Giuramento 誓い
Una persona non posso dimenticare
第1章 見舞い
宙也は、骨折はしていなかった、ヘルメットとジャケットは装着していたが、D沢を滑落したため、かなりの衝撃も受け、頭と内臓に、ダメージがないかを経過で診ていた。
「ハイ、宙也くん、林檎むいたわよ」
「ありがとうございます」
咲耶が付きっきりで、付き添ってくれてるので
宙也はうれしかった。
「宙也くん、うれしそうね、どおしたの❓」
「咲耶さんを独り占め出来て、うれしいです」
咲耶の中で悪戯心が湧いた。
「ねぇ、宙也くん❗
私、今回の件で、アナタに幾ら請求しようかなって、
考えてるのよ‼️
宙也くんには、私、いっぱい泣かされたし、高いわよ・・・
私の涙はねぇ・・・‼️」
「えっ⁉️咲耶さん‼️俺、被害者なんですが・・・」
咲耶はニッコリ笑って宙也を見ていた。
『ヤバイ・・・』
彼は思った。
「あぁ何か、アタマが痛くなって来た」
宙也は布団を頭から被った。
其処へ咲耶が布団を捲って、笑顔を近づけて来た。
宙也はドキドキした。
『キスしたい❗キスしたら、怒るかな⁉️でもしちゃおうかな』
宙也は顔を近づけようとしたら、ノックの音がした。
「バイタルチェックの時間よ」
優子が入って来た。
「優子」
「ちょっと咲、なに布団捲って入ろうとしてんのよ‼️
やらしかぁ‼️」
「違うわよ❗その『やらしかぁ』は何処の方言よ⁉️
また、旅先で知りあったオトコに感化されたの⁉️
まったく懲りてないんだから‼️優子は‼️
違うわよ、今、宙也くんにまた泣かされたから、今回は、幾ら請求しようかなって言ってたら、いぢけて布団に潜っちゃったのよ‼️」
「アヤシイなぁ⁉️
ホントは、ふたりでチュウしようとしたんぢゃあないの⁉️
アタシはジジイ共の世話ばかりで、若いコに餓えてんのに‼️咲ばかりでズルイ‼️アタシも宙也君の若いエキスを吸いたいのよ‼️
だから宙也君の病室に、来るのがホント樂しみなのよ❗
宙也君、咲を独り占め出来て、良かったね❗
でもね、咲は人氣あるからね❗後がタイヘンよ‼️」
優子の毒舌が炸裂した。
ふたりにいぢられる宙也だった。
「優子、父に電話してくるからお願いね」
咲耶は病室を出た。
優子が宙也に運び込まれた時の話を始めた。
「宙也くんが、運び込まれた時は大変だったのよ❗
アタシもしのぶも、あんなに取り乱した咲を見たのは、初めてだった❗
裕之の時は悲しみに耐えてたけど、
今回は哲史に、平手打ちを喰らわせるわ‼️
顧問は吊し上げるわで❗スゴかったのよ」
「哲史⁉️って竹尾の事ですか⁉️」
「咲、話してなかったのね❗
アタシと竹尾は親戚なのよ、ゴメンね、
宙也くん、こんなケガさせちゃってね、
ホントあんな哲史のせいで」
「優子さんが悪い訳ぢゃあないですから、
竹尾は今、どうしてますか⁉️」
「其れが長岡市の病院に、入院してるらしいの❗
表向きは取り調べで、メンタルを病んだとの事でね❗
ウラは病氣理由で、取り調べから逃れて時間稼ぎ」
優子が話をしてると、
またノックの音がして
「失礼します、相沢宙也さんの病室はコチラでしょうか❓」
爬虫類顔の男、竹尾の會社の顧問弁護士 魚津が入って来た。
「相沢さん、この度は大変でしたね、
私は竹尾さんの會社の顧問弁護士をしてる、魚津と申します」
名刺を宙也に差し出した。
魚津は優子を見たが反応がなく、
優子が竹尾と縁続きの者と解らず只の担当看護師と判断したようだ。
優子は竹尾の家で何度か魚津を見た事があった。
『省三の飼犬❗いつ見ても氣持ちの悪い男、オッサンから、言い含められて来たみたいね、出方を見ていて何らかの行動を取った時は、担当看護師として面會禁止を言い渡そう』
『看護師が邪魔だな』
