咲耶
Una persona non posso dimenticare
-忘れられないひと-
She may be the face I can't forget
彼女・・・、それは、忘れられない面影であり
May be my treasure or the price I have to pay
俺には、宝物か、自身を犠牲にすべき、大切な存在
She may be the beauty or the beast
彼女は、美女のように魅惑的か、獣のように手強いのだろう
May be the famine or the feast
(彼女がいないときは、)餓えたように、苦しむか、
(一緒のときは、)ごちそうを目にしたように、幸せなのだろう
She may be the love that cannot hope to last
彼女との愛は、長続きが望めないのかもしれない
May come to me from shadows of the past
過去の影から、俺は、逃げて来るのかもしれない
But I'll remember till the day I die
でも、俺が死ぬ、その日まで、俺は忘れないよ
The one I'll care for through the rough and rainy years
彼女は、俺が、辛く苦しい人生を通して、愛していく、運命の女性なんだろう
Me, I'll take her laughter and her tears
僕は、彼女の笑い声と涙を、持ち帰るよ
And make them all my souvenirs
そして、そのすべてを、この恋の記念にしよう
For where she goes I've got to be
彼女が行く所には、俺がいて、支えてあげなければ・・・
The meaning of my life is she
だって、俺の生きる意味は、まさしく、彼女なんだ
咲耶とは
はじまりからおわりまでが
すべて“愛”と納得すればいい。
Una persona non posso dimenticare
第1章 咲耶
「宙也くん、久しぶり‼️」
「咲耶さん。元氣でした❓」
「元氣よ、宙也くん、現在高3だよね❗
進路は決まったの?」
「ええ、推薦で新潟の大学に決まりました」
「おめでとう‼️新潟に来るの‼️
ぢゃあ、学校が始まる前にウチに来て、
SKIをしながらひと冬過ごして、
新潟の冬に慣れておいた方がイイわよ」
相沢宙也は秋に親戚の結婚式に出席して、
久しぶりに再會した母方の・・・
美しい従姉、宮内 咲耶から声を掛けられた。
其の年の冬の訪れは早かったと記憶している。
彼は、12月中旬にはSKIメーカーの
NUOVO LEVANTE
SKICORSEの
セレクションを受けて
『粗削りなれど光るモノがある』と評価され合格した。
ダメもとで受けたらまさかの合格に
これには彼自身も吃驚した。
彼女から再び連絡があったのは其の頃だった。
彼は新潟の彼女の家でひと冬過ごすという話は
彼女の
ただの御愛想だと思っていたので
咲耶からコンタクトを取ってきたのには驚いた。
「宙也くん、雪國の生活に慣れないとホントに
タイヘンなのよ❗一週間位、雪が降り続く事もあるからね。いろいろルールがあるのよ❗
だから2月から入る休みを利用して、ウチで過ごして
体験したら、いきなりはタイヘンよ❗其の方がいいわよ」
咲耶は宙也の毒親と交渉してくれて、
2月から大学が始まる迄の間、
咲耶の家で暮らす事が決まった。
宙也は美しい従姉の咲耶と
ひと冬を一緒に暮らせる事になり、
凄く浮かれた氣持ちになった。
年が明けて
1月下旬CORSEから宙也専用のSKIが届いた。
そして高校3年間、バイトで貯めた金でクルマを買った。
中古のTA46 TOYOTA CELICA 1600GT RALLY。
CELICAは宙也にとって、自由へのパスポートだった。
「行く宛てがどこかにある訳ぢゃあなかった❗
でも此処にいる訳にはいかないと、幼い頃からそう思い続けていた」
高校を卒業して、ようやく毒家族から離れることか出来る。
『ドアの向こう側へ』
