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Trappola 罠

Una persona non posso dimenticare

第1章 納會






翌朝

宙也は眠りから覚めて起きた。

リビングに降りて来た。


「おはよう、宙也くん」


「おはようございます、咲耶さん」


宙也は彼女の声の音色がいつもと同じ、明るい感じだったのでホッとした。


洋二はもう出勤しており、彼女とふたりで朝食を取る。


ふたりとも昨日の出来事(Aフェイス)には触れなかった。

触れない事がふたりの暗黙の了解みたいな形だった。


「宙也くん、大学はウチから通う事でイイ❓」


突然、彼女が聞いて来た。


彼女は

裕之の事を話した件で、宙也が離れてしまう事が、心配だった。

父と2人きりの生活は、侘しかったから、宙也を、ココから通わせたいと洋二に話していた。

洋二からは、既に了承をもらっていたので、あとは宙也の氣持ちだけだった。


宙也は其れを聞いてホッとしていた。


Aフェイスの件で彼女に啖呵を切ってしまい、

なんとなく氣不味かったのだ。

宙也には渡りに船だった。


「ハイ、ココから通います」


「ぢゃあ、決まりね、良かった❗」


彼女は笑顔になった。





◆◆◆





『ピンポーン』

チャイムが鳴り、誰か来た様子だった。

私が玄関で迎えると、地元高校のスキー部の新しい主将になった吉村が立っていた。


「こんにちわ、咲耶さん、宙也さんはいらっしゃいますか」



「こんにちわ、吉村君、ハイ、いるわよ、宙也くん、新しい主将の吉村君よ」


私はリビングにいる宙也に向かって声を掛けた。


「どうも、何でしょうか❓」


宙也が玄関にやって来て、吉村に声を掛けた。



「来週の15日、スキー部の今シーズンの納會があります、宙也さんに参加してもらいたくてお願いに来ました、

今日は竹尾さんが研修のために代わりに伺いました」


「分かりました、参加させていただきますね」


「時間は10時に、スラロームバーンです」


「了解です、声掛けてくれてありがとうございます」


「其れでは失礼します」


吉村は帰って行った。


宙也は2階の部屋に上がって行った。

10時過ぎに部屋から出て降りてきた。


「咲耶さん、入学手続きの準備で少し出かけて来ます」


そう言って

彼は大学の入学書類の準備と買い物があって出掛けた。


私は、誰もいないので久しぶりに、少しのんびりと過ごそうかなと、考えてたら電話が鳴り出した。


電話はしのぶからだった。


「咲、話があるの」


しのぶに呼び出されて、私達がいつも待ち合わせで使う喫茶店で私はしのぶに会った。


「先日はありがとうね、しのぶ」


「ううん、咲とこうしていられるから嬉しいわ、

そうそう、あのコと少しは距離縮まったのかなぁ⁉️」


「宙也はいとこ(・・・)よ」


「イイぢゃあない、いとこだって、第一珍しいわよ、

咲があれだけ、あのコに心開いてるんだから」


「いとこよ。い・と・こ」


「咲‼️優子が聞いたら、タイヘンよ‼️今、老人病棟の担当だから、若いコに飢えてるわよ・・・。

咲、要らないならアタシ貰うわよ❗若いオ.ト.コって‼️」


しのぶがもうひとりの幼なじみの優子を引き合いに出した。


「ダメ‼️宙也が優子にボロボロにされるわ‼️」


私が毒を吐いて

しのぶは爆笑した。


「ところで、しのぶ、話ってなぁに❓」


「ぢつは、其の宙也君の件なの‼️」


「宙也の事⁉️」


そう云われて私は驚いた。


「宙也がどうかしたの❓」


「竹尾達からニラまれてるみたいよ」


「えっ⁉️ちょっと待ってよ、竹尾さんと仲イイ筈よ」


「咲、この間、宙也君とふたりで、モールの喫茶店に入ったでしょう」


「えっ❗何で其れ知ってるの⁉️」


「彼の取巻が其れを視てて、話を盛って竹尾に、告げ口してるのを、聴いちゃったのよ」


「何を言ってたの❓」


「咲が宙也君に『一緒に(・・・)暮らそうね❗大学もココから通えばイイの』って言ってたの。


其れを吹き込まれて、竹尾(バカボン)は、見事に信じてキレ(・・)て喚いてたわ。

まぁバカボンは咲の事が大好きだからねぇ。

可哀想に宙也君(あのコ)は見事に憎き敵に、仕立てられたのよ」


「しのぶ止めてよ❗其の言い方は・・・

えっ⁉️なんですって‼️

そんな事をバカボンに、吹き込んだのがいるの⁉️

其れぢゃあ、まるで私と宙也が、同棲するように取れるぢゃあない‼️冗談ぢゃあないわ‼️私、バカボンのところに、これから行って話してくるわ」


「咲、待って❗"咲耶さんは、宙也の事になると、やっぱり"って向こうの思うツボになるわよ」


「ぢゃあ、どうすればイイの❓」


しのぶは咲耶の様子を見てて

"宙也に本氣になり始めてる"と思った。


「咲、出て行ってはダメよ❗洋二さんに話して、

洋二さんに言ってもらうのよ」


「父に❓」


「そう、バカボンの剣道師範だからねぇ、

コッチの方が効果あるし、咲の愛しの(・・・)宙也君も護れると思ふわ」


「だから、い・と・こよ❗宙也はい・と・こなのよ‼️」


再度、私は切り返した。


しのぶはプッと吹き出した‼️


「言っちゃえば樂になるのに」


「何を⁉️」


「ぢゃあ咲、何であのコを連れて、Aフェイスに行ったの❓」


「モチロン、従弟だから安心出来るからよ。

こんなこと他の人には頼めない・・・

裕之との事、話せるのも従弟だからよ‼️

特にバカボンには、絶対に話をしたくない❗

後で周囲に何を吹聴されるのかを考えるとね」


「確かにアイツにはね其れは解るけど、全く頑固なんだからね、咲は‼️」


しのぶは笑った。


モチロン、彼女の云ってる事が

何を意味するかは解っていたが

彼女の『宙也』への問いかけに知らないふりをした。


しのぶからしてみたら、

私が裕之が亡くなってからSKIをしなくなったし、

もちろん亡くなった場所(Aフェイス)にも

当然近付かなかった。

其の私が何故、今になって宙也を連れて

Aフェイスに行ったのだろうか❓

そして何故宙也なのか❓と彼女のなかで疑問が残る。



『迷子になっていた私の心に“ケリ”をつけたい』


私はずいぶん前からそう考えていた。


そのためには”Aフェイス“に行かなくてはならなかった。



偶然にも宙也がWORKSに

所属するだけの技術を要しているが分かった。


