だってセーラは天才だから
第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞応募作品。
チョイステーマ「天才」
ご笑納くださいませ
「どういうつもりなんだセーラ!」
「……は?」
セーラはこの魔法学園に入って二年目、十四歳の伯爵令嬢。
長期休暇明けの新学期の教室で、突然罵倒され目を白黒させている。
「お前がここまでハレンチな女だとは思ってもいなかったっ!」
セーラを罵倒しているのは公爵令息のアーサー。同学年だ。
遠くからセーラの存在を見つけると驚愕の速度で廊下を走り抜き、彼女の目の前に躍り出た。その勢いのまま、真っ赤な顔で彼女を罵った。
ちなみに、お互いの実家の都合でこの長期休暇中に婚約したふたりであるが、一年生のときから息ぴったりのカップルだと周囲からは認識されている。
「お前のせいで俺はっ……‼」
感情が高ぶり過ぎたのか、口をぱくぱくと開閉させ二の句を継げない様子のアーサー。
「アーサー、落ち着いて」
「これがおちついていられるかぁ!」
彼らの周りでは同級生たちの山が興味津々の体で見守っている。
「いったい、なにがあったの?」
「しらばっくれやがって! ハレンチ! 痴女めっ!」
なんとも酷い罵り言葉に、温和なセーラもさすがにムッとする。
「いい加減にしてアーサー。一方的に怒鳴り散らしてどういうつもりなの? 人前で私を罵るなんていい度胸ね。冤罪なら謝罪と精神的苦痛に対する慰謝料を要求します」
「そんなこと言って‼ 婚約以来、毎晩っ! 裸で俺の夢に現れては翻弄しやがって! その度に俺は朝起きたとき……qあwせdrftgyふじこlp……」
「――は、だか?」
「だってお前、新しい魔法を作る天才じゃないか! 人の夢に現れる魔法を作っても可笑しくない! いや、魔導具か? それも歴史を変えるほどの業績をみせているじゃないか!」
アーサーはなにやら涙目になりつつ訴えて続けているが。
それとなく彼らの様子を伺っていた野次馬同級生たちは思った。
ようするに。
アーサーが勝手にセーラ嬢の夢を見たってことだよね?
婚約してから意識しちゃったってことじゃね?
彼女のことが大好きって言ってるわけですね?
しかもさりげなくセーラ嬢が天才だと自慢しているし。実際彼女は魔法学園始まって以来の天才児だけど。
これはつまり、盛大に惚気られているということか。察し。
賢明な周囲は『あー、はいはい痴話喧嘩ね。お疲れさま~解散!』と若いカップルを放置することにした。
だから知らない。
羞恥のせいか、こちらも真っ赤な顔になってしまったセーラ嬢が小さな声で言った言葉を。
「裸で会ってるつもりなんか無かったのに……」
千文字以内という縛りがあるのは百も承知のうえ、どうしても使いたかった文字列。
『qあwせdrftgyふじこlp』
発声しづらいじゃん?w