彷徨する事を宙也は選んだ。
1月の終わりに
CELICAに荷物を積んで
18年過ごした高崎の街を後にした。
國道18號を走り続けて、
長野市辺りから雪が舞い始めた。
そして中野市辺りから本降りになった。
信濃町から激しい風雪になり、
いきなりの吹雪の洗礼に
さすがに不安になったが、
クルマ屋がサービスで着けてくれた
スタッドレスタイヤがよく効いて
安心して走り続けた。
長野県を抜け、新潟県に入った最初のコンビニで
休憩を兼ねて停まり咲耶に電話を掛けた。
咲耶はワンコールで電話に出た。
「宙也くんね、現在何処まで来たの?」
心配そうに聞いて来た。
雪は加速度増して積っていった。
咲耶の住む名香高原に繋がる國道18號の路側帯には
除雪した雪が壁の様になっていた。
何台かの大型車が停まってチェーンを装着していた。
CELICAは雪道を物ともせず順調に走り続けた。
無事に名香高原にある咲耶の家に着いた。
CELICAの排気音に氣付いて直ぐに
咲耶と彼女の父親が出迎えてくれた。
雪が本降りだったから心配していた様子だった。
「お疲れ様、宙也くん、
コッチは雪が多くてビックリしただろう」
彼女の父 洋二は柔和な笑顔と優しい声で迎えてくれた。
洋二は陸自の新潟県の駐屯地の幹部だったが
部下の不祥事の責任を取らされて退官して、
名香高原町にある
地銀支店のカスタマーサービスとして働いている。
咲耶に案内されて、2階に上がり
現在、英國にいる彼の兄が使っていた
8帖の部屋に荷物を降ろした。
リビングに降りて
「ひと冬、お世話になります、宜しくお願い致します」
改めて2人に挨拶をして
こうして宙也の新潟 名香高原での暮らしが始まった。
宙也がまず最初に思ったのが
-いったい、いつまで雪がどんだけ降り続くのだろう⁉️-
どんよりとした雪雲が広がる空に
晴天が多い北関東の高崎で育った宙也には
ずっと降り続く雪には彼女の言う通り
かなりのショックだった。
咲耶から雪降ろしや道普請と呼ばれる
動線を確保するために近所の人と共同で行う除雪。
雪を捨てる場所などの
雪國ならではのルールをレクチャーを受けたり、
彼女の案内で一緒に街を歩いたりして、
暮らし方を確認したりして数日間を過ごした。
天氣予報で
ようやく晴れの予報が出た前日。
宙也は中庭でLEVANTEのロゴが入ったカートンを開いた。
彼の新しい愛機となるSKI
SPEED MACHINE Tiを取り出した。
バイスに掛けてスクレイパーで滑走面を
保護しているベースワックスを削り、
ワックスアイロンにメタを入れて火を着けてた。
慎重に滑走面のワキシングを行って、
作業も終わった時に
「咲耶さんは居ますか?」
同年代と思われる男が入って来た。
「咲耶さんは近くに所用で出掛けてます、直ぐ戻って来ると思ひますよ」
宙也は答えた。
其の男は其れには答えずに
そして宙也のギアを見るや即座に反応した。
「LEVANTEか❗オレはオノヅカのトライアンに乗ってるぜ」
-氣にいらないな❗
宙也は男の其の言い方が氣に要らなかった。
-オノヅカのトライアンか‼️
どうやらコイツも腕に覚えが在るみたいだな❗
単車のGP500 MONSTER MACHINE
YAMAHA YZR500(優れたハンドリングマシン)
VS
HONDA NSR500(最高速&馬力命)は
世界中のサーキットで、激しいバトルを繰り広げてた。
LEVANTEとオノヅカも、YAMAHAとHONDAのように、
國内SKIシェアの覇権を争っていた。
両メーカーは狂技用のモデルと選手を、國内の狂技や技術選・・・
そして、W杯やオリンピックに送り出していた。
「オノヅカ乗りには絶対に負けるな‼️
負けたらクビだ‼️」
宙也はCORSEから厳しく指導されていた。
宙也は無言でワキシングを終えた愛機Tiを
中庭の隅に吹き溜まっていた雪の中に埋めた。
「ただいま」
玄関が開き声が聞こえ、咲耶が外出先から戻って来た。
中庭が見えるサンルームに入って来た。
彼女はサンルームのサッシを開けて
「竹尾さん、いらっしゃい」
男に声を掛けた。
「咲耶さん、事務局に話しておきました」
カードの様なモノを咲耶に渡した。