宙也の私に対する氣持ちは知っている。


私は彼なら・・・


『私を無事にエスコートしてくれるだろう』


そう考えていた。


そして同時に・・・

恐ろしい答えも一緒に持っていた。

もし雪崩に遭ったら・・・


『このコと一緒に逝っちゃってもイイや』


しのぶには否定をしていたけれど、

あの時は実はそう思っていた。


『このコなら必ずどこまでも私に付いてくる・・・』


今、考えると随分、残酷な事を考えていたのだった。


オンナゴコロはいつもウラハラ。

私はギリシャ神話に出てくる

其の美しい歌声で船乗り達を

海に引きずり込むセイレーンの話を思ひ浮かべた。


今の私に取っては、

少しずつ狂い出してきた事に、

彼は『いとこ』なんだと、言いきかせて修正する事❗

其れがモラル(ルール)だった。







◆◆◆







しのぶと別れてから、父に連絡をした。

彼には聴かせたくないので、父の仕事が終わるまで待って迎えに行った。

父が通用口から出て来て、クルマの助手席に乗り込んだ。


「お疲れ様」


話終えると

父は不機嫌になった。


「全く、他人の家の話に、首突っ込んでホント、イイ迷惑だな、アレ(竹尾)も付き合う人間をもう少し選ばんとな、解った、話してみるから」


「なるべく早くね、来週はスキー部の、納會があるから、場合によっては、宙也くんに話して参加させないから」


「まだ話してないのか❓」


「私もさっき、しのぶから聞いたばかりよ、今、大学(がっこう)の書類の手続きで外出してるから」


「そう、しばらく前にな、稽古の合間に竹尾から、自分が社長になったら、キミを嫁に貰いたいって、話をしてきてな」


「止してよ、考えたくもない、お父さん、何て答えたの❓」


「其の前に人間性を研きなさい❗と言ったのだが、こんな事してる様ぢゃあ意味が、解ってないのだろうね」


「私の前では、良い人を見せてるけど、私の友達とかには凄い評判悪いわよ」


「だろうね、今のままアレ(・・)が、社長になったら周囲は大変だろうね・・・」


「お父さん、ぢゃあお願いね、今日は遅くなっちゃったから、宙也くん帰って来たら外で食べない⁉️」


「うん、イイね、そうしよう」


二人は家路についた。





Una persona non posso dimenticare

第2章 滑りたくない







納會前日




竹尾は宙也が明日の納會で履くSPEED MACHINEにWAXを掛けていた。

掛け終わり、ポケットからSEVENSTAR(セッタ)の箱を取り出し、一本加えて火を点けた。

明日が樂しみだった。


『宙也。咲耶に手を出したオマエが悪いんたぜ‼️

オマエはでしゃばらずにおとなしくしてればイイんだよ‼️

オマエごときがオレの前に立っちゃあいけないんだよ‼️』


街の権力者の跡取りらしい傲慢さを吐き出して

竹尾はひとりごちた。




「咲耶、悪い❗忙しかったので、まだアレに話して無いんだ」


洋二は帰宅して、彼女に謝っていた。


「お父さん、納會は明日なのよ⁉️何してるのよ‼️」


「スマン、時間が取れなくて、明日なぁ、スポーツ團の打ち合わせで事務局に行くから、其の時に話すからな」


「お父さん、お願いね、頼むわよ」


「どうしたんですか❓」


彼女達の話を聴いて、宙也が聞いてきた。


「ううん、何でもないのよ、スポーツ團の話よ」


彼女は答えた。






◆◆◆






翌日も快晴だった。


「ぢゃあ、行って来ます」


宙也は框に座って、スノーブーツを履いて立ち上がり振り向いて、玄関まで見送りに来た彼女に言った。


「行ってらっしゃい、氣を付けてね」


彼女はいつものように笑顔で彼を送り出した。




宙也がスラロームバーンに向かうとコース脇にアデン社の幟や横断幕が多数出ており、高校スキー部の納會というよりは、さながらアデン社のイベントの様な雰囲氣に見えた。

彼は竹尾を探したが見当たらなかった。


「宙也さん、参加して頂きありがとうございます」


主将の吉村が宙也を見つけて近寄り礼を述べた。

雑談をしてると、其所へ顧問の村上がやって来た。


「こんにちわ、宙也くん、参加してくれてありがとう❗早速なんだけれどキミに、試滑走(デモンストレーション)をお願いしたいんだ‼️」


村上からデモの話が飛び出した。


「えっ⁉️オレがですか⁉️」

宙也は驚いた。


「うん、部員もキミの滑りを観たがってるからね、

でさぁ、お願いがあってギアはアレを使って欲しいんだ、

アデンの厚意でバーンも貸切にして貰ってるからね、頼むよ」


村上はそう言って指を指した。其処には竹尾が細工した

A747EQ(バインディング)が装着されている

SPEED MACHINEが雪面に刺してあった。


『オイオイ❗何考えてんだよ⁉️・・・』


宙也は腹が立った。


-オレがLEVANTEと契約してる事を知っての上でか⁉️バカか⁉️村上(コイツ)は-


「申し訳ありません、契約上そのギアは使えません、

デモ走はご辞退致します」


ムッとして答えて、

宙也はそう言って引き上げようとしたところに、

其処に竹尾がやって来た。


「宙也、メットにゴーグル、フェイスガードで顔が解らないようにすれば大丈夫だからさ❗

ウチはアデンのサポートしてもらってるんだわ❗

協力してくれよ、顧問とオレのカオも立ててくれよ‼️」


竹尾は下手に出て懇願するように言ってきた。


「竹尾、悪いけど契約が有るからムリだよ」


「そんなこと言うなよ、頼むよ宙也、このとおり」


竹尾は頭を下げた。


「悪いけどダメだよ、竹尾、アデンは、オレには関係ないだろう‼️デモはそっちでやってくれ、オレは引き上げるわ」


宙也が答えた。


竹尾にとっては此処で宙也に帰られる訳にはいかなかった。


竹尾は少し強い口調で言った。


「オレとオマエは仲間だよな、宙也、オレが頼んでいるんだぜ、頼む、今回はオレのカオを立ててくれよ」


『仲間』という言葉を使い巧みに、宙也にプレッシャーをかけた。


宙也は竹尾を見た。


このひと言が、宙也の思考を停めさせてしまった。


「解った」


宙也は帰るのを止めて

自分のSPEED MACHINEを脱いだ。

そして雪面に刺して

747EQの付いたSKIを取った。


アデンのサービスに『ソール長は300㎜』と伝えた。

サービスの男はバインディングのソール長を調整した。

宙也はステップを踏み装着した。


次の瞬間 、すぐに・・・

"後悔"