魚津は思った。
「看護師さん、相沢さんと大事な話をしたいので、暫く外してもらえると助かりますのですが・・・」
『やった‼️動いてくれた』
優子は内心、よろこんだ。
「アタシは相沢さんの担当看護師です、彼は頭を強打しておりますので、付き添って経過を診ております❗」
優子は一度、言葉を切った。
『さて、ココからがホンバン‼️』
「魚津さん、ご存知だと思ひますが、宮内洋二さんが、相沢さんの後見人ですよね‼️
後見人に今日のお見舞いの話を通されましたか⁉️
もし・・・通してないのなら如何なものですかね❓」
『このナースはいったい⁉️』
優子の言葉に魚津は驚いた‼️
『たかが、ヤン喰らってる看護師風情がと軽く見てたが、何者だ、このオンナは⁉️』
魚津に強烈な見事なジャブをあたえた優子だった。
-事情を知っているのか⁉️
魚津は焦った。
「看護師さん、何故、私の名前や後見人の事をご存知なのですか⁉️」
「アタシは竹尾省三の親戚です、
何度か竹尾の家で、魚津さんをお見掛けしてますわ❗
そして、宮内咲耶はアタシの友達なのね‼️」
優子は自分の事を明かした。
「しまった‼️マズった❗下手打った、厄介な事になったな‼️」
魚津は心のなかで唸った。
ぢつはコレは、洋二の作戦でもあった。
「宙也の意識が戻れば、竹尾側は必ず動くだろう」
そう考えて、優子に担当になってもらう様に、お願いをしていたのだった。
洋二の策に、魚津は見事に引っ掛かった。
「ゴメンね、電話が長引いて」
ノックと同時に扉が開いて、咲耶が戻って来た。
「アレ、お客様⁉️」
と言ったところで、優子が答えた。
「咲、狸親父のとこの、顧問弁護士よ」
咲耶の表情はみるみるうちに変わった。
「弁護士さん、父からの書状を見たうえでの行動ですよね」
「私はただ、御見舞いに・・・」
しどろもどろに答える魚津
「あら⁉️大事な話があるから、『アタシに席外せってね』言ったのよ、ねぇ魚津さん‼️」
優子が穏やかに、魚津を脅かす‼️
「何が見舞いよ❗
だったらこのコに、ケガさせた本人を連れて来なさい❗
ビビりだから、出て来られないでしょうけどね❗
親子揃って腐った事しか出来ないのね!お帰り下さい、
この件は父に報告致します」
咲耶が一喝した。
「失礼しました」
魚津は逃げる様に病室を後にした。
『ヤバっ‼️ふたりは絶対に怒らせないようにしよう‼️』
魚津とのやり取りを見てた宙也はそう思っていた。
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第2章 洋二と省三
咲耶から連絡を受けた洋二は省三の會社に電話を掛けた。
「社長、お電話です」
電話をとった女性事務員から声を掛けられた。
「誰からだ」
「宮内さんという男の方からです」
「洋二から❓何だろう⁉️」と思った。
ちょっと考えてから受話器を取った。
「お久しぶりです、省三さん」
洋二は社長と呼ばずに若い頃の時の呼び方をした。
「洋二君、久しぶり、どうした」
省三も其れに応えた。
「ぢつは先程、宙也のところに御見舞いと称して、顧問弁護士が連絡無しで訪ねて来まして」
「えっ⁉️何だって、魚津が‼️」
「コレはマズイぞ、魚津あのバカ‼️功を焦ったな‼️」
「省三さんの指示ですか❓」
「イヤ、申し訳ない、ホント知らなかった」
省三は洋二を認めていた。
『剣道がしたい』
そう言ってきた竹尾に迷いもなく『洋二に教われ』と省三は言ったのだ。
そう、洋二も省三を認めていた。ワンマンで豪腕だが其の経営手腕は優れていた。
お互いに認め合ってる二人だった。
洋二には彼の指示でもそうでなくても、どっちでも良かった。
お互いに若い頃の間柄に、戻ればそう難しい話ではないと洋二は考えていた。