「ありがとうございます、コレがパスね」
咲耶は手に取り言った。
宙也は二人のやり取りを眺めていたが、
咲耶と親しげに話す竹尾とやらに嫉妬を感じていた。
「宙也くん、こちらは竹尾さんと言って、地元高校のスキー部主将だったの、あなたと同い年よ、あなたがココで滑るための、リフトパスをお願いしたのよ」
咲耶は宙也に声を掛けた。
『咲耶がオレのために』
宙也は其れを聞いてうれしくなった。
「ありがとうございます‼️」
さっきまでの嫉妬心は一体何処へやら
今度は竹尾への優越感に浸った。
竹尾も咲耶の前だから、さっきまでとは打って違い
「ヨロシク、解らない事が、有ったら何でも聞いてよ」
フレンドリーな声で言って来たが同時に目付きは鋭かった‼️
『名香はオレのホームなんだぜ‼️
オマエの好きなようにはさせないぜ』
宙也にプレスを掛け続けていた。
竹尾はさすがに色々なSKIを見て来ただけあって
宙也のギアがかなり氣になる様子だった。
「其のギア、最新モデルだけれど、かなりイヂってない?」
CORSE製のギアと竹尾に
知られるのを隠すため咲耶の手前惚けた。
「カッコだけですよ‼️
何事もオレはカッコから入るのですよ」
スカした感じで笑って返した。
竹尾は宙也の其のスカした笑顔も氣に要らなかった。
竹尾は咲耶に好意を寄せていた。
竹尾の父親は地元で會社を経営しており、街の有力者でもあった。
竹尾は卒業したら父親の會社に入り、後を継ぐ予定だ。
竹尾の中では、いずれは咲耶と結婚してと
有力者の後継ぎらしい強引な考えを持っていた。
「竹尾さん、お願いがあるの」
1月半ばに咲耶から呼び出されて
「お願いって何だろうなぁ」
竹尾はもの凄い、甘い妄想と期待をして、
熱に浮かされて彼女との、待ち合わせの喫茶店に行った。
しかし切り出されたのが・・・
「従弟がひと冬コッチで過ごすの、SKIをするコなんで、パスをお願いします‼️」
見事な迄に期待を外され激しく落ち込んだ。
こうなると反動で宙也に対して・・・
『自分と同い年で咲耶の従弟、しかもひと冬
咲耶の家で過ごすだと‼️』
そして・・・
咲耶がいくら従弟とは言え宙也のために色々として
あげてる事の全てが竹尾には氣に要らなかった。
心のなかで
『今日は咲耶の手前、大人しくしてやるがピステでは
オマエを必ず追い立てて、撃墜してやる‼️』
激しく宙也に闘志を燃やしていた。
Una persona non posso dimenticare
第2章 SPEED
翌朝
起きて宙也は窓を開けると、
抜ける様な碧空が広がっていた。
名香高原に来て初めて見る碧い空だった。
碧空を仰いでるだけで何やら樂しい氣分になった。
1階に降りて洗顔を済ませて、
ダイニングに行くと
洋二は既に出勤をしていた。
「おはよう、宙也くん、今日は滑りに行くの❓」
咲耶が声を掛けた。
「咲耶さん、おはようございます、ええ、滑ってきます」
答えて朝食が並んでいる席に着いた。
「名香を滑るのは初めてだよね‼️」
「そうなんです、樂しみなんです」
咲耶はトースターからトーストを出して
バターを塗って皿に載せて渡して
デキャンタからカップに
珈琲を入れてからミルクを入れて宙也に渡した。
「いただきます」
宙也は彼女が焼いてくれた
皿に載ったベーコンエッグをフォークで
切ってトーストに載せて食べ始めた。
咲耶は美味しそうに食べてる宙也に話掛けた。
「宙也くん、
ココは滑りに覚えありって人が
多いから、もし絡まれたらウチの名前を出してね、
そうすれば、大丈夫だからね」
「そうなんですか⁉️」
「ウチの父が地元スポーツ團体の役員してるから、大丈夫よ」
そんな話を聞きながら
宙也は咲耶の話を聴きながら、
昨日会った、竹尾の顔を思ひ浮かべた。
『まずはアイツだろうな❗仕掛けて来るのは、
咲耶に好意を持ってるのは分かってる‼️
オマケにオレが、LEVANTE使ってるから、絶対大人しくしてる筈はないな❗
粘着質のしつこそうなタイプだな‼️
まぁコッチもWORKSの看板を、
背負ってるから敗ける訳にはいかないけどね』
「きっと竹尾さんも滑ってるから、何か有ったらカレに聞いてね」
咲耶は竹尾が宙也を庇ってくれると思っていた。