という二文字が彼を襲った。


違和感と云うインスピレイションが沸き上がる。

しっくりこない‼️


「何かガタついてない❓トウピースが⁉️」


レーシング ローターマットが使えないことが

宙也にはナ-ヴァスになっていた。


そして竹尾も宙也の反応にナ-ヴァスになった。


「アイツ、バインディングが違うだけで、こんなに騒ぐのか⁉️まさか氣が付いたのか⁉️・・・」


宙也の一挙手一投足に竹尾は冷や汗が出て来た。



「トウピースの高さを、調整しますよ」


アデンのサービスがそう云って高さを上げた。


どんなに調整をしても彼の中から違和感は解消されなかった。


宙也は一度ヒールステップを踏みリリースした。


ジャケット(プロテクター)を着けてくる」


そう言ってセンターに向かった。


彼の(あの)ギアでは滑りたくない、咲耶のとこに帰りたい』


其れが宙也の答えだった。

更衣室でジャケットを着け、扉を開けて更衣室を出たら、洋二が事務局に入っていくのが見えた。


『そうだ‼️洋二に話してもらおう』


そう閃き事務局に入って洋二に声を掛けようとしたら・・・


「宙也くん‼️」


声を掛けられ振り向いたら

咲耶の友達 しのぶが後ろに立っていた。


彼女は

更衣室に向かう宙也を見かけたのだが、

宙也の浮かない顔が氣になって声を掛けたのだ。


「どうしたの❓浮かない顔してさ」


「しのぶさん、ぢつは竹尾の納會の、デモ走を頼まれたけど、自分のギアを使えなくて、イヤだなぁと思って」


「何で❓」


「顧問がアデンにサポートしてもらってるから、アデンのバインディングが付いたのを使ってくれって、強制してきたのです❗イヤだから、咲耶さんのとこに帰りたくて」


「そうなの‼️酷いわね、宙也くんはスキー部と関係無いのにね、イヤな事はサッサと済まして、早く咲のとこに帰って、其の話は咲に伝えた方がイイわ」


『そうだな❗ココはしのぶの言われた通りにしよう‼️

サッサと終わらせて、咲耶の元に帰ろう‼️』


そう思ひ考えを切り替えた。



「そうします❗しのぶさん、ありがとう、ぢゃあ戻ります」


「宙也くん、氣を付けてね」 


「ありがとうございます」


宙也はしのぶと話して

心が落ち着き安心してスラローム バーンに戻って行った。




『あたし、なんで咲のところへ帰っちゃえって、言わなかったのだろう、ソッチの方が良かったのに・・・』


しのぶは宙也の後ろ姿を見てて、ふと不安に襲われ、後悔の念にかられた。










Una persona non posso dimenticare

第3章 Trappola -罠-








『コース レイアウトが欲しいのに、アイツ何処にいるんだ❓』


竹尾にレイアウト頼もうと探したが見当たらず、

仕方がないので吉村にレイアウトを頼んだ。


宙也は竹尾の態度に少し苛立っていた。


『俺にムチャ振りしておいて、用が済んだら居ないなんて勝手なモンだよな‼️イラっとする、音樂でも聴いてリラックスしよう』


宙也はディパックからウォークマンを取り出した。

ちょうど、其処へ吉村が村上から受け取ったコース レイアウトを持って来た。


「ありがとう❗レイアウトを覚えるから、ひとりにしておいて下さい」


そう言って、レイアウトを見ながら

“ザ ルースターズ”のテープが入っているウォークマンのスイッチを入れた。



爆裂ビートを叩き出す

池畑潤二のドラムがはじまり、”テキーラ“が流れた。

そこから同じくインストメンタルの”RADIO 上海“

ストーンズのカヴァである ”アンダー マイ サム“

大江 慎也のシャウトに包まれて氣を取り直した。

宙也はストーンズのオリヂナルよりも

疾走感の溢れるルースターズのカヴァの方が好きだった。




コース レイアウトを覚えた宙也は

ヘルメットを被りフェイスガードを付け、ゴーグルを掛けた。

雪面にカーボンポールを突いて、

置かれた竹尾に細工されたアデン社製のA747EQバインディングの付いたステップを踏んでスキーを装着した。


-頼りない❗一体感が無い‼️-


やはり違和感は解消されていなかった。



『まぁ、サッサと終わらせて、咲耶さんのところに戻ろう‼️』


彼は其の思ひだけだった。




スタートゲイトに立った。


標高差 180メートル。

旗門数 60で規制したバーンを見下ろした。


いつもの滑る前の高揚感はなかった。


『こんな美味しそうなバーン‼️自分のギアで滑りたい・・・』


彼はそう思った。



「レディ」


スターターの森脇が声を掛けた。


『ハッ』

我に返って宙也は頷いた。


「GO」


11時30分きっかりに

スラローム バーンに宙也はコースイン。

ステップを切ってスキーを加速させて行く。


-さて、どんなモンだろう⁉️-

たいして期待はしていないが・・・


オープンゲイトからターニングポール

バーティカルコンビネーションに差し掛かる。


宙也は数旗門で嫌氣が差した。

思った通り愛機とは、全く比較にならないくらい剛性が無いから反応が鈍い。

