてしまった俺の深月を取り戻した。ただそれだけだったのになぜわざわざ言おうと思ったのだろうか。
「これが"罪悪感"か...」
と深月"以外"は居なくなった教室で笑みを浮かべながら独り言をつぶやいた。