宙也は複雑な心境だった。
-その竹尾がエネミーだよ‼️
咲耶と竹尾はどんな間柄なんだろうかな❓
そして咲耶は竹尾の事をどう思っているのかな。
宙也はそう思ひながら
カップのカフェオレを呑み干してカップを置いた。
「ごちそうさまでした❗咲耶さんの料理美味しいです‼️」
宙也は笑顔を見せて答えた。
2階に戻ってギアの準備をして玄関を出て、停めてたCELICAに載せた。
咲耶も玄関に出て来た。
「行って来ます」
咲耶に告げた。
「氣をつけてね、樂しんで来てね」
咲耶は手を振った。
宙也はゲレンデにCELICAを走らせた。
更衣室でWORKSネームの入ったウェアに着替えて
Ray-Banのクラブ マスター1986を掛けた。
愛機 SPEED MACHINE Tiを右手に持ち、左手にカーボン ポールを持って名香のピステに立った。
其の瞬間、全方向の周囲の視線から強い敵性になったことが分かった。
スタッフ、地元常連客の目付きが変わっていた。
「LEVANTEのWORKS❓ コイツがか⁉️」
「まぁ、お手並み拝見させて貰おうかね‼️」
「見たことねぇヤツだな⁉️ケンカしに来たんか❓」
「ナマイキに長玉(200cm)持ってんか❗ボクちゃん、
ちゃんと滑れるんかい⁉️カッコだけとかよくあるけどね」
「チョーシこいてっと、ケガすんぞ‼️ガキが‼️」
200cmの白と赤のカラーリングの
|SPEEDMACHINE《スラローム専用機》Ti。
同じく白と赤のカラーリングの
MARK RACING ローターマット。
アズーロZ-Rレーシングブーツ。
老舗スキーエリア「名香」で滑っている彼らのPRIDEを宙也のマテリアルは十二分に刺激をした。
「どうせ生意氣にLEVANTEのWORKSなのが、氣にいらないって思われてるんだろうな❗完全アウェイだな‼️」
宙也はひとりごちた。
宙也はCORSEのマネージャーに云われた事を思ひ出した。
「宙也、このウェアを着て滑る時は、絶対に敗けられないんだ❗WORKSの看板を背負うっていうのは、そういう事なんだぜ‼️」
愛機を雪面に置いて2本のポールをSKI左右の雪面刺した。
BINDINGの右足のトウピースで
ブーツのウラに着いてる雪をキックして落として、
右ステップにブーツを載せて踏み込み
ローターマットのヒールピースをセットした。
そして次に左足も同じ動作を行った。
ポールストラップにグローブを通して、
ポールグリップを握った。
滑る前のセットアップが終わった。
宙也は滑り出す前のこの瞬間が好きだ。
左右のSKIを雪に馴染ませるようにスライドさせた。
そして
リフトに乗り込む時、スタッフから強い敵性を感じた
さすがに『カチン』ときたのでひと言。
「何か、用か❓」
「いや、何でもない」
スタッフは目をそらした。
クワッドリフトに独りで乗り、つまらない奴らの事をスルーするために
ウォークマンのヘッドホンを耳に入れてスウィッチを押した。
BOΦWYのGIGS プロローグが流れ始めた。
クワッドリフトを降りた 彼の目に飛び込んだのは
一面に広がる白い雪原と空の碧さと
遠く黒っぽくみえるのは日本海の海だった。
これだけ広ければ、
ショートスウィングで刻むのはもったいない。
氣持ちがワクワクしてくる。
宙也はカーボンポールのストラップに、グローブを通してグリップを握った。
脚部のストレッチを繰り返した。
"BAD FEELING"のイントロが流れ
其れを合図に「クロス」と発して
宙也はバーンに飛び込む。
ステップを切ってSKIを加速させてゆく。
思ひ切り縦横のスペースを使ったロングターン。
滑ってる人は殆ど無い。
こんなシチュエーションは滅多に無い。
宙也はうれしくなった。
更にステップを切り愛機を加速させる。
LEVANTEから送られた
コンペティション Tiは
其れまで使っていた
市販狂技用とは
全く違っていた。
低速では市販用モデルは安定してるが、
どんなにチューンナップしても或る速度域からは、
エッジグリップを放棄して前に進まずに
逃げて横にスライドをしていた。
ところがこのCORSE 仕様は全く違う。
低速はレスポンスは鈍重だが高速域では
確実にグリップして前へ前へと進んでゆく。