いや、鈍すぎると言った方が正しかった。オマケにトップが波打って弾んでいる。振動が出て狙ったラインにスキーを乗せられない。


『ダメだ‼️まったく話になんないや❗ホースバック《馬の背》をどう攻略しようか⁉️』



ディレイドゲイト。

ブラインドゲイト。

クローズドゲイトと流して進んで行った。


今度はブラインドのかかったバーティカルコンビネーションに進入する。



時折、強い冷たい風が吹き出して来た。



「竹尾のヤツ‼️何が仲間だ‼️こんなモノ(オモチャ)寄越しやがって、イラッとするわ‼️咲耶さんに話して、後で文句言ってやる‼️」


洋二に話さないで、しのぶの考えに同調した事。

そしてオモチャに嫌氣がさして前半を流して滑った事。

其の二点が彼にとって不運になった。






◆◆◆






『そろそろだな、宙也(オマエ)が悪いんだぜ❗

咲耶(オレのモノ)に手を出した‼️オマエがな‼️

オマエはオレの後ろでおとなしくしてれば良いんだよ・・・』


顧問の村上のとなりにいた竹尾は、これから先の

コースレイアウトを考えてほくそ笑みを浮かべた。



クローズドゲイトに差し掛かった時に雪煙が立ち、宙也の姿を隠した。




風は斜面の左手から吹き付けて、雪煙が宙也の視界を隠した。

絶えず雪煙が斜面の下方の旗門を隠すように空間を埋めていた。

辛うじて赤や青の色がゴーグル越しに彼の目に映った。



下から見ていたスキー部の面々(ギャラリー)達には、

ちょうど冷たい風に綺麗にぬぐわれて

不思議に宙也の姿がまるで1枚の絵画の様に見えた。

宙也を取り巻いている空間だけが妙に綺麗に澄んで、

クリスタル越しにでも見ている様に斜面もゲイトも宙也も、冷たい光沢を放っていた。



『さぁ、宙也❗罠に飛び込め‼️』


竹尾は冷たく笑った。



「最後のセクターだな、行くぞ‼️」


宙也は馬の背斜面(ホースバック)に進入。


「クロス」


いつもの言葉を発して

宙也は不安を残しながら本氣モードになる。


このマテリアルでは奈落の底に墜ちる氣分だ。

そして今回のコースセットで最も難関のヘアピンセットが待ち構えている。

ホースバックで加速が付き最もSPEEDに乗る。

恐らく宙也の身体には数倍のGが襲いかかっている。


彼はいつものように

ストレッチ動作で切替抜重を行って、

切っ先と身体を斜面に正対させる様に持っていった。


「レフトターン‼️POWER COMBAT MAXIMUM‼️」


そして最後の難場・・・

最大戦速(ターンマキシマム)を迎えたこの状況で事件が起こった。


宙也はスキーをスウィングさせて、

強烈な外脚膝の絞り込みにより、

エッジを立たせて、

外脚への荷重と遠心力を利用してSKIをたわませて、

カーヴィングターンを繰り出した。

しかしスキーの剛性が低いために・・・


『片手平突き』


と称される、宙也のターンは、いつものような、

鋭さがないまま、雪面に斬り込んでいった。

スキーは宙也の技に耐えられずに、まずいリズムのヴァイブレーションが起こりスキッド(横ズレ)が起きており、

ターンが外へ外へとふくらんでゆく‼️



「ちい・・・やれやれ・・・マヂかよ‼️スキーが耐えられない‼️仕方がないや‼️

これぢゃあ次のゲイトは通過出来ない」



そう判断した宙也は

膝の絞り込みを緩め、エッジングを緩めて聞き分けのない、出来損ないのスキーをコントロールしようとした。



ふと、足許が氣になり外脚側足許を見た。


「えっ‼️なに⁉️」


バインディングのトゥピースがホールドをするのを止めて、いまにも彼のブーツをリリースしようと左右にダンス(・・・)を繰り返していた。


「ウソだろう⁉️・・・」


-俺とオマエ、仲間だよな❗宙也‼️-


竹尾の顔が浮かんだ刹那の瞬間‼️


ターンの軸になる外脚側のA747EQ(バインディング)が・・・

最大戦速のGに耐えられず誤解放(ミスリリース)した

外脚のスキーは大きくバウンドして谷側に落ちていった。


「ヤバい‼️ダメコン‼️・・・」


宙也は転倒を防ごうとダメージ コントロールを行う。

咄嗟に判断してリフトしていた内脚を雪面に叩き付けて、カウンターを当てバランスを取り戻すため、ダブルストックも突きリカバリーをはじめていた。


最大戦速のGにドライ カーボンのポールはしなった。 


-ちぃ 間に合うか⁉️ 


しかし・・・

宙也の身体は、どうにもならない何者かの、大きな力に作用された様に、斜面(バーン)に、激しく叩きつけられた。

身体は1個の物体として2度3度と回転して、内脚のスキーも外れてギャラリーに向かって飛んで行った。


「イヤだ‼️オレは咲耶の元に帰るんだ‼️」


宙也は声にならない呟きをした。


-宙也くん-


宙也の脳裡には咲耶の優しい笑顔が過った。

最大斜度.最大戦速のForceが宙也に牙を剥く。

勢いは止まらずバーンを加速して滑落していく。

そして・・・


「咲耶‼️」


宙也は叫び声をあげた。

宙也を核とした加速度の付いた其の強大なPOWERが、

一個の破壊的なエネルギーとなった。

滑落防止ネットを突き破り、彼を雪煙の海の中から谷へと突き落とした。