そして、切り出した。
「省三さん、今度の件二人きりで、話をしませんか⁉️
そうすれば、間違いないと思ひますが如何ですか❓」
-魚津には、処理はもう無理だな‼️
瞬時に決断をし、洋二の提案を省三は受け入れた。
「何処で話し合う」
「今夜6時、錬成館でどうですか❓」
「承知した」
省三は電話を切った。
省三は駐車場に、車を停めて錬成館に入った。
道場では既に洋二が正座で座っていた。
洋二は省三を氣付い、
道場には二人だけしかいなかった。
その洋二の心遣いに氣付き、
そしてこころを開いた。
「愚息が従弟の方に、大変なケガを負わせて申し訳ありません❗あんな馬鹿だが、私にとっては大切な子供❗どうか許して頂けないでしょうか」
省三は洋二に向き合って正座をして頭を下げた。
洋二の顔は悲しみを浮かべていた。
「省三さん、私は哲史君に剣道しか教えられず、
大切なこころ・・・を教えられませんでした❗
指導者失格です‼️申し訳ありません」
「いや、私が哲史を甘やかし過ぎたんだ❗
だからキミに剣道を通じて、補おうと考えていたんだ。私は従弟の方にどうしたら良いのだろうか⁉️」
2人は話し合った。
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第3章 退院
彼のケガも回復に向かっていた。
CTでも異常は見つからず、そろそろ退院を考えていた。
「仕事が終わったら病院に行くよ、決めたい事があるから、キミも居て下さい」
私は父の出勤を見送る時に言われた。
あれ以来、顧問弁護士も来なかった。
竹尾の指示で動くなと言われたのだと思った。
私は彼の病室に入った
「おはよう、調子はどう❓」
彼も入院に厭きていて
「大丈夫です❗そろそろ退院したいですね」
「今日ね、父が話があるから来るからね」
其の瞬間、彼は苦しそうな顔をした。
「迷惑掛けてすいません❗」
彼の頭の中は恐らく、今回の入院費用や、毒親の事が巡ってるのだろう。
事故の件は父の判断で、彼の親には話していない。
彼の後見人に父がなって、一切を引受けていたのである。
夕べ、父が帰って来た時の表情は、悪い感じではなかった。むしろ明るい感じだった。
其の雰囲氣を見ていたので
「心配しなくていいのよ、大丈夫だからね」
私は彼に言った。
夕方、仕事を終えて父が病室に来た。
彼は緊張していた。
「そんなに固くならないで」
父は笑顔だった。
「二人にはご迷惑をお掛けして申し訳ありません、
今回の掛かった費用は必ず御返しします」
宙也は平伏して言った。
其れを見て父は笑って言った。
「宙也くん、なんだ❗そんな事心配してたんだ、入院治療費の件は全く心配しなくていいんだよ‼️竹尾さんが全部負担するから大丈夫」
其れを聞いた彼の顔は、安堵の表情を見せた。
「お父さん、決めたい事って❓」
私は聞いた。
「現在届けてる被害届なんだけど、
其処から、竹尾君を外してもらえないかと、相談受けてね」
「どういう事なの⁉️」
「つまり、民事上では、悪い事をしたのは認めて、宙也くんに入院治療費と慰謝料を払う、そして、アスリートとしてあるまじき事をしたので、選手としての引退だけでなく、もうSKIも止めさせるから、どうか哲史君を刑罰処分から外して欲しいって事なんだ」
「えっ、其れってこれだけのケガを負わせて、随分虫が良すぎない❓」
「宙也くんからすれば、これだけのケガをさせられて許せない氣持ちだと思ふ❗ただ宙也くんも竹尾君も同い年❗まだ先があるから、なんとか、刑罰はさけてもらえないだろうかと、省三さんの親ごころなんだ、だから僕はキミの氣持ちを、確認して決めようと思って」
私は彼を見た。
まぶたを閉じて暫く考えていた。
そして、眼を開いた。
「省三さんの提案を受け入れます❗
