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7:天使になる

 遠い昔、天使は一度だけ恋をした。

 相手は人間の男で、今思うと、多分くだらない男だった。

 けれど天使にとってはかけがえのない存在で、だから彼の子孫を守るため、彼女は主人であった女神を裏切った。


 天使はあの時の、自分の愚かな行動を悔いた事はない。

 けれど、それでも時々、どうしようもなく悲しくなる時がある。


 人々は守られていることを知らず、誰も天使に感謝なんてしない。


 忘れられた存在。ただ幸福を与えるだけで見返りがない生活。

 たまに苦しくて、人間に紛れて生活してみても、歳を取らない天使は本当の仲間にはなれない。


 気が遠くなるほどの長い間。彼女は一人だった。


 そんな日々を過ごしていたある日。天使は出会う。

 昔好いた男によく似た雰囲気の、甘えん坊の王子様。

 そういえば、30年ほど前のこと。彼の父親にも特別な加護を与えた事を思い出した彼女は、また気まぐれに王子様に近づいた。


 別に何かを期待していた訳じゃない。

 経験上、自分のことを誰かが覚えている可能性なんてゼロだ。

 だから、今回もそうだと思っていた。


 *


「まさかクロードの方が覚えているなんて思わなかったわ」


 昨日と変わらず、どんよりとした空気の中。盛大に執り行われている王太子アレンの成婚パレードを見下ろしながら、イヴはポツリと呟いた。

 貴賓席にシレッと紛れ込み、自分の横に座る彼女にクロードは呆れたようにため息をつく。


「何でシレッとここに座ってるんだよ」

「紛れ込むのは得意なの」

「魔法的な事?」

「魔法的な事」

「情報過多で頭がパンクしそう」


自分が古の頃からこの国を守り続けているという天使だと話すイヴに、クロードはただただ困惑していた。

 普通の人ではないとは思っていたが、まさか人ですらないとは思わなかった。

 非科学的な事は信じない主義の彼には到底理解しがたい。でもそう言われると全てが繋がり、納得できる気がする。


「うーん。じゃあ、これなら信じる?」


まだ自分に疑いの目を向けてくるクロードに、イヴは天使である証拠を見せてやると言って、パチンと指を鳴らした。

 

 すると、突然雲の隙間から光が差し、みるみるうちに空が青くなる。

 そして雨も降っていないのに、国境近くの山脈には虹がかかった。

 それを見た人々は、皆、天からの祝福だと喜んだ。


「ご納得いただけたかしら?」

「とても納得した。だがやり過ぎだ。これでは超常現象だ」

「まさにその通りなのだけれど? まあでも、いいじゃない。めでたい日なのだから」

「……それもそうか」


二人は笑顔で民に手を振るアレンとその婚約者を見て、とても穏やかに微笑んだ。

彼らはきっと、素敵な夫婦になる事だろう。


「俺はイヴとああなりたい」

「私、人間じゃないけど」

「人間と天使が結婚できないなんて誰が決めた?」


 そんな法律はないとクロードはイヴの手を握り、指を絡めた。


「よく人間は死ねば天使になれるって言うけど、あれって本当?」

「さあ、どうだろう?」

「……ねえ、イヴ。きっと君とってはそう遠くない未来、俺は間違いなく君を一人にする」

「そうね」

「でも、イヴに俺と過ごした時間を後悔はさせない」

「……」

「これからの俺の人生、全て君に捧げるよ」


 指を絡めたまま、クロードはイヴの手の甲にキスをする。

そして、神殿で待っていて欲しいと笑った。


「……随分と情熱的ね。意外」

「嬉しくない?」

「とても嬉しいわ。多分今まで生きてきた中で1番、今が幸せよ」


 イヴは目に涙を溜めて、彼と同じような笑顔を浮かべた。


「ありがとう、クロード。愛しているわ」



 ***



成婚パレードからひと月後。王太子アレンに長く仕えた側近クロードは職を辞した。

 噂で聞いた話では、出家して神殿に入ったらしい。

 信心深くない彼が神殿に入ったことには皆が驚いたが、出家した理由については『心の綺麗な人間は死ねば天使になれるらしいから』と答えたそうだ。

 嘘か本当かはわからないが、その後の彼の人生を見る限り、きっと彼は天使になれたことだろう。

ハッピーエンドで終わらせてみました。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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