◆◆◆







『宙也がオナカを空かして帰ってくる❗何にしようかな』



私は夕食の献立を考えていた。



「よし、今夜はロールキャベツのクリーム煮にしよう」


いつもは父と二人分で、少量しか作らないので侘しくなるが・・・

この冬は宙也が、いるから料理を作る張り合いがあった。


「咲耶さんの作る料理は美味しい‼️咲耶さんと、麻美叔母さんのおかげで、色々な物が食べられる様になりました」


そう言って

本当に彼が、勢いよく氣持ちよく、食べてくれるので、

私はうれしかった。


「咲耶・・・」


キッチンに立って包丁を動かしていると、

宙也の私を呼ぶ声が耳に入って来たのだ。

私は、包丁を止めて振り向いた。


「宙也くん、帰って来たの❓」


声を掛けたが、

何も反応が無かった。

私は『おかしいなぁ』と思った。

彼の声が聞こえたのではなくて、ハッキリと耳に入って来たから・・・



バーンでは竹尾は呆然とした。

-宙也の姿が自分の視界のどこにもいない-

そう氣付いた時に、竹尾は自分のしでかした

重大さに言い知れない怖さが彼を襲った。


「ウソだろう⁉️谷に墜ちるなんて‼️」


彼からしてみたら、精度不良のバインディングに

付け替えて転倒させてやろう。

まぁ骨折ぐらいで済むだろうと軽く考えていた。


宙也がもし最初から本氣モードで攻めていたら

もっと早く転倒して、竹尾の企みも露見しただろう。

しかし、宙也がスキーの反応の鈍さに嫌氣がさし、流して滑った。

そして・・・

難関のヘアピンでホンキを出したために、滑落と言う結果になった。

顧問の村上の顔は青ざめて立ち上がり、部員に宙也の捜索を命じた。

そして、自らはセンタ-に救急要請を行うためセンターに向かった。


『バァン』


扉の音を発てて

村上が荒々しく、息を切らしてセンターの事務局へ飛び込んできた。


『何事か・・・⁉️』


職員達が、村上の方へと振り向いた。


「救助要請をお願いします‼️」


村上が声をあげた。


『生徒が転倒したのかな❓』


村上を知ってる女性職員が、カウンターに入って対応を始めた。


「村上さん、どうされました⁉️」


「男性一名、滑走ちうに、転倒して谷に転落しました‼️」


「えっ‼️転落ですか‼️」


普段、転倒し骨折はスキーでは、よくあるアクシデントで慣れているが・・・

谷への滑落は、重大なアクシデントだった。



「墜ちたのは部員のコですか❓何処に転落したのですか⁉️」


女性職員が聞き返した。


「いや、試走を頼んだ相沢 宙也ってヤツだ‼️スラローム バーンから、転落防止用のネットを突き破って、沢に転落した‼️」


女性職員は内線電話でパトロールに出動要請を始めた。


「出動要請❗スラロームバーンから一名が、谷側に滑落した模様・・・

氏名は相沢 宙也‼️繰り返します・・・」


ちょうど上司と話をしていた、しのぶの耳に宙也が滑落した事が飛び込んだ。


「えっ⁉️宙也が谷に墜ちたの⁉️」


『やっぱり、咲の元に帰らせるべきだった‼️』


後悔がしのぶを襲った‼️


しのぶは直ぐ様上司に事情を説明して、すぐに救助要請のチームに加わった。


「黙って突っ立ってないで、状況をちゃんと説明してよ‼️自分達の都合を、彼にムリヤリ、押し付けたんでしょ‼️知ってるからね‼️彼、困ってたんだから‼️」


「・・・」


青ざめた顔で、立ち竦んでいる村上に向かって、しのぶは冷たく言い放った。



しのぶは、村上から、宙也のウェアの色や、転倒場所のポイントを、聞き取り直接パトロール待機所に向かった。

待機所ではスタッフが、宙也が谷に墜ちたということで、救出するためのクライミング ギアのチェックをしていた。


「清水さん」


しのぶは、チェックしている男性スタッフに声を掛けた。


「しのぶさん」


清水は振り向いた。

雪焼けして精悍な顔立ちをしていた。

以前は山岳パトロールのエキスパート隊員だったが、

結婚して子供ができ、危険な山岳パトロールを辞めて、この名香のスキー場のパトロールの仕事に付いた。

夏はゴルフ場のグラウンド キーパーをしている。


「情報を持ってきたわ」


そう言って清水に宙也の情報を伝えた。

そして最後に


「清水さん。このコは、あたしの親友の従弟なの‼️お願いします❗助けてあげて下さい‼️」


清水に向かって深々と頭を下げた。







◆◆◆








D沢と呼ばれる沢の入口に、パトロール隊員が着いた頃・・・

あたりに淡くガスが流れはじめていた。


しかし、此処でまた沢の様相が一変していく・・・

ガスがかなり、深くなってきていた。


時折、足許は見えるが、沢の方になると・・・

全く視界が閉ざされていく。


それでも、ガスの流れに合わせて、

崖下をパトロール隊員は、丁寧にライトを照らして、木々の間を、嘗めるように捜索をしていた。

しばらくすると・・・

宙也のゴーグルが光の加減でキラリと光った。


『うん❓いま、何か光ったな❗』


隊員は見逃さなかった。


「もっと、照明灯(デカイ)のを持ってこい‼️」


スタッフは、きびきびとした動作で照明灯を支度した。