其れと竹尾に伝えてほしい事があります❗
選手としては、ともかくSKIだけは続けてほしい‼️
オレは彼からいっぱい教えてもらいました、いつかまた、その機會が来たら、一緒に滑りたい、そう伝えて下さい」
父は其れを聞いて笑顔になった。
「宙也くん、キミは立派だよ❗
誰が何を言おうが、僕はキミを認めているからね❗
ぢゃあ、省三さんに連絡して、話を進めるからね」
そう言って父は病室を後にした。
しかし・・・
彼は何処か浮かない顔をしていた。
「どうしたの❓やっぱり悔しいの⁉️」
「違います」
そう言って
少し間を置いてから答えた。
「オレは立派なんかぢゃあない‼️一歩間違えたら・・・たぶんオレが・・・竹尾になっていましたから・・・」
其れは宙也が初めて、私への思ひを打ち明けたのと同じだった。
もし竹尾に私が取られたら、彼は『同じ事』をしただろうと・・・
私は混乱した。
今まで竹尾からは、何度も愛情を打ち明けられてきた。
有力者の息子だけに、かなり強引だった。
『私を何だと思っているの⁉️ひとを思いやる氣持ちもないし、サイテー‼️』
其のたびに、ジョークや時には、厳しい対応をしてきた。
其れは感情がない竹尾にだから出来る事。
『ぢゃあ宙也はどうするの⁉️』
「私達はいとこ同士よ。」
自身に言い聞かせる様に言う。
『宙也がイイんぢゃあないの‼️いとこ同士は結婚になれるしね‼️』
優子としのぶ、幼なじみ達は言う‼️
正直、全然其処まで考えてもいない。
ふたりは
宙也がどことなく『裕之に似てる』から言って来てるのかも知れない。
「私達はいとこ同士なのだからね‼️」
そう言ってしまったら・・・
「いとこ同士なんだ‼️」
彼のなかで其れで全てが、決まってしまいそうだった。
私のなかでウラハラにも、其れは言ってしまいたくはなかった。
もし彼が私を抱きしめて
『思い』を
打ち明けてきたらら私どうしたらいいの‼️
私の中で其の事がグルグル回り続けた。
しかし彼は其処で黙ったままだった。
「もうすぐ大学が始まるわね。
竹尾さんの事は残念だけど、宙也くんなら直ぐに新しい友達も出来るわ」
私は彼が友達を失った悲しみと捉えたふりをして答えた。
「・・・そうですね」
少し間を開けて彼が答えた。
退院が明日に決まった午後
病室の扉からノックの音が聞こえた。
「ハイ、どうぞ」
私が扉に向かって言うと
「失礼します」
竹尾省三が入って来た。
私は立ち上がった。
「竹尾さん、お越し頂きましてありがとうございます」
「この度は愚息が大変な事をして、相沢さんにケガを負わせてしまい、申し訳ありません❗
また相沢さんの寛大なお心遣いを、頂きましてありがとうございました‼️
哲史は暫く、都内で厳しく修行させます、心がきちんと定まったら、必ず本人に謝罪をさせます‼️其れまで暫しお待ち下さい」
「彼はもう、東京に行ったのですか❓」
彼が聞いた。
「そうです」
「彼といつかまたⅠ名香で、一緒に滑る事が出来る日を樂しみにしています」
彼は笑顔で省三に言った。
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第4章 Giuramento 誓い
約3週間の入院が終わった退院の日
優子が病室にやって来た。
「宙也くん、退院おめでとう❗でもアタシは淋しくなるわ、年寄ばっかの担当だったから、若い宙也くんの病室に来るのが樂しみだったの‼️
咲にフラれたらいつでもおいで‼️
アタシが優しく慰めてあげるからね」
冗談なのか❓ホンネなのか❓
解らない事を言った。
「優子さん、ホントありがとうございました、優しくしてもらってうれしかったです」
受付で手続きを済ませた咲耶が戻ってきた。
