50-6 ミルドベルゼ伯爵への挨拶。①
翌日。
ルークはミレーナとミシェリを馬車に乗せ、城外門へと進んだ。
今日は、レイヴンの元へ行く予定だ。
といっても、最近会ったばかりだし、赤ん坊の顔を見に行くと言っても過言ではない。
だが、念のための挨拶なのだ。
それに、お風呂の設置状況も気になった。
そろそろ、ルークの出番だと思うのだ。
ということで、のんびりと行くのであった。
馬車はいつものごとく、城外門を出ると、一旦停止する。
ルークが外に出て、転移魔法をかけると、あっという間に都市アーデアの城外門の前に出現した。
再び馬車に乗り込み、都市アーデアへと進むのだった。
城に到着すると、受付役の執事に声をかけようとした。
「ルーク様に、ミレーナ様、ミシェリ様ですね。
今日はどういった用件なのでしょうか?」
おっ、顔を覚えてくれたみたいだ。
珍しい。
「今日は新年の挨拶に参りました。
ミルドベルゼ伯爵はいらっしゃいますか?」
「はい、少々お待ちください。」
執事は、城の中へと消えていく。
待つことしばし。
執事が戻ってきた。
「お待たせしました。
応接室へご案内致します。」
こうして、三人は、応接室へと移動するのだった。
応接室に到着すると、誰もいなかった。
ソファに座ろうと思ったら、ドアが開き、レイヴン達がやってきた。
レイヴンに、サーシャ、そして赤ちゃんである。
ルークらは、頭を下げる。
レイヴンらも頭を下げる。
両者、ソファに座ったところで、会話が開始される。
「レイヴン、本日は新年の挨拶に参りました。
といっても、先日、お会いしたばかりですけどね。」
ルークは苦笑する。
「そうだな。
だが、いいじゃないか。
それと、一つ発表がある。
息子の名前が決まった。」
これには、ルークらは驚く。
「ほぅ、何て名前なんですか?」
「フィーギルだ。
我が先祖の名を頂いた。
だいぶ前の先祖の名でな。
ミルドベルゼ子爵家を興した方の名前だ。
伯爵に昇進したのだ。
さらなる昇進を願って名付けたのだ。
どうだ、ミレーナ?」
「うん、いいと思うよ。
だけど、ご先祖様の名前を持って来るなんて、ズルくない?」
ミレーナが茶かす。
「そう言うな。
私が伯爵になれたのも、この子のおかげだと思っている。
だからこそ、先祖の名を頂いたのだ。
この子は、先祖に負けぬよう、しっかり育てるつもりだ。」
レイヴンは嬉しそうだ。
そして、父親の表情をしていた。
「そうですね。
旦那様に負けぬ子に育ってほしいですね。
それに、ルーク様に抱っこして頂いたのです。
きっと、強い子に育ちますよ。」
サーシャはニコニコ笑顔だった。
「いいなぁ。
私も、男の子が欲しいな~。」
ミシェリの発言に、ルークとミレーナがドキリとする。
「どうしても欲しくば、ルークに頼むのだな。
こればかりは、ルークに頼るしかないからな。」
「そうですね。」
レイヴンとサーシャがそんなことを言い出す。
ルークは恐る恐るミシェリを見ると、こちらをしっかり見ていた。
「ねぇ、ルーク様、私も男の子が欲しいです!」
「えっと、ミシェリ、それは結婚した後に相談しようね・・・」
ルークにはこれ以上言えなかった。
ミレーナなんかは、知らん顔をして逃げていた。
その代わり、顔が赤かったが。
その様子を見て、レイヴンとサーシャは笑うのだった。
「ルーク、実はな、ちょうどいい時に来てくれたんだ。
工事の方が思いの外、早く進んでいてな。
明日には終わるのだ。
後は、仕上げとほんの少しの工事で済む予定だ。
ということで、ルーク、仕上げを頼めるか?」
意外なことに、工事がほぼほぼ終了していたのだ。
「わかりました。
では、皆さん、一緒に仕上げをみましょうか?」
ということで、早速、一階のお風呂部屋に移動する。
ほとんど完成状態だった。
あとは、ルークが水の設置と“呪紋”を施せば、お終いである。
ルークは手の中に、宝珠を創り出す。
そして、浴槽にある穴にはめ込む。
すると、水が放出される。
水は、浴槽一杯に溜まると放出をやめた。
そして、浴槽のヘリ部分に、“呪紋”処理を施す。
“呪紋”が完成すると、ルークは浴槽の中に手を入れる。
温かいお湯ができていた。
「終わったのか?」
レイヴンが聞いてくる。
「はい、終わりました。
浴槽の水を触ってみてください。」
レイヴンが代表して触れてみる。
「おぉ、温かい!」
「これで、一階は完成ですね。
じゃ、あとは二階と三階に行きましょう!」
二階、三階と同じように処置を施し、全ての階のお風呂が完成した。
「これで城の者が使えるお風呂が完成した。
これで、ゆっくり浸かることができる!」
レイヴンは嬉しそうだ。
サーシャもニコニコしていた。
「はいはい!
早速入りたいです!」
ミシェリが立候補した。
「ミシェリ、宿泊の予定はないんですよ。」
ルークは苦笑を浮かべる。
「宿泊しなくても、お風呂には入りたいです!」
この発言には、脱帽だった。
「よし、入っていいぞ、ミシェリ殿。
ミレーナ、おまえも入っていけ。
サーシャも入っていけ。
フィーギルも一緒で構わん。」
レイヴンがそんなことを言い出した。
ルークはやれやれと思いつつ、レイヴンと共に部屋の外に出るのだった。