「いたぞぉ❗彼処だ‼️」


先行して捜索していたパトロール隊員が其の光を見過ごさなかった。

再び視線を戻して確認して宙也を発見した。

彼はD沢のかなり下方まで飛ばされていた。


「相沢君‼️」


清水が呼びかけても手や足を動かしたりの反応も無かった。


「D沢で要救助者発見、呼びかけに反応無し、これよりD

沢を下降して救出に向かう、救急車の手配求む 以上」


清水は無線(ラヂオ)で本部に連絡をした。

彼の連絡を受けて

しのぶは祈るような氣持ちだった。


『清水さん、お願い‼️宙也を助けて‼️』


報告を終えて

其れから、清水は周囲の樹木を見て周り、一本の大きなダケカンバを見つけた。

その樹木にカウピッチをかけて安全環付きカラビナを通した。

もう1方にクライミングロープでフィギアエイトノットを作った。

自分の身体にチェストハーネスを作り、もうひとつの安全環付きカラビナを通した。

其のカラビナにヰタリアン ヒッチを作成した。

ここで清水は『ふう』と大きな息を吐いた。


彼が宙也を救出するために懸垂下降を行おうとしていた。

懸垂下降はクライミングでは一番事故が発生する事が多い。

彼のようなエキスパートでもかなり緊張する。


「ヨシ‼️行くぞ‼️いま助けてあげるからな、頑張れよ」


氣持ちを整えてカラビナの下に垂れたロープを掴み

ブレーキを掛けながらD沢を降りて行った。

清水は懸垂下降の慎重を要する技術に全力を費やしていた。


約30メートル下のD沢に清水は降りた。

沢なので雪庇に氣を付けながら、宙也に近づいた。


「相沢君」


呼びかけたが反応はなかった。


-よもや‼️-


そう思い手袋を取り

フェイスガードを外して、鼻の下に手を当てる

自力で呼吸をしていた事を確認すると、足場のしっかりした場所まで宙也の身体を引きずった。


「要救護者 確保❗意識不明、自力呼吸確認、低体温症の可能性がある、対応準備求む、これより引き上げる 以上」



再び本部に報告をした。


「さてと、上がるぞ❗頑張れよ‼️」


意識の無い宙也に語りかけて。

清水は宙也を背負いクライミング ロープで確保した。

上で待機してる隊員に向けて引き上げの合図を出した。

清水は引き上げるロープのタイミングに合わせて

慎重に崖を登っていった。










Una persona non posso dimenticare

第4章 悲しみと怒り









再び包丁を動かしていると、

電話のベルが鳴り私は受話器を取った。


「もしもし」


「咲‼️」


声の主はしのぶだった。


「しのぶ、どうしたの❓」


「咲、落ち着いて聞いてね❗宙也くんが、転倒滑落して谷に墜ちたの‼️」


『あ-』


私は思わず、声を立てそうになり、

血の氣を失い、氣が遠くなりそうになったが、危うく其れに耐えた。


「其れで宙也は⁉️」


「優子の病院に搬送されるから、すぐに来て‼️」


彼は私のもうひとりの幼なじみで

看護師をしてる三河優子の働く病院に搬送された。

私は身体中が震えた。


『父に伝えなければ』


私は震える手で

父のケータイの番号をプッシュダイヤルを押した。


巧くいかずに、3度目で漸く電話を掛ける事が出来た。

父は直ぐに出た、父は竹尾の話の催促だと思ひ

「咲耶、ゴメン。事務局の話が長引いて、まだなんだ」と云った。

父のケータイから彼を載せた救急車のサイレンが聞こえる。


「お父さん、宙也が・・・宙也が・・・」


父は私の声で異変に氣付いた。


「どうした⁉️咲耶‼️」


「宙也が転倒滑落して谷に墜ちたの‼️

今、救急車のサイレンが、聞こえてるでしょ、

其れに載って優子のところに搬送されるわ」


「谷に❓何で、谷に墜ちた⁉️」


「解らないの‼️しのぶから連絡受けて・・・

私、今から病院に向かうから、お父さんもお願いね」


「解った」


『急用が出来た』


洋二は電話を切って事務局を後にして、スラロームバーンに向かった。

顧問も竹尾も見当たらず、彼はとりあえず主将の吉村を探した。

救急要請の通報で警察も到着し現場検証を始めた。

漸く吉村を見つけ、声を掛けた。


「吉村君、ウチの宙也が転倒したのか❓」


そして吉村の後ろに、宙也のレーシングローターマットの付いたSPEED MACHINE Tiを見つけた。


『何で宙也の愛機が此処に有るんだ⁉️』


持ち主(宙也)がいない愛機は、洋二にはまるで墓標の様に見えた。


「すいません、宙也さんに、デモ走を頼んだりしたために、大変な事になってしまいました❗」



吉村は、父親の友達でもある洋二に謝罪をした。



「吉村君、一体何が遭ったの❓」


「それが・・・」


吉村は事の顛末を洋二に話し始めた。







◆◆◆






「ぢゃあ、顧問達はプロの彼(・・・・)に、自分達が用意した他の部員が使ってたモノを、拒否してるにもかかわらず使う様に強要したのだね」


「そうです、竹尾さんが、宙也さんに『俺達、仲間だよな』と言ってマウントを取っていました」


其れを聞いた洋二は怒りを覚えた。


洋二は以前、彼のギアのメンテナンスを観てて、

