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私は、あなたの闘姫  作者: まるみふみ
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女王の帰還

 王都テューネは春も盛り。

 緑は萌え、花々は咲き乱れ、陽光は煌いている。

 そんな陽気の華やかさとは裏腹に、王族に次々と降りかかる不運と、長引く闘神の不在に、人々の心は暗く沈みがちだった。

 王城は特に、暗澹とした空気に包まれてたが、夕闇に溶けるように城門をくぐってきた早馬の知らせが、口から口へ伝わる内に、その様相は一変した。


 闘神、降臨。

 女王クリスティーナと共に、明日帰還。


 多くの家臣は女王の行動に、反対こそしなかったが、期待もしていなかった。

 女王は結局、闘神を天からいただく事なく、新しい王族を選び、闘神降臨まで何度もそれを繰り返し、国内的にも対外的にも不安定な状態がまだまだ続くと予想していたのだ。そうなれば、他国の侵略にも備えなければならない。王がいても、闘神がいなければ、国軍のみで国を守ることになり、過去の例からすれば、1年と持たず王都まで攻め込まれ、近隣の国々にそれぞれ領土をもぎ取られ、そして国はあっさりとなくなる。

 現在の王族の治世は約200年、近隣の王国に比べて、長く続いている方だ。

 王族が変われば、闘神の血筋も変わると言われている。新しい闘神は、こちらの世界に馴れていないため、実際に国の守護がすぐ出来るようになるわけではない。それでも、先闘神の教育を受けてこちらに送られれば、それだけ早く馴染む事が出来る。王族が変わるのは、国民としてはできるだけ避けたい。早馬の知らせはそんな彼らに僥倖を齎せた。


 古参の忠臣ベッティル・エクストレームは知らせを受けるまで、クリスティーナの廃位後の、彼女の身の振り方に気をもんでいた。

 廃位すれば、即平民に落とされる、とまではいかないが、それまでの暮らしを維持するのは困難になる。どころか、貴族として何がしかの称号のみ与えられ、人の通わぬ領土をあてがわれ、陸の孤島か、実際の海のそれに島流しという事も考えられる。

 先王亡き後、城の事を取り仕切り、兄亡き後は国政に奔走し、あの若さで、自分を含め多くの家臣に今回の闘神降臨の儀式を納得させたあのカリスマを、このまま打ち捨てては、先王にあの世で申し開きがたたない。一度はその道を女王自らが絶ったが、せめて、予定通りの人生を歩ませる事はできまいか、と隣国の王に連絡を取ろうかどうしようかと思っていた所に、先の知らせがやって来た。

「不覚なりっ、クリスティーナ様と闘神様をお迎えする準備をしていなかったとは!」

 半信半疑とはいえ、賛成したからには、信じるべきだったと深く後悔しつつ、エクストレームは城に用意されている自室を出ると、それまでの遅れを取り戻すように働き始めた。

 

 前回の闘神降臨以降に城に入った者達は、当然要領を知らないので、右往左往するばかり。それを指導監督する古参の者は体力がなく、夜半に及ぶ作業に疲れ果てた様子だったが、表情は明るかった。

 まず、国中から主だった領主を集め、顔見世をする。通例通り、降臨の儀式に出発する前に連絡をしておいたので、闘神降臨を疑う者も、女王の廃位宣言を聞くために向かって来ているはずなので、よほど遠くの者でない限り、帰還後の闘神祭には間に合うだろう。そうなれば、城はいつもの何倍もの人で溢れかえる。警備も下働きの者も、城下から補充された。

 この隙に、不心得者が城に入る畏れもあるが、闘神がいれば女王の身を脅かすものはもういないのだ。

 エクストレームはクリスティーナの行く末について思い悩む事がなくなったので、その身は忙殺されながらも、懸案の兄王子以降の王族に降りかかった悲劇に思いをはせていた。

 女王に闘神が天より送られた今、その騒動の黒幕を炙り出す事ができなくなったのではないだろうか。

 相手も、無敵、不死身の闘神に、闘いを挑む程愚かではないだろう。

 あれは、闘神不在の王家にのみ有効な攻撃方法といえる。

 病気や事故やについて、エクストレームの命令で、検証も、調査もしてきたが、証拠となる物証、証言は未だにない。

 相手からの次の一手がないのなら、真相に近づくことは難しくなるだろう。

「さて、このまま野放しにすると思われるのも業腹、どうしてくれようか」

 各方面へ指示を出しながら、エクストレームの思考は高速回転していたが、妙案は浮かばないまま翌日を迎えた。 

 

 荒野から、王都まで馬車で3日。やっとたどり着いた茉莉は、大通りに入った途端、沿道の人々に大歓迎を受けた。

 最初、今日はマラソンかなんかあるのか!?と思った茉莉だったが、クリスティーナが外に向かってやんごとない笑顔で手を振るのを見て、彼女が、この国の女王様である事を思い出した。

 道中、後続の馬車に乗った、国の偉い人達は最初の夜以降も、どこか遠巻きで、馬車を止めて、野営するときも、無礼を働かれることもない代わりに、クリスティーナや茉莉に積極的に関わって来ようとする人もいなかった。おにぎりを作ってくれた侍女の人達が、クリスティーナと茉莉を、それこそお姫様扱いしてくれるものの、こんなにハイテンションな反応はされなかった。

「ふえー、ミンミの花が降って来るよ。これみんな人力で撒いてるの?」

「マリ様の為に、みんなが撒いてくれているのですよ。よければ手を振ってあげてください」

「えっいやいや、そんな。私一般市民ですから」

 最初は、抵抗したものの、一度外に向かって手を振ると、弾けんばかりの笑顔を返されて、だんだんと嬉しくなり、ついには王城に着くまで、ずっとどしゃ降りの日のワイパーのように、手を振ってしまった茉莉だった。


 城に着くと、さすがに歓声を上げて向かえる者はいなかったが、大勢が礼を持って女王の帰還を待っていた。

 最初に声をかけたのはエクストレームだったが、彼は茉莉を側近くで見て女王に小声でささやいた。

「もしや、闘神様は女性ですか?」

 もしやは失礼だが、クリスティーナの用意した闘神用の旅支度は大輔用だったらしく、男物なので、茉莉は、大きな心でその失礼なおじさんを許すことにした。 

「そうです。王の闘神が男性ならば、女王の闘神が女性なのは、理にかなっていると思いますが?」

 クリスティーナは茉莉を見て、皺のよった相手の眉間をけん制して、少々高圧的に返した。

 エクストレームは女王の意図を聡く察知したが、あまりにおあつらえ向きの今の状況を利用しようと、そのまま取り繕う事をわざと避けた。

「…その事、闘神祭にて、どうぞ皆に納得するよう、ご説明ください」

 そう言うと、本来ならば、そのまま付き添って城内に入る所を、2人を残して足早に立ち去った。

 残された女王は、唯一信用できると思っていた家臣の無礼に、しばし呆然としたが、隣にたたずむ闘神の心配顔に、素早く己を取り戻すと、その手を引いて堂々と城内に足を踏み入れた。今までは独りだったが、これからは闘神と共にあるのだ。刃のような言葉も、もはや真に彼女を傷つける事はできない。午後の光に照らされて、クリスティーナの金髪はそれそのものが光源のように輝いて、見るものを魅了した。新女王に相応しい帰還に、エクストレームとのいざこざを見ていた人々も安堵と、敬いの視線を向けた。

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