「咲耶さん、LEVANTEチームマネージャーに、電話掛けて来ます」
そう言って彼は病室を出た。
「優子、ありがとうね❗宙也くんも後遺症もなく、無事に退院出来たわ」
「良かったわね、いとしのカレが元氣になって」
優子も意味深な言い方をした。
「いとこ・・・の宙也くんよ」
私は切り返した。
「アタシ、宙也くんの事、結構氣に要ってるのよ❗咲、イイ❓」
優子はイタズラ好きで時折、こういう事を言って、
私の反応を樂しむクセがある。
私はいつものイタズラと判断した。
「何が❓」
「ぢゃあ今度、カレ誘っても」
優子の眼は、マジに見えた。
「いいわよ、別に」
そう言ってから
不安になってる私がいた。
無関心を装う私の悪いクセが出た。
優子は学生時代、レディースでハジけちゃったけど、
好きなオトコのタイプはヤンキーではなく、真面目そうな男の子だった。
確かに宙也みたいなタイプを、好きになることが多かった。
ただ、オトコの方が、彼女を怖がって成就しなかった。
宙也は、不思議と怖がらずに優子に懐いていた。
しのぶも彼の事は氣に入ってる。
見舞いにきた時、読書好きな二人は好きな本や、好きな作家の話で盛り上がる。
「咲があくまでも従弟って言うのなら・・・」
しのぶも、私の彼に対しての反応を見ている。
私達三人は一見するとバラバラのタイプだったが仲の良い幼なじみだ。
「わぁ、女優さんみたい‼️タカラジェンヌのイメージかなぁ」
入院中に彼に
私達三人が教師に反抗して、茶髪にして登校した時の話をしたら、其の時の写真が見たいと言ったので見せてあげた。
彼がお世辞で言ってるとは思っていない。
私達、三人は名香で美人と噂されている事を知っていたからだ。
電話を終えて彼が戻って来た。
「宙也くん、学校が始まる前に、退院祝いしてあげるね、連絡するね」
優子が言った。
驚いた彼は、私の顔を見た。
「たまには、私とぢゃあなく優子と出掛けてみたら」
とまた、私は自分でも嫌になる位の、無関心さを装う事を言ってしまった。
彼は少し憂いを含んだ表情を私に向けた。
私は言った側から後悔していた。
「お世話になりました❗どうもありがとうございました‼️」
そう言って病室を私達は後にした。
受付を通り抜ける時に、受付にいた髪の長い、宙也と同い年くらいの女の子が立っていた。
「宙也くん、またね」
「うん、またね」
彼もそう言って手を上げた。
「意外に人氣あるんだ‼️確か、前にカノジョいたのよね、このコ」
私は思った。
其れから、私の運転でスキー場の事務局へ行き
関係者に退院の挨拶をした。
しのぶがやって来た。
「もう少しで仕事が捌けるから、お茶でもしようよ。」
しのぶが仕事が終わって三人で街の喫茶店に入った。
「良かったね、宙也くん、無事退院出来て」
「ありがとうございます、ご迷惑おかけしました。」
「ううん、私があそこで止めておけば良かったのにね❗
ホントごめんね」
「いいえ、オレが未熟でした」
暫くすると、近くの席の一人は、初老のサラリーマンと思われる男と、もう一人は宙也と同世代と思われる男が言い合いを始めた。
「なんで僕が採用取消なんですか⁉️」
「竹尾に、デマ流した山岸ってヤツだわ」
その声を聞いたしのぶが言った。
『ヤロー、お返ししてやる‼️』
宙也がしのぶの言葉に、反応して拳を握って、立とうとしたから、私は彼の手を握った。
彼は吃驚して私の顔を見た。
私は首を振った。
「アナタはプロスキーヤーなんだから、
あんな山岸を相手にしちゃダメよ。」
そして宙也を諭した。
しかし彼は納得がいかない様子だった。
「ヤツのせいで竹尾が・・・」
私はこれを機に宙也から竹尾を切り離すつもりだった。
「宙也くん、もう竹尾の事は忘れなさい、
アナタには未来があるのよ」
そこで一度、言葉を斬った。