自分達の64式小銃を整備に臨む氣構えに通じるモノを、

宙也は持ってると彼は感じていた。


『64式小銃は最期の最期まで自分の命を護るもの❗

動作不良が遭ってはならない』


小銃は自分の体の一部、という意識だった。洋二たち

自衛官が任務を遂行する上でなくてはならないだ。

取り扱いに習熟することはもちろん、日ごろから大切に扱い、常に射撃ができるように維持・整備していた。

 その重要さを証明するように、陸上自衛官は小銃と共に隊員生活を過ごすといっても過言ではない。

『武士にとっての刀と同様、陸上自衛官にとっての小銃は“魂”なのだ‼️』


小銃の安全な取り扱い、手入れ、射撃の精度など、全てに関係する『ガンハンドリング』と呼ばれる作法。

武道の達人は、お互いに構えた瞬間に強さが分かるといわれます。同様に小銃の所作を見れば、その人のガンハンドリングのレベルが分かる。

 このガンハンドリングについて、精度を上げなくてはいけないと続ける。


自衛隊にいた頃、洋二はそう叩き込まれていた。


宙也にとってはギアは小銃、

|レーシングローターマット《バインディング》は

引き金(トリガー)の役割だった。

SPEED MACHINEとブーツを繋いで、パフォーマンスを

引き出すのと同時に己れの命を護るものだった。


1日滑った後に真剣な表情で、

バインディングを分解して丁寧に、

エアを吹き付け水分を飛ばしてワイパーで拭き取り、

水置換性潤滑剤を吹き付けメンテをしている、

彼の姿が浮かんだ。

彼は絶大なる信頼を

レーシングローターマットに寄せていた。

彼のスキーハンドリングは、相当なレベルだと思っていた。


『宙也、さぞかし悔しかっただろうな‼️ガラクタ(A747)なんぞ使わされて‼️』


洋二は宙也の無念を思った。


彼は現場に来てた剣道仲間の刑事を呼んだ。

洋二から話を聞いた刑事は、主将の吉村に言った。


「吉村君、もう一度、最初から話を聞かせて欲しい」


そして谷に墜ちていた外側のスキーを警察が回収して、吉村に見せた。吉村は確認のために持ち主である森脇を呼んだ。


「森脇君、コレは君の物で、間違えないですか❓」


森脇は自分のスキーをしばらく見ていた。


「ハイ、アレでも・・・⁉️もしかしてバインディングが変わってる❓雪焼けしてなくて綺麗‼️トゥピースにマークが無い‼️なんで⁉️」


首を傾げていた。



『なんだって⁉️・・・』



刑事は表情を変えて鋭い眼光で森脇を見た。


「森脇君、もう一度、良く見てくれるかい、何処が変わってるの❓」


「右のバインディングが変わってます❗左は僕の使っているモノですが、右は僕のモノとは違います‼️

トゥピースの雪焼け具合違うのと、左右が解るように付けていたマークが無いです」


洋二は怒りに震えた。


「これはもう事故ではない事件だ‼️顧問の村上と竹尾を傷害の疑いで被害届を提出する」


彼は冷たく言い放った。



しのぶは先回りしての優子の勤める病院に着いた。

受付に頼んで優子を呼んでもらった。

元レディースの総長で怖い雰囲氣の彼女だが、

咲耶・しのぶとは幼なじみだった。

優子は生まれつき髪の色が明るい茶色だった。

中学の頃、其れを注意した教師に咲耶達は反発して、

抗議の意味で二人は茶髪に染めて登校して周囲を驚かせた。

其の時から三人は親友になった。

其れ以降、三人のうち誰かに

トラブルが在るといつも一緒に行動をした。


咲耶・しのぶにも劣らない

綺麗な顔立ちをした優子が歩いて来た


「優子‼️」


「しのぶ、どうしたの❓」


「これからココに搬送されるコだけど」


「ああ、谷に墜ちたコね❗よく知ってるわね、そんな事」


「其のコは、咲の従弟なの‼️お願いね。」


「えっ⁉️咲の従弟なの・・・⁉️解ったわ‼️」


優子は踵を返して処置室へ向かった。


私は病院に向かっている途中で、

彼の声が耳に入って来た事が、ずっと氣になっていた。


「まさか・・・」


私は震えが止まらなかった。

病院に入って私は、話しているしのぶと優子を見つけた。


「しのぶ、優子‼️宙也はどうなの⁉️」


「咲」

しのぶが云ったところで

優子が手で制して優子が話始めた。


「咲、宙也くんは現在(いま)、意識不明の状態、

私の友達の従弟だから、お願いしますと伝えたら、

先生も全力で当たるからって

応じてくれたから信じてね」


「意識不明⁉️ウソでしょ‼️なんで‼️宙也がそんな目に⁉️」


私は激しく動揺して

其の場にうずくまった。


「咲、待合室で少し休もう」


優子としのぶが支えて、待合室の長椅子に座った。


「どうしてこんな事になっちゃったの⁉️

Aフェイスでも、あれだけ卓越した

コントロールをみせた宙也なのに」


私は嘆いた‼️



「咲、ゴメンね、こんな事になるなら、カレが滑るのを止めるべきだった‼️」


しのぶが話はじめた。


「どうしたの❓何があったの‼️」


宙也(カレ)がセンターに来て、浮かない顔してたから訳を聞いたら『デモ走を頼まれ、用意したSKIを使えって、無理矢理押し付けられて。自分のギアが使えないんだ』そう云ったのよ」