そう、剛性が格段に上がっていた。
まるで
CORSE Tiは意志を持つように
「もっとSPEEDを上げろ‼️もっとだ‼️
こんなモノなのか⁉️オマエのTURNは‼️」
宙也を挑発する。
宙也は軽井沢の凍てついたバーンで
覚えたターン後半に
意図的にカカトに重心を置く方法で
更にSKIを加速させた。
「翼を手に入れた」
宙也はそう感じていた。
そして・・・
「さあ、今度はCORSEの性能を見せてみろよ・・・」
声にならない声で呟いた。
これが宙也の意志である。
-SKIの本質はエッジワークだ-
これだけのハイスピードロングターン。
雪面からの抵抗を読み違えて抜重動作を誤れば、
雪面抵抗のエネルギーとSKIの反発力がプラスされて
身体は軽々と空中に飛び出しバランスを崩して、
そして雪面に叩きつけられるハイサイドと
呼ばれる現象に見舞われる。
ウォークマンからは"JUSTY"が流れて、アルペジオに合わせて斜面に垂直にギルランデを繰り返した。
そして・・・
激しいギターソロでスウィッチが入り
宙也は更にHEAT UPする。
CORSE Tiをスウィング、斜面に切っ先を正対させて、
強烈なカーヴィングターンで急斜面を斬り込んでいった。
「かまわねぇよ‼️飛び出したって地球の上さ‼️
右も左もカンケェ~ねぇよ‼️」
「一騎駆け‼️」
上げるSPEEDが宙也を取り込んでゆく。
SKIをレジャーとカテゴライズするのは間違いだ。
危険性は
モータースポーツなどと比べても遜色はなく
そして快感性も高いのである。
「速いモノは美しい」
其れが宙也の目指すSKIへのイメージだった。
|SPEED FREAKS《スピード狂》へ宙也の脳はDIVEする。
こうなるともう宙也は手が付けられなくなる。
SPEEDに支配され、完全に脳がトリップする。
Una persona non posso dimenticare
第3章 友達
そんな宙也の一騎駆けを見てる男がいた。
『竹尾』だった。
「迎撃して撃墜してやる‼️」
宙也の予測通り彼は待ち伏せをしていた。
「あのヤロー、何がカッコだけだと‼️
トボケやがって‼️
オマケにとんでもねぇヤローだ」
竹尾はスラローム狂技の県代表にも選ばれた男で
一瞬で、宙也のSPEEDがフツーでは無い事に氣付いた。
竹尾は気合いを発してトライアン SLの
ステップを切って加速させた。
左右にロングターンを繰り返す。
「コイツは速い‼️これだけのFREE SKIが出来るとは⁉️」
「宙也がSKIが好きみたいだから、
竹尾さんは県の選手だから、色々教え上げてね」
咲耶の話を竹尾は思ひ返した。
「ウソだろう⁉️何だ‼️
コイツのTURN後半の研ぎ澄まされた加速力は⁉️」
「WORKS TEAMに入った」
其の事を宙也はまだ咲耶に伝えてなかった。
滑り終えて
リフトゲート前でブーツの第1~第3までの
バックルをリリースして足をリラックスさせた。
そしてリフトに乗ろうと後ろを見ようとしたら、
「やぁ」
追いついた竹尾が穏やかに声を掛けた。
「はぁ⁉️誰だ、オマエ❓何か用か❓」
彼の予期せぬ反応に
竹尾は焦った‼️
「オレだよ‼️竹尾だよ‼️ほら咲耶さんの家で会った‼️」
トリップしてる
宙也には竹尾が解らない。
「知らないよ❓ジャマすんなよ」
リフトが来てたのでとりあえず二人は乗った。
竹尾は宙也がトボケてるのかと思ったが、しかし宙也が
真顔で言ってるのが解った。
「何だ⁉️コイツ❓ひと違いだったかなぁ❓
でもギアはLEVANTEのスラロームだよな⁉️」
そしてリフトを降りて、改めて宙也とギアを見た。
そして愕然とした。
「コイツ、マジか⁉️LEVANTEのWORKSかっ‼️」
竹尾は身構えた。
「とんでもねぇな、油断したらコッチがやられちまうわ」
ひとりごちた。
宙也は竹尾を意にも介さず、バックルを締めて滑り出そうとした時に竹尾が
「一緒に滑ろうぜ❗宙也」と声を掛けた。
「何でコイツ、オレの名前知ってるんだ❓」
そう思って少し間を置いて、宙也がトリップが解けた。
「あれ⁉️キミはたけ・・・なんだっけ⁉️」
竹尾は宙也とのバトルより、宙也に興味を持ち話を聞きたかったので