「だけど・・・」
しかし、まだ納得していない宙也に、トドメを刺した。
「宙也くん また、私を泣かせるつもり⁉️」
私は彼の目を見つめた。
そして彼は眼をつむり、何かを言い聞かせるようにした。
「ごめんなさい」
「聞いててごらんなさい!アイツはこれから自分の流したデマで罰を受けるのよ❗因果応報なの」
山岸の猛抗議を初老のサラリーマンは、黙って聞き流していた。山岸が言葉に詰まると、彼は冷たく言い始めた。
「山岸さん、君は当社の取引先に、数百万の損害を与える行為をしたので、当社はアナタの採用取消致します。」
「損害って何です❓意味分かんないですが⁉️」
「竹尾さんの件です」
「僕は関係無いです」
「アナタが流したデマで、大変な損害を被ったと聞いております、ですから、当社としてはそんな危険人物を置いとくわけにはいかないです」
「タヌキおやじの報復が始まったみたいね❗山岸は上江津地方ぢゃあもう、就職出来ないわよ、イイ氣味よ、そう言えば咲❗顧問の村上は❓」
「クビはモチロンなんだけど、もう其れだけぢゃあ済まないみたいよ」
「済まないって❓」
「父の話だと贈収賄と脱税、累計すると約600万位受け取ってるみたいよ、其れと高校に納品したスキー用具が約3割高くて、狂参系の町議が指摘して問題化されたの❗
で堪らず魚津という、竹尾の弁護士に泣きついたの‼️」
「そうしたら❓」
「その弁護士、解任されててね」
「四面楚歌ね、ぢゃあ一件落着・・・」
としのぶは言い掛けて・・・
「どうしたの❓」
私は聞いた。
しのぶはいたずらっ子みたいな目をして
「まだ・・・一番の大変な問題が残ったわね‼️」
私と宙也を見て言った。
家に帰ってから父から連絡があった。
「宙也くんの退院祝いは外でやろう」
父の幼なじみの店に行った。
座敷に案内されて入ると
既に父の前にはお銚子が2本開いていた。
私は呆れながら
「ちょっと‼️待てないの❓」
「嬉しい事があってね、宙也くん‼️
省三さんが君を褒めてたよ、哲史はもっと人を見る修行をしないとって言っていたよ❗
哲史君に君の話を省三さんが、機会をみて話をするからと、そして必ず、息子自身の口から君に、謝罪をさせるからと約束してくれた」
父は彼が省三に認められたので上機嫌だった。
そして呑み続けて・・・酔いつぶれて・・・
「よっぽど嬉しかったのだろうね、久しぶりにこんな洋二を見たよ」
幼なじみの店の主人 の重吉が私達に声を掛けた。
しかし・・・
其れからが大変だった、私と彼で大虎になった父を
やっとの事で家に連れて帰り寝かしつけた。
深夜、なかなか寝つけなかった。
降りだした雨の音が耳につく。
寝るのをあきらめて、リビングに降りて
私は久しぶりに独りで、ロゼワインを飲み始めた。
グラスの底で揺れてるロゼカラーの波・・・
まるで自分のこころのうちを表している⁉️
宙也が来てからの2ヶ月の日々を振り返り、
そして『一番の大変な問題』を考えていた。
階段を降りる音がした。
リビングの戸が開いて彼が顔出した。
「珍しいですね、咲耶さんが飲んでるなんて」
「飲む❓」
「イイんですか⁉️」
「イイわよ、いつもは呑兵衛がいるからね❗
大変なのよ、亡くなった母がよく言っていたわ‼️
底の抜けたバケツなんだから・・・
コレさえ無ければ、ホントに良い人なんだけどねって、
でも母は、『父とでなければ結婚はしなかった』と、
私に言ってたわ
父は母が可愛がってた宙也くんと、また呑める日を樂しみにしてるわよ‼️」
「こわっ・・・‼️」
彼は少しおどけて言った。
私はワイングラスを出して、ロゼワインを注ぎ彼に渡した。
私達はグラスを重ねた。
「改めて乾杯‼️退院おめでとう」
「ありがとうございます」
私はロゼに唇をつける。