「えっ⁉️どうして‼️」


「メーカーに世話になってるから、用意したモノを使えって強制されたのよ」


「そんなの宙也には関係無いし、第一、あのコはプロよ。ギアは契約したモノしか使えないのよ」


「恐らく、竹尾のバカが押し付けたのよ、

だから彼、浮かない顔して

『滑りたくない、咲のとこに帰りたい』って言ってたの❗

だから私は彼に『イヤな事はサッサと済まして、咲の元に帰ろう』と言ったのよ❗

ゴメンね、咲、彼を止めて帰っちゃえって、言うべきだった」


「しのぶが悪いんぢゃあないわ❗

悪いのは竹尾達アイツらよ!

ありがとうね‼️

きっと宙也は

しのぶと話して、氣持ちが樂になったと思ふの・・・

宙也、あのコ、苦しかったのね・・・

私の元へ帰りたかったのね‼️宙也・・・」


私はしのぶから状況を聞いて切なくて涙が溢れた。



待合室の扉が開いて


「しかし、宙也も“ドジ“だよな❗下手打ちやがってよ‼️」


竹尾達が話ながら入って来た。

最早、竹尾は取巻達に虚勢を張るしかなかった。

待合室に入って来て咲耶達に出会した(でくわした)のだ。


竹尾は私がいると解ったら

表情が変わった。

其れを見た私は確信した。


『やはりこの男が宙也を危機に遭わせた』


其の瞬間

私は竹尾の前に駆けより、平手打ちで竹尾の頬を叩いた。

そして


「宙也に何をしたの⁉️よくも宙也を・・・」


「なんの事か解らないけど」


竹尾は頬をさすりながら答えた。


「とぼけないでよ‼️解らない訳ないわよ‼️」


しのぶが間に入った。


「咲、止めて」


「宙也にもし何か有ったら、絶対に私は許さない‼️

友達ヅラして宙也を騙して‼️」


竹尾は反応して私に手をあげようとした。


「殴れるものなら殴ってみなさい。親の力が無いと何も出来ないアナタぢゃあ、宙也に勝てる訳無いわ。彼は絶対に負けないから」


そう言って竹尾の前に出た。


私の言葉に激昂した竹尾


「なんだと‼️」


拳を振り上げた。

其処へ優子が竹尾の手首を掴んで、鋭い眼光でにらんだ。


「哲史、アタシの親友(ダチ)にナニするんだ❓アン⁉️」


優子と竹尾は親戚だった。優子は続けた。


「哲史。何かしたんなら、正直に言いな。

アタシも一緒に謝ってあげるから。

咲がこんなになるなんてよっぽどの事だからね。

惚けて後から解ったら、タダぢゃあ措かないよ。

解ってんだろうね」


竹尾は優子の迫力に圧されながら、しどろもどろで答えた。


「知らない。オレは何もしてない。オレは悪くない」


しばらくすったもんだを繰り返していた。



「どうした⁉️何か遭ったのか⁉️」


取巻きの一人が顧問の村上を呼んで来て待合室に入ってきた。


「よくも宙也をこんな目に遭わせて」


私は村上にも一撃を与えようとした。


「咲、止めて」

しのぶと優子が二人掛かりで私を止めた。


「宙也に・・・宙也に・・・もし何かあったら、私は絶対にあなた達を許さない‼️」


私は叫んだ‼️


待合室は怒号が飛び交う騒ぎになった。


其処へ、洋二が刑事と3人の警官と一緒にやって来た。

私は父の姿を見つけ怒った。


「お父さん。遅い‼️何してたの⁉️」


「ゴメンな。現場に寄って来たんだ」


「連絡くらいしてよ‼️」


私は、父を責めた。


そして彼のギアを抱えて後から入って来た警官が


「コチラですね」


宙也のギアを私に渡した。


「銃と一緒でな、持ち主(宙也)が居ないとギアも寂しがるから」


父が言った。


「宙也・・・」


私は彼のギアを抱きしめた。


顧問と竹尾達は警官の姿に驚き、慌てて帰ろうとすると

刑事は村上と竹尾を引き止めた。


「宮内さんから被害届を受理しました。

この件は事件として取り扱いになります。

お二方にはお聴きしたい事があります」


そう言って病院内の個室を利用して

村上と竹尾は別けられて事情聴取が行われた。


「宙也がアデンの747EQバインディングに興味が有って履きたいと言ったから準備した」


2人は宙也の意識不明を良いことに宙也の責任に転嫁をしていた。


私はしのぶから聞いていた事話そうとしたら、

父が私の肩を叩いたので、振り向くと首を横に振っていた。

私は父が他に何かを知っているのだと感じて、

父の意思に従った。


彼に付き添う準備をしたいと思って、

優子に彼の事をお願いして、一度家に戻ろうと父に声を掛けた。

『僕も一緒に行くよ』と言って一緒にクルマに乗った。

父は運転しながらバーンでの状況を話し始めた。


「あまり、竹尾達向こうに情報を与えたくないからね。

そしてこの事はまだ話してはいけないよ」


そう前置きしてから


「竹尾が後輩から宙也が使ってるのと同じモデル(・・・)を持ち出して、バインディングを細工したモノと付け替えた疑いが有るんだ」


吐き捨てるように話した。


「えっ⁉️そんな非道い(ひどい)罠を仕組んだの‼️

宙也が死んだらどうするのよ‼️宙也が可哀想よ‼️」


私は悲しみと怒りで両手で顔を覆った。













Continuare









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