51-6 世界樹(ユグドラシル)
ルークら一行は、森を抜けると、一旦停止した。
そして、騎士の一人が何かを唱え始めると、魔法陣が出現したのだ。
「あの、これは一体?」
「転移魔法陣です。
動かず、そのままお待ちください。」
副隊長の騎士が説明してくれた。
ルークはうなずくと、すぐに判明する。
魔法陣が光った瞬間、ルークらはその場から姿を消すのだった。
気が付くと、巨大な一本の木が目の前に見えたのだ。
「これは、一体・・・!?」
こんな巨大な木を見たのは、初めてだった。
木の大きさは測り切れないほど、巨大であったのだ。
木の大きさはまさに、天を突く勢いであったのだ。
その木の麓には、お城と城下町が見えた。
どうやら、ここが、王都エーレ・ファのようだ。
「では、参りましょう。
王城へ案内致します。」
副隊長の言葉に従い、ルークらは城へと向かうのだった。
城に向かう途中、ルークは城下町を観察する。
あまり人間世界と変化はなかった。
商人がいたり、警戒中の騎士がいたり。
一般平民も、耳が長い以外は、人間と変わりなかったのだ。
色々食べ物とか文化について聞きたいところだが、今立ち止まるわけにはいかない。
細かい部分は、我慢するしかなかった。
それにしても、活気がなかった。
そこだけが気になった。
皆、気持ちが沈んでいるような感じがしたのだ。
魔物騒動による影響だろうか?
ちなみに、ルークは人間である。
本来であれば、注目の的になってもおかしくないのだが、全く注目されていなかった。
それだけ、魔物の影響が大きい可能性がうかがえた。
ルークらは王城に到着すると、ムスターフ、副隊長、ルークの三人のみが登城することになった。
他の騎士は待機である。
受付に行くと、執事が待っていた。
執事もエルフ族のようだ。
ムスターフが口を開く。
「騎士隊長のムスターフである。
皇王陛下にお目通り願いたい。
例の魔法騎士を連れてきたとお伝え頂ければ良い。」
「承知しました。
しばしお待ちください。」
執事は、城の中へと消える。
待つことしばし。
執事が戻ってきた。
「ムスターフ様、応接室にご案内いたします。
では、こちらへ。」
「感謝する。
では、行こう。」
ムスターフに従う形で、ルークもついていくのだった。
応接室に到着すると、誰もいなかった。
ルークは、ムスターフと共に、ソファに座る。
副隊長は、ムスターフの後ろに控える。
やがて、ドアが開き、一人のハイ・エルフの女性が入って来た。
ムスターフが立ち上がったので、ルークも従う。
そして、頭を下げる。
女性は、対面のソファに移動すると、座った。
それに合わせてムスターフも座ったので、ルークも従う。
そして、会話が始まる。
「イーリア様、先ほど“思念連結”でお知らせしたとおり、
森を浄化した魔法騎士を連れて参りました。
彼の名は、ルーク殿と言います。
ルーニア皇国の魔法騎士だそうです。」
どうやら、先ほどの移動中に、“思念連結”で連絡済みだったようだ。
そして、目の前の女性こそが、この国の元首なのだ。
「うむ、ご苦労でした、ムスターフ殿。
あなたが、ルーク殿ですね。
私は、エーレ・ファ・レ皇国の皇王、イーリア=エーレ・ファ・レと申します。
よろしくお願いしますね。」
物腰が柔らかいのだろうか、挨拶が丁寧だった。
「お初にお目にかかります。
僕は、ルーニア皇国、皇帝陛下直属の騎士、魔法騎士のルークです。
また、フェインブレイン家の公爵も務めております。」
「なるほど。
人間からすると、かなり高位の階級に就いているのですね。
では、仔細を聞きましょう。
浄化魔法とは一体何でしょうか?」
イーリアは、本題に入る。
「浄化魔法というのは、人間が使う神聖魔法に含まれています。
魔法名は、“崩滅陣”と言います。
この魔法により、土や木にこびりついた魔力を浄化できます。
ただし、この魔法は効果範囲が狭いため、広範囲に効果をもたらすため、
“大規模展開術式”の補助魔法を併用します。
それにより、浄化範囲を拡大させることが可能です。」
「なるほど。
理解しました。
問題として、浄化魔法は誰にでも使えるものですか?」
イーリアにとって、これが一番の問題だった。
もし、誰にも使えないとなると、魔物は一生倒せないことを意味する。
そこが最も懸念すべき点であったのだ。
「うーん、判断が難しいところですね。
理由を申しますと、神聖魔法は、精霊魔法とは仕組みが異なります。
よって、魔導士クラスの実力があっても、
理解できる方とできない方に分かれると思います。
回復魔法を使われる方なら、理解できるかもしれません。」
「そうですか。
精霊魔法の使い手は多いですが、そう簡単には行かないのですね。
回復魔法が使える者達に、教えることは可能でしょうか?」
ルークはちょっと考える。
魔物退治を優先と考えると、教える時間がもったいないような気がしたのだ。
それを踏まえて話すことにする。
「今後、魔物への対策という意味合いであれば、教えることは可能です。
ですが、一朝一夕で覚えられる魔法ではありません。
そこをご理解頂ければ。」
「やはりそうなりますか。
・・・今後という意味で、必要となるのは理解しています。
ですが、すぐに対処ということが難しいのであれば、
あなたに依頼するほかなくなりますね。」
イーリアはため息を吐く。
どうやら、自分たちで解決を図りたかったようだ。
他国の人間たる、ルークは嫌われているのだろうか?
