第六話:ぼっち最強ですわ!
《制服案件》は引き分け、続く《大階段案件》は私の完全勝利!
日頃の練習の成果である決めポーズ、決め台詞、氷の令嬢スマイルなどもバッチリ決まって私、大満足ですわ。
そんなことを練習している間に、勉強をしっかりしていれば一位になれたんじゃないか、ですって?
こんなの貴族の令嬢としての標準仕様でしてよ?
貴族令嬢をなめないことね。
いい仕事したわぁと私が開放感に浸っておりましたところ、いつの間にか酸欠から回復した魔術師様が私の横に立ち、しきりにドレスのそでをひっぱりますの。
なんですのいったい。ウザいですわよ?
「リア、この場は僕がなんとかするから、君は先に逃げるんだ。殿下は君を地下牢に閉じ込めるつもりだ。さあ、早く!」
あらあら、重々しい魔術師様の低音ボイスはどこにいったのかしら。気をつけないと正体がバレてしまいますわよ?
親切を装って私を追いやり、勝利を独り占めする気ですのね?
もちろん、そんなことはさせませんわ。
「逃げるのなら魔術師様がお先にどうぞ。魔術師ファーストですわ。撤退戦のしんがりはお任せあれ」
「あー、もう、そうじゃなくて!」
魔術師様が黒いフードの上から頭を抱えておられます。器用な方ね。
撤退のしんがりをやりたいということでしょうか?
しんがりって難しいですのよ?
そうこうするうちに、ピンク頭様がまた騒ぎ出しました。
ちゃんと止めを刺せていなかったみたいですわね。
おそらく、あの《うるうる》が生命力の源なのでしょう。さすが聖女、あなどれませんわ。
「まってくださいぃ!オーレリアさんから受けたイジメわぁ、まだまだあるんですぅ!」
ピンク頭様の語尾に続く小さな音、「くださいぃ、わぁ、ですぅ」。
これら全てに、《魅惑魔法》の匂いを感じますわね。
ピンク頭様、一見おバカに見えますけど、かなりの魔法の使い手ではないかしら?
それとも天性のもので、知らず知らずに使っていらっしゃるのかもしれません。
どちらにしろ、彼女の《ですぅ魔法》は、ジェスト殿下に上手くかかったようですわよ。
力なく座り込んでいらしたのに、今はしっかりと立って私を睨みつけておられます。
魅惑だけでなく回復効果も《ですぅ魔法》にあるのかしら?これは研究課題ですわね。
「さすが聖女アリア、よく言った!オーレリアよ、一度ならず二度までもキサマには逃げられたが、3度目の正直だ。今度は逃げられんぞ!」
ジェスト殿下がピシリと人差し指を私につきつけました。
まあ!なんてことでしょう!殿下のピシリ指から《威圧魔法》が感じられますわ!《威圧魔法》というのはデバフの一種で、相手を威圧して優位に立つ効果のある魔法ですの。
私は殿下の《ピシリ威圧》を手にした扇で軽く払いながら、《氷の令嬢スマイル蔑みバージョン》でジェスト殿下とピンク頭様をあざ笑います。
《氷の令嬢》は高位貴族令嬢のオプション仕様ですのよ。私は使いこなしております。当然でしょ?
「ふふふ。無様ですわねぇ、二度までも私に叩き潰されておきながら、まだ抗うのですか?でもまあ、よろしいでしょう。本当はゆっくりとワインを頂きたいところですが、ジェスト殿下とは婚約関係にあった仲です。特別にお付き合いしてさしあげますわ。さあ、言ってご覧なさい。私がしたというイジメを」
今、流行りの悪役令嬢、ここに極まり!ですわね?おーほほほほっ!
超気分いいですわ!最高ですわね。
あら?そちらのグラスは何かしら?
まあ、火酒なのね。
かなりきついから令嬢にはむきませんとか給仕さんが言っていますわ。
でも私は婚約破棄をされ、ついでに断罪もされ、それを華麗に返り討ちにして滅多斬りにしている最中の悪役令嬢ですのよ。無双令嬢ですわ。
強いお酒なんて私にぴったりじゃないかしら。
ぐびり。はぁ、体が熱いですわ。
「リア!君は酒を飲みすぎだ!もう飲むな!」
「水しか飲んでおりませんが、なにか?」
魔術師様が口うるさくて困りますわぁ。私は畳んだ扇でぺしり!と魔術師様の額を叩きます。
もちろん軽くですわよ?暴力反対ですもの、私。
ちょっと角が当たったかもしれませんけれども。偶然って恐ろしいですわね。
「痛ったい!リア、手加減をしろよ!」
この程度で痛いとか、か弱い魔術師様はさっさと撤退なさいませ。
私と魔術師様が軽くジャブを交わし合っているうちに、復活したジェスト殿下がピンク頭様を抱き起こし、励ましていらっしゃいます。
《真実の愛》ですわねぇ。叩き潰しがいがありますわ。おほほほほ。
「さあ、アリア、頑張るんだ!僕たちの《真実の愛》を見せよう!」
「でんかぁ~。ぐすん」
立ち上がったピンク頭様は、ジェスト殿下にしなだれかかりながらも、果敢に攻撃態勢を取られました。
大粒の涙を目に浮かべて《うるうる》発動、ぎゅっと両手を頬のあたりで握りしめながら、周囲の皆さんに訴えかけておられます。
なるほど、考えましたわね。
私が手強いと思われたのでしょう。私ではなく、周囲の方々にデバフをかけることにしたようですわ。
《モブ共感》を使うなど、やりますわね。
「オーレリア様はお茶会で、私のドレスにお茶をぶちまけましたのぉ!熱かったですわぁ!火傷しちゃいましたぁ!本当ですぅ!謝ってくださいぃ!」
へぇ、《モブ共感》に《ですぅ魔法》の重ねがけですか。
なかなか高度なことをなさるのね。
それにしたって、私がお茶会でお茶をドレスにかけるなんて、ありえないことですわ。
熱々のお茶をかけるなら、ドレスじゃなくて頭からでしょ?
