51-5 決闘!
「では、審判役は、エルリオン殿、あなたに任せたい。」
「うん、わかった。」
ムスターフは、背中より槍を取り出し、構える。
槍の刃部分が赤い槍である。
しかも、魔力を感知したのだ。
ルークは、まずは、様子を見つつ戦うことを決める。
レーヴァテインに軽く魔力を流す。
途端、レーヴァテインが炎を纏う!
「魔法剣か!?」
ムスターフは気が付いたようだ。
「では、始め!」
エルリオンが叫ぶ。
瞬間、ムスターフが動き出す!
早い突きを繰り出すが、ルークは軽くあしらう!!
そして、ムスターフが大きく横薙ぎを放つも、ルークはあっさり下がって躱す!
瞬間、ルークの姿が消える!!
「むっ!?」
ムスターフは槍を横に持ち、上段斬りに対する防御を行う。
その勘の鋭さは当たった!
ルークの上段斬りを見事に防いだのだ!!
このムスターフ、通常の騎士と対峙した場合、強い部類に入る。
だが、ルークの敵ではないことがわかった。
ルークは素早い動きで翻弄し始める!
これにはムスターフが驚く。
槍で見事に防ぐものの、防御で手一杯になったのだ。
この姿に、ハイ・エルフの騎士たちは驚く。
いつも攻め一辺倒の隊長が、守備に転じたのだから。
「ぐ、くぅ、早い!」
ムスターフは思わず、呟く。
だが、幕切れはあっさりとしたものだった。
ルークの剣とムスターフの槍の刃がぶつかった瞬間、「バキッ!!」という音が響いたのだ!!
ルークは何かを斬り裂いた感触を得ていた。
そう、斬り裂いたのは、槍の刃部分だったのだ!
槍の刃が綺麗に真っ二つに斬られていたのだ!!
「グングニルが斬られただと!!??」
この事態に、ムスターフが驚き叫んでいた。
「そこまで!
ルークの勝ち!!」
瞬間、エルリオンによって裁定が下された。
これにて、ルークの勝ちとなったのだが、ルークは焦っていた。
「ああぁぁ、すいません、斬っちゃいました!!」
おかしな話である。
真剣勝負していたのに、謝るとは。
ムスターフにはショックな出来事だったが、ルークに謝られ、逆に困ってしまった。
「いや、ルーク殿、こればかりは致し方ない。
我が槍が傷んでいたのだろう。
まさか、寿命を迎えるとは・・・」
そこで、ルークは提案した。
「あの、良ければ、槍を修理してもいいですか?
ちょっとお借りしたいんですけど。」
「はい?」
ムスターフには意味がわからなかった。
ルークは、斬り捨てた槍の刃を手にしていた。
「いえ、槍を直すんですよ。
お借りしてもいいですか?」
「そのようなことができるのですか?」
「はい、できますとも。
魔力を持っていれば、できますよ。」
ムスターフは信じてみることにした。
「では、お願い致します。」
ムスターフは槍をルークに渡す。
ルークはその場に座り込み、槍の刃部分の斬られた箇所をくっつけるようにした。
そして、『魔剣生成』を開始する。
すると、槍の刃の斬られた部分がくっついたのだ!
元通りになったのだ。
「はい、直りました。
確認してください。」
ルークは槍をムスターフに返す。
ムスターフは槍の刃部分を確認する。
「・・・確かに、直っている。
しかも魔力が前より増している・・・!?」
これには、ムスターフばかりか、騎士たちも驚いていた。
彼らは魔力をもっている。
だからわかるのだ。
ただくっつけただけではないということが。
そこで、ルークがさらに提案したのだ。
「ついでですから、『魔剣進化』しませんか?」
「『魔剣進化』とは・・・?」
「簡単に説明すると、魔剣が意思を持つんですよ。
そして、更なる魔力を得て、強化されます。
その槍は、長く生きてます。
だから、今より遥かに強くなれますよ。」
「・・・?」
ムスターフはすぐに理解できなかった。
だが、このルークという少年に任せてもいいと思ったのだ。
「では、お願いしよう。」
ムスターフは了承した。
「では、槍を構えたままでいてください。」
「わかった。」
ムスターフは槍を構えた。
ルークは槍の穂先に触れる。
そして、『魔剣進化』を実行する。
すると、ムスターフの脳内に、声が聞こえ始める。
『我は、グングニル!
炎の聖槍である!
汝は何者だ?』
「えっ・・・!?」
これには、ムスターフは絶句した。
聞き慣れない声が、突然聞こえたのだ。
誰だって、驚くに決まっている。
ルークは、“思念連結”でグングニルにつなぐ。
「グングニル、聞こえますか?
その方は、あなたの主です。
ムスターフ殿です。
覚えてくださいね。」
『承知!
我はグングニル!
主ムスターフよ、汝に力を貸そう。
我を存分に扱うがよい!』
瞬間、槍が輝き始める。
そして、炎を纏い、より一層美しい赤へと変貌する!
やがて、炎は消える。
だが、際立った赤は、皆の目を引くのだった。
「・・・これが、聖槍グングニルの本来の力なのか!?
以前のものとは、まるで別物ではないか!!?」
ムスターフの手は震えていた。
グングニルは、とんでもない魔力を湛えていたのだ。
以前と比べものにならないほどだった。
まさしく、聖槍の名にふさわしい槍に変貌したのだ。
「これでは、まるで、聖剣『ミスティルテイン』と同じではないか!?
君は一体、何者なのだ!?」
ムスターフは驚愕の目で、ルークを見ていた。
だが、ルークには意味が分かっていない。
「えっと、魔法騎士なんですけど・・・」
ルークは困惑するのみであった。
ムスターフは深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。
驚愕すべきことが起きたばかりだが、冷静にならなくてはという理性が勝ったのだ。
「失礼しました。
まさか、このような御業を目にするとは思っておりませんでした。
ルーク殿、お願いがあります。
我らが王都エーレ・ファへ来て頂けないでしょうか?
皇王陛下に会って頂きたいのです。」
「わかりました。
浄化の件で報告するのですね。
お任せください。」
「そう言って頂けると助かります。
エルリオン殿、メイシャ殿、感謝します。
では、参りましょう。」
騎士たちは、森の出口に向かって歩き出す。
「ルーク、気を付けてね!」
「はい、わかりました。」
ルークはエルリオンたちに手を振ると、騎士たちのあとを追うのだった。