6-6 クロムワルツ侯爵。
結婚式当日。
ルークは礼服に着替え、1階大広間に移動した。
大広間にはたくさんの貴族らしき人々が集まっていた。
およそ50名程度といったところか。
これでも、規模は小さいというが、これだけ人が集まると多く感じるのだ。
とりあえず、ルークは目立たない位置に立っていることにした。
レイヴンやサーシャとは会話できる仲である。
結婚式とかはちらっと覗ければいいかな程度に考えていた。
ところが、そうは問屋が卸さない。
「ルーク、こっち来なさいよ!」
突然、ミレーナに腕を引っ張られ、最前の席に座らせられたのだ。
「えっと、僕、ここに座っていいの!?」
「いいに決まってるでしょ。」
ということで、ミレーナの隣に座ることになってしまったのだった。
結婚式はつつがなく終了した。
これから披露宴のため、皆食堂に移動する。
ミレーナとはここでお別れである。
彼女は事前に用意された席に座る決まりがある。
親族だからである。
ルークは親族ではないので、離れた席に座ることにした。
しかも、結構後ろの末席に座ったのだ。
見た限り、見知った貴族の姿はない。
話す相手もいない以上、末席で十分だった。
ルークは席に着き、のんびりしていると、突然、ルークの隣に一人の壮年の男性が座ったのだ。
そして、ルークに声をかけてきたのだ。
「君が、噂のルークかね?」
「へっ?
は、はい、ルークとは僕のことですが?」
目つきの鋭い男性だ。
だが、誰かに似ているような気がしたのだ。
「失礼、ルーク。
私の名は、グリッグ=クロムワルツという。
サーシャの父親だよ。」
「あ、その、はじめまして、クロムワルツ侯爵様。」
ルークは、驚いていた。
昨日、レイヴンに注意された侯爵が、いきなり隣に現れたのだから。
「あ、あのぉ、親族席に座らなくてもいいんでしょうか?
ここは末席ですし。」
「かまわんとも。
私は君と話してみたくて、ここに来たのだから。」
僕と話がしたい?
何だろう?
ルークはちょっと警戒気味になっていた。
「そう警戒せずともいい。
何も、君をとって食おうと思ってはいないのだから。」
そう言うと、侯爵は笑みを浮かべるのだった。
披露宴が始まり、食事が運ばれてくる。
見たことがない食べ物ばかりで、ルークは緊張した。
しかし、ここは学んだばかりのテーブルマナーを発揮する場なのだ。
フォークとナイフをうまく使いこなし、食事を頂く。
思いのほか、おいしかったのだ。
それが顔に出たのか、侯爵に指摘されることになる。
「ほぉ、おいしそうに食べるね、ルークは。
貴族の料理は初めてかね?」
「あ、はい、初めてです。
こんなにおいしい物が食べられるなんて思ってもいなかったので。」
「そうか。
そういう新鮮な感想はいいものだ。
私は少々食べ飽きていてね。
もう少し味が濃いものが食べたいが、
何分そのような食べ物が出ないのだよ。」
侯爵は、少しがっかりしているようだ。
「そうなんですか?
その侯爵様は、大衆食堂とかって利用されないんですか?」
ぶしつけな質問だったが、侯爵は笑っていた。
「残念ながら、行ったことがない。
行きたくとも、部下たちに阻止されてしまうからね。
やはりおいしいのかい?」
「はい、王都の大衆食堂には、おいしいものがたくさんありました。
・・・その難しいかもしれませんが、良ければ一度味わってほしいです。」
「そうか、そうだな。
庶民の味を知るのも、貴族には必要だな。
一度試してみるとしよう。
ありがとう、ルーク。」
侯爵は笑みを浮かべるのだった。
それから、ルークと侯爵はたわいない世間話に花を咲かせていた。
だが、周囲の目は違った。
侯爵と喋っているあの少年は誰なのか?という目で見られていたのだ。
普通、侯爵位の方とそうそう語らうなど、なかなかないのだ。
それを仲良く語り合っている少年が、皆うらやましかったのだ。
だから皆、ルークのことをよく見て、詮索しようとしていた。
もしかしたら、高位の爵位を持つ貴族の子供ではないか?とか。
あるいは、皇帝陛下に近い者なのか?とか。
見方はそれぞれであったが、ルークのことを知る者はいなかったのだった。




