さよならがない世界
いらないものには「さよなら」さえ言わない。
もしも さよならがない世界があったとしたって
あたしは そんなところに棲みたいわけじゃない
みじかい両腕で いっぱいかかえこんで
ポケットにも ぎゅうぎゅうつめこんで
ジッパーのはちきれそうなカバンをいくつも
肩にかけたり 背中にのせたりしたあげく
ちかくにトランクルームまで借りて
さよならはしないで済んだ
たいせつなものや 大好きなものを
おいてきぼりになんてできないまま
あたしは どこにもいけなくなって
ふさがった両腕と
踏み出せない両脚と
背中のカバンでつぶされた翼が
あたしの のぞんだすがたなのかなって
この場所で はてな? を浮かべつづけることだろう
それでやっとわかったよ
さよならがない世界は あたしが
たいせつなものや 大好きなものに
さよならしなくていいだけの世界じゃなくて
あたしが いまいるこの場所にさよならできなくて
もうどこにもいけなくなる世界なんだって
だから あたしは
たいせつなものと 大好きなもののいくつかと
さよならがない世界とも さよならすることにして
それでやっと あたしがいまいるこの場所にまで
さよならできるようになった
これであたしはどこへだっていける
ふさがってた両腕をあけて
踏み出せなかった両脚を前へむけて
背中でつぶされてた翼をひらくよ
おろしたカバンやトランクルームは おきざりにして
でもやっぱり
ポケットくらいは ぎゅうぎゅうにつめこんだまま
あたしは さよならがない世界に
さよならするはずだっておもう
それからあたしが棲むのは
さよならをとりもどした世界
さよならがころがってる世界と あんまり変わらない
だからあたしは さよならがない世界になんて
はじめっから 棲みたいとはおもわないよ
さよならがころがってる
さよならだらけの世界に棲んで
大切なものと 大好きなもののいくつもに
あたしはいっぱい涙を流しながら
さよならして 生きてくんだ
いらないものにまで、さよならできなかったら困る。