「今後という意味であれば、魔術書を用意します。」
ルークはそう述べると、その手に、魔術書を出現させる。
これには、ムスターフと副隊長が驚く。
「それは、まさか!?」
イーリアは驚いていた。
「・・・あなたはまさか、『創造系魔法』の使い手ですか?」
「!?
何故、それを!?」
今度はルークが驚く番だった。
まさか、『創造系魔法』のことを知る者が現れるとは思わなかったのだ。
南の大陸のナターシャとの会話以来、驚いたのだ。
「やはり、そうなのですね。
となると、あなたは“選ばれた者”なのですね。
・・・まさか、また巡り合うことになるなんて。」
イーリアは苦悩していた。
どういうことだ?
また巡り合うとはどういう意味だ?
それに、“選ばれた者”とは、一体?
「この書は受け取りましょう。
今後のためにも、回復魔法を扱える者に勉強してもらいましょう。
では、本題に戻ります。
ルーク殿、あなたに依頼があります。
この世界樹周囲の森を浄化して頂けないでしょうか?
現在、世界樹周辺の森には魔物が大量に湧き出しているのです。
騎士団を派遣し、周辺の里や村を守護していますが、それも限界に来ています。
このままでは、騎士団が壊滅し、里や村にも大きな影響が出るでしょう。
ましてや、殺戮が始まれば、止める手段も無くなります。
なにとぞ、お力をお貸しください。」
イーリアは頭を下げたのだ。
これには、ルークはおろか、ムスターフと副隊長も驚く。
「あの、イーリア様、顔を上げてください!
僕は依頼を引き受けるためにここに来ています。
ですから、顔を上げてください!」
ルークは必死に説得した。
この行為に、ムスターフと副隊長も驚く。
ルークは、皇王が頭を下げたにもかかわらず、いい気にならず、遠慮をみせたのだ。
ムスターフは、彼ならば信用できると判断した。
イーリアは顔を上げると笑みを浮かべる。
「ここまで、必死に止められたのは初めてですよ。
あなたは、かなり人が良いのですね、ルーク殿。
では、お願い致します、ルーク殿。」
「わかりました、お任せください。
ただ、一つお願いがあります。」
「なんでしょうか?」
「僕は、この国の地理に全く詳しくはありません。
よって、案内役をお願いしたいです。」
「では、その役目、私が担いましょう。
私にお任せください、イーリア様。」
ムスターフが立候補したのだ。
「わかりました。
ムスターフ殿、あなたに任せます。
ルーク殿のサポートをお願いしますね。」
「はっ!
必ずや。」
ムスターフは敬礼を行う。
「では、急ぎましょう。
被害が出る前に、対処してしまいましょう!」
ルークの言葉に、ムスターフがうなずく。
「では、お願い致します。」
「はい、お任せください!」
ルークはそう言うと、立ち上がるのだった。
ルーク達が退出した後、イーリアはため息を吐いていた。
まさか、また『創造系魔法』の使い手に会うとは思っていなかったのだ。
彼女は、過去に『創造系魔法』の使い手に会ったのだ。
そして、魔剣を授かったのだ。
白亜の聖剣『ミスティルテイン』を。
「もし、彼もまた同様の力の持ち主であれば、間違いなく、
“選ばれた者”なのでしょうね。
そう、“真の魔法騎士”に。」
その言葉に、どのような意味があるのだろうか?
それは、彼女しか知らぬのであった。