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テーマ詩集:さよなら

さよならがない世界

作者: 歌川 詩季

 いらないものには「さよなら」さえ言わない。

 もしも さよならがない世界があったとしたって

 あたしは そんなところに()みたいわけじゃない


 みじかい両腕で いっぱいかかえこんで

 ポケットにも ぎゅうぎゅうつめこんで

 ジッパーのはちきれそうなカバンをいくつも

 肩にかけたり 背中にのせたりしたあげく

 ちかくにトランクルームまで借りて

 さよならはしないで済んだ

 たいせつなものや 大好きなものを

 おいてきぼりになんてできないまま

 あたしは どこにもいけなくなって


 ふさがった両腕と

 踏み出せない両脚(りょうあし)

 背中のカバンでつぶされた翼が

 あたしの のぞんだすがたなのかなって

 この場所で はてな? を浮かべつづけることだろう



 それでやっとわかったよ

 さよならがない世界は あたしが

 たいせつなものや 大好きなものに

 さよならしなくていいだけの世界じゃなくて

 あたしが いまいるこの場所にさよならできなくて

 もうどこにもいけなくなる世界なんだって


 だから あたしは

 たいせつなものと 大好きなもののいくつかと

 さよならがない世界とも さよならすることにして

 それでやっと あたしがいまいるこの場所にまで

 さよならできるようになった

 これであたしはどこへだっていける


 ふさがってた両腕をあけて

 踏み出せなかった両脚(りょうあし)を前へむけて

 背中でつぶされてた翼をひらくよ

 おろしたカバンやトランクルームは おきざりにして

 でもやっぱり

 ポケットくらいは ぎゅうぎゅうにつめこんだまま


 あたしは さよならがない世界に

 さよならするはずだっておもう

 それからあたしが()むのは

 さよならをとりもどした世界

 さよならがころがってる世界と あんまり変わらない

 だからあたしは さよならがない世界になんて

 はじめっから ()みたいとはおもわないよ



 さよならがころがってる

 さよならだらけの世界に()んで

 大切なものと 大好きなもののいくつもに

 あたしはいっぱい涙を流しながら

 さよならして 生きてくんだ

 いらないものにまで、さよならできなかったら困る。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても、とても、素敵な詩だと思いました。 ありがとうございます。
2023/11/07 11:36 退会済み
管理
[一言] 最後の一節がとても好きです。 さよならだらけの世界の中で、大切なものと大好きなものの存在を、限られた時間、大切に抱えながら生きていく。 だからこそそれらは大切で大好きでいられるのかも知れませ…
[良い点]  さよならがなければここにあり続けるのが普通。  そうでないから気付くことがあって。  そうでないから大事にしたいと思って。  そうでないからいてくれることが嬉しいのかもしれませんね。 …
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