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私は、あなたの闘姫  作者: まるみふみ
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予定変更

 朝目覚めると、まだ少し違和感がある天井。

 眠っていたのは天蓋付のベッドなので、正確にはベッドの天蓋。

 そこには、ミンミの花模様の浮き彫りがびっしり施されていて、可愛いんだか、匠の仕事に関心するんだか、いつも迷ってしまう。

 茉莉はお姫様仕様の素敵ベッドを抜け出すと、これまた素敵なゴブラン織りっぽいカーテンを開けて、部屋に朝日を呼び込んだ。

 バルコニーにつながるガラス戸を開けて、外に出ると、城の見事な中庭が見えた。

 そこは今、薄桃色の可愛らしい花が満開になっている。茉莉がもう少し花に詳しければ、それが花海棠そのものだとわかったかも知れない。

 こちらの世界と、元いた世界は人類も植生も、とてもよく似通っている。

 ぼんやりと外を眺めていると、ノックの音と共にこちらの世界ならではの存在が入ってきた。

「マリ様おはようございます」

 灯明妖精のリリーだ。

 茉莉に今挨拶した妖精や、魔法などは、あちらでは想像上の存在でしかなかったが、この何日かで随分と馴れた。 

「あ~おはよう、リリーちゃん」

「今日は灯明以外の仕事が多くて…遅くなりました」

 そういうと、茉莉お気に入りの、妖精灯火器の不思議な明かりを消した。

 そういえば、いつも目覚める時間より、ちょっと日が高いかもしれない。

 この城に来てから、基本的に茉莉に決められた起床時間はない。国の一大イベントを前に、ほぼ主役の茉莉に、スケジュールがないわけではないが、朝はわりとのんびりしている。なので、大抵リリーのノックで目が覚めるのだ。

「って事は、ヤバ、朝ごはん待たせちゃってるかな」

 こちらでは、朝ごはんよ~!などと呼ばれる事はない。茉莉が食卓に着くときが朝食の時間なのだ。

 自分に食事をさせようと待ってくれている侍女の皆さんと、「私、食事はマリ様とご一緒でないと取りませんから」宣言をした、この国の女王様を待たせているのに違いない。あわてて次の間の洗面台で顔を洗い、もひとつ奥の間のクロゼットで、まだ少ないながらも、茉莉のためだけに誂えられたドレスに着替える。連日城下のお針子さん達が、急ピッチで縫ってくれているらしいので、部屋を空けて帰ってくるたびに増える衣装に、申し訳ないなとは思いつつも、ちょっと嬉しい茉莉だった。


 朝食のためだけにある部屋に着くと、侍女の皆さんがわらわらと寄ってきて、椅子を引いてくれたり、ナプキンをかけたり、水をついでくれたり、いたれりつくせり状態になる。

 実は、部屋にも常駐して、服の脱ぎ着せも世話してくれたいらしいが、由緒正しき一般庶民の茉莉は、それを固く辞退した。それが仕事の彼女達は不満そうだったが、女王様が「何事も、マリ様のご要望の通りに」と言ってくれたので、素敵なプライベート空間で茉莉はのびのびと暮らしている。

 パリっと焼けたパンが運ばれてくる間に、女王様が登場した。

「マリ様、お早うございます」

 何度見ても飽きない、可愛いくて、きれいなクリスティーナに微笑まれて、茉莉は毎度の事ながら、体がふにゃっとなるのを感じる。

「おはよう。ごめんね、なんか遅くなっちゃって。お腹空いたでしょう」

「いいえ、急な執務が入ったので、丁度いい位です」 

 するすると、気持ちのいい衣擦れの音がして、長いテーブルなのに、角を挟んで茉莉の斜め前の席に着く。これが朝食の時の2人の定位置だ。

 女王様は何も言わないけれど、本当は長方形のテーブルの端と端に座るものだと、年季の入った侍女さんがこっそり教えてくれた。

『クリスティーナ様は、よっぽどマリ様のお近くにいらっしゃりたいんですね』

 と言って笑われた。その時も自分の体が、何かマロニーちゃん的なものになったような気がしたものだ。

「マリ様、今日が本番です」

「う~ん、そうだようねえ。なんだかよく知らない行事だから、実感ないというか」

 緊張感がないというか…という言葉は言わないでおいた。クリスティーナが明らかにちょっと張り詰めた顔をしているからだ。

 闘神祭は国民に対する、正式なお披露目の儀式で、闘神のいない世界にいた茉莉からすると、その重要度は全くもってピンとこない。

 自分的には、帰都の時受けた歓迎がパレードみたいなモノだったし、雰囲気はあんな感じかな位にしか思えなかった。

「大丈夫。手順は覚えてるし、昨日の予行練習はうまくいったし!」

「そうですね、予定通りにするだけですものね…」

 ふう、と息を吐き、力を抜くと周りを見回した。

 すぐに侍女の1人が「何か御用ですか?」と寄ってくるが、軽く手を上げてそれを止めると、侍女頭さんを残して彼女達を部屋から出した。

「マリ様、ちょっと予定に変更があります」

「えっ?どうしよう。難しい事?」

 クリスティーナは小首を傾げて、思案顔になる。

「マリ様は、お芝居はお上手ですか?」

 こう聞かれて、はいそうですと言える人ってどの位いるものなのだろう?茉莉は自分の学芸会の時の大根っぷりを脳裏に蘇らせながら、ぶんぶんと首を振った。

   

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