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私は、あなたの闘姫  作者: まるみふみ
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旅立ちの前

  確かに、高校生にもなれば、家族とのイベントがウザくなるのはなるけど、毎年の事だし、そりゃ電気も通ってない場所でのキャンプなんて面倒だけど、涼しい高地は空気もよくて、地元で遊び疲れた頃には、わりと楽しみだっていうか…。

 しかも、いつものメンバーは行って、自分だけ仲間はずれなんて、どうよ? 私の立場なら、皆こう言うよ。たぶん。

「なんで今年は私だけキャンプ行っちゃだめなの?」


 中村家の夕餉兼家族会議の場で、娘の当然予測された反応に、父親の亮はこちらも前もって用意しておいた答を返した。

「そろそろ茉莉も、我々男子部の山林探検隊より、中村家の女子として、温泉めぐり隊へ参加するのがいいんじゃないかと思ってね」

「温泉…めぐってたの?知らなかった!」

 案の定、娘がキャンプよりもそちらに喰いついてくれた事に、亮は心の中でガッツポーズを取った。 

 これで娘を傷つけることもなく、恒例行事から遠ざける事ができるだろう。

「そうよー、あんたたちが山に行ってる間、私たちだけ居残りしてるなんて、そんな不公平あるわけないじゃない?」

 妻も、早い梨を剥きながら話を合わせる。

「だから、おばあちゃんと私は、あんた達が山で猿みたいに遊んでる間、しっとり温泉で羽のばしてたの」

「去年なんか私、初めて垢すりエステしちゃったのよ」

 うふうふと母は追従して、妻と目を合わせる。

「垢すりってなにー!? 」

 この時点で茉莉の頭の中にはキャンプの事など欠片も残っていなかった。


 中村家は3世代同居、祖父母、父母、息子、娘の6人家族だ。

 去年までは祖父、父、息子、娘で夏休みには必ずキャンしていた。山中深く、それ用の場所でなく、管理者から許可を受け、一般人は立ち入らないような場所で、本格的に2泊3日、大きなテントを設営し、野山を駆け回ってプチサバイバル生活を楽しむのだ。

 昼間、魚釣りや山菜採り、ゆるクライミング等でくたくたになった子供たちに、夜は祖父か父が馬鹿みたいに美しい星空を見ながら、星座の話や、国内外の民話、神話を語って聞かせる。正に物より思い出行事だ。

 今年はわけあって、娘は連れていけない。息子とも来年からは、毎年はもう行かなくなるかもしれない。

 父亮は、明日の旅支度をする息子大輔を見ながら、今年の夏待ち受けるであろう彼の過酷で愛しい運命を思って、胸が熱くなった。

 この子は旅立った次の日には必ず還ってくる。だが再び会う時はもう、前日までの彼ではないのだ。

「心配すんなよ。俺けっこう、ちゃんと信じてるし、心の準備も出来てるからさ」

 その日の為に、分別のつく年齢になってから、双子の娘には内緒で、あちらの世界の事を詳しく教え込んである。自分の時と同じく、半信半疑に違いないが、してやれる準備は、それこそ彼の生まれた頃からしてきたし、あちらでも最後の日までしておいた。

「名前はシーグルお前よりちょっと年上だけど、気のいい奴だから」

「はいはい。もう何回も聞いてて、生き別れの兄ちゃんに会いに行く位の気持だから安心しろって」

 息子が親の欲目を引いても、なかなか信頼できるいい男に育ってくれた事に感謝しつつ、最後に念を押した。

「いいか、これだけは今まで言ってなかったが、最後に記憶しておいてもらいたい事がある」

「なに、やだな。やっぱこわいことでもあんの?あっち」

「こわいっていうか…なんて言うか、その…好きになっちゃうのはしょうがないんだ。でも我慢するのが吉だぞ!」

「はあ?わけわかんないんですけど」

「いや、いい、忘れてくれ。でも多分思い出す時がくるから…まあ、そういう事だから。じゃあおやすみ」

 困惑顔の息子を見ているのがなんとなくいたたまれなくなって、その場を去ると、様子を伺っていたらしい父と出くわした。

「まあ、言いにくいわな」

「父さんなんか何も言ってくれなかったじゃないですか!どんだけ俺があっちで悩んだと思ってるんですかっ」

「…そうならないことも、あるんじゃないかなーと思って…多感な時期の息子には言い辛い事だし」

「もじもじしながら言っても、気持ち悪いだけですよ!」

「ほんと、すまんかったです…はい」

 そんな中村家男組の妙な会話を知ることもなく、茉莉は母とキャンプのときとは全く中身の違う大荷物をまとめていた。


「ねー、なんで今まで温泉の事、言ってくれなかったの?」

「だって、私たちも夏休みだもん。お子様連れて行って、うるさくされたら台無しじゃない。茉莉も今年から高校生になったことだし、大人の女の仲間として認めてあげる事にしたのよ」

「なんかごまかされてる気もするけど、なんとなくわかるような」

 小学生の頃なら絶対、温泉につかってゆっくりするだけの旅行には耐え切れなかったろう。母が言うように温泉とは別の娯楽を求めて騒ぎまわるに違いないなかった。

 最近、傍若無人なチビッコのハイテンションについていけない事が茉莉にもある。これが大人になるということか?


 旅立ちの朝、何やら思い定めたような面持ちの男どもとは駅のホームで別れ、有名温泉地へと向かう特急の中で、湯煙と据え膳上げ膳、おまけに素敵浴衣レンタルの話で盛り上がる中村家女子部の面々は、ひたすら暢気だった。

 

 茉莉が、あちらの世界に呼ばれるまでは。

 


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