50-7 ささやかなお祝い。②
次に、梨を四等分し、種を取る。
ミシェリはちょっと苦戦していたが、うまく取れていた。
そして、四等分から更に半分に切って、八等分にする。
「このくらいの厚みで大丈夫そう?」
「はい、これくらいで大丈夫です。
あとは、お任せください。」
リリアーナはフライパンを用意し、梨、砂糖、白ワインを入れていく。
そして、弱火で煮詰めていく。
その間、ミシェリとメイリアが共同で、ボウルにケーキを作り始める。
リリアーナの作業が終わると、梨を耐熱性の皿の上に、並べていく。
形は円形だった。
その上に、ミシェリとメイリアが作ったケーキを乗せていく。
そして、オーブンにケーキを入れて、しばらく待つことになる。
リリアーナは覗き穴から、焼き加減を確認しつつ、時間を測っていた。
約40分後、リリアーナがオーブンからケーキを取り出す。
ケーキは綺麗に焼けていた。
そして、耐熱皿をひっくり返す。
すると、円形の梨が綺麗に現れたのだ。
甘い香りが周囲に漂う。
「これで、完成です。
早速、試食してみましょう。」
リリアーナは包丁を手に、切り分ける。
そして、皆で試食してみた。
「ん!
甘くておいしいです!」
ミシェリが早速叫ぶ。
「そうですね。
気持ち、砂糖が多くてもいいかもしれません。
これなら、皆も喜ぶと思います。」
リリアーナも納得したようだ。
「えぇ、これはおいしいわね。
皆も喜ぶと思うわ。」
メイリアも納得である。
「そうですね。
ちょうどいい甘さだし、しっとりしてます。」
ルークもおいしく頂いていた。
「ルーク様、作り方はこれでいいと思いますが、
大量に作るのはちょっと大変です。
いい方法はありませんか?」
確かに、皮むきや煮たり焼いたりする必要がある。
それに、焼き作業に40分かかるのもネックである。
しかも、料理人の助っ人が無い以上、大量に用意するのは難しい。
「うーん、じゃ、魔法を使いますか。
ちょっとズルいですけど。」
「どんな魔法ですか?」
「えっと、こういうのです。」
ルークは、まだ残っている梨ケーキの皿に触れる。
そして次の瞬間、右側にもう一つの梨ケーキが出現したのだ!
しかも、切り分けた状態も一致していた。
そう、創造系魔法を使った“複製”の魔法である。
「えっ!?」
「これって、卵の時と同じ魔法ですか!?」
「まぁ!?」
皆、驚きの声を上げる。
「はい、“複製”の魔法です。
僕しか使えませんが。
これを利用しましょう。
明日、ケーキを1つ作って、切り分けたら、僕がこの魔法で大量に増やします。
これで、行きましょう!」
「はい、お願いします。」
リリアーナが頭を下げる。
こうして、明日の予定が決定した。
明日、昼食を食べ終わった後、厨房に集合となるのだった。
翌日。
ルークはマークに対して、城の全員に夕食前に食堂に集合するように指示しておいた。
なお、理由は内緒にしておいた。
とりあえず、公爵命令にしておいた。
ある意味、ズルいのだが、こうするよりほかない。
ちなみに、ミレーナとアリシアにも同じように伝えてもらった。
昼食後。
四人は厨房に集合した。
この時間は、厨房には料理人もいないのだ。
早速、調理開始である。
ルークは、主に梨の皮むきや種取りを教える係である。
リリアーナが梨を煮詰めるのと、オーブンの確認。
ミシェリとメイリアがケーキ作りを担当していた。
四人がうまく連携し、梨ケーキが出来上がる!
リリアーナは包丁で切り分けを行うと、ルークに皿ごと渡す。
ルークは皿を手に、食堂のテーブルに移動する。
そして、“複製”を開始する。
10分もかからずに、テーブル一杯に、梨ケーキが並んだのだ!
後は、小皿、フォークの準備のみだ。
その辺はメイリアやミシェリが動いていた。
テーブルに乗せ、準備完了である。
あとは、皆が来るのを待つのみとなった。
夕方。
皆が、食堂に集まっていた。
早速、ルークが大きな声で叫んだ。
「えぇ、皆さん。
本日はお集まりいただきありがとうございます。
今日は、新年を祝して、ケーキパーティーを行います。
美味しいケーキを食べて、本年も頑張って頂きたいと思います。
ささやかな物ですが、楽しんでください。」
ルークは、メイドに手伝ってもらいながら、切り分けた梨ケーキを皆に配ってもらった。
そして、皆、食べ始める。
「ルーク様、おいしいです!」
そんな感想の声が上がる。
皆、おいしく頂いているようだ。
これには、リリアーナ、ミシェリ、メイリアも満足そうである。
「ねえ、ルーク様、いつの間に、こんなに梨があるわけ!?」
アリシアが抗議してきた。
「アリシア、これはですね、僕の魔法で創ったものですよ。」
「えぇ~!
だったら、毎日食べたいよぉ~!」
「いや、それはですね・・・」
ルークは困り果てる。
「しかし、おいしいですな。
これは以前いただいた果物なのですか?
梨という食べ物でしたか?
ケーキにしてしまうとは、さすがはルーク様!」
グリディアが褒めたたえていた。
どうやら、だいぶ気に入ったようだ。
「いえ、ケーキを考案したのはリリアーナなんですよ。
僕は提案しただけですから。」
ルークの言葉に、皆が、リリアーナに注目する。
これには、リリアーナが恥ずかしくなってしまった。
頬を赤らめながら、ルークの後ろに隠れたのだ。
「リリアーナ様、ありがとうございます。」
グリディアが頭を下げると、皆も、お礼の言葉を述べ始める。
こういうことには慣れていない、リリアーナであった。
夕食後。
ルークはリリアーナの部屋で、リリアーナ、ミシェリ、メイリアにお礼を述べた。
「皆さん、ありがとうございます。
城のみんなは喜んでくれたようで、安心しました。
もし、また何かあれば、相談させてくださいね。」
ルークの言葉に、皆がうなずく。
「ルーク様、また果物を使ったケーキを作りたくなったら、
果物を用意してくれますか?」
リリアーナの質問に、ルークはうなずく。
「はい、いいですよ。
その内、果物の種類が増える可能性もあります。
その時は、いつでも言ってくださいね。」
ルークの言葉に、リリアーナは嬉しそうにうなずく。
「でも、今回はケーキにしても梨はおいしかったですね。
果物の状態でもおいしいのに、不思議な食べ物ですね。」
ミシェリの言葉に、メイリアがうなずく。
「そうね。
きっと、これからルーク様が持ってこられる果物も、
調理してもおいしく頂けるものがあるかもしれませんよ。」
確かに、メイリアの言う通りかもしれない。
今は、三つのみだが、今後増えれば、調理のバリエーションが増えるかもしれない。
ケーキのみならず、通常の食事とかにも、加えられるかもしれないのだ。
可能性は無限というべきか。
「まぁ、果物に関しては、エルフ族に相談という形になりますね。
僕も、どれだけ種類があるか知りませんし。
それに、貴重なものは分けてくれるとは限りませんしね。
できるだけ、この地でも育てられるように、努力しますよ。」
ルークは、そう告げる。
この地に、果物を作る。
それが、ルークの次の目標になっていた。
そして、確実に叶えていくだろう。
「はい、ルーク様。
その時を楽しみにしていますね。」
リリアーナは笑顔で、そう語るのだった。
こうして、特別なケーキで城内の皆をもてなすイベントは、成功に終わったのだった。