「竹尾だよ、コレ一本降りたら、お茶しようぜ」と誘った。
「了解」と宙也が答えた。
先頭は先ずは宙也が滑り出した。
竹尾は後ろから宙也の滑りを観察した。
彼の滑りはストレッチ型の切り替えから外脚に荷重していくフォーム。
「時間的にソロソロかなぁ」と竹尾は思った。
冷え込みで締まっていたバーンは昼間の氣温に緩み始めて来た。
彼は名香のバーンを滑るのは初めてだった。
軟らかくなった雪にバランスを崩した。
宙也の滑りは硬いバーンに対して有効なフォーム。
彼は軽井沢の凍てついた
氷のバーンで外脚荷重を徹底的に磨き上げた。
そして、驚異的なturn後半のSKIを走らせる技術を得た。
その反面、軟雪や足元のギャップ等があると対応が遅れ、
バランスが崩れやすい。
彼がバランスを崩したのを見て
「そろそろ、行くべぇか‼️」
そう呟いて竹尾が前に出る。
北陸地方特有の軟雪の状態が初めての宙也が遅れ始める。
「悪いね、ココはオレのホームだからな、いつまでもオマエの勝手にはさせられないわな、しかし驚かされたな、あのTURN後半の加速力には・・・」
しかし、宙也もこれでは終わらない。
即座に竹尾の滑りをリスペクトする。
竹尾は軟雪に対応するベンディング型という
脚を抱えて抜重、脚伸ばして荷重するフォームだった。
バランスを崩しやすいシーンで使用する方式だ。
竹尾の滑りは宙也に新たな刺激を与えた。
竹尾は
「やれやれ、コレで少しは溜飲が下がったな」
思ひ後ろを振り返ったら
引き離したと思った宙也が既に後ろについていた‼️
『さすがはLEVANTEのWORKSに、所属するだけあるわな‼️』
竹尾はひとりごちた。
滑り終えて二人はレストハウスに入って
ようやく初めてお互いの自己紹介をした。
「宙也、オマエの滑りって、剣道の片手平突きの様だな」
「片手平突き⁉️何それ⁉️」
宙也は聞きなおした。
竹尾は剣道もやっており、咲耶の父から指導を受けていた。彼の説明では
片手平突きは剣道の型のひとつで
新撰組三番隊組長 齋藤 一の得意技と云われている。
竹尾の切替主動作のベンディングは
両脚を抱えこんで
turn始動時に両SKIを外に押し出すが・・・
宙也は
ストレッチ動作で切り替え
切っ先をバーンに
正対に向けて最小限の動作で行い。
バーンに飛び込んでいく特徴がある。
この突進動作が片手平突きに通じるのであった。
この日から二人は一緒に滑る様になった。
竹尾は周囲の仲間たちに
「宙也は速いよ」
そう言った。
仲間たちは県代表でもある竹尾が認めたことで
宙也は一目置かれる様になった。
そして
竹尾の陽氣な人柄は人を惹き付ける魅力も有って、
宙也には新潟に来て初めての友達になり
周囲の宙也に対する雰囲氣も和らいで来た。
そんな或る日、一緒に滑って
昼食を取ってる時に竹尾はこんなこと言ってきた。
「オレはオマエに嫉妬するわ‼️
あんな綺麗な人と、ひとつ屋根の下で暮らして
あの人の作った料理を、毎日食べられて羨ましい‼️
オマエの滑りの話をして、コッチが負けそうだと云ったら・・・
ホント‼️スゴイのね、宙也くんって‼️
そんな、うれしそうな笑顔を見せられて・・・
で当の本人はスカした顔してて、ホント、ハラが立つわ‼️」
竹尾の本音に黙って聞いていた宙也だった。
「なぁ宙也、咲耶さんってカレシいるのかなぁ❓
オマエ一緒に、住んでて情報無いの❓」
竹尾は真顔で宙也に聞いた。
「知らない、全然そんな素振りもないし」
「まさかオマエぢゃあないだろうな⁉️
咲耶さん、オマエの事になると、
真剣になるからな
オマエがカレシだったらオマエとは絶交だ」
「はぁ⁉️まさか‼️従弟だからだよ、ウチは毒親だから、
咲耶さんは、心配してくれてるんだよ」
「そっか、オマエもけっこうタイヘンなんだな‼️
なぁ宙也、咲耶さんの事でオレを裏切るなよ」
「あぁ、折角出来た、最初の新潟の友達だからね」
「オマエ、話するとけっこう良いヤツなんだな」
氣をよくした竹尾と話をしていた宙也だが・・・
-よく考えたら咲耶の事、何も知らなかった-
「あれ⁉️そういえば咲耶は、何でオレがSKIをする事を知ってるのだろう⁉️」
疑問が浮かんだ。
Continuare