彼はロゼを、一口飲んでグラスを置いた。
「口に合わなかった❓麦酒の方がイイ」
「ううん」
彼は首を振った。
少しだけ言いにくそうに言ってきた。
「酔う前に咲耶さんにお願いがあって」
「お願い⁉️」
私は少し緊張して聞き返した。
外は春の嵐らしく雷鳴が聞こえてきた。
雷鳴が近くに響いた。
其れを合図にしたかの様に彼は口を開いた。
「咲耶さん、俺、麻美叔母さんと裕之さんのお墓参りに行きたいと思ひます、もし、咲耶さんが行きたくなければ、独りで行って来ますから、場所だけ教えて下さい」
『母のお墓参りは分かるけど・・・何故、彼が裕之のお墓参りを❓』
私は驚いた。
私はロゼを一口飲んだ。
「何故❓」
彼は困った様にひと言。
「約束したから」
「えっ誰に❓」
「・・・」
彼は黙っていた。
「宙也、ワケわからない‼️」
「だから、独りで行きます」
「私も行くわよ、裕之に話したい事もあるから、明日は雨だから明後日にね」
◆◆◆
山門をくぐり
私はクルマを降りた。
風があたたかい。
境内は日光が当たって春の陽かまぶしい。
私は彼を連れて住職に挨拶をした。
彼は寺の大きさに驚いていた。
この地方は戦国時代、治めていた上杉謙信の寺社への庇護が厚く、其のため繁栄した名残があった。
彼は水桶に水を汲み、私は花と線香を持って歩いて行った。
花田家と刻まれた墓石の前で私は止まった。
「此処よ」と私は言った。
頂きに雪が被っている名香山が正面に見える。
彼は墓石を見た。
「凄いですね❗名香山に抱かれている様ですね」
「裕之は名香山が大好きだったのよ」
彼は墓石に水を掛けた。
私は花を活けて線香に火を灯した。
私と彼は手を合わせた。
私はこころのなかで、話しかけた。
『裕之、貴方と過ごした日々は忘れないわ、
私はそろそろ前に進もうと思ふのよ』
『キミの選んだことならば、きっと大丈夫』
こころのなかの裕之は笑顔で頷いていた。
そして彼を見た。
彼はまだ手を合わせていた。
『何を思って、祈っているの❓』
「よし‼️」
そう言って、彼は眼を開いて言った。
「宙也くん、満足した❓そろそろ帰ろうか」
「ハイ」
ふたりは歩き始めた。
春の香りが微風に運ばれて来た。
そして・・・
『ありがとう』
ふたりの耳に裕之の声が入って来た。
ふたりは顔を見合わせた。そして振り向いた。
ふたりの瞳に映ったのは
吹き抜ける
微風かぜのなかで
舞った花弁が
絵の具のよおに
色模様をつけていった蒼空のカンバス。
「しのぶさん、おはようございます」
宙也はインフォセンターのしのぶに声を掛けた。
「おはよ、宙也くん、滑り納めに来たのね❗
変な感じでしょう・・・
ハイシーズンは、ABフェイスは雪が多すぎて滑走禁止、
春スキーになって、滑れるなんてね」
「ハイ、ちょっと変な感じですね」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
空は蒼く澄み渡っている。
春の陽が細かい光の粒子を雪面に美しく降り注いでいた。
SPEED MACHINE Tiを雪面に置いて
レーシングローターマットにステップイン。
リフトに乗った。
火打山の頂には白い雪が残っていた。
Aフェイス入口に立った。
裕之の樹のところは雪が無くなって土が出ていた。
宙也はポールのストラップを外して、裕之の樹に向かって手を合わせた。
「裕之さん、アナタの替わりは、出来ないけど・・・
オレなりに咲耶を護ります、どうぞ見守って下さい、其れがオレの答えです、来シーズンまた来ます」
そして宙也は蒼空を仰いだ。
「ガンバれよ」
ピステを横切る高気圧の風と共に裕之の声が聞こえた。
其れが合図になり
「クロス」と発して
彼はAフェイスに飛び込んで行った。
Continuare