ファーナムへの贈り物(地図挿絵有)
隣国ファーナムの闘神ヴォルフラムとの手合わせの翌日、久しぶりに平地に出た茉莉は、ファーナムとの国境沿いに短い間隔で設置されたパワースポットと城の間を何度も往復した。
パワースポットは元々その土地の力にに頼ったものだが、ファーナムとの国境沿いには、微弱な力を補うように魔法陣が強力に書き込まれたパワースポットがいくつかあった。国境を守るために無理に作られたのがわかる。昨夜クリスティーナが言っていた、先代が国境を侵された歴史に関係するのだろう。
そして、本日の最終目的地の国境に一番近い町で茉莉は抱えていた大きな木箱を、国境警備隊に紹介してもらった商隊に託した。宛先はファーナム国闘神ヴォルフラム。送り状には『山の友』とだけ書いた。商隊の元締めはファーナムでも名の通った商人だったが、この贈り主名で受け取ってもらえるかはわからないと言われてしまった。茉莉も正体を明かさずの依頼だったので、届ける努力だけはしてほしいと、輸送料は前払いした。
「マリ様、あの方が受け取って下さるといいですね」
「うん。おコメと醤油とお釜のセット&レシピ!この間のお礼としては安すぎだけど、確実に喜んでもらえる物を贈るのって楽しいね」
ファーナムの国王がどんな人かは知らないが、ヴォルフラムにオニギリを握ってもらうがいいさ!おじさんとイケメン闘神がニコニコしながらオニギリを食べているのを想像して茉莉はニヤニヤした。
「なんだか悪い顔になってますよ!マリ様ったら」
リリーは鋭い妖精さんだ。
茉莉がヴォルフラムとその王様の事を妄想していた頃、当の2人は昨日茉莉と出会った山に来ていた。
ヴォルフラムに抱えられるようにして、無残な花園に降り立ったファーナムの王は戦闘の凄まじさを想像してため息をついた。
「お前は本当に考えなしだよ」
「いやいやいや、まあ深くは考えなかったけど悪い事じゃないだろ?」
ファーナムの王は妻子ある身なので、寝室でこっそり報告とはいかなかったヴォルフラムは、昨日の出来事を今朝になってやっと王に話す事ができた。詳しく話を聞きたがった王を公務後、人目を気にして現場まで連れてきたのだ。
「で、こんなに大地が削れるほどの戦闘をしたのか」
「この位ですんでよかったよ。本当の戦時戦闘なら、気持ちが乗る分もっと被害は大きくなると思う。昨日本気の手合わせが出来て、俺もいろいろ勉強になったわけよ」
「初戦の闘神を襲うのは不名誉だと知っているだろう!イェシカと我が国はちょっと微妙な友好国なんだ。
その相手に貸しを作ってしまったじゃないか!」
王は自分より拳ひとつ背の高い、若造の姿をした闘神の耳をぐいぐい引っ張った。
「いってぇ、襲ってないって、合意だったし、友好国ならいいじゃないか」
「そんな言い訳が通ればいいがな…」
「いやいやいや、そんなに深刻になるなよ。あっちも秘密にしてくれるって言ったし、知ってるのはマリさんと女王と妖精さんだけだよ」
気安く闘神の名を出すヴォルフラムに王は再びため息をついた。
「それにしても少女闘神だぞ、お前がよく手を上げられたな?」
「ん?」
「いや、だから、こんな風になるまで相手を傷つけたんだろう?相手が女では、普段のお前ならかすり傷ひとつでも負わせる事が出来ないだろう」
長年の付き合いで、ヴォルフラムの優しい性質はよく知っている王は、闘神とはいえ少女と花園を赤く染める程の激しい戦いが出来た事が驚きだった。
「そうだなー確かに可愛い子だったけど、性別なんて関係ないんだよ。
骨が砕けても、体がバラバラになっても、結局はかすり傷ひとつ残らなかった。
マリさんもきっと、普通の人に対しては頬をぶつのも躊躇するような子だと思う。でも、女王と国を護る為なら、俺の両目を抉り出すのだって平気さ。それが闘神なんだよ」
戦争を体験していない闘神ヴォルフラムを無自覚に、ただ優しい男として付き合ってきた王は、胸をつかれた。
「…お前もそうなのか」
「そうだよ、ジークフリートとファーナムの為なら、あの子の細い首をへし折るのも平気だよ」
だって闘神だからね、と続けるヴォルフラムの耳から手を離すと王はその背を労うようにたたいた。
「で、強かったか?」
「まだわかんないって!初戦は誰だってへぼへぼなの知ってるだろ?でもまあ、最後には俺もかなりやられたし、次にあの子に初戦と侮って試合を申し込んだ国は、恥かく事になるだろうね」
「それがお前でも?」
「俺は…勝てるかも?ルールがあれば。ほら、逆にルール有りの方がマリさん初めてだしね。
何?もしかして申し込むの?初戦申し込むの?やった!イェシカに行けるんだ!」
ヴォルフラムの脳裏に昨日のオニギリの姿が光り輝きながら降臨した。イェシカではきっとあれが食べ放題に違いない。
「いや、それはない。うちは今動けないだろう。お前イェシカ側はいいが、アスランの山には行くなよ」
現在、アスランとファーナムの関係は少々険悪になりつつある。その国境沿いでファーナムの闘神が目撃されると、アスラン側があらぬ誤解をしかねない。そんなお国の情勢では、闘神と王を外交に出すわけにはいかない。
「うう、俺のオニギリ…」
アスランの闘神は50年を越えてこの世界に留まっている。小国である故に戦時戦闘の経験数では近隣一だ。この時期にヴォルフラムに実戦の経験が増えたのは僥倖と言える。
「まあ、初戦に相当するお礼は考えよう」
ファーナムの王はイェシカ側に広がる絶景を楽しみながらひとりごちた。
地図の挿絵はここにこそ必要だったかも!
でも頻繁に載せるのも邪魔かも…という事で地図挿絵はこちらに移動です。




