たった一つの可能性
クリスティーナは戴冠当日から動き始めた。
遠縁といっても、そこは王族の血筋、家系図を辿るまでもなく、すぐに候補者の名がいくつかあげられた。
その中から、召喚の儀式に間に合うよう、できるだけ王都近くに住まう者を選び、内定の書状を送った。
数日後には、ほとんどの候補者が登城してくれるはず、と期待を込めて使者を見送ったクリスティーナの願いは、聞き届けられる事はなかった。
書状を受け取った者は、もちろん要請に応えるべく、王都を目指してくれたが、尽く、その途上で何らかの事故で目的を果たせなくなるか、もしくは消息が分からなくなってしまった。
一般庶民はこれを度重なる不運、王族の悲劇と受け取ったが、王政の枢機に参与する者達の多くは、何者かの意思を感じ取っていた。
もちろんクリスティーナも、1人の登城も叶わなかった事から、自分の血族に対する謀反と確信したが、自分の敵が誰なのか、皆目分からなかった。
先王の死に不振な所はまるでなかった。
兄はどうなのだろうか、あの病は人為的に罹患させる事が出来るだろうか?もしかして、薬で同じ病状に見せかける事もできたのではないか?
叔父と従兄弟のそれなど、疑おうと思えば、いくらでも疑えた。2人の死までは、まずまず巧妙と言えなくもないが、その後の事は、いくら何でも秘密裏に事を運ぼうとする者の仕業とは思えなかった。
つまり、公然と、クリスティーナの血族を、次期国王とするのをよしとしないと言っているのだ。
この敵が嫌らしいのは、どうやらクリスティーナに直接退位を迫る気はない所だ。王の証である、闘神召喚を行う男子がいなければ、その血族は、先王の死から2ヶ月で自動的に廃位となる。黙っていても目的は達せられるだろう。今から犯人探しをして、運良く見つけられたとしても、儀式に間に合う彼女の血族の男子はもういないのだから。
その後で、なにくわぬ顔で、新王に立つ根回しでも始めればいいのだ。
その頃にはクリスティーナには、何の発言権もなくなっているだろう。
年若い女王は独り、玉座に身をあずけ、言いようのない怒りに駆られた。
先王の王政は、国を豊かにしてきたのではなかったか?
自分達の遊興の為に、国庫を荒らしたことなど、一度としてなかったではないか?
三度、国境を越えて侵攻戦があったとはいえ、その度、王の闘神が皆を護ってくれたのではなかったのか?
それをこのような仕打ちで返されるのか?
考えれば考えるほどに、憤りは大きくなっていった。
王女として、いずれは国の利益になる相手と結婚する為に育てられ、それを全うするのが、使命と疑わなかったクリスティーナは、その生き方に反して、自分の人生を人任せにして来たという思いはなかった。王女として、成すべき事をなして来た誇りがあった。
元来、優しい気質の少女だったが、その優しさには、裏打ちされる強さもあった。愛する国と国民の為と、今日まで悲しみを押し殺して執政してこれたのは、その強さのおかげだった。
彼女は見えない敵に対して、怒りに身を焼きながら、独りでも、戦う覚悟を決めた。
心づもりのギリギリの日まで沈黙をまもり、その日の朝議で、相手に目的を達成させない、たった一つの可能性にかける方法を発表した。
「私が、闘神召喚の儀式を執り行います」
当然、廃位の発表と思っていた臣下達は、おおいに驚き、さすがに反対する者が多数だった。
「闘神召喚の儀式規程書には、女人これに能わずとは、書かれていません」
もちろん、この発表のために、規程書を隅から隅まで読み込んだ。
さすがに、その文章があれば、彼女も諦めていた所だ。
「しかし、何百年という歴史の中で、女性が闘神を呼んだという前例はありません」
「無理を通して、天に背くことになれば、もう新しい王を戴く事もできなくなるかもしれませんぞ」
「その様な愚考に至られるとは、お心が乱れているとしか思えません」
などなど、考えたくもないが、この中に血族を陥れようとした者がいても、おかしくないと思えるような反応ばかりが返って来た。
だが、皆が言うことも、もっともなのだ。
憤怒の川に身を浸していても、冷静さを失う事のなかったクリスティーナはこの程度の事は予測していた。
「皆も知っての通り、我が血族に対して許しがたい謀略のあった事、疑いようもありません」
誰もが思っていても、口に出さなかった事をクリスティーナはあえて口にした。
「今は、犯人探しをする時間もない事、私もよくわかっております」睥睨する瞳の強さに誰もが畏まって口をつぐんだ「私は天にこの事を問うつもりです」
ここ何日も、言いたかった事をやっと吐き出した女王は勢いのままにたたみかけた。
「我が血族に何の非もなく、謀をした者が罰せられるべきならば、天は私に闘神をお授けになるはずです!」
「しかし、魔法陣を担当する神官達はどうしますか?闘神神殿は女人禁制、彼らを説得するのは難しいのでは?」
古参の家臣が、彼女の話を受け入れた様子で進言してくれた。彼が認めてくれれば多くの追随を期待できる。
「安心なさい。手紙に性別はありません。今や神官長は私の文通友達です」
次回からは元のお気楽パートに戻ります…