ドレスにかけるなんて、そんな甘っちょろいことを高位貴族令嬢はいたしませんのよ。
それに、私がお茶会でお茶をドレスにかけていないという、ちゃんとした証拠もございますの。
これは勝った!戦う前に勝ちましたわ!
いざ、行かん。
「まあ、おかしなことをおっしゃるのねぇ。私がお茶会であなたのドレスにお茶をかけるなど、できるはずがございません」
「本当ですぅ。オーレリアさん、謝ってくださいぃ!一言、謝ってくれたらぁ、地下牢に入らなくてすむんですよぉ?一言だけでいいんですぅ」
私は扇を広げてパタパタと風を送り、ピンク頭様の《ですぅ魔法》を打ち消します。
そして《氷の令嬢・小馬鹿にしたバージョン》で、ピンク頭様を鼻で笑って冷たい視線を投げかけます。
この鼻で笑うというのも、なかなか難しいですのよ?
力加減を間違えますと、単なる豚さんのモノマネになってしまいますから。ぶーぶー。
「ふんっ!もうまともに付き合うのも馬鹿馬鹿しいですわね。いいですか、よくお聞きなさい。私は「ぼっち」……おいこら、魔術師!おだまり!ステイ!」
ざわざわざわ。
「オーレリア様って、ぼっちだったの?」
「そういえば、お茶会でお会いしたことないわね」
「放課後も、すぐに帰ってるしな」
「やっぱり、ぼっちなんじゃ……」
おい、魔術師、言い方!
私は今度こそ、きちんと扇の角の部分をしっかり当てて、魔術師様の後頭部を軽く叩いたように見せかけて、全力でぶん殴りましたわ。
この《偽装殴打》、けっこう高度な技ですのよ?令嬢であれば、誰でもできるわけではございませんの。
もちろん、私は令嬢の嗜みとして取得済みですけれども。
「ぐほっ、リ、リア、やめろ……」
「ふんっ、ステイ!」
魔術師様、根拠のないことをおっしゃっては困りますわねぇ。私が《ぼっち》などと、なぜそんな結論にたどり着いたのでしょうか?
その脇の甘さが勝利を逃がすのですよ。おほほほ!
さて、皆さんの誤解を解かねばなりませんわね。いらぬ仕事を増やしてくれました。
「こほん。皆様、宜しくて?少々、誤解があったようですので、私からご説明させていただきますわね。私は王子妃教育が忙しく、幼少の頃にジェスト殿下の婚約者になってからというもの、お茶会に出席したことはございませんの」
「えぇ?そんなぁ!嘘ですぅ!」
「そんなの嘘だ!私との《婚約者のお茶会》もあったはずであろう!」
嘘だと言い張るジェスト殿下に、私は今一度《氷の令嬢・小馬鹿にしたバージョン》を発動いたしますわね。
「あら?ジェスト殿下が《婚約者のお茶会》に来られたことってありましたっけ?」
「うぐっ!それは……その……色々と忙しかったんだ!王子だから仕方あるまい」
ざわざわざわ。
「《婚約者のお茶会》に一度も出ないなんて、オーレリア様がお可哀想」
「ジェスト殿下はそんな酷い婚約者だったんだな」
「最低ですわ、最低!」
「ぐっ!オ、オーレリア、《婚約者のお茶会》に一度も出ずに……すまなかった」
「殿下、お気になさらず。私も最初の1回しか出ておりませんから。おほほ」
「な、なんだと?」
「もう終わったことをグチグチいう殿方は嫌いですわ!ところで、私がドレスにお茶をかけたなど、ありえないことはご理解いただけましたわね?そういった場に出席したことがないのですから。ピンク頭様の勘違いじゃございませんこと?」
「そんなぁ、そんなぁ、ピンク頭とか、ひどいですぅ」
「くっ、……分かった。お茶をドレスにかけた件も取り下げよう」
お茶をドレスにぶっかけ案件も、私の完全勝利で終わりましたわね。
今回は魔術師様に完勝したと言ってよろしいのではなくて?
「ぼっち」
「ステイ!」




