6-4 “魔導を極めし者”
翌日。
ルークは本を読んでいるところ、レイヴンより呼び出しがあった。
レイヴンの執務室へ向かうと、「出かけるぞ。」の一言で、外へ出向くことになった。
ルークは念のため、スーツ姿に剣を佩いていく。
レイヴンには護衛がいなかった。
「レイヴン様、護衛を付けなくてもよろしいのですか?」
「ルーク、君がいれば十分だ。」
あっさりと言い切ったのだ。
「それに向かうのは割と近いところだ。
護衛はいらないさ。」
レイヴンはそう言って、歩き出すのだった。
到着したのは本屋だった。
そう、以前ルークが購入したことのある、白髪の店主がいる本屋だ。
「ここが目的地だ。」
「ここにどのような用件で?」
ルークは質問すると、レイヴンは何気なく答える。
「君が師を探していると言っていただろう?
師になりえそうな人がここに居るとわかったから、連れて来たんだ。」
レイヴンはそう言うと、店内へと入っていく。
ルークも続く。
レイヴンは店内に入るや、声をかける。
「ユーディス殿、いらっしゃるか?」
すると、奥から白髪の魔導士が姿を現す。
「ほう、どなたかと思えば、レイヴン様ではありませんか。
どうされましたかな?」
そう、あの店主本人だったのだ。
これには、ルークは驚いたのだ。
「実は、以前お話しした件だが、魔導士の師を持ちたいという男を連れて来た。」
「ん?
君は確か、以前魔術書を購入した少年ではないか?」
ユーディスはルークのことを覚えていたのだ。
「あ、はい、ルークと言います。
今はまだ、魔法使いです。」
「なんだ、知り合いだったのか?」
「えぇ、ちょっとだけお世話になりまして。」
レイヴンの言葉に、ルークは簡潔に答える。
「あの時の少年にまたこうして会えるとはな。
これは何かの縁なのかもしれないな。
さて、ここで話すのもなんだ、二階で話をしましょう。」
ユーディスは、二階の階段を目指し歩くのだった。
二階は一階とは異なり、普通の部屋だった。
どうやら、一階が本屋で、二階が生活スペースのようだ。
ルークらはソファに座ると、会話を再開する。
「さて、ルーク、君は何故師を持ちたいのかね?」
ユーディスの言葉に、ルークは答える。
「はい、僕はこれまで、魔法を書物でのみ勉強してまいりました。
しかし、それだけでは足りないのではないかと思っております。
具体的な何か、それは自分でもわかっていないのですが、
もし師がいれば見えてくるのではないかと思いました。」
その答えに、ユーディスは考える。
そして、ユーディスは口を開く。
「なるほど、そういうことか。
だが、君は魔法をよく理解しているように見えるのは気のせいかな?
私は、君の人となりを良く知らないが、
君は私よりも優れた魔法使いであると思うよ。」
「僕自身は、魔法だけを理解しているだけのような気がするんです。
その根源たる魔法力や魔法の意図について、
まだまだ勉強不足なのではないかと。
書籍にはそこまでの情報は載っていません。
そう考えると、師が必要なのではないかと思うのです。」
ユーディスはそれを聞いて、笑い出す。
そして、回答を出す。
「君は欲張り過ぎだ、ルーク。
ほとんどの魔導士たちは、しょせん呪文を唱え、
魔法を使いこなす程度がせいぜいだ。
君のように、魔法の根源なんて知ろうとする者は少ない。
私としては、そこまで知る必要はないと思っている。」
だが、ルークには聞きたいことがあったのだ。
それをあえて聞いてみることにした。
「実は、先日、剣と魔法の融合を行うことができたんです。」
その言葉に、ユーディスとレイヴンは驚く。
「皆は、“魔法騎士”の力ではないかと言っていたんですが、
僕には理解できませんでした。
ただ、剣に魔力を与え魔法の力を解放しただけだったんですが。
僕は、魔法の奥深さに気づいたんです。
ですから、教えてくれる師を探していたのかもしれません。」
「“魔法騎士”か、聞いたことがある。
実在は怪しいが、まさか、それが可能だというのか!?」
レイヴンはただただ驚いていた。
対してユーディスは、ルークをじっと見ていた。
「君は、既に、魔法の深層に近づいているのかもしれないな。
ルークよ、君は剣と魔法の融合を成し遂げたと言ったな?
それは、今この国にいる魔導士には絶対にできないことなんだ。
もし、“魔法騎士”が存在しているなら、それは、
『魔導を極めし者』ということになる。」
「『魔導を極めし者』!?」
「そうだ。
私でも手が届かない領域に存在する者のことだ。
君は既にその領域に身を置いているということになる。
そうなると、君は既に師匠は不要ということになる。
例え私でも、君の魔法について、説明できる立場にない。
君は、一人でそれを解明していくしかないんだよ。」
ユーディスはそう語ると、ふうっと息を吐く。
ルークは、とんでもないことをしているかのように感じた。
自分がまさか、魔法の深層に近づいているというのだろうか。
しかも気がつかないうちに。
だが、いつからそんな立場になったのだろうか?
まさか、『創造系魔法』を駆使した時からだろうか?
疑問は絶えなかった。
「君は、もしかしたら、“大魔道士”に最も近い存在かもしれないな」
ユーディスの言葉に、ルークは固まる。
ウォーザード伯爵にも言われたセリフと同じだったからだ。
レイヴンはさきほど驚きっぱなしのようだ。
「ルークが“大魔道士”にだと!?
それでは、この国始まって以来の存在が
誕生することになるということですか?」
レイヴンの言葉に、ユーディスは首肯する。
「これはおそらくの話だ。
もし私のカンが正しければ、
ルークは希代の“大魔道士”になるのではないかとな。」
レイヴンはルークを見やると、やっとのことで言葉を紡ぐ。
「君は、とんでもないものになりつつあるということか?」
「いえ、その、そんなことはないと思いたいのですが。」
ルークは慌てて否定するも、これは否定しきれそうにない。
「もし、このことが皇帝陛下に知られれば・・・」
「うむ、十中八九、皇帝直属の近衛師団に誘われるであろうな。」
レイヴンとユーディスの話が続く中、ルークはまた聞いたことのある飛躍しすぎな単語に困るのであった。
結局のところ、ユーディスは弟子入りを断った。
ルークほどの魔法使いに、師匠は不要と断言したのだ。
「君には、師匠を探すことより、魔法の深淵を探ることが急務のようだな。」
レイヴンにそう言われ、ルークは困るばかりだった。




